理力の導き   作:アウトウォーズ

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第3章 カール王国編
竜の騎士 前編


時間が空いてしまい、申し訳ありませんでした!

 

戦闘描写は後編に続きます。

 

どうぞよろしくお願いします!

 

 

*****

 

 

 

ポップに言付けを負えるとすぐさまデルムリン島を起ったアナキンであるが、

実はそれほどの危機感にかられては居なかった。

出会う前のアバン先生ならいざ知らず。あのごく短期間でフォースの感覚を掴んでみせ、自身の決め技の威力を倍加するという偉業まで成し遂げたくらいだ。そこに生来併せ持ったあの器用さが加われば、そうそう負けはしないだろう。まして生命をとられるなどは。

 

と、思っていたのだが…。

どうやら、相当に耄碌していたようだ。

目的地から感じるフォースの強さは表面的には然程でないが、この距離まで近づいて初めてその深部の底知れなさを露呈した。

ーー傲慢にも盲いたか。

前世で宿敵がマスター・ヨーダに放ったとされる雑言はこの際、正鵠であろう。

忌々しいことこの上ない思いをしながらも、アナキンは残り少ない空中での時間を瞑想に費やすのであった。

 

 

 

「お久しぶりです、アバン先生。お困りのようで。」

 

「アナキン君…助かりますよ、さすがにダメかと思いました。」

 

「ゲッ、お前!」

アナキンは最後に放たれた不躾な言葉に、気を悪くした。

誰何の視線を向ければそこでは、何時ぞやの生意気小僧がボロボロになって横たわっている。師であるアバン以上に奮闘…できたかどうかはわからないが、重症度からすれば名誉の負傷と言えなくもない。

労いの言葉くらいはあっても良いかもしれない。

 

「おいお前、師の足をここまで引っ張っておいてその様は何だ。さっさと立て。」

「相変わらず容赦無いですね、君は。」

「アバン先生が寛容過ぎるんですよ…。で?ボサッと立ってないで、状況を説明しろ。」

 

「お、鬼かアンタは…。」

などと零しながらも、ノヴァは簡潔に現状を語った。

竜の軍団に急襲されたという知らせが入り、リンガイア王国軍の派遣前にルーラを使える者だけで駆けつけたのが半日前。

その時の状況は最悪だった。既に城壁は突破され、竜が雪崩れ込んでいた。市街地は踏み荒らされ、市民がみるみるうちに犠牲になっていった。

壮絶な混戦状況にあったが、かろうじて組織だった抵抗を試みているカールの精鋭騎士団と合流し、隊長のホルキンスとアバンが起点となって竜たちを討伐していった。

この時点までは、ポップもノヴァとともに氷雪呪文を駆使して大いに踏ん張りを見せたらしい。

そう、敵の軍団長が現れるまでは。

予想外の犠牲に憂いたのか、そいつは竜の全軍を引き上げるや否や単身で乗り込んできた。

そして、竜の軍団以上の被害を騎士団にもたらした。

ホルキンスをはじめとした騎士団の主戦力は、初撃の雷撃呪文で戦闘不能となり。

尚も戦意を鼓舞して斬りかかった隊員たちは、その悉くが剣の錆と化した。

アバンはかろうじて息のあった幹部達の治療を残りの騎士達に命じると、その男の前に立ち塞がった。

そして片膝をつく現在に至る、という訳である。

 

アナキンはノヴァの様子を観察しながら、ポップの行動は結果的には正解だったと評価した。ひとしお鍛え上げられと見える小僧がこのザマだ、ポップすら庇いながらではアバン先生は命を落としていたかもしれない。

 

 

 

 

 

アナキンは少し気にかかることがあったが、大体の事情は把握できたので良しとした。

さて、とばかりに問題の人物に向き直る。

 

片眼鏡っぽい装飾が目につく、妙に迫力のある男である。

 

「それで…お行儀よくこっちの会話が終わるまで待ってくれてありがとう、バランさん。」

 

アナキンは、ポップから聞いた敵将の名を確かめるべく、そう語りかけた。

恫喝も込めて、フォースで威圧するのも忘れない。

しかし微塵も動揺をみせないその堂々たる佇まいを見て、相手への評価を改める。

 

少なくともドゥークー並みの実力は秘めていると見ていい。

 

「せっかく救援として駆けつけたのだ。最後に別れを告げる時間くらいはもたせてやる。感謝して死んで行くんだな、名も知らぬ人間よ。」

 

