英雄狩人   作:内山凜太郎

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第五話「英雄にあこがれる少女Ⅲ」

 中、深く積もった雪で覆われているフラヒヤ山脈。寒さに適応したさまざまな動物やモンスターが生息しているこの山は、ポッケ村の特産品がよく採れる狩場でもある。

 

 巨獣ガムートやドドブランゴなど、寒さをものともしない大型モンスターがこの山全体で生息しており、ほかの狩場に負けず劣らずの生存競争が繰り広げられるこの山だが、今のところ大型モンスターの気配はなく、ギアノスやブランゴにさえ気を付けていれば、寒さぐらいしか脅威はなかった。

 

 そんな雪山の中で最も深く雪の降り積もる山頂付近にて、ウィリアムとケイティは依頼目標である雪山草を摘み集めていた。

 

 ウィリアムは砂漠にいた時の装備とは打って変わって、ぺとぺとしたゴム質の素材をふんだんに用いたゲリョス一式と、空腹をやや抑える効果のあるお守りを装備していた。そして、その背には雷と麻痺属性を併せ持つ双剣、フルーシェントダガーを背負っている。何が来るかわからない以上、状態異常系の属性を持つ武器で来るのが得策と判断した結果だった。

 

 一方でケイティの方は、装備もそこまでそろっていなかったのか集会所にいた時と同じマフモフ一式に、ハンターライフルを背負っている。

 

 冷たい雪に膝を着け、軽く雪を払ってやると、凛とした姿で生えているポッケ村特産品。雪の寒さにも重さにも耐え抜き、気高く生えているこの草は、街の方で滋養によいやらなにやらで人気が高く、ギルド側も積極的にポッケ村から購入しているという。最近ひそかに人気になりつつある薬膳料理にも頻繁に使われるため、この手の納品以来はまた多くなってきている。

 

 既に三束分の雪山草がウィリアムによって摘まれており、ケイティの仕事次第では小型モンスターに会うことすら無く、依頼が終わってしまうかもしれない。

 

「・・・と言っても、無理やりギアノスを探して何頭も討伐するってのも命を粗末にしているというか、ハンターとしての矜持に背くというか・・・なぁケイティ」

 

「・・・・」

 

「ケイティ・・・?」

 

 話しかけた仲間から返事がなかったことに疑問を抱いたウィリアムは、ケイティが採取を始めたほうを振り向き、

 

「・・・・・・」

 

 はしたなくも自分の方に突き出された、マフモフ装備の尻を見た。

 

 雪の深いところまで上半身を突っ込んでいるのか、ゆらゆらと左右に揺れる尻は異性を誘うような動作でありながら、年頃の女子がするのにはあまりにも風情がなく、色気を感じるよりも先に娘の行く末を心配する父親のような感情を、ウィリアムに植え付けた。

 

「・・・女のハンターの結婚成立は稀だと聞くが、こうして目の前で見ると女にとってハンターってのは男よりも残酷な仕事なんだなと思う、三十路手前だった・・と」

 

「採れた」

 

「おめでとさん。次からはもう少し浅いところから採取しような」

 

「・・・?」

 

 小首をかしげて疑問を呈するケイティがそれなりに可愛いぶん、先ほどの上品さの欠片もない仕草がウィリアムの目を優しくさせた。

 

「・・・なんだかイラッとするからその目をやめて」

 

「おう・・・で、どれだけ採れたんだ?」

 

「ん」

 

 ケイティが握りしめている雪山草の数は四束分。必要数は十束分なので既に半分を超えていることになるが・・・

 

「え、今同じ場所からまとめて採取したのか?」

 

「うん」

 

「・・・・・・」

 

 雪山草はまとめて採取できるポイントはかなり限られており、同じ場所からまとめて採取できることは少ない。ウィリアムが今手に持っている三束も、同じエリアを大きく移動しながら集められたものなので、かなり良い回収率だ。

 

 驚いた顔をしているウィリアムに、ケイティはこれまでの依頼をこなしていった中で、雪山草の自生する場所にはある程度のパターンがあることに気付いたということを伝えた。そのパターンに合わせて雪を掻きわけると、生えていることが多いとのことだ。

 

「・・・マジで」

 

「・・・例えば、そっちの方。一束分ぐらいはあると思う」

 

 そう言ってケイティは、さっきウィリアムが通り過ぎた場所の雪をかき分け始めて

 

「ほら」

 

「・・・・・・おう」

 

 依頼達成まで残りは二束。このまま何事もなく依頼を達成するのはハンターとしてはいいかもしれないが、ウィリアムの目標は不完全燃焼のまま終えることになるだろう。その場合は、本当に危険性の低い小型モンスターの討伐依頼を積み重ねて、実力や性格を観察した方がいいだろう、とウィリアムは考えた。

 

 と同時に、彼女の観察眼とデータ収集・統合のセンスに少し憧れもする。これは良いハンターに慣れるかもしれないな、と。

 

