OVER LORD外伝~ワニの大冒険~   作:豚煮込みうどん

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今回の話は山無し、落ち無し、意味なしの三本立てです。


今話と次話でナザリックメンバーのクロコダインに対するスタンスを書きたいと思います。


シェフの気まぐれ~蟲と鼠と双子ちゃん、アインズ様を添えて~

~コキュートスの場合~

 

視界の全てが白に染まる雪と氷だけの極寒の世界、雪女の案内によってアインズとクロコダインが辿り着いたのがナザリック第五階層『大白球』、そここそが普段コキュートスが身を寄せているエリアであった。

 

「入るぞ、コキュートス。」

 

道中、あらゆるNPCがアインズに平伏す姿を十分に見てきたクロコダインであったが、大白球の中では更に高位の悪魔であったり昆虫系モンスターであったりがアインズの来訪に一斉に敬意を示すその様を見ていれば、成る程確かに支配者としての姿を演じる必要があるのも納得だと強く思う。

 

「コ、コレハ、アインズ様コノ様ナ姿デ申シ訳御座イマセン!」

 

大白球の最奥、そこにコキュートスは居た。あの日の闘いの傷を癒やす為に、頭部以外の全身を淡く輝く氷に封印されている。特に千切れた腕の完全な接続は時間が掛かるだろう。

そのような姿は確かに主を出迎える配下としてはあまり相応しい状態とは言えないだろう。だが、アインズはそれを否定した。

 

「構わん、その傷ついた姿はお前がナザリックの為に働いた故の事、恥じる事等何も無い。」

 

「恐縮ニ御座イマス…所デ、何故クロコダインガ此処ニ?」

 

アインズの隣に立つクロコダインの姿は、やはりコキュートスにとっては当然気になる物であった。

 

「あれからアインズと色々と話してな、友として俺もしばらくはナザリックに客将として身を置くことになったのだ。故に、一番にお前に挨拶に来たという訳だ、コキュートス。」

 

「…成ル程、オ前程ノ男、アインズ様ノ目ニ止マルコトモ当然カ…歓迎シヨウ、我ガ強敵、クロコダイン。」

 

感情を一切覗わせないコキュートスの昆虫を素体にした顔、しかし其処には確かに喜色ばんだ感情の色が確かに浮かんでいた。

アインズもコキュートスの反応に安堵を覚える、クロコダインをナザリックに招くに当たってアインズが一番不安に感じていたのは実際に闘い、敗北を喫したコキュートスの反応であったからだ。

 

「それとだなコキュートス、お前には私から一つ勅命を与える。」

 

「ハッ!!何ナリト、此度ノ失態ヲ必ズヤ濯イデ見セマス。」

 

コキュートスの気合いの入りように全身を封じる回復氷にビキリと罅が入る。

 

「クロコダインに勝て。武人として一対一でだ。それをなしえた時、お前は私が望み、求めた成長という可能性を最も明確な形で示すことになるだろう。期待している。」

 

アインズの勅命、それはクロコダインへのリベンジであった。これには当然クロコダインの了承もある、LVがカンストしているコキュートスが万が一これ以上強くなれるのであれば、それはNPCにとっての大きな可能性だ。アインズとしてはそれを調べずにはいられなかった。

 

「ハハァッ!!!必ズヤ、クロコダインノ首、必ズヤ、アインズ様ノ前ニ捧ゲテ御覧ニ入レテ見セマス!!」

 

「いやっ!?首はいらんぞっ、コキュートス!私はあくまで勝利することでお前の成長を見たいのであってだな…」

 

コキュートスの物騒な発言に思わずアインズの精神も沈静化が作用する。

 

「俺としても殺し合いはもう勘弁して欲しい物だな。アインズも言ったが、俺もお前の成長、言ってしまえば可能性を期待している。…但し、俺も負けてやるつもりはさらさら無いがな!」

 

「…良イダロウ、先日ノ借リヲ返ス日ガ今カラ楽シミダ。」

 

 

2人は互いに熱い視線を交わしながらフフフ…と笑いを漏らす。それは本当に楽しみで仕方ないという戦士特有の獰猛な笑みであった。

 