第一声からしてこれである。

選民思想と尊大さは相当なものだ。おまけに人間という言葉に対する異様な憎悪を感じとれる。

 

「まるで自分は違うとでも言いたげだな。私には、さしたる違いは無いように見えるのだが…」

 

アナキンは挑発に乗る気はなかったが、それでもこうした物言いをしてくる輩には腹が立った。

しかし言葉を口に乗せながらふと、マスタージャンヌが終ぞ名を明かす事の無かった昔語りに出てきた王女ソアラの想い人を思い起こした。姿形を与えるとしたら、こんな感じなのかもしれない。

 

「おまえ如きには過ぎた話だ。語るのは無意味だよ。」

 

「そうか。」

 

ーー実力を示さなければダメか?

 

アナキンはできればこの男から、なるべく穏やかに多くの情報を引き出したかった。

ノヴァが語った情報によれば、この男も伝説級に稀有な雷撃呪文の使い手だ。

ジェダイたる自分が指導を施した弟子とこんな分かり易い共通点を持つなんて、偶然とは思えない。

 

そして非常に嫌な予感がするのだ。

きっと、この男に対して自分は容赦出来なくなる。

この予感が現実のものとなる前に…アナキンの理性が怒りの濁流に呑まれる前に、少しでも正確な情報が欲しかった。

 

「それでは、ひと思いにやってくれないか。これでも魔法を使う身だ、冥土の土産に相応しいのを頼むよ。」

 

これは完全なハッタリである。

魔法と同等のフォースは使うが、魔法そのものを使う気はさらさら無い。

おまけに死ぬつもりなど、自分で言ってても可笑しくなる。

 

「救援に駆けつけておきながら抗いすら見せぬとは、見下げ果てた男だな。ここまで大人しく敵の言葉に従うとは…正直興ざめだ。」

 

「おまえ、意外とお喋りなんだな。それとも皮肉を知らないのか?やれるもんならやってみろ、と言ってるんだよ。」

 

アナキンは両眼に凄みを込めて、目の前のバランという男を睨みつけた。

なぜかこいつには、無性に腹が立って仕方がない。大人しくしていられるのも、せいぜいあと数秒だろう。

 

それ以内に相手が動かなければ、口を割らせる行動に出てしまう自信がある。

 

だが、それは杞憂に終わった。

 

突如として轟音が天上に木霊し、咄嗟に掌を翳したアナキンの右手目掛けて雷撃が降り注いだのだ。

ーーダイとは違うと言う訳か。

アナキンは手にまとったフォースで完全にその雷撃を包み込みながら、弟子の呪文との威力の差に舌をまいた。

 

おまけにこれが全力ではなく、続け様にあと何発でも撃てるであろうことを、フォースが教えてくれる。

ここまで圧倒的だと、アバン先生があのザマなのも頷けた。

 

加えて…バランの額に浮かんだ紋様は、弟子との関連性を雄弁に物語っていた。

 

アナキンはダイの存在を、目の前の男に悟られてはならないと確信した。

 

「返すぞ。」

 

「何だと!?」

 

アナキンは言い放つと同時に、帯電し自身の身を焼き始めた雷撃呪文を、フォースで包み込んだまま相手に投げ返した。

何気なくやって見せてはいるが、これは事前にデルムリン島でダイの呪文を食らった経験の成せる技である。

 

どうやらバランは完全になめ切っていたようである。

呆れるくらい見事に返し技を喰らい、フォースの衝撃波と雷撃に包まれて粉塵の中に消えていった。

 

だが…。

 

ダイのおそらくは不完全な闘気ですら、ある程度の攻撃を弾いてみせた。それと同様のフォース…闘気…をより高い次元で発現するバランは…。

雷撃にフォースの衝撃波を上乗せて放ったにも関わらず、その身にさしたるダメージは無かった。

 

「恨めしい…」

 

アナキンはボソリと呟いた。

 

彼はいま、本来であれば心からの賞賛を送りたかった。

魔法や闘気という応用ばかりが進み、どこかで基礎が置き忘れ去られてしまったこの世界のフォースを。

ここまで使いこなす輩がいるとは思わなんだから。

 

この男はいま、これだけの攻撃を凌ぐ防御をなしてみせた。それも、弟子の不完全なアレとは違い、完全な制御下において。

”知恵と防御のため”とフォース活用について理想を掲げるジェダイにとって、これほど魅力的な存在はない。

しかし、しかしである。

 

アナキンにはこれから訪れる破局が、見えてしまったのだ。

 

