英雄狩人   作:内山凜太郎

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尻アスに決めます


第六話「君の目指す英雄とはなんだ」

 深くため息をついて息を吐ききると、次いで雪山ふもとの冷たい空気を目いっぱい吸い込む。自分の投げたペイントボールによって、荒れ狂う轟龍の現在地がいまだに先のエリアを離れていないことが分かった。

 

 雪山草はかろうじて十束。山頂付近では手に入れられなかったが、わずかに洞窟内に自生したものから何とか回収することができた。この結果にウィリアムはいくらか安堵する。さすがに自分がついていながら、これすら達成できないのは情けなさすぎる。彼はそう考えていた。

 

 一方で、ケイティは未だに暗い顔をしたままベースキャンプに設置されたベッドの上に座り込んでいる。さっきの事態からずっと、二人は言葉を交わしていなかった。

 

 

 

 結論から言うと、二人は無傷で轟龍から逃げ出すことができた。ケイティが最後にはなった弾丸はハンターライフルの内蔵弾である『遠撃弾』で、かなり長距離から放ったにも拘らず十分なダメージをティガレックスへと与えることができた。

 

 それにより、すぐ近くに外敵がいると勘違いしたティガレックスが、二人から離れるように飛びずさったことが十分な時間稼ぎになったのだ。いくら突進が驚異的と言えど、興奮状態にないティガレックスの突進なら余裕をもって洞窟内部へと逃げることができるはず・・・ウィリアムはそう考えていた。しかし、そこで彼としても想定外のことが起きていたのだ。

 

 こちらを睨むティガレックスは、既に興奮状態に入っていた。

 

 想定以上の速度で突撃してくる巨体。その迫力と生命の危機に、喧嘩を吹っ掛けたはずのケイティ自身、咄嗟に体が動かせなくなってしまった。即断でウィリアムがマフモフ装備のベルトをひっつかみ、半ば引きずる形で洞窟内へと転がり込んだおかげで、轟龍の体当たりは洞窟の入り口にひっかかった。二人は何とか体に傷を負わずにすんだ。

 

 しかし、ウィリアムに引きずられて何とか洞窟内に入ることができたケイティは、轟龍の咢が自分の鼻先数センチのところで、ガチンと閉じられる光景を目撃してしまい、あまりの恐怖に漏らしてしまったらしい。ウィリアムが今後の轟龍の動向チェックのために投げつけたペイントボールのにおい以外に、独特なにおいが足元からしていることに気付いた彼女は、とうとう泣き出してしまった。

 

 普段のウィリアムなら軽口の一つでも飛ばして彼女の失態を誤魔化しただろうが・・・

 

「・・・・・・」

 

 珍しいことに、彼が彼女をフォローすることはなかった。淡々と装備についた雪を払い、洞窟内の雪山草を摘みとった後、無言で涙をこぼす彼女を力任せに立ちあがらせると、そのまま下山していった。

 

 ウィリアムの、ティガレックス遭遇前後での明確な態度の違いは、ケイティを委縮させるのには十分すぎるほどの威圧感だ。すっかり黙り込んでしまったまま、現状のベースキャンプでの二人になっている。

 

 重い沈黙が依頼達成条件を満たしたはずの二人を包む。とてもクエストに成功したハンターが出す空気ではない。

 

「・・・・・・」

 

 装備とインナーを、湖で洗ってきたケイティが戻ってきたのを確認したウィリアムは、集めた雪山草をテーブルの上に置いたままずっと沈黙している。そんな彼に話しかけられず、ケイティはベッドの上に腰かけてうつむいていた。

 

「・・・・・・なんのつもりだったんだ」

 

 ウィリアムが急に口を開いて訊いた。その声は落ち着いているが、確実に怒気が込められている。

 

 その問いにケイティは応えられなかった。うつむいたまま、話しかけられたことに驚いた様子で肩を跳ねさせただけだ。

 

 特にそれを気に留めず、再度ウィリアムはそう訊ねた。三度目の質問は無く、答えるまでの沈黙が、影を伸ばしていくベースキャンプを包み込む。

 

「・・・・・・るのが」

 

「・・・うん?」

 

「・・・逃げるのが・・・嫌だった」

 

「・・・・・・」

 

 ぽつりと理由を言った後、ケイティは顔を上げてウィリアムを見据える。が、すぐについっと目を逸らした。

 

 それでも、わずかに震えた声で言葉をつづけたのは彼女の意地か、それとも子供らしさか。

 

「どれだけ強い龍でも・・・立ち向かうのが英雄・・・だから」

 

「・・・」

 

「攻撃もせずに逃げるのは・・・立ち向かおうともせずに逃げるのは・・・」

 

 彼女はわずかに言葉を選ぼうと顎を上げて、

 

「嫌だった」

 

 しかし、結局そこに落ち着いた。

 

 拙いながらもはっきりと自身の考えを伝えたケイティだったが、自分でもその内容が稚拙であることに自覚があるのか、伐が悪そうに再びうつむく。その様子を、ウィリアムは黙ってみていた。どれほど時間が経っただろうか。待機していたネコタクの騎手がそっと様子を除きに来た頃、ウィリアムが口を開いた。

 

「それで、嫌だったから。攻撃したと」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・巨大な龍に立ち向かう根性は、大事なんじゃないか?英雄になるなら」

 

 ウィリアムの口から出たのはケイティにとって、あまりに予想外な言葉だった。

 

「・・・え?」

 

「実際、英雄になるハンターは強大な龍にだって立ち向かうだろうな。己の武器を信じて、己の腕を信じて」

 

「それを成すという心意気は立派だ。お前もきっといつかは英雄に肩を並べられる日が来るかもな」

 

