理力の導き   作:アウトウォーズ

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ハドラー…。
当初の構想では、絶対に光が当たることは無いと思っていたのですが…。

ちょっとした捏造の結果、なかなか味のあるキャラになれたのでは無いかと思います。

どうぞよろしくお願いします。


竜の末裔の苦悩 前編

 

 

大魔王バーンが地上殲滅作戦にあたって命じた事は、ただ1つだった。

 

――バランを尖兵とせよ。

 

それだけである。

 

神々の遣いたる竜の騎士を人類根絶の一番槍とするという皮肉が込められているのだが、それを下知された各軍団長にとっては知ったことでは無い。

何よりもバランは、魔王軍に入る際の手土産として一国を滅ぼしている。これ以上美味しいところを持って行かれては、面白くないのが情というものである。

 

魔軍司令の座を明け渡されたハドラーは、その場の動揺を鎮めるべく咄嗟に大まかな構想を発表した。

最早この場を収めるには、バランを捨て駒にする様な扱いを見せつけるしか無かった。

最大戦力を抱えるカールにぶつけて、攻略期間内に駆けつける各国の援軍の相手をも引き受けさせる。そうして手薄になった主要5カ国に対して各軍団長が攻め入る。これで終いだろう。

 

彼我の戦力差はそれほど迄に隔絶している。

 

おまけに魔王であるハドラーには、地上にいるモンスター達を狂暴化させる異能が備わっている。

つまりは思い思いの場所でゲリラ戦を展開することが可能なのだ。

 

これでは負ける方が難しいだろう。

 

問題は一時的にせよ人類の総力を結集した大包囲を受ける事になるバランが首を縦にふるかなのだが、当の本人は顔色1つ変えずに首肯してみせた。

その場はお開きとなった。

 

だが、ハドラーにはそのままにしておくつもりは無かった。

冷めた目でいつも自分を見下してくるバランのことを快く思える筈もないが、それでも自軍の主戦力を成す重要な存在なのである。

そこで主君であるバーンの言葉をどこまで忠実に再現するか、バランに相談を持ち掛けた。

ハドラーからしてみれば、これほどの駒を使い捨てるなどあり得ない。

 

せめて自軍の部下だけでも応援に出してやろうと思ったのだが…。

 

一蹴されてしまった。

 

せめてもの護衛にと禁呪法で作り上げたフレイザードを手伝いに付けようとしたのだが、それなら竜騎衆で事足りると伝えられてしまう。

わからん奴だな、とハドラーはそれでも折れずに言葉を繋いだ。

 

「その竜騎衆とやらの大半をお前は斬り捨ててしまったと聞いたぞ。だから替わりになる存在をつけようと言っているのではないか。」

 

「私の背中を預けられそうな者を見出したのだ。粗野な実力で半端に判断し行動する空戦騎・海戦騎などは最早、居るだけ目障りな存在に成り下がった。ましてその程度の存在など、足手まとい以外の何になるというのだ。」

 

この言葉に猛ったフレイザードをなだめるのに、ハドラーは暫しの時間を要した。この際の手古摺りようからそれなりに育ってきたと思えるのだが、どうやらバランは心の底から足手まといと断じている様だ。

しかし、と言葉を重ねようとするも、バランに一睨みされてハドラーは出鼻を挫かれる。

 

「妙につっかかるな、ハドラー殿。全面攻勢の前の露払いを引き受けてやろうというのだ、何が不満だ?」

 

ハドラーは深くため息を付いた。

やれやれ、不徳の致すところここに極まれりである。以前の己を振り返るに、当然の反応を返されているに過ぎないのだから。

本心を打ち明けるつもりは全く無かったのだが、これ以上不毛なやり取りを重ねるべきでは無かった。

 

「少し昔話をしようか、バラン。」

 

「気でも違ったのか貴様。」

 

「まあ聞け。一人の魔族の少年の話だ。彼には幼心に崇めた存在が居てな、名を雷竜ボリクスと言った。昔話に聞いた雷を操る竜に…、無敵の血族で結成された5騎の親衛隊に、強く憧れたものだ。爆炎くらいは扱える身だ、ひょっとすると先祖はあの様な、天の力をも操る存在だったのではという思いを抱いて、精進を重ねたものだ。」

 

バランは興味なさげに聞いていた。

弱小な魔族にありがちな、よくあるその手の与太話に過ぎ無いからだ。

 

しかし。

続いてとったハドラーの所作は、彼をして刮目させた。

何と、傲岸不遜な魔族に過ぎ無いと断じていた筈のハドラーが、部下であるバランに向かって頭を下げたのだ!

