「渇きの海」の名を冠する広大な砂漠、セクメーア砂漠。適応できないことがそのまま死につながる過酷な環境下で、しかしながら数多くの生物がここを活動拠点としている。
たとえば、砂を泳ぐ魚竜「ガレオス」だ。高速で砂中を泳ぎ、砂に含まれた有機物を取り込んで栄養にすることで、食糧に乏しい砂漠でも生存できるように進化していることで知られている。
そんな魚竜が我が物顔でスラスラと泳ぎ続けるセクメーア砂漠のエリア2にある数少ない岩陰。そこで一人のハンターが汗をたらしつつ鼻をひくつかせ、乾いた空気のにおいをかいでいた。
身にまとっているのは、目の前を泳ぐガレオスの中でも大きな個体「ドスガレオス」の素材を多く用いて作られる「ガレオスシリーズ」という耐暑性に優れた防具であり、砂漠や火山といった、暑さが原因で過酷となっている環境に適した装備である。
そして、彼が背負っているのはブレイドエッジ改と呼ばれる双剣。ショウグンギザミという名前の大きな甲殻種モンスターの素材を用いたこの双剣は、三つ又に分かれた刀身を持つという特徴的な見た目をしている。その切れ味は素材元となった大蟹の鎌の味を生かした一級品で、今回既に激しい戦闘を繰り広げていたにもかかわらず、その切れ味はほとんど損なわれていない。
もちろん、そもそもの話として適度に砥石を用いて切れ味の維持に努めてはいたが、それでも生半可な武器を使っていたら今よりも激しい砥石の消耗に辟易としていただろう・・・と、ガレオスシリーズを身にまとうハンターは携帯ポーチの中身をチェックしながら思う。
ポーチの中に十分な数のアイテムがあることを確認すると、彼は再び枯れた空気のにおいをかぎ、「ペイントの実」の特徴的なにおいの位置を確認する。
既に最後の標的の体力は十分に削り取った。後は一気にたたみかけるだけで今回の狩猟を終わらせることができる。油断はしないが、何度も命のやりとりを繰り広げたことによって疲弊した精神を軽く掛け声をかけて持ち直し、一定の速度でこのエリアに近づいてくるその匂いの発生源の方を、彼は睨みつけた。
やがて、少し離れたところにある大きな岩盤の割れ目からひょっこりと顔をだし、ハンター同様疲れた様子で周囲の危険を確認する迷彩柄のオオトカゲが現れた。
長く、強力な麻痺毒を秘めた牙をもつやや大柄なモンスター、「ドスゲネポス」だ。砂漠を好んで縄張りとする小型の鳥竜種モンスター、「ゲネポス」のリーダーとして群れを率いることが多い、大型モンスターの一種である。
自慢のV字に見えるトサカはすでにぼろぼろに刻まれており、比較的新しいペイントの実が張り付けられたわき腹や後ろ足のうろこは何枚も削り落とされている。瀕死の重体とは言わないが、既に部下たちの求心力をだいぶ失うほどに弱っていた。
身体を少し上の方へと伸ばしつつ、わずかに粘着草の粘りが残る頭を左右に振って安全確認を行うドスゲネポスは、岩陰に息をひそめて隠れるハンターを視認できなかったのか、いくらか落ち着いた様子で、高く伸ばした身体を楽な姿勢に戻し、それでも周囲への警戒を怠らずに縄張りの見回りを開始した。サクサクと、竜にしてはかなり軽い足音を立てながらドスゲネポスはガレオスの泳ぐ砂漠を注意深く歩いていく。
ハンターはドスゲネポスがそうやって自分を完全に見失っていることを確認すると、再び岩場に自分の体をしっかりと隠し、奴が自分の奇襲可能な範囲内に入るのをじっくりと待つことにした。中腰になり、利き手をブレイドエッジの柄へ軽くあてがいつつ機を待つ。
そして・・・
砂を踏みしめる音が最適な距離で聞こえたタイミングで、ハンターは岩陰を飛び出してドスゲネポスへと襲いかかった。
現状できる最大限の警戒を払っていたドスゲネポスは、しかし急襲するハンターの足音に一瞬気を取られて回避行動をとれず、飛び掛かりながら繰り出した一撃をもろに柔らかいわき腹へ突き立てられることとなった。
激しい痛みに思わずのけぞるドスゲネポスだったが、襲いかかる脅威に対して即座に対応してハンターへ、その自慢の長い麻痺牙を突き立てんと大きく口をあけて身をよじる。
しかし、その顎は砂塵の舞う空気だけを噛んだ。直後、猫のように身を低くしてドスゲネポスの牙を避けたハンターから、掛け声と共に無防備な喉笛へと三連刃をたたきつけられることとなった。
とっさに首をひっこめ、致命傷こそ避けたものの、硬いうろこの少ない首元の白い皮が切り裂かれ、そこからそれなりの量の血がまき散らしされた。激しい痛みと喪失感に、ドスゲネポスは悲鳴を上げつつ思わず後ろへと跳び下がってしまう。
