OVER LORD外伝~ワニの大冒険~   作:豚煮込みうどん

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リザードマン編って何だよって言うアニメから入った人達はweb版か原作を読もう!!
それと誤字脱字報告してくださった方、ありがとうございました!!


オリジナル設定や技能、アイテムが出ます。ご注意を。


あなたもリザードマン、わたしもリザードマン

アゼルリシア山脈その南端に広がる広大な森林地帯…トブの大森林の北には巨大な湖が存在していた。

 

その大きさおよそ20キロ四方の湖は上下に分断された逆瓢箪形という独特の形状で上部の大きい湖は水深が深く大型の生物の生存圏であり、下方の湖は上方の湖に比べて浅くその南部の外周は湖と湿地帯が混ざり合う様な地形がかなりの広範囲に渡って広がっていた。

 

そんな湿地帯の一区画にはとある種族の住居が建ち並んでいる。

 

その種族こそが『リザードマン』、所謂蜥蜴人だった。とはいえ彼等はワニをベースとしたクロコダインとはまた違う体系を持つリザードマンであり、その外見はより純粋な蜥蜴を二足歩行にさせたような亜人種であった。

生存圏の違いから人間と関わり合いこそ殆ど持たない彼等はそれでもゴブリンやオークなどとは違ったしっかりとした独自の文化を持った亜人種であった。

 

そんなリザードマンの集落の中にある一軒の家から一人のリザードマンが外へと足を踏み出す。

澄み切った空からは燦々と太陽が照りつけ、彼の黒緑色の鱗が鈍く光を反射する。

屋外に出たリザードマンはこの集落『グリーンクロー』の一員『ザリュース・シャシャ』。彼は眩しそうに瞬きを二、三度繰り返すとバシャバシャと水で満たされた大地を当たり前の様に進んでいく。まぁ実際に人ならば困惑と苦戦を強いられそうなこの地形こそがリザードマンにとって快適なのだが…

 

今のザリュースの目的地は一つ、旅人という烙印を刻まれ、部族を離れ外から知識を集めてきた彼が、長い苦心の果てに作り上げた自慢の生け簀だ。

 

ザリュースが生け簀を作り上げた大きな理由は、過去にリザードマンの主食である魚の不漁から多くの部族が対立し、戦争となり多くの血を流したという事件である。食糧不足ゆえの悲しい歴史、それを何とかしようとザリュースは立ち上がった。

それは今までのリザードマンのあり方を変えてしまうような試みであり、彼の兄、グリーンクロー族長である『シャースーリュー・シャシャ』の協力があったにもかかわらずその苦労は筆舌に尽くしがたい物がある。そしてある程度の成果を生み出した今でもザリュースの生け簀はまだまだ失敗と改良の日々が続いているのだ。

 

そうして日課となっている生け簀の様子の確認に訪れたザリュースはであったがいつもの様に生け簀へと近づこうとしてその歩みを止めた。

 

その理由はただ一つ、生け簀の方からとてつもなく強烈な存在感を感じたからだった。

直ぐさまザリュースは生け簀の周囲に生える背の高い植物に紛れる様に身を潜め息を殺して隠れる。

 

ザリュースの目の前で生け簀の中からボコボコと空気の泡が水面へと沸き立つと、そう間を置かず巨大な影が水面へと浮かび上がる…

 

そして水面が爆発したかの様な水柱を立てた後、その影が生け簀の岸辺へと勢いよく飛び出した。

 

 

その姿は両手に魚を掴み、口にも一匹を咥えたそれは紛れも無く黒鉄の鎧を身に纏ったピンクの鱗を持つ巨躯のリザードマン。

そのザリュースにとっての魚泥棒こそ何を隠そう獣王クロコダインであった…

 

(なっ!?…何者だ!!?)

 

一目見てクロコダインの内包するであろう力を感じ取ったザリュースは困惑した。

生け簀を荒らされた怒りはあるがノコノコ出て行って文句を言うにしても流石に相手が悪い。

今もクロコダインはザリュースに気が付かないまま嬉しそうに道具を取り出して焚き火を起こすとウキウキと魚を焼こうとしている。

 

しかしこの養殖場はザリュースの努力の結晶であり、延いては全てのリザードマンの希望でもある。

それを思えば怖い物などありはしない、ザリュースは相手が同じリザードマンである事もあり、意を決して一言文句ぐらいは言っておかなければとクロコダインに声を掛けることを決心したのだった。

 

 

 

 

 

そう、これがクロコダインとザリュース、二人のリザードマンの初めての邂逅であった。

 

 

 

 

____________

 

 

 

時は少々遡る…

 

 

