ポッケ村の集会所中に響き渡るような大声を上げ、ポッケ村集会所のギルドマスターに詰め寄っていた少女は、自身の大声のせいで集会所中の人間が自分の方を見ていることに気付き、伐が悪そうに身体を縮こまらせた。
全身を真新しいマフモフ装備で包んだ少女は、シンディよりもさらに年下だろうことがうかがえる、幼さの抜けきらない顔だちをしており、フードを脱いだ頭にはギザミシックルでまとめた髪が揺れている。口をぎゅっと引き締めた表情は、愛想が足りない感じがした。
その背中に担がれているのは、遠距離武器のボウガン。その中でも軽いフットワークを維持するために、軽さと持ち運びやすさを重視した、ライトボウガンという種類である。特に、彼女が背負っているのはハンターライフルといわれる遠距離射撃が得意なライトボウガンの一つだ。近年の改良によって初心者でも扱いやすいようになり、この銃の愛用者はグンと増加した。見た目の特徴として銃身が非常に長いことがあり、少女の身長がやや低いこともあって銃口が時折地面にすれているところが、初心者向けの一式装備以上に初々しい印象を周りに与える。
そんな少女に対応するギルドマネージャーは困ったような表情のまま、少女にもう一度先ほど言った内容と同じことを説明した。
「だからね~?もうポッケ村にお付きのハンターさんはいらっしゃっていて、その人も特にこの村を離れる予定はないのよ~。だから、貴女がここに呼ばれる理由はなくって~・・・」
「で、でもワタシは・・」
「うーん、何かの勘違いじゃないかしら~?あのハンターさんも、そんなそぶりは
なかったし~」
ギルドマネージャーは困ったような声色で軽く周囲を見渡し、目当ての人物をすぐに探し当てると手招きした。当の本人は即座に目を逸らしてそっと逃げようとして失敗したが。
目をそらしてやり過ごそうとした目当ての人物・・・ウィリアムは、シンディに尻をけられてしぶしぶと騒ぎの中央に向かっていった。
「あー・・・今の大声は俺のせいでおこったのか?マネージャーさんよ」
「うーん、あなたが原因というわけじゃぁないんだけどね~。一ついいかしら~?」
「うん?」
「ハンターさん、ここを離れるつもりってある?」
「あ?ねーよそんなもん」
「でしょ~?ほら~」
「ほらって・・・じゃあワタシは何でここに」
「知らないわ~」
「知らねえってあんたなぁ・・・」
呆れながら頭を掻くウィリアムは、いまだに困惑したままで思考をまとめられていないマフモフ装備の少女の方にちらりと視線を向けて
「で、何があったん」
ギルドマネージャーに尋ねた。
「何回も説明するのが面倒なんだけど、要するにこの子がポッケ村お付きのハンターになりに来たんですって~。貴方はまだまだ現役でやってくれているのにね~」
「えー・・なんだそれ。マネージャーも何も聞いてねえの?」
「聞いていたら困ってないわ~」
眉をハの時にしたギルドマネージャーのどこまでも他人事な調子に、ウィリアムにこっそりついてきたシンディも呆れた様子でため息をつく。
「・・・だってさ、嬢ちゃん。君の方でなんか心当たりないの?ってか、誰に言われて来たの。『ほら吹きリック』に騙されたんならご愁傷様だ。飯でもおごってやるよ」
「・・・わ、ワタシはドンドルマのギルドマスターに言われてここに・・・」
「・・・・・・・・・・・・なあ、マネージャー。ほんっとうに何も聞いてないの?」
「失礼しちゃうわ~。いくらなんでもそんな大事なことを私が忘れるはずが」
「八年前のウカムルバス事件、三年前のラオシャンロン緊急接近に伴う『最速』避難事件、昨年末のクシャルダオラ撃退作戦伝達遅れ事件・・・大きいものだけでもこれだけありますが」
「と、新人に毛が生えた程度の受付嬢も申しておりますが?」
「過去のことは水に流して目の前の問題を解決しなきゃね~」
「この人は・・・」
明るく振舞って過去の失態を流したギルドマネージャーはシンディの視線を受け流して、頬に手をやりながら自身の記憶を手繰り、何か手がかりはないかと思案する・・・と。
「といっても、本当に今回は心当たりが・・・あら?ドンドルマのギルドマネージャー?」
「ハイ解散!終わりだ、酒飲むぞー」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってね~。今ここまで出かかってるから~・・・っと思い出せたわ~・・・でも・・」
ポンと柏手を打って何かを思い出した様子のギルドマネージャーだったが、すぐにその表情はまた困ったようなものに戻る。
「でもおかしいわぁ。もしそうだとしても、この子がここに来るような話にはならないし・・」
「どういう話をしたんだよ」
「ん~・・・単純に、ハンターさんに、もしものことがあったらいけないから、いつでもすぐにポッケ村に常駐できるっていう人をまた目星つけておかないといけないわね~・・・って話を、先月だったかしら?ドンドルマのギルドマスターさんと話したのよ。ほら、いくつかの集会所の管理人が集まった集会があったでしょう?」
マネージャーの言葉に、シンディが頷く。実際、先月の始めに各地にある集会所の管理人が集まった報告会があり、そのときにギルドマネージャーはドンドルマのギルドマスターと酒を交えながらそんな話をしていた。
