理力の導き   作:アウトウォーズ

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更新が滞り、申し訳御座いません。
ハドラーの捏造設定に味をしめて、迷走を繰り返しておりました。当たり前のことですが、詰め込めば良いってものでは無いですよね。

二次創作も、奥が深い…!

今回はノヴァのお話です。


どうぞよろしくお願いします。



勇者の卵

 

カール王国に、在りし日の面影は無かった。

街は焼かれ、家屋は崩壊し、そこかしこでうめき声と、助けを呼ぶ声がする。

アナキンとアバンはそうした声に応えて一日中駆けずり回った。いや、正確にはまる二日、夜を徹して救助作業の人足として最前線に立った。

ちなみにノヴァは重症の身を押してついて来ようとしたので、アナキンが気絶させることになった。その時に何も言わなかったアバンに、彼は違和感を覚える事になる。

 

三日目も終わりになろうかというとき、野宿しようとした勇者一行は、全身に巻かれた包帯に血を滲ませるホルキンスに懇願された。

 

「ならばせめて、騎士団の本営でお休み下さい。救護室のノヴァ様の隣に、寝所を用意します。」

 

ミイラ男と化した彼が松明を灯した廊下の角から現れたのは、なかなかにホラーな光景である。常ならば照明魔法が煌々と灯る、栄えある場なのであるが…。

 

この精鋭騎士団の本部はそれでも、カール王国の被った被害の中では随分とマシな建物であった。王国の権威の象徴たる王城などは、見るも無残に打ち崩されている。その瓦礫の全てを受け止め、女王とその側近の身を守り切った地下の副指令部のみが、この大国のなけなしの意地を見せていた。

 

大きな借りが出来たと考える騎士団長のホルキンスは当初、そこへ連れて行くと言ってきかなかった。アナキンもアバンも何を馬鹿なことを、と首を横に振った。要職に就く者の安否すら定かではない現在、客人にかまけている暇は無い筈である。

 

尚も食い下がろうとする彼に対して、アナキンは鬱陶し気に、右手を掲げた。

 

「自室に戻り、身体を休めろ。」

 

「…部屋に戻り、体を休めます。」

 

するとどうしたことか。

ホルキンスは途端に虚ろな目つきになり、アナキンとまるで同じセリフを吐いた。

その後は、戦火生々しい騎士団本営の廊下を力ない足取りで歩いていく。

 

アバンが呆れかえる中、アナキンはため息をつかんばかりに言葉を吐き出した。

 

「…カールの男は、退くことを知ら無いのですか。」

 

「…怪我人に対する仕打ちでは無いでしょう。貴方こそ加減を知ら無いのですか。」

 

二人は共に、大きくため息をついた。彼らも憔悴し切っているのだ。

この国に残された傷跡は大きい。目先の命を救う戦いにすら、終わりが見えていない。組織立って動けるようになるまでに、一体どれほどの時間がかかるのであろうか。

 

二人は共にこの三日間、心身を徹して命の救助にあたってきた。

非常時に備えて蓄えてきた力を惜しみなく出し切り、救いを求める人民のために使った。アナキンは、この世界の故郷の村でもこうした救助活動には必ず参加し、先陣を切っていたが、アバンの顔つきはそうした者達には無い影を浮かべていた。

 

あれは、後悔である。

 

人は痛みに敏感だ。特に他人のそれには。苦痛を訴えるうめき声や、ねじ曲がった腕を見るだけで、震えが来ることがある。けれどもそうしたショックを乗り越え、助けるという行為に徹し、その成果が表れたとき。その人の真価が問われる。結果に心を動かされるのか、どんなものを見ても次の作業へと踏み出せるのか。

経験というのが大きいことかもしれない。

 

その時のアバンは、当てはめるならば後者であった。

しかし、アナキンは決して見逃さなかった。彼は救助にあたる者としてでは無く、より大きな責任感に苛まれ、自身の中の葛藤を必死になって押し殺している事に。

 

然もありなん、であった。

これ程の知性と教養を身につけた男が、のほほんと放浪していられる程にこの世界の人材水準は高くない。いや、ジェダイ評議会ですらスカウトしたであろう逸材だ。世界なんて関係無い。この男が何か大きなものを捨てて私人に徹しているのは、分かりきった事である。

 

その時いきなり、子供はいるのかと聞かれ、アナキンは首を傾げた。

 