「・・・・・・」

 

 ケイティは、ウィリアムの肯定に驚いたような表情で顔を上げる。もしかすると、肯定を示したウィリアムに笑顔さえ向けるつもりだったかもしれない。

 

 しかしケイティに向けられたウィリアムの表情は、ゾッとするほどに冷たい無表情だった。

 

「ひっ・・・」

 

「・・・じゃあ、いくつか俺の質問に答えろ。英雄になるつもりだったんだろ」

 

「・・・え・・と」

 

 ウィリアムはその表情のまま、人差し指を立てる。

 

「ひとつめ。最初に撃った弾は遠激弾だったが、一発目で躊躇なく頭狙ったよな。アイツの装甲で一番もろいのはそこだと知っていたらしいが・・・何発あてるつもりだった」

 

「え・・・?」

 

「何発撃てるんだ、お前の所持弾数でよ」

 

「・・・」

 

「小さくて大量に持ち運べる低レベル通常弾だって、無限にあるわけじゃねえだろ。何発、頭に当てるつもりだった?そしてそのうち何発頭に・・・それも最適な距離で当てられるつもりだったんだ?」

 

「・・・・・・しょ、所持弾丸は全部で92発だから」

 

「足りねえな。まったく」

 

「・・・・・・」

 

「そりゃ、強力なボウガンならその弾数で十分だ・・・だけどお前のそれはなんだ?最近改良されて取り回しやすくなった、初心者用武器だよな。威力はまあ、そこそこあるだろうが・・・ティガの生命力を舐めすぎだ。それで足引きずったら天才通り越して魔人だよ」

 

「・・・・・・」

 

「・・・二つ目。お前、アイツの突進を見て動けなかったよな。喰らったらどうなってたと思う?」

 

「・・・・・・」

 

「答えは、運が良くて気絶。運が悪けりゃ首が折れて死ぬ、だ。そして運が良かった奴の半数は二度とハンターとして活動できなくなったぜ」

 

「・・・!」

 

「んで、三つ目だ。これは黙ってないで答えろ」

 

 ウィリアムは中指に続いて親指を立て、それ以外の指を折って親指を自分の胸に当てた。

 

「お前、俺の命も危険にさらしたよな。それが英雄のやる事か?」

 

 真っ青だったケイティの表情が、一気にこわばった。

 

「・・・答えねえんだな」

 

「・・・・・・それ・・は」

 

「死に掛けたんだ。納得いく答えをよこせ」

 

「う・・・」

 

 再びの沈黙は、長く持たなかった。

 

「答えられるわけねえよな。あの瞬間、お前は俺のことを見てなかった。英雄ってのは仲間見捨てて戦うのか?・・・違うってわかってるもんなぁ」

 

「・・・・・・・・」

 

「で?敵の強さも碌に知らず、自分のもろさも理解せず、仲間すら見捨てた蛮勇を見せたわけだ・・・お前は」

 

「・・・・・・ぅ」

 

 ため息を一つ漏らした。

 

「英雄以前にハンターとして、モンスターナメんな大バカ娘」

 

 ウィリアムは、ずっとうつむきっぱなしのケイティの顎を掴むと、存外優しく、しかしはっきりと力を込めて自分に顔を向けさせた。

 

「俺たちハンターは、どの生き物よりも身勝手にモンスターたちの生活を邪魔してんだ。縄張り争いでもなく、その瞬間に襲われたからでもない。中には管理者気取りで生態系の保護だのを謳って命を刈り取ってんだ。わかるか?」

 

 顔をわずかに逸らす。頭を掴まれて引き戻される。

 

「そんな身勝手な連中が、力量差も何も理解せずに喧嘩吹っかけて、英雄気取りなんざされた日には、怪我させられたモンスターもたまったもんじゃねえんだよ!!そんな奴は英雄以前の問題だ!」

 

「ぅぐ・・・」

 

「いいか!その意識が希薄みたいだからはっきりと言ってやるぞ!!」

 

 ウィリアムは息を吸って、英雄を夢見た少女にとどめを刺す。

 

「手前がやろうとしたことは、英雄とは正反対。ただの面白がりの殺し屋の所業だ。これがゲームか何かのつもりなのか手前は」

 

 ケイティは、その言葉に愕然とした表情になる。

 

「やっぱ自覚してなかったんだな・・・と。そろそろ時間か」

 

 ウィリアムは太陽の傾きから、クエストの終了時間を考えて雪山草を納品ボックスに入れる。それを確認したアイルーがあわててクエスト終了のラッパを鳴らし、ギルド管理局に依頼達成を伝えた。

 

 ラッパから口を話したアイルーは、「何時までじらすのニャ」と半目で睨みつけて訴えるが、ウィリアムが頭をなでると機嫌を良くしたのかゴロゴロと喉を鳴らした。

 

「おいケイティ」

 

「・・・・・・」

 

「村に着くまで数時間ある。それまで俺の言葉と手前のやったこと、考えてろ」

 

 打ちひしがれた様子のケイティに、ウィリアムは一切の容赦なくそう言い切った。

 

 

 数時間後に村の集会所に帰還した二人は、依頼に成功したとは思えない表情だったという。

 

 雪山に現れたティガレックスは、その場にいた十分に経験のあるドンドルマのハンターが緊急依頼として討伐・撃退に向かった。

 

 依頼は無事に成功し、ポッケ村に危機が迫ることはなかったという。

 




久しぶりにモンハンクロスやったら、獰猛化リオレウスに全く勝てませんでした。






でもよく考えたらお休みする前も獰猛リオレウスに歯が立たなかったことを思い出しました
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