オーバーロード 白い魔狼   作:AOSABI

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10話

 その日の天気は雲一つない快晴だった。

 バハルス帝国、帝都アーウィンタール

 この帝都に入るための門、その横には2階建ての建物がある。

 検問所、ここは皇帝ジルクニフの大改革によって、国の歴史上最大の発展を遂げていく中、日々多くの物資や人材が流入に目を光らせている。

 

「なぁ、あれなんだ?」

 

 検閲所の2階で寛いでいた兵士の一人が何かに気付き、隣で同じく寛いでいた同僚に話し掛けた。

 

「あぁ?どれだよ」

 

「ほら、あれだよあれ」

 

 窓から示された先を見るとこちらに向かって進む幌馬車が一台、それ以外は特に異常はない。わざわざ話し掛けて来るからなんだと思えば

 

「ただの馬車だろ」

 

「良く見て見ろって、幌馬車に比べて馬が大きくないか?」

 

 もう一度よく目を凝らして見て見ると、確かに普通の馬より遥かに大きい、それに足の数が多い

 

「まさかスレイプニール?おい今日、貴族が来る予定あったか?」

 

「いや、そんな報告聞いていないぞ。それに貴族が来るなら護衛が付いてくるだろう」

 

 もっと言うなら幌馬車などではなくもっと作りのしっかりした馬車で来るだろう。スレイプニールという馬に似た魔獣は非常に高価なもので並みの金持ちでは手を出す事すら出来ない。そんな魔獣が引いているのが高級な馬車ではなくただの幌馬車というアンバランスさが異様だ。

 

「ではあれは何だ?」

 

 そんな疑問など関係なしにスレイプニールの幌馬車は検問所の前へと到着する。

 検問所の近くに居た一般の人々はその走ってくる姿を見るなり到着する前に蜘蛛の子を散らすように逃げ出していた。すると外に居た兵士はもちろん、検問所内に居た兵士たちも混ざり総勢十名でスレイプニールを取り囲む。

 巨大な大人四人が手を繋いで一周する胴体は引き締まり、足の一本一本の太さは巨体を支えるには十二分でその足から繰り出される蹴りは今ここにいる兵士など一撃で死を招くだろう。全身を包む艶のある漆黒の毛並み、成人男性の胴回りより太い首に生えた風になびく鬣は王者の風格すら覚え、兵士たちを遥か頭上から見下ろすその黒真珠のように輝く眼には兵士たちに囲まれてなお怯えは見えず自らが強者であるという自信が見える。これがスレイプニールの王だと言われれば百人が百人「そうだ」と言うだろう。

 その異様なまでの風貌は周囲の者を圧倒していた。

 兵士たちはスレイプニールを見たことが無いわけではない、皇帝の乗る超高級馬車を牽引しているのを何度か見たことがある。だがこれほどまでに巨大なものは見た事が無い。

 スレイプニールがフンッとひと際強く鼻息を吐き出すと兵士たちが一斉に武器に手を掛けた。いつ暴れだしても対処できるように臨戦態勢を取る。

 だが兵士達の誰もがこの魔獣と戦った所で勝てるとは思っていなかった。戦いが始まる前特有のピリピリした空気が漂う、それを察知したスレイプニールがグルルッと低くうねり声をあげる。

 それを壊したのはスレイプニールの巨体の後ろに隠れていた少年の声だった。

 

「どうどうどう」

 

 いや隠れていたのではない皆、スレイプニールに目を奪われ見えていなかったのだ。

 御車台から降りてきたのは見事な真紅の鎧を着た銀髪の少年、少々興奮しているスレイプニールを落ち着かせるように優しく少年の頭上にある脇腹を撫でる。

 敬愛する主人に撫でられたことによりスレイプニールは落ち着き、それを見ていた兵士の一人が少年に尋ねる。

 

「こ、これは君の馬かね・・・」

 

 すると馬と呼ばれたことに反応したのか、その兵士を睨み不機嫌そうに鼻息を吐き出した。

 

「ひっ!」

 

 うかつな言葉を吐いた兵士は短い悲鳴を上げる。それを見ていた周りの兵士は驚いた。この魔獣は人の言葉を理解したのだ。なおかつ人の顔を判断し自らを馬と呼んだ無礼者を睨んだ。それほどまでに高い知能を有しているという事だ。

 

「どうどう、そうですよ。スレイプニールの黒帝号です」

 