答えはイエスでもあり、ノーでもある。前者は前世を含めたとき、後者はそうしないときの話である。

 

そもそもこんな問いを受けるほどに、この世でのアナキンは歳を喰っていないのである。妙な事態である。

何よりも、今この時にしなくても良い質問であるからに、アバンがそんな事を言い出すのは不審でしか無かった。

 

「…何を言ってるんです。さっきから妙ですよ。」

 

ちなみにアナキンが言うさっきとはこの場合、時計の短針数周分である。

つまりは、アバンがカールの地に来てからの行動全体を指していた。アナキンは、冷静なアバンがバランほどの敵を前にして撤退の素振りをまるで見せなかったらしい事を訝っていた。弟子を抱えた状態では、リスクにしかならなかった筈だ。何よりそんな無茶なやり方を弟子達に示すことは、彼の本意では無い筈である。アナキンとの合流手段は事前に確保していたのだからいったん退いて、立て直しを図るべきだったのだ。

 

「いやなに、まるで息子さんでも気にかける様な顔をしていたので、聞いてみたまでです。いつの間にか貴方も、師の顔をする様になった。」

 

ああ、とアナキンは納得した。あのバカ弟子のことか。

それは当然のことだ。気にかけない訳には行かないのだから。

 

それにしても相も変わらずアバンは鋭い。息子を気にかけるも何も、前世でその我が子をダークサイドに引き摺り込もうとしたのがこの、アナキン・スカイウォーカーである。先の竜騎将バランがこれから、同じように人の道を外れたことを行おうとしている事すら、見通している節がある。

 

それに…アバンに指摘された後のアナキンの胸中は、なかなかに悪く無い気分であった。他人の事を思い測れる人間になれたと言われるのは、いくつになっても面映ゆい。

我が子ルークとあの荒削りなダイを一緒に語られたところが、少し癪に触ったが。

 

「お互いに気にかける人のことで頭が一杯で、集中を欠いていますね。我々は。」

 

――貴方のそれは、奥方か?随分と高貴な方と見受ける。

 

アナキンはアバンが脳裏にチラつかせている美しい女性をイメージとして明確に掴んでしまったが、そこまでしてしまったことを恥じた。別に誰を思い浮かべようが、人の勝手だ。結果としてアバン先生がこの地に踏みとどまり、多くの命が救われた事実には変わりがない。

 

恐らく、とアナキンはその女の顔は忘れ、事実関係にだけ着目した。

アバンは本来、この国の要人たるべき人物だ。祖国に対して誰もが抱く以上の責任感を、この男は抱いている。しかもあまり表沙汰にしたく無いような事らしい。どうにもアバンの粗さがしをしている様な気分になり、アナキンはこれ以上は礼儀に反する、と思った。

 

「残念ながら、私がこの地で出来る事はここまでです。私はダイの下に駆けつけます。あのバランという男は、私の弟子を自陣に取り込むつもりだ。絶対に阻止しなければなりません。」

 

アナキンはすでに、精神力と体力を使い果たした。暫くは回復に努めなければならない。不眠不休で行う繊細なフォースの行使は、ある意味で戦闘行為よりも負担が大きい。

 

残念ながら、ここから先はこの国の民自身の手で切り開いて貰わねばならない。

 

「この国を代表して謝意を申し上げます。これほどの尽力をして抱いて、本当にありがとうございます。」

 

アバンは素直に、素っ気なく頭を下げて礼を述べた。

しかし外交使節としての役割を負っていたジェダイのアナキンには、その所作一つ一つが長い年月の教育の賜物であると分かった。やはりこの男は、今のこの国には無くてはならない存在だ。

 

「ノヴァの身は私が引き受けます。先生の弟子を横取りする事になるが、どうか」

 

「許しを乞うのは、私の方です。」

 

アバンは深い目をして、アナキンの言葉を遮った。

 

「敵の首魁の名が明らかになったのに、今の私にはこの国のことしか考えられない。割り切るべきなのに、どうしてもそれができないのです……。どうかこの未熟な身の上を、許して欲しい。」

 

何をバカな事を。

アナキンは笑いそうになった。この男でも盲いる事があるのかと。

 

「アバン先生。貴方が大局の為にその胸中の女性を捨て去れば、必ずや自身を苛み、あのバランと同じ道を辿ることになるでしょう。今ここで、成すべき事を成して下さい。それがひいては、この地上の為の行いとなるのです。」

