かつての大人気ゲーム、ユグドラシルの最終日
街では最後の時を楽しもうと人々で賑わっている。
それを誰にも見られぬよう遠くから見ている一人の真っ白な人狼がいた。
かつてはそこそこ名の知られた7人の人狼で構成された傭兵ギルド〈セブンウルブス〉のリーダーで名をフェンリルという。
ユグドラシルは初めて夢中になったゲームだった。
仲間たちとは色々な冒険をした。
PKや色々なことで悔しい思いもした。
強くなり傭兵ギルドを作って助っ人として色々な所で戦って感謝もされた。
と言っても、もう仲間は全て引退してしまって残ったのは自分一人。
だが目をつむるだけであの黄金の時を昨日の事のように思い出すことが出来る。
だから寂しさが募ってくる。
誰かに会いたい、最後の時を誰かと共に過ごしたい。
フェンリルがコンソールを操作しインしているフレンドにメールを送る。
ナザリック地下大墳墓・円卓の間
豪奢な漆黒のアカデミックガウンを羽織った骸骨であるモモンガとうごめく黒いスライムのヘロヘロが話をしているとメールが一通、モモンガに届く
「どうしました?」
「メールが来たみたいです」
メールの差出人はフレンドであるフェンリルだった。コンソールを操作しメールを開く
〈こんばんわ、近くにいるのでもし良かったらそちらに遊びに行っても良いですか?〉
「フェンリルさんからです。こっちに遊びに来たいみたいです」
「あぁ、久しぶりに会いたいですね」
「ですね~じゃあ、来てもらいましょう」
メールに返信する。
〈こんばんわ、ぜひ遊びに来てください。お待ちしています〉
ヘロヘロが会社の愚痴をモモンガに吐き出し終わったところに
「こんばんわー」
白い体毛に覆われた大きな体に黄金の瞳に凶悪な狼の顔を持つ二足歩行をする人狼フェンリルが入ってきた。
「こんばんわー」
「こんばんわ」
ヘロヘロとモモンガが挨拶を返す、と同時にモモンガが驚いた。
「うわ!フェンリルさんその恰好、どうしたんですか!?」
フェンリルの2mを超える巨体に装備されているのは一つを除きいずれもゴッズ級やレジェンド級アイテムで構成され、そのいで立ちは遊びに来たというよりも戦いに来たという方が合っている。
「あぁ、最後だからと思ってフル装備で来たんですよ。アインズの皆さんの協力のおかげで作れたアイテムばっかりですからね」
自慢の装備に身を包んだフェンリルが胸を張る
「今なら誰が攻めてきても対処できますよ」
「ははっそうですね」
他愛もない会話にフェンリルは久しぶりに楽しい時を過ごす。
しかし楽しい時間ほどすぐに過ぎていくものでヘロヘロが眠気に負けログアウトした。
残された二人に訪れる寂しさ
「帰っちゃいましたね」
フェンリルがつぶやいた。
「リアルが忙しいなら仕方ないですよ」
モモンガは仕方ないと思いながらも心の中で最後まで一緒にいたかったという、無念があった。
「オレは最後まで居ますから」
フェンリルの言葉にモモンガは救われた思いだった。
「そうだ。フェンリルさん玉座の間、まだ見たことなかったですよね?」
「そうですね。まだ見たことないです」
何度も来たことのあるナザリックだが、いつもこの部屋で会っていた。
「じゃあ、行きましょう。最後の時はそこで過ごそうと思っていたので、そうだ私もフル装備して行こう」
そう言うとモモンガは装備を変えスタッフオブアインズウールゴウンを持ち出し、フェンリルとNPCを連れ玉座の間へと向かった。
「うわースゴイですねー」
フェンリルが驚きの声を上げる。まさに玉座の間というに相応しい豪華で荘厳な空間だった。
その中を色々な所を見ながら歩く。
「やっぱりアインズ・ウール・ゴウンって凝り性の人多いですよね」
この部屋に来るまでの道中でフェンリルは改めて思った。付従えているNPC一人一人をとっても設定やビジュアルが自分では作れない、いや考え付かない。