 黒帝号と呼ばれたスレイプニールは機嫌を直したのか所長を睨むのをやめ主人に撫でられるのを堪能する。その姿は大人しい馬と何ら大差はない

 

「それで君は一体何者だ?」

 

 何者だと尋ねられた少年が答える。

 

「ウォルフ、ウォルフガング=ロイエンタール、冒険者をしています」

 

 ウォルフと名乗ったフェンリルがにこやかに笑う。少年らしい無垢な笑顔に兵士は男色の気は無いのに目を奪われた。本人は冒険者と言ったが、傷一つ付いていない美しい顔立ちは演劇で二枚目俳優が演じる貴族そのものだ。

そうであればその見事な鎧を着ているのにもうなずける。

 

「そうか、では色々聞きたい事もあるのでこちらに来てもらってもよいだろうか」

 

 相手に警戒を与えないようなるべく柔らかい声で言う。もしかしたら上ずっていたのかもしれない、しかしフェンリルは快く返事をする。

 

「えぇ、良いですよ。ルネ!姉さん!一緒に来てくれ!」

 

 呼ばれて幌馬車から降りてきたのは二人、一人は妖艶な雰囲気を纏わせたダークエルフのルネと呼ばれたネル、もう一人は金髪の可愛らしい笑顔を浮かべたクレマンティーヌ、いずれも兵士たちの目を奪うには十分な魅力を持っていた。

 

 「ねぇ~まだ入れないのぉ~私疲れちったぁ~」

 

 するとフェンリルの所まで来ると笑顔を浮かべていたクレマンティーヌが後ろから覆いかぶさるように抱き着き、耳元で

 

「・・・面倒だからぁ、みんな殺してあげよっか」

 

 と物騒なことを囁く、その顔は兵士たちからは見えないが先程までの笑顔よりも良い笑顔をしていた。他者の命を何とも思っていない邪悪で無邪気な子供の様な笑顔だ。

 そのトラブルしか生まない提案に呆れるフェンリルよりも早くクレマンティーヌを引き剝がしたのはネルだった。

 

「早く離れなさい!」

 

 一瞬、むっとしたクレマンティーヌだがフェンリルの前で喧嘩をするわけにはいかない、少ない我慢を行使して苛立ちを抑え、わざとらしく手を上げてみせる。

 

「はいはい、離れましたぁ。これでいいでしょ~」

 

「なっ!くぅううう!」

 

 その態度にネルは眉をひそめたが歯を食いしばり苛立ちを抑える。

 それは何も知らない兵士達にはただの痴話げんかの様に見えた。いや実際はそうだがフェンリルはため息を吐くと二人の頭を軽く小突いた。

 

「「いたっ」」

 

「行くぞ、さっさと手続きを終わらせて宿屋で休もう。・・・そうだ。質問は俺が答えるから余計な事を言わないように」

 

 無用なトラブルを起こさないように二人に特にクレマンティーヌに釘を刺す。

 

「は~い」

 

 クレマンティーヌのすねた様な気の抜けた返事に本当に大丈夫なのか一抹の不安が残るが検問所横の建物へと向かう。中に入るといくつか並べられた椅子があり、そこへ座るように指示された。その間に外では幌馬車の中を恐る恐る調べている。

 

「では名前と出発した場所を」

 

「ウォルフガング=ロイエンタール、エ・ランテルから来ました。こっちが仲間のルネでこっちが姉のエルネスタ=ロイエンタールです。これが紹介状」

 

 一つの丸められた羊皮紙を差し出す。それを開くとエ・ランテルの冒険者組合から発行されたものであり、組合長であるアインザックのサインに偽造防止の印も押されている。

 内容は特筆すべき点もない本当にただの紹介状、帝国の冒険者組合に宛てたものだ。

 

「ふむ確かに本物だ。でここに来た目的は?」

 

 確かにこれは本物だ。それに冒険者が拠点を変えるのはそう珍しくはない、だが目の前の三人からは冒険者特有のギラギラしような危険な雰囲気を感じない。礼儀正しく物腰の柔らかい者がいないわけではないが大抵そういう者は出自のしっかりした教育を受けた者が多い、それ故に実は何か訳ありの、それこそどこかの大貴族の隠し子というトラブルの元になるのではないだろうか、と兵士は怪しんだ。

 

「修行です」

 

 冒険者が修行とは、ますます怪しい

 

「そうか、ではプレートを見せてくれ」

 