 

「礼を言おう、竜の騎士バランよ。敗軍の将とまで名を貶められた我が心の祖霊の雪辱を果たしてくれたこと、言葉も無い。アバンにとどめを刺され、バーン様に甦らされてオレは思ったのだ。つまらない死に方をしたもんだと。魔界に単身乗り込み、その身1つを武器に仇敵を討つ闘いに身を投じた男の話を聞き、深く後悔した。何故、その英雄の闘いに駆けつけられなかったのかと…」

 

遠い目をして宙を睨むハドラーに対して、バランは何処まで行ってもバランだった。

 

「いち魔族如きがつけあがらない事だな、ハドラー殿。貴様程度の戦力では、無駄に屍を晒しただけだ。ヴェルザーとの闘いはそれ程までに苛烈で、しみったれた闘志など無価値だった。何よりも死をたかだか1回乗り越えた程度でその増長ぶりとは、笑わせてくれる。」

 

何よりも、とバランは畳み掛ける。

 

「流れる血に先祖の背中を仰ぎ見るばかりの男に、何事がなし得よう。子孫がそのザマでは、先祖も浮かばれまい。」

 

そうだな、とハドラーは呟いた。

その通りだ、と。

 

「オレがここまで殊勝でいられるのも、バーン様の恩あっての事だと思うと、全く歯がゆいよ。まさかこのオレが、祖霊の雪辱を晴らしてくれた恩人を死兵とする日が来るとは、思いもよらなかった。この葛藤すら見透かされているようで、そら恐ろしくなる。」

 

つまらぬ事を聞いたとばかりに竜の騎士は背を向け、その場からつかつかと歩き出した。

 

「不要は重々承知の上で敢えて言うぞ。武運を、竜の騎士。」

 

バランはその言葉にはついぞ答える事なく、歩み去るのだった。

だが、かつて魔界に乗り出した時とは異なり、その背は不思議と温かである。

 

そう言えば、とバランは魔界で聞いた話を思い出す。雷竜は誰よりもその臣下達を重んじ、その種を超えた結束力こそが彼等の真価であったと。

その意味では、かのハドラーの精神は確かに竜の末裔と言えるかもしれない。

 

魔王軍か。

バランは思いを馳せる。

今のハドラーならば、色物揃いのこの集団も、意外と上手くまとめるのかもしれない。

自身の軍団を力による鉄の序列でまとめ上げるバランには、思いも寄らない組織となるであろう。

そんな未来の姿を、少し見てみたいとすら思う。

 

だが、とバランは視線を鋭くした。

 

今の彼は何処まで行っても一人だった。

彼が永遠を誓った存在は、ハドラーがいみじくも語ったあの闘いで守り抜いた筈の存在達の手によって、命を絶たれてしまったのだ。

もう二度と、あの光に満ちた日々は帰って来ないのだ。

 

余計なことを考え過ぎた、とバランは身を引き締める。

初心を思い出せ。

自分はこの世に、闘いの為だけに一人で産まれ出でたのだ。

初めて戦った時も。

魔界に乗り出した時も。

宿敵を討ったあの時すらも。

 

竜の騎士は唯一人、如何なる時にも孤高であったのだ。

 

それこそ彼の祖先も、そして彼自身も。

 

 

 

 

 

 

ハドラーはそんなバランの背中を思い出しながら、頭を抱えていた。

 

何より予想外だったのは、バランが3日と経たずに、つまり各国からようやく援軍が出発した頃にはカールを堕としてしまったことだ。仮にも人類最大の戦力を持つ国を、こうも容易く壊滅させるとは。やる男だとは思っていたが、規格外にも程がある。

 

加えて救援に駆けつけたアバンとアナキンの想定外の強さ。

ザムザが放った悪魔の目から見た映像に、ハドラーは度肝を抜かれた。今の自分ではあの妙な少年はおろか、アバンにすら勝利は覚束ないだろう。バランの言う事は然もありなん、だった。

 

おまけに伏撃させる予定で各地に分散させていた軍団長達の一人、獣王クロコダインはまったくもって想定外の遭遇戦を繰り広げてしまう。

挙げ句の果てには、その相手は竜の紋章を発動させると来た。

 

「全く、竜の騎士は当代随一の唯一者では無かったのか。バランには認知してない子でもいると言うのか?それなら、陣営を分かち合っている現状も頷けるのだが…。」

 