フェンリルもギルドホームを持っているがナザリックと比べるのもおこがましい程の小さな山で、まして部屋の改造などもほとんどしなかった。
「ですね~、階層守護者ももっと凝っていますからね~」
セバスなどのNPCを階段前で待機させ、モモンガとフェンリルが玉座の前に到着した。
玉座の横に立つNPCをフェンリルがまじまじと見る。
「うわ、このNPCもメッチャ綺麗ですね。って設定長っ!」
フェンリルがアルべドの設定文を見て驚く
「え?どんな設定だったかな?」
モモンガが覚えているのは、守護者統括であり、ナザリック地下大墳墓の最上位NPCということぐらいだった。
モモンガの想像以上の長文設定、それを斜め読みし最後の一文の所
『ちなみにビッチである』
でフェンリルとモモンガの声が揃った。
「「えっ」」
二人揃ってドン引きだ。
「ビッチって、これ・・・」
「・・・たぶん罵倒の方だと思います・・・」
「・・・ですよね・・・」
なんとも言えない沈黙、それを破ったのはフェンリルの方だった。
「そ!そうだ!オレも作ったの見せますよ。NPC、実はナザリックの入り口で待機させてたんですぐに連れて来ますね!」
「あ、じゃあ、これ持って移動してください」
そう言って出されたのは指輪だった。
「コレは?」
リングオブアインズウールゴウン、特定箇所以外転移が不可能なナザリック内において、自由に転移できる指輪だ。
「ナザリック内で転移する為のアイテムです。この部屋には直接転移出来ないんで注意してください」
「ありがたくお借りします。では行ってきます!」
そう言い残しフェンリルは転移する為に部屋を出て行った。
モモンガは改めてアルベドを見た。
「タブラさん・・・ギャップ萌えだったっけ?・・・それにしても・・・」
しばし考え、そして結論を出す。
変更しよう。
そうしてビッチの文言は消え、新たに入ったのは
『モモンガを愛している。』
自分で入れておきながらモモンガは恥ずかしさで悶絶した。
モモンガが悶絶している最中に、いつの間にかフェンリルが自作のNPCを連れ戻ってきた。
「いや~お待たせしました・・・って、どうしました?」
大げさに驚くモモンガにフェンリルが首を傾げた。
「いえ!なんでもないです!あっ!その子がですか!?」
大きな声を出すモモンガに少し驚いたがフェンリルが自作のNPCを紹介する。通称おともNPCと呼ばれる外にも連れていけるNPCだ。100レベルまで成長するがペナルティとしてアルベドなどの拠点NPCと比べて90レベルまでの能力しか持つことが出来ない。
「そうです。いや~作るのに一か月位掛かったんですよ。課金もしましたしね~」
ネルと名付けられた見た目は長い銀髪のダークエルフ、紅い瞳に整った顔立ち、スラリと伸びた長い手足にグラマラスな身体を強調する胸元と背中が大きく開いたただの黒いドレスに見えるが実は高い防御を誇るレジェンド級アイテムの逸品である。一見すれば18禁に抵触するのではないかと思う、上品に言ってセクシー、下品に言えば痴女、運営仕事しろとでも言いたいところだ。
「フェンリルさんも凝ってるじゃないですか~」
「えぇ、自分の欲望100%ぶち込みましたからね。理想の嫁?みたいな感じです」
フェンリルとモモンガが理想の嫁話に花が咲く
ふと時間を見るとサービス終了まで3分を切っていた。
「もうすぐ終わっちゃいますね」
「そうですね・・・」
「モモンガさんのおかげで最後に良い思い出ができました」
「そんな、フェンリルさん、私もですよ」
沈黙、どちらかともなく天井を見上げる二人に思い浮かぶのは輝かしい時間
それが今失われる。
なんと悔しく、不快なことか
終了まで1分を切った。
二人目を閉じ心の中でカウントダウンを始める。
幻想の終わり、そして3・2・1、ブラックアウト・・・そのままログアウトするはずだった。