ガガーランと別れたクロコダインは取り敢えずリザードマンの集落を目指す為に再びトブの大森林を進み始めた。

だが具体的な目的地を持っての行軍となると先程までの昼夜問わずひたすら適当に進むという男らしすぎる進み方を採用する訳にもいかない。

夜はきちんと休息をとり、日中に方角をきちんと確認しながらゆっくりと進む。道中には当たり前の備えとして今の自分に出来ること、出来ないことの把握も欠かさない。

 

まず第一に魔法が使えない。当然である。なにせクロコダインの種族は『獣王』と『リザードマン』であり職業は『バトルマスター』と『グランドガーディアン』。それともう一つの合計3種類である…

所謂、継戦能力重視のガチガチのタンク型前衛職である。

職業の恩恵か、闘気と言うべきかそういった内外的な気功の力を直感的に使用できる。

そしてこれも職業の恩恵か、自分の一度通った場所は直ぐに解るし、森の中を歩くことに関して不思議な程にストレスを感じないどころか安らぎすら感じる。

 

まぁそれでも丸一日歩いても湿地帯どころか森の終わりも見つからないのだが…

 

「しかし弱ったな…フライの魔法かその類いのアイテムでも持っていれば……ん?…そういえば…」

 

上空からならば目的地も直ぐに見つかるだろうにと思わず愚痴をこぼしたクロコダインだったが何かを思い出したかと思うと自分の道具袋に収まっていた一つのアイテムを取り出した。

 

 

それは装飾の施された黒い金属製の筒であった。

 

 

それこそ『魔法の筒』。

そのままな名前であるが様々な制約こそ有れどモンスター一匹を中に収納してアイテムとして携帯できるという特殊な道具であり職業獣王を獲得した際に一つだけ入手できるという貴重品。何処ぞの軍服ドッペルゲンガーとその生みの親であれば垂涎の一品である。

尚、収納時には「イルイル」放出時には「デルパ」というキーワードが設定されている。

 

 

「デルパッ!!」

 

クロコダインの呪文に呼応する様に光と共に筒から飛び出したのは一匹の巨大な猛禽類を思わせる鳥のモンスターだった。

その翼は大きく逞しく、翼長でいえば4メートルは超え、全身は輝く様な美しい淡い紫の羽毛に覆われている。

その眼光は鋭く、何処ぞの伝説のモンスターの如く得意技は『にらみつける』だと説明されても納得のいく鋭さだ。

 

 

「久しぶりだなガルーダ。」

 

「クエッ!」

 

静かに、そして穏やかに懐かしむ様にクロコダインに呼びかけられたガルーダは一鳴きすると呼び出しの成功を喜ぶクロコダインの目の前に着陸して優雅に頭を下げる。それはまるで王に対する臣下の礼だった。

 

「ガルーダ、巨大な湖が周囲にあるはずなのだが空から確認したい、俺を掴んで飛べるか?」

 

早速クロコダインが用件を伝えれば、当然!と言わんばかりに直ぐさまガルーダはとてつもない重量をほこるであろうクロコダインの両肩をそのかぎ爪でがっしりと掴む。

そして軽やかに一度羽ばたき、爆風が木々を揺らした次の瞬間には一気に森を見渡せる程の高度へと一人と一匹は到達していた。

 

「うぉ!」

 

その想像を超える速度に思わず驚きに声を漏らすクロコダイン。

このガルーダ、実はクロコダインが一から作成した唯一のNPCである。

 

作成時には惜しみなく大量のデータクリスタルがつぎ込まれ、レベルは当たり前のようにカンスト、そのスキルも徹底的にクロコダインのサポートをするために作られたゆえに『回復魔法』『蘇生魔法』『各種バフ、デバフ補助魔法』『各属性攻撃魔法』といった優秀なものを備えたモンスターである。

性格はプライドが高いが義に厚く、何よりクロコダインに絶対の忠誠を誇る。それはまさに作中での相棒の再現だった。

 

 

 

遙か上空からトブの大森林を見下ろしたクロコダインは直ぐに目的地である大湖を発見し、ガルーダにそちらに向かえと合図を送る。余談ではあるがやはり進路は大幅にずれていた。

 

「成る程、あれがガガーランの言っていた集落か。ガルーダ、何かあれば呼ぶが後は自分の足で行く、ご苦労だった。」

 

よく見れば確かに湿地帯の周辺に幾つかの集落らしき草木で作られた家の集まりが見える。

クロコダインの命令に一声鳴いてガルーダはゆっくりと湿地帯の中でも開けた陸地に降下するとクロコダインを放し、自分は再び上空に舞い上がった。

 

無事に湿地帯に到着したクロコダインは泥に足を取られる事も無く、淀みない足取りで目的のリザードマンの集落を目指す。

 