 

アバンはその笑みにつられ、遂にはここ数日で無くしていた表情を浮かべた。

 

「やはり、貴方は心を覗けるのですね。人心を惑わすだけでなく秘中も暴けるとは…。どうやら相当にお疲れな様だ。手の内を簡単に晒し過ぎですよ。」

 

「……男が信念を曲げる理由なんて、そうそう在る筈が無いですからね。」

 

二人は穏やかな、しかし底意地の悪い笑みを浮かべ合った。

 

アナキンは冷や汗を浮かべていたが。

 

かの女性はこのアバンにとって、相当に思う所がある様だ。彼は笑顔の下で、本気になって怒っていた。その怒りのフォースの凄まじさに、思わずアナキンの背筋が凍りつく程には。

 

アバン先生にフォースの導きを授けなかったのは、この時ばかりは正解だったと言えた。アナキンは危うく、軽く諌めるつもりでダークサイドの爆発に巻き込まれる所であった。今の状態なら、冗談抜きで命を落としたであろう。

 

当たり前の事である。アナキンとて、アバンがいきなりパドメの事にーー彼の前世での妻の名だーー言及し始めたら、困惑より先に殺意を覚える。もうこの話題には金輪際触れるのは止めよう、と固く心に誓うのであった。アナキンは破ってしまった不婚の掟を、この男は勇者として生涯全うしようとしているのだ。水を差すのは、野暮という以前に人としておかしいだろう。

 

「全てが終わったら、そのあたりもじっくり聞かせて下さい。私ばかりが秘密を明かすのは、フェアじゃありません。」

 

「どうやら私は、フォースの妙技を愚かにも晒し過ぎた様ですね。……その頃にはこの程度、容易くこなす様になっていますよ。」

 

アナキンは不遜にも、このアバンを弟子として受け入れたらどうなるのか、と想いを走らせた。それは初めて会った時に、アバン自身が冗談で口にした事である。あまりにも器が違いすぎて、当時は想像も出来なかったのだが……。

 

それは未だに、まるで形を成さなかった。全く以って恐ろしい男である。

こんな男を放置して立ち去るとは、バランも見る目が無かったな、とどこか気楽な気分にすらなる、アナキンであった。

 

「先生を導くなんて烏滸がましいので、忠告だけさせて下さい。この国の深淵の場についてなのですが……何を今更。こんなのは、私のバカ弟子すらすぐに気が付きますよ。」

 

アバンは最早、呆れかえっていた。

破邪の洞窟は竜の騎士の伝承とは違い、一部の者にしか伝わらないこの国の神秘である。それについて、今この国に来たばかりの外国人がしたり顔で何かを伝えようとしているのである。

 

おまけに、先程の妙技すら使えない彼の弟子ですら、破邪の洞窟の存在に気付くこと自体は容易いという。一体どれ程に規格外な未知を秘めた技だと言うのだ、そのフォースとやらは。

 

この時、アナキンですら気付かない事であったが、恐らくダークサイドだとか黒の核晶以上の恐ろしいものに火が灯った。それは誰もが抱く、向学心という名の感情に過ぎない。しかし、ある意味でそれはアバン自身がバランに語ってみせた、人類が皆等しく光るためその身に宿した、最大の武器であるとも言える。

 

その向学心の権化とも言えるアバンがフォースの探求に目覚めた事は、最早今のアナキンでは及びもつかない事態を引き起こす事になるのだが……。それはもう少し先の事になる。

 

「くれぐれも、その際奥には注意して下さい。道中の神秘の数々など、まるでとるに足らない。さすがの貴方も、呑まれる恐れがある。……真奥を覗く時には、相手もそうしていることをお忘れ無く。」

 

「…大魔王バーンよりも、恐ろしげな存在に聞こえますね。」

 

アナキンは、首を縦に振った。

 

「どんな者より恐ろしいですよ。如何な備えも用をなしません。一度くらい呑まれる事は、覚悟した方が良い。可能なら、一番大事なものを身につけて、臨んで下さい。それが帰還の道標となる筈です。」

 

 

 

 

ダイの下へは、アナキンが向かうことになった。ノヴァを連れて。

自称北の勇者は顔面蒼白になりながらも、口だけは負けていなかった。

 