「「ん?」」
二人が目を開くとそこはまだ玉座の間だった。
フェンリルが隣を見ればモモンガがいる。モモンガもフェンリルを見るがお互い困惑している。
「まさかサーバーダウンが延期になった?」
とモモンガ
「そんな連絡来てないですよね?」
だがフェンリルもモモンガも、コンソールが浮かび上がらない、他の手段をと思い他の機能を呼び出すがどれも機能しない。
「どうかなさいましたか?モモンガさま?」
初めて聞く綺麗な女性の声、それはNPCであるアルベドのものであった。
「マスター?どうしました?」
甘く艶のあるその声は、こちらもNPCであるネルのものだった。
モモンガもフェンリルも驚く
「失礼いたします」
モモンガにアルベドが近づき、そしてモモンガの鼻腔を甘い香りがくすぐる。
フェンリルは人狼という種族だからなのかモモンガよりも様々なにおいが鼻腔を襲っていた。
モモンガとフェンリルに違和感が襲う。
「・・・・GMコールが利かないようだ」
モモンガがアルベドの潤んだ瞳に吸い込まれ、ついNPCに相談してしまう。
答えなど返ってくるはず等ないのに、だが
「・・・お許しを、無知な私ではモモンガ様の問いであられる、GMコールというものに関してお答えできません、この失態を払拭する機会をいただけるのであれば、これに勝る喜びはございません、何なりとご命令を」
答えが返ってきた。つまり会話をしているのだ。
ありえない。
だが驚いているはずなのにモモンガの頭の中はクリアになっていく。
そしてセバスを呼び、周辺地理を確認の命令を。プレアデスには九階層に上がり、八階層からの侵入者が来ないか警戒に当たらせる。
「モモンガさん・・・ちょっといいですか?」
「フェンリルさん?」
促されるようにアルベドとネルから離れる。
「モモンガさん、この状況どう思いますか?」
「・・・正直、困惑しています。においを感じるし、そしてNPCと会話している」
「これってユグドラシルⅡってわけじゃないですよね?だとするとこれ電子誘拐ってことになりますけど」
「いやさすがにそれは無いかと・・・」
「ですよね?だとすると・・・」
「って!フェンリルさん!?・・・口が動いてます・・・」
口が動く?まさかそんなことはありえないと思い、フェンリルが自分の口に手を当てると呼吸をしている。自分の声を発すると、口が動いている。
「ま・・・さか・・・」
フェンリルはそんなはずはないと思いながらネルの方を見ると、ネルは微笑みを返してくれた。表情が変わったのだ。自分の心臓が一つ高鳴った気がする。
「モモンガさん、オレの脈を診てもらってもいいですか?」
そう言って左腕を差し出す。
「・・・はい」
モモンガが左腕を触ると同時にフェンリルに軽い電気の様なものが走った。
「うわ!」
「あ!すいません、ネガティブタッチの解除忘れてました」
「大丈夫です。解除してもう一回お願いします」
モモンガが解除の仕方に思案すると、唐突にその切り方を悟る。
死の支配者として保有している能力の行使がまるで人が呼吸をするのと同じように自然に使用できる能力になっていた。
「触りますよ」
触ったことなどないが犬を触るとこういう感じなのかな?などと思いながら脈を探す
「・・・どう・・・ですか?」
ある。
トクントクンと生物なら当然の鼓動がある。
「あります・・・脈が・・・」
という事はフェンリルはデータなどではなく生物として目の前にいることになる。
「そんな・・・」
いや、まだだ、まだ最後に調べていないことがある。
「・・・モモンガさん、童貞ですか?」
突然の質問にモモンガの目が点になる。
「え?」
「ハッキリ言います。オレは童貞です」
「あ、はい、私もです」
あっけにとられて答えてしまった。
