「悪ぃな、尻拭いさせちまって。今度また何か手伝うぜ」
「気にすんな。お互い様だろ。前の金ピカ猿ん時は助かったんだぜ?いきなり乱入してきたからな」
「あんとき、俺やられてたじゃねえか・・・」
「だがお前が長時間引き付けてくれたから無事に逃げられた。ベースキャンプにネコタクで先回りされててめっちゃ笑ったけどな」
「るっせぇ!・・・んじゃ、よろしく」
「おう!行くぞ二人とも!」
「ボクたちの活躍にこうご期待・・・いやぁ、ティガはこれで何頭目かな?」
「二頭目」
ウィリアムの友人、フレデリック一行がウィリアムたちの後始末のために雪山へと向かう。
またギルドからの信頼度に差をつけられそうだ、と心中で思いつつウィリアムは出発する彼らが見えなくなるまで集会所の出口で見送った。
フッと笑顔が消えたウィリアムは、ぼんやりと見上げた月から目を離し、頭を掻きながら屋内へと戻る。三人が戻ってくるのは次の明朝になるだろう。
ポッケ村は既に月明かりが照らす夜になっており、ウィリアムたちが帰還してティガレックスの存在を報告してから数時間が経過していた。帰還した段階で既に集会所の盛り上がり時は過ぎており、残っていたハンターは偶然ドンドルマに帰る直前のフレデリックたち三人だけだった。主な説明はウィリアムが行うことになっていて、ケイティは先に部屋へと戻らせている。
「・・・・・・」
というより、ウィリアムが家に帰るつもりがなかった。
他に誰ひとりとしてハンターのいなくなった集会所に、ウィリアムだけがチビチビとビールを飲んで残っている。ギルドマネージャーすら受付嬢に後を任せて帰っていた。
と、ジョッキの半分を飲んだウィリアムの耳に、近づく足音が届いた。顔を上げると・・
「飲みすぎは下腹によくないよ。まあ、抱き心地がいいから好きだけど」
「・・・クレハか。仕事はどうしたよ」
「お仕事モードじゃなくなってる段階でお察しでしょ・・・隣いい?」
仕事をあがったクレハがいた。仕事中よりもはるかに砕けた態度で、頷いたウィリアムの拳一つ分隣に座る。
「・・・私も飲んでいいかしら?」
「注文しろよ」
「ウィルが飲んだものが飲みたいのよ。もーらい」
「おい」
一気にウィリアムの飲みかけのビールを飲み干したクレハは、ん~・・・と高い声で喜ぶとウィリアムの肩へ頬を乗せる。
「それで?今日はここに泊まって飲んでいくの?」
「・・・まあ、アイツも俺がいたんじゃ落ち着いて考え事もできねえだろ」
「ふぅん・・・」
上目づかいにウィルを見つつ、ジョッキの飲み口を指でなぞった。
「それって自分もでしょ」
「・・・・・・」
「やっぱり」
パッと肩から頭を離すと、クレハは大きく伸びをしつつ立ち上がってウィリアムの向かい側に座る。ジョッキを見つめる彼の顔をじっと見つめながらしばらく。ほかのテーブルを片付けるシンディの作業音だけが集会所に響く。
やがて観念したように彼は唸り声を上げた。
「あ゛~クソ。お見通しってか」
「そりゃそうよ・・・シンディ。あとは私がこの人の相手しながらやっとくから、あがっていいわ。今日もお疲れ様」
「はい。それじゃあよろしくお願いします」
「仕事終わったんじゃねえのかよ」
「いいのよ、勝手にやっとくだけだし。場所と時間を借りる分だけ」
「あ、そ」
見抜かれたのが恥ずかしいのか、どことなくそっけない態度のウィリアムの頬をつつき、クレハはラストオーダー扱いで、自分とウィリアムの分のビールを追加する。しばらく二人が無言で飲んでいると、最後に集めた分の食器を洗い終えたシンディが「『飲む・寝る』以外の用途に集会所は使わないでくださいね、ウィルさん」と本気トーンで忠告してから出て行った。
「・・・アイツは俺を何だと思ってやがる」
「さあ?ほぼ初対面の女の子を泣かして帰ってくるぐらいひどい男って思ってるんじゃない?」
「・・・・・・別に泣いてなかったよ」
「なら、今頃泣いてるわ」
「どうしようもねえ」
「そうね。だから今夜、ウィルはここにず~っといて、私だけのものってわけね」
「・・・・・・」
「あ、照れた」
そっぽを向いたウィリアムの頬をつつき、可愛いとつぶやくクレハ。傍から見れば完全にバカップルの行動だが、幸い誰一人として集会所にはいない。
しばらくそうやって無言の逢瀬を楽しんでいると・・・
「・・・猪突猛進するってタイプなら、ここまでのことは言わなかったよ」
「・・・・・・」
再びビールに口を付け始めたウィリアムは、悲しそうな表情でテーブルを睨む。
「だが、アイツは『冷静』に行動したんだ。『冷静』に、『着実』に弱点を狙った。恐怖に駆られてじゃねぇ、アイツは冷静にあのティガレックスを傷つけるつもりだった。『英雄になる』って言いながら」
グッとビールを半分ほど飲み干すと
「俺はそれが許せなかった。一人のハンターとして」
「・・・・・・それが、ウィルの矜持なのよね」
「・・・いや、そんな大したもんじゃねぇよ。ただ・・・その・・・」
「それであの子が歪むのを見たくなかったのよね?」
「・・・・・・」
黙りこくったウィリアムの横顔を眺めるクレハ。数年の間に何度もウィリアムの酒盛りに付き合ったクレハは、ウィリアムの内心を大よそ見抜いているらしく、その顔には微笑が浮かんでいる。