 

__________________

 

~アウラ、マーレとハムスケの場合~

 

「だからさ、結局はあのおっさんがフラフラ、フラフラ歩き回ってたせいなんだってば!!」

 

第六階層のアウラとマーレの住居である巨大樹のふもとには切り株の椅子にあぐらをかいて座り、大きな声で先日の失態についての愚痴を溢すアウラに行儀良く足を揃えて座る、それを困ったような表情で聞き続けるマーレの姿があった。その周囲にはフェンを筆頭としたアウラのお気に入りのモンスター達も居る。

クロコダインという存在を発見できず、想定外の連続を招いたあのリザードマンの集落の調査に関しては失態ではあったが、アインズからも直々に責は無く、気に病む必要は無いとは言われていたが当事者としてはそうはいかない。

もし、仮にであるが最初の調査でクロコダインの姿を発見できていたならば、アインズがどの様に動いたかはアウラには判らなかったが少なくともコキュートスが重傷を負うことも無く、リザードマン如きにナザリックが配慮するなどと言う事も無かったはずだった。

 

「コキュートスさんも怒ってたもんね。」

 

「言わないでよ…」

 

マーレの一言にアウラの耳が垂れ下がり、深い溜息が溢れた。

コキュートスの初期治療を行ったマーレはあの日、ナザリックに搬送したコキュートスよりアウラへの伝言を頼まれたのだ。『戦場ニ出向イタノガ我デ良カッタナ、コレガモシアインズ様ガ出向カレル戦場デアッタナラバ…言ワズトモ分カルダロウ?』と…それは物静かで冷静なコキュートスだからこそ、本気の言葉であると嫌に成る程アウラには伝わっていた。

 

「ほんと、あのリザードマンのおっさんが何でナザリックに…」「あ、お姉ちゃん。」

 

アウラの視線の先、マーレが慌てたような表情で口元を手で覆う。その視線はアウラの背後に向いていた。

 

「アウラ、その言いぐさはクロコダインに失礼だろう。」

 

『アインズ様っ!?』

 

其処には転移で二人の前に姿を現したアインズとクロコダインが立っていた。

 

「済まんな、クロコダイン。改めて紹介するがこの二人が第六階層守護者、アウラとマーレだ。」

 

既に、先程の話し合いの席でクロコダインはアインズから各守護者の話等、ナザリックの一通りの概要は説明されていた。故に少年風なのが姉のアウラで、少女風なのが弟のマーレという一見すると非常にややこしい状況にもなんとか対応している。

 

「構わんさ。それに俺がおっさんなのは違いないからな。二人とも、俺を呼ぶならおっさんで良いぞ。」

 

ガハハと笑いながらクロコダインは小さな双子の姿を見下ろす。こう見えてクロコダイン、子供好きである。

 

「じゃあ、おっさんで。」「それなら僕は…おじさんで。」

 

先日のこともあり、アウラのクロコダインへの態度は素っ気ない。同時にマーレの態度自体は元々の性格故、幾らか柔らかい印象があるがアウラの背後へ半身を隠している様はクロコダインへの警戒が現れていた。

 

「それにしてもアインズ、お前さんの自慢の配下は優秀だな。俺にもテイマースキルは有るがこうはいかんだろう。流石階層守護者だなアウラ、これ程の数と質を兼ね備えた魔獣共を従えているとは驚いたぞ。」

 

チラリとクロコダインは視線を居並ぶモンスター達へと向ける。獣王として理解出来るのがそれ等全てがアウラによって統制され、それを介して捧げられているアインズへの絶対的な忠誠。

アウラという存在を個としての強さとしてでは無く、群れとしての強さで見ればこれ程の統率力、それは驚異の一言だ。コキュートスとは又違った強さが光る、百獣魔団の将として数多のモンスターの頂点に君臨したクロコダインの目に狂いは無いだろう。

 

「へ、へ~…案外分かってんじゃん…おっさん。」

「よかったね、お姉ちゃん。」

 