「じゃあ、一緒に調べましょう。18禁に触れるような事は出来ないはずなので、オレはネルの胸に触ってみます。だからモモンガさんはアルベドの胸を触ってみてください」
モモンガはドン引きだ。
「え、それはちょっと・・・」
「お願いしますよ!オレ一人は厳しいですよ!せめて一緒なら何となく行けそうな気がするんですよ!」
フェンリルのこの必死さは童貞ゆえなのだろうか?とモモンガは思うが確かに18禁に抵触する行為をすれば何らかのアクションがある、そんな感じもする。
「・・・分かりました・・・一緒にやりましょう」
フェンリルがモモンガの手を握る。
「ありがとうございます!モモンガさん!」
フェンリルのフサフサとした長い尻尾がぶんぶんと音立てて振られる。
そしてモモンガはアルベドの前に、フェンリルはネルの前に立つ。
傍から見れば美女に襲い掛かろうとするモンスターの構図だ。
「「む、胸を触っても構わないな」」
「「え?」」
空気が凍ったようだった。
アルベドとネルは目をぱちくりしている。
モモンガ達は悶絶したい気分だった。とくにフェンリルは自分の言い出したことであるからモモンガに申し訳ないとも思っている。
だがこれは仕方がないことなんだと強く思うことで平静を装う。
「「構わにゃ・・・ないな」」
二人揃ってダメだった。
だがアルベドは花が咲いたような輝きを持って、微笑みかける。
「もちろんです、モモンガ様、どうぞお好きにしてください」
アルベドがぐっと胸を張る、豊かな双胸がモモンガの前につき出された。
「では私も、マスターどうぞ」
ネルが蠱惑的な笑みを浮かべて胸を張る。こちらもアルベドに負けず劣らずの豊かな胸をしている。
モモンガとフェンリルはお互いを見てわずかに頷き、意を決し手を伸ばす。
柔らかいものが形を変えるのが二人の手に伝わる。
「ふわぁ・・・あ・・・」
「ん・・・はぁ・・・」
濡れたような声がアルベドとネルから漏れる中、モモンガとフェンリルは実験を終了させた。
警告が出てくるはずの行為を行っているのにそれが出てこない。
仮想現実が現実になった。
受け入れ難い事ではあるが、こうなってしまっては受け入れるしかない。
よくよく考えてみると、モモンガにとってはそう悪いことでは無いように思えてくる、家族も恋人もなく、ユグドラシル以外の趣味もなく、家と会社を往復する毎日・・・。
等とモモンガが考えていると
「・・・モ・・ガ・・・ン・・・モモンガさん!」
フェンリルの言葉で現実に戻される。
「はっ、何ですか?」
「いや、モモンガさん、胸揉みすぎっす」
そう言われ自分の手がまだアルベドの胸を揉んでいることに気付いた。
「ア、アルベド、すまなかったな」
「ふわぁ・・・・」
頬を完全に赤く染め、アルベドが体内の熱を感じさせるような、息を吐き出す。
「ここで私は初めてを迎えるのですね?」
「・・・え?」
モモンガは言葉の意味を一瞬、理解できなかった。
「服はどういたしましょうか?」
「・・・?」
「自分で脱いだ方がよろしいでしょうか? それともモモンガ様が?、着たままですとあの・・・汚れて・・・いえ、モモンガ様がそれが良いと仰るのであれば、私に異論はありませんが」
アルベドは完全に暴走していた。フェンリル達が目に入らぬほどに
「ちょっ、まっ! よ、よすのだアルベド」
「は? 畏まりました」
「今はそのような・・・いや、そういうことをしている時間はない」
「も、申し訳ありません! 何らかの緊急事態だというのに、己が欲望を優先させてしまい」
飛び退くと、アルベドはひれ伏そうとする、それをモモンガは手で抑える。
「よい。諸悪の根源は私である、お前のすべてを許そう、アルベド。それよりは・・・お前に命じたいことがある」
モモンガがアルベドに命令を下し、少し早足でアルベドは玉座の間を後にした。
最後までお読み頂き、本当にありがとうございました