「自然と調和しきれない人間を、それでも大きく乱しすぎることなく収めるのがハンターの仕事。どちらかが強くなりすぎた時、人は自然を蔑ろにするから・・・だっけ?ウィルのおじいさんの言葉」
「・・・・・・あぁ」
「いい教えよね・・・で、その言葉は教えてあげたの?」
「・・・いや」
「だと思った・・・それで、もっとキツイ言葉言って、言いそびれて・・・」
「うぐっ!」
「・・・・・・」
クレハは苦笑しながらとどめを刺す。
「ほんとウィルって、年下との距離感つかめない男ね。シンディで学べばよかったのに」
「ほっとけ」
「まあ、今日は飲んでここに泊まっていきなさい。明日の朝には私が起こしてあげるから」
「悪いな・・・」
「その代り、目が覚めた時に私が裸で隣にいたら責任とってね」
「何言ってんだお前・・・」
呆れて半目で睨むウィリアムだったが、くすくす笑うクレハはウィリアムにしなだれかかり、自分のビールに口を付ける。そのあっけらかんとした様子に諦めたようにため息をつくと、自分のビールを再びチビチビやりだした。
―集会所にその声が轟いたのは二度目だった。
「ごめんなさい!」
「・・・はぇ?」
結局、最後に頼んだビール一杯では足りず、クレハが自宅から持って来たワインを追加して酒盛りをしていたウィリアムは、集会所のテーブルに突っ伏して眠っていた。
それを叩き起こすように、彼女・・・ケイティの大声が対面から聞こえてきたのだ。
顔を上げたウィリアムが見たのはギザミシックルが揺れる頭。深く頭を下げて謝罪しているケイティだった。
「あー・・・えっと・・・あ?」
「本当にごめんなさい。ワタシ、ハンターが何か全く分かってなかった」
「・・・・・・」
寝ぼけていて状況がつかめないウィリアムは、困ったようにほとんど人のいない集会所を見回した。すると、仕事モードの笑顔で手を振るクレハと、呆れた顔でこちらをみるシンディが見つかった。困惑するウィリアムに気付いているのかいないのか、ケイティは昨晩ウィリアムと別れてからあったことを話した。
どうやら帰った後、言われたとおりにウィリアムの話したことを一人で自分なりに考えていたらしく、言葉を何度も反芻していたとのことだ。
その結果、英雄気取りの蛮勇で仲間を危険にさらしたことを反省し改めることを決めたが、どうしても最後の一言、「面白がりの殺し屋の所業」とまで言われたことが納得いかなかったらしい。
そのことについて問いただそうかと思い、家で待っていた深夜。仏頂面の受付嬢、シンディが訪問してきた。
そして、彼女が話したのは三つ。一つはウィリアムが今日は戻ってくるつもりがないこと。一つは自分が来たのはただの気紛れだということ。そして最後に、ウィリアムの祖父の言葉についてだった。
ウィリアムはサッと受付の方に顔を向けるが、問題の少女は澄ました顔で今日処理する予定の依頼書を整理していた。
顔を上げないケイティは、その様子にも気づかずに言葉を続ける。
「・・・ハンターは、強大なモンスターを狩り、人の生活を守る人。その勇気と強さこそが真髄だと・・そう思っていた・・・だけど」
そう思っていた自分が、恥ずかしくなった。と、目を腫らした彼女は言った。
「・・・ウィルが考えている事の深いところまではまだわからない。でも、自分の考えが全然ダメだってことだけは、わかった」
「・・・・・・」
「あなたに謝ってどうこうってわけじゃないけど・・・その・・・ごめんなさい」
再び頭を下げる少女に、ウィリアムは無言でいるしかなかった。というのも、昨晩の酒盛りでは、彼女へのフォローをどうするべきか、ずっと酒を飲みながらクレハに愚痴っていたからだ。彼からすれば、もう少し落ち着いて話ができるようになってからだと思って言いあぐねていたのだが・・・
「いっそ言ってくれればすっきりすることがあるんです」
過去に、勘違いの擦れ違いからクレハを怒らせたときにシンディが言った言葉を思い出した。
「・・・・・・・・・あー。その・・・わかった。わかったから顔上げろ」
「・・・・・・」
充血した目を見つめながらウィリアムは、少し真面目な。しかしいつもの軽い調子を取り戻してケイティに話す。
「ま、わかってくれりゃ、それでいい。別にそれを強要したりはしねえからさ。頭の片隅に置いておいてくれや」
「うん」
「んで、まあ。俺の方も悪かったな。どうも、年下の相手は不得意でなぁ。すぐ怒らせちまうんだわこれが・・・」
「ううん。大丈夫」
「へへ、そういってもらえると助かるぜ」
ウィリアムは頭を掻き、苦笑いを浮かべると改めてケイティに向き直る。
「・・・っと。それじゃあ、とりあえず一つお前に聞きたいことがある」
「・・・・・・何?」
「お前、これからハンターとして。どうなりたい?」
ウィリアムはそう訊ねた。
ケイティは少しだけ考えると、言った。
―この日、ポッケ村に改めてポッケ村駐屯ハンターによるコンビが結成された。いまだにギルドに書状が届いていないため、非公認のコンビではあるもののポッケ村という小さなコミュニティの中では、既に街角の噂に上るほどにはなっていた。
この物語は、『ポッケ村の英雄』を目指した少女と、なし崩し的にその師となった男の。
自然と向き合う物語。
ここから本編(?)
ですが、最長一か月書き溜めしますのでゆっくりお待ちくださいませ