クロコダインのその手放しの称賛に、アウラも照れ隠しなのか口を尖らせたまま満更でも無いのか、にやつきそうな頬を引き締めながらその素っ気ない態度を和らげる。とは言え、素直にはなったりは決してしないが…

 

「あぁ…自慢の部下だとも。」

 

アインズのその一言に本当に嬉しそうな表情を浮かべた二人の階層守護者の微笑ましい姿にはクロコダインも口元を緩めるのだった。

 

「そう言えばアウラ、ハムスケはどこだ?あれもクロコダインに紹介しておきたい。今はこの階層に居るはずだったな。」

 

ぐるりと周囲を見渡すアインズの命令で部屋から追い出されたハムスケが身を寄せるのは何も無ければナーベラルの元かアウラの元であるが今ナーベラルはエ・ランテルに居る為にナザリックには居ない。

 

「そういえばアイツ何処に…ちょっと呼び出しますね。」

 

言って一度周囲を見渡したアウラが指笛を吹いて暫くの時が立った後で、アウラのじっとりとした視線が一本の木の陰へと注がれた。

 

「ハムスケ、あんたアインズ様がいらっしゃってるのにその様は何?」

 

そこには木の陰に半身を隠し、オドオドとアインズ達の姿を震えながら見つめる巨大な小動物の姿があった。

その愛くるしい姿には思わずクロコダインも視線が釘付けになる…

 

「あれが、例のハムスケか?…思っていた以上に…何というか、ハムスターだな…」

 

「でしょう?あれでも森の賢王なんて呼ばれてましたからね、ある意味獣王ですよ。おい、どうしたハムスケ、隠れてないでこっちに来て挨拶をせよ?」

 

「殿~…」

 

あれが獣王?いや、賢王か…しかしあのチウが二代目獣王を自称していた事を考えれば、ある意味喋る齧歯類とはそういう天命を背負っているのかも知れない等と益体も無いことを考えながらクロコダインは自分に対して過剰とも言える脅えを見せるハムスケを観察する。

アインズの言葉に恐る恐るクロコダイン達の前へと進み出て来たハムスケではあったがその歩みは遅く、自慢の尾は完全に丸まっていた。恐らくはクロコダインとのファーストコンタクトが外での偶然の遭遇であったならば、ハムスケは即座に腹を見せて伏せっていた事だろう。

そこにはやはり野性的な本能の部分が大きく作用していた。

 

 

「お初にお目に掛かるでござる、某はハムスケと申すもので、え~殿、アインズ・ウール・ゴウン殿の…」

 

しかしそんな自己紹介を始めたハムスケに対して、クロコダインは何とも言えない悪戯心を刺激されてしまった…

 

 

『ガァアアアアッ!!!』

 

 

ほんの出来心ではあった…小さな子供に対して『ワッ!!』と声を掛けて驚かすような、これで一度驚かせて緊張を解してやるつもりで、そんな軽い気持ちでクロコダインは雄叫びを上げた。

 

「ピィッ!!?」

 

次の瞬間、アインズも聞いた事が無いような鳴き声を発して脱兎の如く逃げ出したハムスケ…まさに猛獣の前に無理矢理連れてこられたハムスターがその咆哮を受ければそうもなるだろう。

 

「あ、こら!ハムスケー!!戻って来ーい!」

 

逃げ出したハムスケにアウラが叱責の声を送るが、あの様子ではしばらく帰ってくることは無いだろう。アインズの冷たい視線が責めるようにクロコダインへと送られる。

 

「おじさん…」

「クロコダイン、後で謝っておけ。」

 

「あ、あぁ…すまん。」

 

 




コキュートスとアウラ、マーレに挨拶は済ませた。
残るはデミウルゴスとシャルティアとアルベドだ。

そのデミウルゴスがよりによってBARへ誘いやがった。
あの野郎、何の飲食も出来ねぇアインズをはぶりやがって、許せねぇ!
やいデミウルゴス!蜥蜴人に指一本でも触れてみろ、ただじゃおかねーぜ!

次回、「クロコダイン危うし、飲ませ師・デミウルゴス!」
伊達にあの世は見てねぇぜ!




クロコダインはそんな事言わない。




次話、この土日辺り。

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