 修行中と聞いて、せいぜい鉄が良い所だろうそう高をくくっていたが、鎧の中にしまわれていた物を取り出し差し出されたのは

 

「これは・・・オリハルコン!まさか!」

 

 裏を見ると二つ名の真紅の稲妻とウォルフガング=ロイエンタールの名が記されている。

 兵士の受け取った手が震える。実力社会である冒険者においてこれを偽造など出来るはずがない。

 

「し失礼しました」

 

 兵士の疑惑の目は強者への尊敬の眼差しとなり、態度もそれに準じたものになった。恭しく返されるプレートを受け取りと首にぶら下げる。

 

「まだ残っている手続きは?」

 

「いえ!もう行っていただいて構いません!」

 

「え?本当に?」

 

 立ち上がり直立不動で敬礼する。本来ならこんなことは一冒険者にするべきではないが、強者への尊敬がそうさせた。

 

「はい!」

 

「そうですか、では・・・あっどこか良い宿屋を知らない?三番目位に」

 

 

 

 

「ん~なかなか良い部屋じゃない~」

 

 鎧を脱ぎ、大きく柔らかなベッドを一人で堪能するクレマンティーヌが評したように兵士に紹介された宿屋は確かに良い宿屋だった。

 

「そうでしょうか?」

 

 ナザリックの部屋を知るルネは別の評価を下した。

 同じ部屋という注文で用意されたのは三人で過ごすには十分な広さを持つ部屋に文句はない、置かれている調度品も一流とまでいかないが良い物だと思う。だがベッドが一つというのには不満がある。大人三人寝るには十分な大きさだが、おそらく宿屋の主人が気を利かせてくれたのだろうが、それはいらなかった。

 フェンリルが椅子に座り目の前のテーブルの上には持っている路銀の全てが種類分けされている。

 

「えっと、金貨で54枚、銀貨が73、銅貨94・・・」

 

 まだこの世界の貨幣というものに慣れないフェンリルは頭の中で一度日本円に換算しなければ正しい価値がつかめない。

 モモンガさんが言うには全ておよそだが1銅貨が1000円、1銀貨で1万円、1金貨で10万円、ここにはない白金貨が1枚100万円、つまりここには622万4千円あるという事だ。

 三人で普通に1年暮らすには十分な大金だが、オリハルコン級冒険者として暮らすには心許ない金額になってしまう。モモンガさんが宿屋にかかる金は無駄だと言っていた事が骨身に染みてくる。

 位の高い冒険者になればなるほどそれなりの生活をしなければならない、そうすることで他の冒険者の憧れとなりそうなりたいと思わせる。もしトップとなる者がみすぼらしい生活をしていればそうなりたいと思う者など現れるわけもなく冒険者組合としても困った事態になるわけだ。

 より高難度の依頼を受けるためにモモンガと協力してオリハルコンになったのにまさか生活水準まで上げる必要が出て来るとはとんだ落とし穴だった。

 その為、今の手持ちでどれくらいそれなりの生活は維持し続けられるか計算してみる。

 この宿屋が朝と夕食が付いて一泊一人5銀貨、これで一日15銀貨の消費、と銀貨の山から消費される分を一枚ずつ右手で取り、左手に移していく。

 飲食不要のモモンガよりさらに面倒なのがこちらは飲食が必要なので余計に金が掛かってしまう。

 店によるがオリハルコン級冒険者となれば、やはりそれなりの店に行かなければならないのだろう。なるべく食事はこの宿屋で取るとして昼食代を以前食べた時の事を参考にして二人で一日1銀貨としてみよう、だがここで問題が出てきた。それはフェンリルの身体はひどく燃費が悪いという事だ。人化でパワーダウンしてる分、食事量は落ちるがそれでも一食平均10㎏は平気で食べる。

 昼食で前に二人の5倍は食べたので軽く5銀貨、いやそもそもこの宿屋の食事で事足りるのだろうか、そうするともっと食費が掛かる下手をすると20銀貨は飛んでいく。

 となると一日36銀貨、雑費として1枚追加して左手には37枚の銀貨が小さな山を作っている。

 これを日本円に換算すると37万、37万円?

 

『37万!?ざる計算だとしても高すぎるだろ!』

 

 そんな生活していては1か月も持たない。そして今まで自分がどれほどセレブ生活をしていたのかが分かり、ここでの生活の仕方を考えなければならないとフェンリルは頭を抱えた。

 

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