彼女曰く、「あくまで候補を探すだけであり、まだ本当に追加契約する予定ではない」という相互理解の元で話は終わったとのことだ。後日話をする機会があった時も、その認識は変わっておらず、少女がここにくるような話にはなっていないはずだ、とギルドマネージャーは疑問符を浮かべた。
一方で少女の方は、ギルドマネージャーの話に少しの間思案顔になったかと思うと、何かに思い当たったのかきょとんとした表情に。そしてどんどん耳まで赤くなり、次いで死ぬんじゃないかと思うほどに血の気が引いて青くなるという素晴らしく滑稽な百面相を披露していた。
半目になったウィリアムが訊ね、少女が言うことには、ハンターになって早一か月経った先日、初めての卵運搬クエストに成功して食事をしていた自分のもとへ、ドンドルマのギルドマスターがやってきて少し話をしたらしい。その内容のほとんどは、新人への鼓舞と慣れてきたあたりでの慢心からの怪我への注意だったらしいが、最後にこんな話をしたという。
「ドンドルマでクエストを受けることに何かこだわりはあるか」という質問から始まった話題だった。
少女はその質問に首をかしげながらも否と答えた。そもそも少女の出身地はベルナ村という少し離れた田舎で、単純に自分でもこなせる依頼が多いだろうという予想で大きな街を拠点にしただけだったからだ。事実、それは間違っていなかったが、自分でもこなせる依頼を斡旋されるのは特段大きな街に限った話じゃなかった事に、少女は一か月弱で気づいていた。
少女の答えに、ギルドマスターは頷くと「ポッケ村のお付きハンター」という一つの選択肢を提示したという。曰く、さまざまな僻地にはそこでしか取れない特産品があり、それをある程度安定して供給するには、そこにある村々を守っていく必要があるとのことだ。そこで、ハンターズギルドはそこへ常駐するハンターを派遣することでその役目を果たしてもらい、見返りとしてできるだけ安値での特産品の取引を行っているのだという。
ギルドマスターは、そんな村々のお付きのハンターもいつ何があって倒れるかわからないため、お付きのハンターになれるような有望なハンターを探している・・・と言ったそうだ。
少女はその言葉に奮い立ち、すぐにポッケ村に移住するための資金集めの依頼をこなした。数週間の準備期間を経て、装備と資金をそろえた少女はドンドルマの街で借りていた家を引き払い、ドンドルマのギルドマスターへポッケ村に出立する旨を伝えて飛び出してきた・・・というのが事の顛末であった。
後日わかったことだが、ギルドマスターはこの時の少女のあいさつを、たまに新人ハンターがしてくる「初飛龍討伐前の挨拶」と思っていたらしい。ポッケ村ということは、フルフルか何かを討伐しに行くのだろう、と判断して応援してしまったことが少女の勘違いを最後まで正せなかった原因だ。
結局、すべては少女の早合点から始まり、早合点で終わった話であった。
顛末を話し終えた少女は羞恥で首まで真っ赤に染め、同時に家を引き払ったことで帰る場所すらない、という絶望に力が入らなくなってへたりこんでしまった。そして彼女は、行き場のなくなった感情をうつむいた顔から零して床を濡らした。
こうなってくると、また困るのは周囲のハンター(野次馬)や関係者だった。
これが立派に成人したハンターなら、その場で尻を笑いながら蹴飛ばしておしまいだったが、この話の中心にいるのは未成年の子供で、ハンターとしても人としても未熟な存在であることが問題だった。周りの人としても笑ったものか呆れたものか、慰めていいのか悪いのか、野次馬根性を発動させた自分の取るべきリアクションをつかみ損ね、頬や頭を掻くばかりだ。ある意味、ポッケ(温かい)村らしい、優しい人たちが多かったことがまずかったのかもしれない。
と、そこでギルドマネージャーが笑顔で「そうだわ~」と優しく少女の肩を撫でる。少女はそれに少し怯えたように肩をすくませると、顔をギルドマネージャーへと向けた。その濡れた顔には、困惑とわずかな期待が見て取れる。自身で解決できずに困っている問題を、他人が手助けしてくれるかもしれない。そんなどこか子供らしい期待。
今回はそんな少女の期待が報われる形となるが・・・ウィリアムは知っていた。ギルドマネージャーが笑顔になる直前。その細い目をわずかに開いて自分を流し見していたことを。その目が語っていたのが「面倒事は他人に任せて流しちゃおう」という鉄屑の意志であったことを。
いやな未来を予感したウィリアムは、先ほど目を逸らした時よりも俊敏な動きでその場を後にしようとしたのだが、同時に「こいつが逃げたら次は自分だ」と予期したシンディによってガレオスフォールドのベルト部分を、彼女の全体重を込めて掴まれてしまい、脱出に失敗してしまった。そして、ギルドマネージャーの提案(押し付け)を聞いてしまう。
「それだったら、これからこのポッケ村お付きハンターさんのもとで修業するってことにするといいんじゃないかしら~」
きょとんとした表情で最後の涙を左目から零す少女。安堵した様子のシンディ。あちゃーといった表情でにやにやと笑う野次馬たち。遅ればせながらに野次馬に参加するフレデリック一行。
そんな連中が見ている中、ウィリアムの「ふざけんな」という怒声が響き渡るのだった。
キリンさんもいいけど、ギザミさんもいいと思います