「なんだよお前、ルーラ使えないのかよ。」

 

「つべこべ言うな、さっさと行くぞ。」

 

してやったりといった調子で声をかけてくるのだが、アナキンは取り合わなかった。

やろうと思えば、同じ速度で地を駆けることも不可能では無いのだが…正直負担が大きい。この世界の瞬間移動呪文だけは、疑似的に再現する方法を探りたい、と思っているのだがいまだ成功していない。

 

前世で身に着けたフォースの感覚は、意外と大きな弊害となっていた。

 

「何でアバン先生は来てくれないんだよ。」

 

「…単純なことだ、負傷が大きすぎるんだよ。誰かさんが足引っ張ったせいでな。」

 

アナキンは一言目を飲み込み、二言目を咄嗟に口にした。

もうあの女性のことには触れたくなかったのだ。アバン先生のことだ、いつ聞きつけて怒りを爆発させて来るとも知れない。正直な話が、懲りたのである。

しかしノヴァはこのアナキンの咄嗟の一言に予想以上に暗い顔を見せたので、さすがに言いすぎたと反省した。

 

「まあ、お前も良くやったよ。よく死なずに生き残った。まずはそのことを喜ぶんだな。アバン先生に、バラン相手の戦力として期待されたことは、二の次くらいに考えておけ。私からすれば、明らかに判断ミスなんだ。ましてや逃げたポップのことを責めようなんてするなよ。」

 

いま、二人はノヴァのルーラで移動中である。

この瞬間移動呪文はアナキンすら羨む程の効果を発するが、それでも文字通りに一瞬で目的に到達する訳ではない。

亜光速戦闘機であるジェダイ・スターファイター並みの速度で大気圏内を移動できる。これが実態である。移動中は魔力を放出し続けなくても良いとか、破格の性能であることは間違い無いのだが…。

 

とにかく移動中は、さしてやる事が無いのだ。

 

「アイツは許せ無いよ。師と兄弟子を放り出して逃げるなんて、おかしいじゃないか。」

 

「その通りだ。けれども私は、逃げ出すことが即ち悪だとは思ってないんだ。熱くなって無駄死にするくらいなら、冷静に逃げて然るべきなんだ。その意味じゃ、如何に祖国のためとはいえ、弟子にすら全滅の危機を招いたアバン先生よりも、援軍を求めたポップの方が価値が高いと思っている。」

 

「何だよその臆病者の理屈は!? じゃあ何か、お前は自分より強い敵が居て勝てないと思ったら、スタスタ逃げ出すのか?立派な言い訳して、守るべき人すら置いて自身の安寧を優先するのか!?」

 

ーーやはりコイツとはソリが合わ無い。

アナキンは深く思い知らされた。まあ初めからわかり切っていたからこそ、アバンの器の大きさに任せた訳ではあるが…。

 

ノヴァは、バランにあれだけズタボロにされながらも、ここまで正々堂々にこだわれる。アナキンは声にするつもりは全く無かったが、この点には尊敬の念すら抱いていた。ドゥークー伯爵ーー前世での敵対勢力の実力者ーーに完膚なきまで叩きのめされた後には、怒りに目が眩んだ挙句に首を撥ねるまでしでかしたどこぞの大バカは、本来なら深く頭を垂れるべきだ。

 

ここまで思い知らされた上で信念を曲げられ無いでいる者は、それほどまでに稀有だ。

しかしどうしてそこまで自分に信を置けるのか、まるで理解ができないのだ。

アナキンは本心を告げた。

 

「逃げられる状況なら、躊躇いすらせんよ。実際そうしたことは何度もある。」

 

あくまで前世での話だ。しかも偵察任務である。本質的には負けて無いどころか、敵に存在を悟らせずに情報だけ得るのは勝利である。

挙句にこの世界に来てからは、文字通りに不退を体現している。しかしこの事実をノヴァに告げるのは、筋違いに思えた。

 

「最低な野郎だな、お前。やっぱりアバン先生に師事して良かったよ。ボクは絶対に敵に背中は見せないし、逃げ出さない。臆病者として逃げるくらいなら、勇者として戦い、果ててやる。それが僕の命の使い方だ。」

 

ーーほら見たことか。

 