そして意気揚々と進むクロコダインは道中不思議な物を発見したのであった。

 

それは湖の一角に面しており、それなりの広さを無数の竹のようなしなやかで頑丈そうな植物で囲ったものだった。そのほかにも良く見れば明らかに人工的な工夫が施されているのであったが、残念なことにクロコダインの興味を強く引いたのはその囲いの中に存在するものであった。

 

「なんだ?この囲いの中だけやたらと魚が多いな…そうか此処はこの旨そうな魚の群生地か!」

 

そう、その中では大きく肥え育った多量の魚たちが優雅に泳いでいたのだ。

 

だが天然の魚などが珍しく、また養殖技術なども触れることの無かった男にとってはやはりこのザリュースの生け簀はそうであることには気がつけなかった。クロコダイン盛大な勘違いである。

 

 

「そういえばこの身体になってから天然の魚は食っていなかったな…」

 

そう思えば途端に胃袋が空腹を訴える様に「グルグル」と音を立てる…その音を聞けば獅子ですら逃げ出すような恐ろしい怪物のうなり声に似ていた。

 

思い立ったら即実行と言わんばかりに軽く肩を回したクロコダインは、勢いよくザリュースの生け簀の中に身を沈めると馴れぬ水中と言うことで多少苦戦しながらも、その常識外れな身体能力のゴリ押しによって両手と口に大きな魚を捕らえて勢いよく水中から飛び出した。

 

ビチビチと元気よく跳ねる魚を尻目にクロコダインは比較的乾燥した草をかき集めるとインベントリから松明を取り出す。

ユグドラシルのシステム的に取り出せば常に火が灯ったそれは実に不思議なことにこの世界でもその炎が消えることはなかった。ここ数日間で何度もクロコダインを助けてきたアイテムである。まぁこれが在るゆえ、夜半の強行軍で進路を見失ったわけでもあるのだが…

 

こういうワイルドな食事こそ『クロコダイン』らしいという憧れから、内心ワクワクしながら魚を出来たばかりの篝火に投入しようとしたところでクロコダインの背後でバシャリ、バシャリと規則的に水を叩く音が聞こえる。

それは明らかに何者かの接近を示していた。

 

 

 

「そこの貴殿、魚を食らう前に一つ良いか?」

 

 

掛けられた声に何事かと振り返ったクロコダインの目の前には一人のリザードマンが立っていた。

鋭く、真っ直ぐに此方を見る瞳はクロコダインから見ても勇敢な戦士の物だった。その瞳には若干怒りの感情が浮かんでいる。

 

 

「俺のことか?何だ?」

 

「先ずは名乗ろう。俺の名はグリーンクロー族のザリュース・シャシャ。ここは我々グリーンクローの縄張りであり、その生け簀…囲いのことなのだがその中の魚たちは養殖という方法で私が稚魚から育て上げ増やしてきたものなのだ。知らぬゆえだと思うが余所者に好き勝手に取って食われては堪らん。まぁその一匹は食えば良い、しかしそちらの二匹は生け簀に戻して貰えると嬉しい。」

 

ザリュースの指先がまず指し示したのは今し方、火に掛けようとしていた一匹、クロコダインの牙のせいで最も弱った…というよりは死んでしまった一匹だった。続けて未だ足下の水たまりでピチピチと跳ねる二匹。

 

クロコダインもそう指摘されてようやく目の前の囲いが生け簀であると合点がいった。解ってしまった以上己に非があるのは明白であり流石にばつが悪く頭を軽く掻いて下げると謝意を表す。

 

 

「いやすまんな、しかし成る程これは養殖場だったのか…話には聞いた事はあったが成るほど、実際にはこういうものなのか…すごいものだな。」

 

養殖という前提で生け簀をよくよく見てみればクロコダインの目にも無数に工夫が見て取れた。その工夫を行ったのが目の前のリザードマンの戦士だと思うと意図せずにクロコダインの口から溢れ出たのは素直な称賛の言葉だった。

 

「おっと、此方の自己紹介がまだだったな。俺の名はクロコダイン旅人だ。この周辺にリザードマンの集落があると聞いて訪ねて来たものだ。よろしく頼む。」

 

 

恐らくは己の常識の範疇外だろう強者の予想外な称賛と友好的な態度に、暫くザリュースは柄にもなく固まったまま激しく瞬きを繰り返すのだった。

 

 

 

 

そして二人のやり取りの影でクロコダインによって調理されていた魚は無事炭の塊と化していた。

 




説明が長いんだよー!!
ちょっと加筆修正、獣王を職業から種族へと変更。


次話、原作11巻を読破したら。

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