「アルキードは地図上から、というよりも地表から消滅しましたから…最早真相は闇の中です。それと今の、本人の前では言わないで下さいよ。」

 

ハドラーは、父親に比べて随分とやり易くなった参謀たるザムザを交えて、今後の方針を話し合っていた。

 

「まぁ良い。何にせよ、これで我々は真に自由に動けるな。加えて懐刀であるあの魔剣を差し向けた判断は、見事だったぞ。…おまえの父も、これくらい惜しみなく手札を見せてくれればあの様な結果にはならなかっただろうものをな…。」

 

――すまん、今のは忘れてくれ。

そう零す上司をマジマジと見つめて、ザムザは内心溜息をついた。

父はおそらく父のままだったであろうに、アンタは変わりすぎだよ、と。

 

何にせよ、手札としていたはずの実験生物2号を大魔王直々に得体の知れないバトルマニアに変えられてしまった挙句、数年ぶりに復活した魔王の元に付けと言われた時の心痛は、既に過去のものとなっている。

ザムザは父親譲りの知識を遺憾なく発揮して、妖魔研究者ライフを謳歌していた。イレーネは意外にも妖魔司教として自分を立ててくれていたが、軍団指揮をハドラーに預けてしまっている以上、今のザムザは実質的に唯の魔族に過ぎない。

 

「ハドラー様の名前を出して初めて動いてくれる様な存在が懐刀とは、やめて下さい。もう妖魔師団だけでは無く、いっそあの者も直参としてお使い下さいよ。」

 

「部下のものを奪うほど堕ちてはおらんよ、さすがにな。ましてオレの意を汲んでダイを潰そうとしてくれる有能な者ならば、尚更だ。」

 

だから本当に、アンタは本当にあの魔王ハドラーなのか?

どうにも伝え聞く性格と違いがあり過ぎて、未だに慣れないザムザである。

これから伝える内容にも、少しばかり緊張してしまうのであった。

 

「いえ、私はダイでは無く、あのアナキンという者を潰すつもりでイレーネを遣わしました。無理だと判断したら、バラン殿だけでもロモスに向かう様には伝えましたが。」

 

「ほう?竜の騎士が人類の側に付いているのだぞ?まだ幼いとはいえ、お前はあの伝説の存在よりも、アバンと一緒にいた小僧の方が厄介だとでも言うのか。」

 

ハドラーの鋭い視線に、ザムザは一瞬たじろいだ。

 

「…はい。あの者は、どうにも後回しにしておけません。ここに、魔剣イレーネがまだ試作2号であった際に、我が父と共にあの者を追撃した記録があります。この最終報告は、デルムリン島でダイという名の唯の少年と、アナキンが遭遇した所で終わっています。この事からわかるのは…」

 

「あの小僧がダイを竜の騎士として目覚めさせた、という事か?」

 

「はい。おまけにあのアバンの実力…。正直、バラン様の猛攻に生き延びるとは誰もが想定しておりませんでした。大魔王様ともなると笑みを浮かべる程度の変化でしたでしょうが、私にはわかります。成人した人間が急激に力を増すことは、通常ありえません。

 

あの場で都合良く救援に駆けつけたことからして、あの二人は我々の知らぬ所で接点を持っていた筈です。これ以上あの二人をのさばらせておくことは、間違いなく下策です。」

 

ふむ、とハドラーは頷いた。

まどろっこしいことが嫌いな彼からしてみれば、こうした回りくどい分析をしてくれふザムザの様な存在は貴重である。

 

「一理あるな。確かに同じ竜の騎士であるダイは、バランにまかせておけば問題無いだろう。わかった、お前の言葉を信じよう。」

 

そしてハドラーは、不測の事態に備えて手元に残しておいた妖魔師団に、出撃の準備をするよう伝えた。

休む暇を与えず数で圧し包み、仕上げを彼自ら果たすことでアナキンとアバンを仕留めることにしたのだ。

――いや待て、それだけで足りるか?

 

ハドラーはイレーネの手も借りれるようにするため、ザムザに向き直った。

そこで想定外の言葉に表情を歪めることになる。

 

「待って下さい。それでは軍団の被害が大きすぎるでしょう。それに、次の手は打ってあります。それについてハドラー様の手をお借りしたく…」

 

そうして明かされた計画を聞いて、やはりこの男はザボエラの息子だとハドラーは評した。

全くもって、当事者達の意向など考えていないのだから。

名の挙がった者達が言う事を聞く保証など、どこにも無いのであった。

 

 

 

 




後編に続きます。

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