アナキンは究極のところ、ノヴァと同じ戦場に立ちたくないのだ。既にそうしてしまったが…、今後、ノヴァがより力をつけてジェダイ・ナイト級の実力を身につけたとしても、この思いは変わらないだろう。

 

コイツはなまじ自分の言ってることが正しいと確信しているため、平気で仲間にもそれを求める。そうして当然だと思っている。

ポップが逃げ出してしまったのも、よく分かる。窮屈な正義を押し付けられて、命を落としたくは無いのである。

 

ーーマズイな。

アバン先生に預けて少しはマシになるかと思っていたが、まるで矯正されていない。

むしろ助長され、当初よりも意固地になっているくらいだ。こんな存在を、仮にも弟子であるダイに近づけたくは無かった。

 

「ちょっと降りよう。」

 

アナキンはそう言うと、ノヴァの魔力をフォースで操作して強引にルーラを中断させた。こんな事は魔法だけの理屈で言えば、不可能に近い。

こういう事を平気でしてしまうから、ノヴァにしてみてもアナキンをまるで受け付け無いのだ。彼にしてみれば、目の上のタンコブも良いところだろう。

 

二人は海岸線に近い、森の中に着地した。地理的にはロモスの北部あたりであろうか。

既に陽は暮れようとしている。

 

そうしてアナキンはノヴァと向き合い、静かな声で語りかけた。

 

「なぁ、ノヴァよ。何故そう頑なに振る舞うんだ。私はお前が無謀な攻撃を仕掛けて死ぬよりは、泥水を啜ってでも生きて欲しい、そう言ってるだけだぞ。お前の父、バウスン将軍も同じことを言うんじゃ無いのか?」

 

「父上は弱い。だから腑抜けたことを言う。でもそれは仕方ない事なんだ。」

 

そう言った時のノヴァの顔は、一回り歳をとって見えた。

アナキンは驚いた。まさかこの誇り高い少年が、自身の父を侮辱する様な言葉を平気で吐くとは、まるで思えなかったからだ。

 

おそらくノヴァも、肚を割って話す必要があると思い始めたのであろう。続けて言い放つ言葉は、怒鳴るところは以前のそれであっても、載せる思いがまるで異なった。

 

「だけどボクは、お前は違うだろう!!ボクらが体の良い言い訳をして、無責任に逃げてしまったら、一体誰がボクの父上や兄上達を守ってくれるんだ!ましてや、優しさだけが取り柄の母上や姉上達はどうなる!大人しく死ねとでも!?ふざけるな!強いくせに逃げようとするなよ!言い訳しようとするな!!」

 

アナキンはようやく、この怒りっぽい少年の根幹に触れた気がした。

こいつはこの年にして恐ろしく責任感が強く、優しく、そして家族に関して敏感だ。

アナキンにはその感覚に覚えがあった。

 

ーー成る程、マスター。貴女の言う通りですね。

アナキンは亡きジャンヌ老の顔を思い浮かべ、深く頷いた。フォースなんて必要ない。人と人が分かり合うために、相手の心を覗く必要なんて無いんだ。

 

その為に、我等には言葉が、それを伝える口があるんだ。

 

「ノヴァ、過去に何があった。話せ。」

 

「うるさい、逃亡を是とする卑怯者にこれ以上話すことは無い!」

 

「良いから黙って言う事を聞け。お前こそ過去から逃げてるじゃないか。話してみろよ、何事にも正々堂々と向き合うんだろ?」

 

「…ボクが4歳の時の事だ。」

 

そこから先は、何処かで聞いた様な話だった。

異なる点は、彼にはれっきとした両親がおり、アナキンには母親しか居なかった事くらいだろうか。天賦の才を見込まれたノヴァは修行のため、さる高名な剣士夫婦のもとに里子に出されていたそうだ。それからの経緯は全く同じだ。どこの世界、どこの国にも食い詰めた野党というのは種の壁を越えて存在する。

その夫婦は最後の瞬間まで自分達に預けられた逸材、いや他ならぬ彼等の”息子”を守り抜いたという。彼等が説き、そして最後まで貫いてみせた道は高貴者の義務に他ならない。彼が撤退を良しとしない一番の理由は、この経験に根付くものだろう。

 

もっとも、その時の怒りにより闘気剣に目覚めた幼子は、瞬時に因果応報をその地にもたらすのだが。

アナキンには、ノヴァがその程度の天性を秘めているのは分かりきっていた。

こいつはこの地上の北半球で一番強いフォースを秘めていたからこそ、自分が真っ先に見つけたのだ。そのくらいの奇跡は起こして当然である。

 