そんな無防備な姿に対して、ハンターは竜巻のように回転、追跡しながらさらなる斬撃を加えていく。飛びずさるドスゲネポスに半ば並走するように、その体にいくつもの裂傷をつけていった。
着地したドスゲネポスは自分の間合いに入りっぱなしのハンターへ、生命の危機を感じたことで興奮状態に入った。先ほどよりも素早く、力を込めた噛みつきがハンターを襲う。が、瞬間わずかに身を低くして右手方向へと半身分ずれたハンターに、その攻撃が当たることはなく、滑るように移動するハンターによって先ほどとは反対側のわき腹へとさらなる斬撃が加えられることとなった。
悲痛な悲鳴を上げるドスゲネポスだったが、その両目に光る闘争の光はやむことなく、砂原をつかんだ両足に力を籠め、全体重を込めたタックルをハンターへと繰り出した。鳥竜種の中でも軽い部類に入るドスゲネポスとはいえ、その身体は人間よりもはるかに大きく重い。その全体重を込めたタックルは、下手に噛みつかれるよりも脅威だった。
その乾坤一擲の一撃は、ハンターの身体を捉え、子供が蹴った小石のように地面から離れさせた。彼の身体は放物線を描きながらドスゲネポスの身体から引き離されてしまった。・・・かのように思えた。しかし、タックルを受けて吹き飛んだはずのハンターは、難なく地面に着地すると吹き飛んだスピードとほとんど変わらない勢いでドスゲネポスへと最接近し、驚き戸惑うドスゲネポスへと今度は真正面から、流れるような剣戟を繰り出した。
いつの間にかガレオスの泳ぐ範囲が狭まっている砂漠の真ん中。短時間で、文字通り全身に無数の裂傷を生み出されたドスゲネポスは右眼瞼を痙攣させて、半ば眠りかけているような表情になる。それらが、あと一息でこの狩りも終わりであると、ハンターに予見させた。
―数刻後、大砂原に倒れて動かなくなったドスゲネポスからいくらかの鱗と皮をはぎ取ったハンターは、先刻ドスゲネポスへ奇襲をかけるために隠れていた岩に背中を預けて軽く休憩している。狩りの途中から彼らへと近づいていたガレオスは、少し離れたところで待機し、ハンターがその場を去っていくのを待っていた。
日差しの中よりもわずかに涼しい岩陰に腰を下ろし、ハンターは今回の狩猟を振り返る。そして、咄嗟のことだったとはいえ、ペイントボールを文字通り鼻面に叩き付けたことでドスゲネポスの嗅覚を奪い、奇襲をしやすくできた事は、案外これからも利用できるかもしれない、とハンターは考えかけ、実際に当てようとして当てることが難しいことに気付くとすぐにこの作戦を大真面目に考えることをやめ、自分らしくもない考えに少し呆れた。
竜の中ではだいぶ弱い部類にいるとはいえ、何頭も連続で・・それも途中で三頭を同時に相手にして立ち回る場面もあった狩猟では達成感もひとしおだ。妙に思考がハイになっていることに気付いたのは、待ちきれなくなったガレオスがドスゲネポスの死骸のすぐ近くまですり寄ってきた時だ。
今回の依頼は、セクメーア砂漠に現れた異常な数のゲネポスの一団の討伐である。その群れの数は実に六つ。一つ一つの群れの数自体はそう多くはなかったが、そのすべてにドスゲネポスというリーダーがいる事が、生態系の維持等に悪影響を及ぼすことが危惧されて、発注された依頼であった。
ギルドの見解によれば、何らかのモンスターの存在がゲネポスの大集団をこの砂漠の一点に集中させてしまった可能性があるとのことだが、それらの原因は目下調査中とのことらしい。
ともあれ、このハンターにとって大事な依頼の達成条件は既に満たされており、少し前にギルド側からクエスト達成を知らせるラッパの音が砂漠に響いたところだ。
激しい戦闘の結果火照った体も砂漠にいたのでは十分に冷め切らないし、上がった呼吸自体は戻すことができたので、ハンターは腰を下ろしていた岩から離れ、ベースキャンプの方へと歩き出した。後ろから「やっとか」と言いたげなガレオスの鳴き声が聞こえた。
死闘を繰り広げたモンスターに対し軽い祈りをささげると、ハンターはガレオスがドスゲネポスの死体を砂中に引きずり込む音を背に、拠点に帰った後のビールの味に思いを馳せて帰還するのだった。
後書きって何を書くといいんでしょうか・・・
ここまで読んでくださってありがとうございます。名前とかは次回をお楽しみに。
キャラはそれなりに濃いです・・・周りが