この男とは、敵対する運命にあると。

この素晴らしい力をその通りには使うつもりが全く無いことを、瞬時に感じとってしまったのだ。

 

そして半ば諦めるようなつもりで、バランに問いかけた。

 

「今度こそ教えてくれ。その額の模様と闘気は、一体何なんだ?」

 

できれば、しらばっくれて欲しかった。

これほどの虐殺行為を働いておいて正々堂々とした名乗りなど、挙げては欲しく無かったのだ。

問答無用で斬りかかられることすら望んでいた。

 

「これは竜の騎士のみに伝わる竜闘気という技だ。」

 

「…バカな‼︎」

 

その言葉に強く反応したのは、アナキンではなくアバン先生であった。

肩すら震わせて動揺をしめす彼に、思わずその場の全員の視線が集中する。

 

「それは、カール王国に伝わる救国の騎士の名だ。子々孫々語り継がれた存在が…幼子の心を震わせてきたその気高さが、このような非道を行う筈が無い!」

 

「その先代の成したことは間違いだったのだ、勇者アバンよ。そして当代の竜の騎士である私には、その間違いを正す義務がある。」

 

まるで虫けらでも見るかのような目つきで周囲を睥睨するバランを見て、アナキンは遂にこの男に対して終始イラついていた理由を悟った。

この目には覚えがある。救い様の無い陰惨な悲しみをすり潰し、全てを憎悪に変えた男の目。

 

それは同族嫌悪に他ならなかったのだ。

 

次の瞬間、アナキンの脳裏を真っ赤な炎が包み込んだ。

それは現実のものでは無く一切の熱さを感じさせながったが、あまりにも見覚えのある光景だった。

今世になっていまだ悪夢となり毎夜彼を苛む、前世の溶岩の惑星での光景に他ならないからだ。

 

アナキンは呆然と突っ立ち、アバンとバランが交わす言葉を聞いていた。

 

「何てことだ…貴方は自分が何を言っているか、解っているのですか?竜の騎士は、悪を滅ぼし正義をもたらす神威の代行者である筈だ。それが…」

 

「人間のそうした綺麗事にはうんざりさせられる。貴様らは美言を宣うその口で、平気で裏切りを唆し、躊躇いもせずにそれを成す。魔物にすら劣る存在だ。」

 

「それは…貴方の限定的な経験と怒りが見せる、影の一部ではないのですか。貴方だってわかっているはずだ、人類全体が皆そうではないと。光を放つ可能性に満ちていると。」

 

「だからこそ救い難いのだ。その一方で貴様らはすべからく全員が悪に成り下がる可能性を秘めている。もはや滅ぼすしかない。だから私は、大魔王バーンに協力することにした。」

 

首魁の名が明らかになった瞬間だ、本来は喜ぶべきであろう。

しかしこの場にそんな冷静な感情を抱く者は、存在しなかった。

 

本来そうあるべき、前世での失敗の上に立つ存在は、この場に来て、あろうことか茫然としていた。

しかし無理もないだろう。

彼の頭の中では、前世での師の言葉と自分の醜い叫びが、頭蓋を割らんばかりに鳴り響いていたのだから。

 

ーーやめてくれ!

アナキンは脳裏に展開される光景が記憶の見せる過去とわかっていてなお、懇願せずには居られなかった。

取り消せない過去だからこそ、二度と繰り返したくは無いというのに。

 

アバンからは、既に新しい救いの道を示してもらった筈だ。

過去を乗り越え、着実に前に進んでいだはずなのに。

ーーなのに何故、あの日のオビ・ワンと同じことを言おうとするんだ!

 

次の瞬間に放たれた一言は、まさしくアナキンの脳天から足の裏までを刺し貫いた。

 

「大魔王バーン!?バランよ、目を醒ましなさい!その者こそがまさしく”悪”でしょう!」

 

「勇者アバン、私から見れば人間こそが悪なのだ。」

 

「そこまで堕ちたのか、貴方は‼︎」

 

目の前で展開される光景と飛び交う怒声が完全に前世での記憶と重なり、アナキンは強烈な頭痛に襲われた。

ーー動け!最早行動しかない!この先をバランに言わせてはならない!