「そうなると、何故バウスン将軍の元を再び離れた。オマエが自発的にリンガイアを離れ、家族を無防備に晒すとは思えない……いや待て。アバン先生だな?」

 

ノヴァは首肯した。

アバン先生は指導を授けるにあたってまず、少年とその家族に二つのことを約束させた。一つ目は、長距離移動の瞬間移動呪文を覚えること、そして二つ目は師であるアバンと共に諸国を見聞して回ること。

その二つは合わさって、知見を広げる巡業の名目を成している。幼くしてその才を見抜き、一度は里子に出したくらいのバウスン将軍だ。彼にしてみれば、これを呑まない筈が無い。しかし実際のところはノヴァに、一つ目で逃亡用の呪文を覚えさせ、二つ目で家族から遠ざけることを意味している。

 

アナキンは指導者としてのアバンの容赦の無さに、うすら寒いものを感じた。彼は知ってか知らずしてか、恐らくは無意識の内にノヴァのトラウマを見抜き、そこを見事に抉った。そして初の実戦の場ではまさしく自身が強大な敵に対して不退転の姿勢を見せつけた。

 

間違い無い。

アナキンは確信に至った。

アバンはこのノヴァを、自身の理想とする勇者に育て上げるつもりだ。

自身を超える武の才を持つ少年を、今度こそは一点の不足すら無く導こうとしている。その為に、アバンは自身ですら歩もうとはしない一直線の正道を示して見せた。

竜騎将バランという人智を超えた脅威に対してすら、一歩も引くこと無く、曇りの無い姿勢を見せつけたのである。

 

よくよく聞けば、ノヴァはアバンから直々に指導されたこれまでの間、ルーラ以外の技術を全く教わって居ないと言う。

マヒャドや闘気弾といった自前で身につけた技は一切用いることを許されず、空裂斬の基礎をひたすらに叩き込まれたと。

そして座学と瞑想に憂いて眠りこけそうになるたびに、カール王国に伝わる歴代の勇者達の生き様、哲学、そして戦い方をひたすら言い聞かせ、徹底的なイメージトレーニングを行なわされた。

 

アナキンはそれを聞いて思わず唇を吊り上げ、ノヴァを心底震え上がらせた。

大地斬や海破斬を真っ先に教えてみせたヒュンケルや自分への指導とは、まるで逆の方法である。最も理解が得難いものから着手させている。これはそう、力に対する理解こそを至上とするジェダイの訓練方法、そのものだ。

 

ーー成る程、アバン先生。貴方はまさしく傑物だ。よくぞあの甘ったれた小僧にこれだけの期間、飽きもさせずに基礎を積ませましたね。指導方法に限っては最早マスターヨーダ級だ、恐れ入りますよ。

 

そのアバンがノヴァを手放し、アナキンに預けた以上彼に求められていることはただ一つ、正しい力の使い方と理解の深耕。

ジェダイたるアナキンは、その道のスペシャリストである。

 

ふと、アナキンはアバンがカール王国に残った真意を探った。当初はあの女性のためだと信じて疑わなかったが、こうなってくると全く異なる真実が見え透いて来る。単純に、距離が近いから残ったのだ。

リンガイアに。

 

恐らくアバンは、ジェダイですら教育として触れるダークサイドに、一切ノヴァを近付けないつもりなのだ。その為に、過剰な反応をもたらす事になる家族達から、ひょっとしたら訪れるかもしれない彼等の悲劇から、身を呈して遠ざけようとしている。

 

ある意味、この世界で謳われる勇者とは、ジェダイ以上の無私の聖人だ。そんな化物に、こんなヒヨッコを仕立て上げようとしているのだ。

 

「ノヴァ、勇者に必要なものは何だ?」

 

「不偏不党の勇気に決まってるだろ。…何だよ、気味悪い顔しやがって。」

 

「その言葉、絶対に忘れるなよ。少なくともお前はこれから、今の言葉を心底後悔する事になる。」

 

「何だよ、イビリか!?大人気ないぞ!アバン先生に言いつけてやる‼︎」

 

「おまえ、本当に能天気だな。良いだろう、その元気があるならすぐにでもここから逃げ出して、アバン先生の元に帰ってみせるんだ。」

 