「・・・何?」

 

「いや、別に。怪訝そうに見んなって。それよりも、そろそろ洞窟内での採取に切り替えよう。このあたりから少し採りすぎた。完全になくなるのはまずい」

 

「わかった」

 

 ケイティは太ももについた雪を払い、洞窟の方へと足を向ける・・・と

 

「・・・ウィリアム」

 

「おう。このまま一切出くわさねえかと思ったぜ」

 

 ずんぐりとした体に、細い足が二対。頭部にモヒカンのような白い毛と左右非対称な大牙が立派に生えた牙獣種のモンスター。大猪ドスファンゴが山頂へと続く山道から勢いよく飛び出してきた。

 

 その様子を詳しく確認する間もなく、二人は自身の得物に手をかけて回避行動をとることになった。どうやらエリアに入ってきた段階で激しく興奮していたらしく、ウィリアムとケイティの姿を確認するや否やすさまじい勢いで突進してきたからだ。

 

 咄嗟に二人はドスファンゴを挟む形で回避したため、どちらを追うか一瞬迷ったドスファンゴからの追撃を喰らうことなく、得物を構えることができた。

 

「よし、ケイティ。どうする、討伐するか適当に転ばせて逃げるか」

 

「・・・・・・」

 

 既にこちらを外敵と認識しているのか、ドスファンゴはゆっくりとその場で方向転換して足で雪を掻き始めた。中心軸を合わせているのはどうやらウィリアムだと、すぐにわかる。

 

「じゃあ、とりあえずは無力化」

 

「了解!お前に合わせるぞ!」

 

 その言葉と同時に、ドスファンゴはウィリアムに向かって勢いよく突進する。彼はそれを軽く横に転がることで回避すると、即座に構えたダガーを頭上で交差させて『鬼人化』状態に入る。

 

 その状態でザッとすべるように前へと移動すると、すさまじい勢いでドスファンゴの針金のような体毛ごとその皮を切り裂いた。

 

 たまらずに、牙を振り回してウィリアムへ攻撃を繰り出すドスファンゴだったが、一瞬早くその動作に気付いたウィリアムはバックステップ退避しており、成人男性を鎧ごと吹き飛ばす威力のある牙はウィリアムにかする事すらなかった。

 

 ドスファンゴの討伐は久しく行っていなかったこともあり、間合いを忘れていないかどうかが心配だったウィリアムは、後輩の目の前で間抜けをさらさずに済んだことに少し安心した。と、同時にこちらを睨みつけて再び足で雪を掻き始めたドスファンゴの側頭部に、大きな弾丸が斜めに突き刺さり、ドスファンゴは驚いたような声を上げてたたらを踏んだ。

 

 横目でちらりとそちらを確認すると、通常弾の適正距離で反動に耐えつつ弾丸を撃ちつづけるケイティの姿があった。どうやら、少なくとも弾丸の適正距離を保つことと仲間に跳弾が当たらないような角度での射撃は心得ているらしい。

 

 それを確認すると、即座にウィリアムはドスファンゴの身体に最接近して舞うような連撃を繰り出していく。ドスファンゴの毛皮を切り裂くたびに、ウィリアムは自分の気が高まっていくのを感じる。それが限界まで到達した瞬間、一種のランナーズハイのような感覚になり、即座に鬼人化状態を解除して鬼人強化状態に入る。ここからが彼の本領発揮であった。

 

 頭部への正確な射撃よりも更に煩わしい連撃を繰り出すウィリアムに対し、ドスファンゴは我武者羅な突進を繰り出してきた。が、ウィリアムはそれを軽く右ステップでやり過ごした。

 

 一方でドスファンゴは、どうやら一度落ち着きかけた興奮が再度爆発したらしい。関節に負担がかかることも構わずに無理やりな体勢制御を行って、ひたすらにステップでひらひらと回避するウィリアムの身体を追いかけ始めた。彼の回避動作は、さすが上位一歩手前のハンターと言ったところか、ほとんど無駄は無かった。文字通りの猪突猛進が収まった次の瞬間に連撃を叩き込める位置を常に維持していた。が、その突進と回避の応酬の後半。ウィリアムは常に驚いた表情になっていた。

 

 それはドスファンゴの動きが予想以上のものだったからではなく、ケイティの動きが予想をはるかに超えていたからだった。

 

 彼女は、ドスファンゴが無理やりな方向転換を行う瞬間、わずかにスピードが遅くなりカーブの軌道を描いている最中に、次々と弾丸をその身体に命中させていた。

 

 最初はウィリアムも見間違いか偶然と思っていたが、最後の突進の勢いもそのままに、ドスファンゴがいきなりつんのめって頭部から深い雪に突き立ったことで確信した。彼女は的確にドスファンゴの弱点の一つである睡眠属性の弾丸、レベル1睡眠弾を命中させ続けていたのだ。

 