だが何故か、アナキンはついに身体を動かすことが出来なかった。

 

そして遂に、決定的な言葉がバランの口から放たれてしまった。

 

「アバンよ、正義に猛るお前だからこそ、既に醜さの輪の一部であることを自覚すべきだ。バーンの下で軍団長を務める男に、ヒュンケルという者がいる。…奴のお前に対する憎しみは、群を抜いていたぞ。」

 

その直後ですら、アナキンは身体を硬直させていた。

 

かつてのオビ・ワンの傷ついた表情と、アバンのそれがあまりにも酷似していたからだ。そしてそのあまりの哀しみに満ちたフォースの強大さに、圧倒されていた。

ーーオレは、こんなにもあの人を傷つけたのか?

ーー師と敬い、兄とすら慕い、親友として背を預け合った彼に、こんな表情をさせてしまったのか!?

 

前世でのあまりの業の深さに、彼は二の足を踏んでしまったのだった。

 

ーー赦せない。

アナキンが真っ先に思い浮かべたのは、その言葉だった。

 

バランとは、出会い方さえ異なれば、時間をかけて良き友人にすらなれたのではないか。

自分なら彼を正道に連れ戻し、ルークの様に導いてあげることすら可能なのではないか。

そんな事を、心のどこかで思っていた。

 

しかし、アバンがこれ以上傷つけられるのを、黙って見ている訳にはいかなかった。

 

ーーこいつは、破滅願望の塊だ。

 

アナキンには確信があった。

バランの心境は、手に取るように分かった。

この男は決して、眼前のアバンの絶望を楽しんでいるわけではない。

かつての誰かと同じく、ひたすらに世に破滅をもたらすことを望んでいるに過ぎない。

 

こいつには、大義もクソも無いんだ。

おそらくあの日の自分と同じく、ただ一つの許しがたい怒りに焼かれるあまり良心を殺した。

 

「…赦せない。」

 

静かにそう零した瞬間、空気が震えた。

アナキンの言葉は振動となって大気中を走り回り、周囲の生きとし生けるもの全員をその場に釘付けにした。

 

「バラン…、お前の様な男は、存在してはいけない。無私の規範たるべき存在でありながら私憤に溺れ、あろうことか守るべき存在に刃を向けるなど…赦される筈がない。」

 

人を傷つける言葉は、全て自分に還る。

そのことをアナキンがこの瞬間以上に痛感するときも無いだろう。

 

だがそれ以上に、彼を怒りの感情が支配していた。

ひょっしなくても彼はダークサイドの影響を受け、彼の周囲の空気は青白い放電現象を始めた。

 

「お前は何様のつもりなんだ!持って生まれたその力を、当たり前だとでも思っているのか!?その力を授けた存在に対して、どの面下げて申し開くつもりだ!」

 

咄嗟に出た言葉がかつての師のそれと被ったことは、単なる偶然である。

しかしあまりにも前世を想起させる目の前の男に、幾千もの夜積み重ねた自問をぶつけてしまうのは必然だったとも言える。

 

そしてそれに呼応する形でバランが記憶を呼び覚ましたのは、最早当然の事か。

 

「…待て。聞いたようなことを言う…。まさか貴様、あの魔女の弟子か?」

 

 

ーああなる程、お前だったのか。

その瞬間、アナキンは唐突に理解した。

 

前世の自分とあまりにも似た道程に、今世での恩師の挫折。

これだけ揃ってしまえば、最早明らかだ。

 

やはりこの男と自分は衝突する運命にあったのだ。

 

「取り消せ。我が師セブランス・ジャンヌを、粗野な魔法使いと一緒に語ることは許さん。」

 

「…確かに、彼女からは特別な何かを感じた。妙な技を使うお前がその教えを受けたというのも頷ける。だが何故この場に姿を現さない。」

 

「フォースのもとに還った…死んだよ。お前のもたらした、悲劇の連鎖に呑まれてな…。けれど感違いするなよ、彼女は最後の瞬間まで気高くあり続けた。今も、昔も。これから先もだ。」

 

「それは残念なことだったな。しかしそれなら貴様もわかるだろうに、人の心に巣食う醜さを。何故許容している?それは恩師の死への冒涜では無いのか?」

 

この男は、何も学んでいない。

アナキンはそう断じた。

もとい、悲しみに目を背け憎しみに走る存在に、省みるという行為は生じない。

 

「おまえは全てを勘違いしているよ。まあ、その様では何も理解出来まい。最早言葉は不要だな。」

 

アナキンは諦めた様に言い放つと、勢いそのままに腰の剣把を抜き放ち、擬似ライトセーバーを起動した。

 

 

***

 

当初は、アバン先生にはカール王国への思いの丈を語ってもらうために場所を原作通りにしたのですが…。

 

 

 

 

 


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