いきなり表情が変わったアナキンを見て、ノヴァは背筋が寒くなるのだった。

ジェダイと名乗るその男はいきなり腰の剣把に手をかけると、夢に出てくるあの妙な音を立てて闘気剣を作り出した。日が陰り始めた今となっては、その輝きが放つ燐光が疎ましい…って。

 

「何なんだよその色…。ありえないだろ、紅い闘気剣って…。」

 

ノヴァは呆れ返った。

紅色の闘気剣なんて、聞いたことも無い。アバン先生のそれですら、ノヴァの闘気剣と同じ色だった。というよりもつい先日、あの竜騎将との闘いにおいてすら、アナキンの闘気剣の色は紅くは無かった筈だ。

 

それに、凶々し過ぎるのだ。

まるで処刑人の色だ、とノヴァは思った。

 

「…気分の問題だ。どうやら容赦は不要らしい。」

 

ーーコイツ、オレのこと殺す気じゃ無いだろうな!

ノヴァは本気で警戒した。訓練中の事故とか言って、本気でやりかねないからだ。いや、今この場なら目撃者すらいないから、問答無用で斬り殺されかねない!

 

「悠長に構えてる場合じゃなくなったんだよ。一瞬で全部やるから、今、この瞬間に全て理解してくれ。」

 

ーーそれ見たことか。まぁた何か、訳わからん無茶難題を言い出しやがった。

ノヴァはため息をついた。しかし、どうにも前にイビられた時とは様相が異なる。

 

緊迫感が違い過ぎる。一体なにをやらかすつもりなのか。

 

身構えたノヴァに、思わぬ言葉がもたらされた。

それは本来、彼に喜びの表情を浮かべさせる筈の内容であった。しかし実際にノヴァが浮かべたそれは、引きつり顔である。

 

「そろそろ基礎固めにも、憂いて来た頃だろ?私が見せてやるよ。アバン流刀殺法。そのかわり全部、一瞬で覚えろよ。」

 

「む、無理言うなよ…」

 

ノヴァはアナキンの迫力に気圧されて、それ以上の言葉を失った。技の伝授は有難いが、一度っきりで全部覚えろだなんて無茶苦茶にも程がある。アバン先生も確かに厳しいが、こんなのはまるで指導とは言わない。

 

単なる死刑宣告だ。

脅しにすらなって無い。まるで条件を成していないのだから。

 

けれども目の前の鬼野郎は、全く容赦を見せなかった。

 

「今無理なら、一生かかっても無理だ。お前の力不足がアバン先生を殺す。師を2度も目の前で亡くしては、さすがに立ち直れないだろ。」

 

ノヴァはその言葉に、背筋を凍りつかせた。

 

「まさか…。」

 

アナキンは、ノヴァと話しているようでいてその実、全く別なことに神経を集中させていた。

彼は、自分達を包み込む様にして接近してくる四つの強力なフォースの気配を、ひしひしと感じていたのである。それに気づいたのと時を同じくして、アバンの下に迫る危機を予感したのだ。

 

「アバン先生の身が危うい。…オレではここからでは間に合わない。オマエがこの瞬間に全てを理解し一端の戦力を身につけられるかに、全部かかっている。無理ならアバン先生はあの人の力不足で息絶える。本来オマエが気にかけるべきでは無いだろうが、そうも言ってられないだろ…」

 

ノヴァが突然の予言に顔面蒼白になる中で、アナキンの白状な言葉は尚も続いた。

 

「大地斬、海破斬、空裂斬、ストラッシュ。全部一瞬でやる。両目を閉じていろ。目で追える速度で撃つつもりは無いからな、見るだけ無駄だ。…アバン先生のトレーニングを思い出せ。今のオマエなら、フォースで知覚できるはずた。」

 

ノヴァは事態の推移にまるでついて行けなかった。

まるっきり滅茶苦茶だ。アバン流を一瞬で極めろという様なものだ。まるで現実味が無い。おまけにフォースってあれだ、あの不可視の妙な闘気のことだろ?それでいきなり知覚しろだなんて、無茶振りにも程がある。

 

「無理だよ…。空裂斬ひとつ出来なかったのに…。そもそもフォースだなんて、…全く理解できないよ…。」

 