 ドスファンゴの無力化に成功した彼女は、ふぅと息をついて通常弾をライフルに込めなおした。

 

「無力化」

 

「大したもんだな、ケイティ。本当に初心者ハンターか?」

 

「そう?単純な動きしかしないから合わせやすかっただけ」

 

「ははは・・・んで、どうする?無力化はしたが、このまま討伐するか?」

 

「・・・・・・」

 

 ケイティは少し考え込むと

 

「ううん。ここまであっさり無力化できたし、この程度なら人のいるところにはそうそう近寄らないはず。こいつはこのままほっといて、さっさと洞窟の雪山草を摘みとって帰る。そもそも依頼はドスファンゴの討伐じゃない」

 

「了解。それじゃあ、さっさと・・・」

 

 と、二人が得物をしまって洞窟の入り口へと歩き始めようとすると・・・

 

 どこかから、すさまじい龍の咆哮が轟いてきた。

 

 とはいっても、その方向はかなり遠くから聞こえたもので、少なくとも雪山の狩場として認められたところにいないことだけは間違いなかった。

 

「・・・今のは何?狩場範囲内じゃなかったけど」

 

「あー・・・ティガレックスの咆哮だったな。今のは・・・遠すぎるからこっちには来ないだろうな」

 

「!?・・・聞いたことあるの?」

 

「聞いたっつーか、遭ったっつーか・・・まあ、相手したことはあるよ。準備を万端にした状態なら撃退もしたことある・・・歳くった個体だったのか、危ないと思った瞬間に即撤退を選択した賢いやつだったから何とかなったってとこもあるけどな。まあ、尻尾無くなったあいつがその後どうしたか知らんけど」

 

「・・・すごい」

 

「撃退だぜ?足すら引きずらなかったよ。流石は一流ハンターとして認められるための関門扱いされるわ」

 

「わ・・・ワタシもすぐに」

 

「はは、無理無理。お前ぐらいの新人だったころにも遭ったことあるけど、死に物狂いで逃げるのが精いっぱいだ。今遭遇したら俺もお前も即逃げねえとダメだって」

 

「・・・・・・・・・・・・でも」

 

 ケイティが、軽く笑いながら山頂の方へと歩いていくウィリアムに何かを言おうとしたその時だ。

 

 かなり大きな質量の何かが、眠るドスファンゴの真上に落下してきた。

 

「!?」

 

 大量の雪をぶちまけながら『ソイツ』はドスファンゴにその鋭利な爪をくいこませ、致命傷を負わせた。突然の衝撃に、眠らされていたドスファンゴも一気に意識を覚醒させたが、もう遅い。あわてて暴れて四肢を振り回すも、『ソイツ』は一切の躊躇なくドスファンゴの喉元に強靭な顎でかぶりつく。次の瞬間、断末魔の声をほとんどあげる暇すらなく、ドスファンゴの命は無残に散らされた。それは、『絶対強者』による一方的な蹂躙であった。

 

『ソイツ』の四肢は血走って、返り血に染まり

 

『ソイツ』の顎は今しがた殺したドスファンゴの肉をむさぼっている。

 

『ソイツ』の両目は深紅に輝き

 

『絶対強者』は堂々と哀れな獲物を自らの生の糧とした。

 

 ソイツは轟龍、ティガレックス。普段は砂漠などの暑く厳しい環境に生息していて自らの縄張りを守りつつ、他の生き物を喰らって生きている。しかし、時折彼らは大好物の『ポポ』を食べにこのフラヒヤ山脈を訪れ、雪山草や『ポポノタン』を取りに来た初心者ハンターに徹底的なトラウマを植え付けたり、もしくは帰らぬ人とすることがあった。

 

 しかし、今回は運がいいことが二つあった。一つはケイティが眠らせたドスファンゴはこのエリアの山頂への道にいて、二人は既に山頂へと続く道を登り始めていたこと。もう一つは、そのティガレックスが飛んできた場所がちょうど少し飛び出ている形になっていたらしく、真下にいた二人はティガレックスの視界に入らなかったようだ。その結果、二人の存在は一切気づかれていないようだ。ティガレックスは、がつがつと足元で息絶えているイノシシの肉を貪っている。

 

 今なら危険なくこの場を去ることができる。自分の今の装備では碌に相手にならないうえ、今は新人のケイティもいる。ウィリアムは現状の戦力から、考えるまでもなく撤退を選択した。声を出さないようにしてケイティにその意図を伝えようとした・・・

 

 しかし、彼女は既にハンターライフルの銃口をティガレックスに向けていて、あまつさえその引き金を引いてしまった。

 

 フラヒヤ山脈に、再び轟龍の咆哮が轟いた。




やあ (ティガ´・ω・`)
ようこそ、トラウマクエストへ。
この『鬼人薬グレート』はサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。

うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

でも、この依頼を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
そう思って、この集会所を立てたんだ。

じゃあ、注文を聞こうか。
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