「お前のお得意の闘気、その根本を成す存在の事だよ。安心しら、お前には才能がある。絶対にできる。勇気を持ってくれ。」

 

アナキンは不思議な気分だった。おそらく前世の自分では、ここまでフォースを研ぎ澄ます事は出来なかったはずだ。

けれどもこの少年の前では、さも当たり前の様にそれが出来る。恐らくこの境地こそが、アバンが説いた人に何かを授けるという事の真の意味なのであろう。教えるんじゃない、教える事で、自分が教わるんだ。

 

アバン流刀殺法…当初は、剣の振り方一つに何故、大仰な技名をつけるのか、全く理解できなかった。一撃必殺のライトセーバーを振るい合うジェダイとシスの闘争では、その一振り一振りに名前を与え、慈しむ事は無かった。所詮はフォースの表面を撫でただけ、と侮ってしまった自分がおこがましい。

 

剣の振り方一つにここまで思いを込めるのが、この世界でのフォースの在り方なのだ。それに照らすと前世での自分達は、随分と無造作に濫用を繰り返していた事になる。アナキンはまたひとつ、学ばされた訳である。

 

ーーやるぞ!

 

アナキンは、ノヴァの心に直接そう呼びかけた。

 

ノヴァは大人しく目を閉じていて、正解であった。アナキンの放つアバン流は、見た目的には全く剣術の体を成してはいなかったからだ。

 

大地斬は単なる地割り、海破斬は切れ味が鋭すぎてむしろ空裂斬の様であったし、空裂斬に至ってはフォースの斬撃そのもので、剣など殆ど振るって無い。全てを兼ね備えた筈のストラッシュだけが唯一、あり得ない速度で空を走った。つまりは目で追えない。

これだけの一瞬四斬を、言葉通りに瞬時に行ったのだ。

 

あんまりな光景に、空いた口が塞がらなかったであろう。

 

けれどもその瞬間、ノヴァは確かに。

 

「…見えた。」

 

「当然だよ。私が体感時間を延ばしてやったんだから、そんなのは当たり前だ。それよりホラ、ぐずぐずするな。もう行けよ。ルーラで移動しながら、しっかり復習するんだ。お前のイメージトレーニングはアバン先生仕込みだ、自信持て。…うちのバカ弟子より、よっぽど才能あるよ。」

 

つべこべ言ってられない状況なので、アナキンはフォースのレベルでアバン流刀殺法を行ってみせ、それをノヴァと同調させた感覚の中で知覚させたのだ。アバン先生の言った通り、アナキンが表面的にアバン流を再現したのでは、格好だけのヘボ技に終わっていたからだ。

 

アナキンはリアリストだ。技をやるからには全て命中させるし、ダメージを与える。

 

ノヴァは嫌な予感に見舞われていた。相変わらず無茶なことばっか言われるし、散々な言い様だ。しかし妙にこちらを褒める言葉を挟む。

 

これではまるで…。

 

「言っておくが、私はこの後に、ダイのケツを蹴り上げに行く。その前に野暮用を済ます。それだけだよ。」

 

「何だか良くわかんないけど、死ぬなよな。」

 

「当たり前だろ。オマエとは、潜った修羅場の数が違うんだよ。……行け。」

 

アナキンは図らずも、バランがハドラーに言い放ったのと同じ様な事を言っていた。大きな違いは、バランは腹心の部下を手に入れているのに対して、アナキンはまるで不出来な弟子しかいない事くらいであろうか。おまけに、こんな切迫した状況下で導きを与えた見込みある奴は、当初の目的通りにダイの元へは向かわず、アバン先生の元へと向かおうとしている。おまけにそうして貰わねば、アナキンが困るのだ。

 

…全く、転生してまで何をやっているんだか。無駄に動き回るところなんかは、ジェダイ評議会の下で動いていた頃と何ら変わらない。何でこうも、回り道ばっかりしないと、いけないのか。

 

でも、悪くは無い。

悪くない気分だ。

 

アナキン・スカイウォーカーは笑った。

カールに向けて飛び立つ、勇者の卵を見送りながら。

 

 





結ばれてはいけない女王への想いをすり潰し、大義に邁進する男。アナキンは前世でのことを振り返りながら、本気でそんな風にアバン先生を見ています。

次話は、アナキン討伐隊の視点でアナキン・スカイウォーカーをお送りします。
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