なお、スカイウォーカーの家系がエンジニア気質であることは、SWの公式設定です。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
アナキン・スカイウォーカーは、ノヴァにアバン流の刀殺法の技を授けると共に、ある事を決意していた。
ダークサイドの使用についてである。
これから刃を交えようとする相手は、一人一人が前世でのドゥークー伯爵に及ばずとも劣らない強者だ。こいつらを相手に正式なライトセーバーすら持たぬ今の身では正直なところ、荷が勝ち過ぎる。ライトセーバーは本来、その一振りが一振りが一撃必殺の秘剣である。込めるフォースの多寡によって威力が左右される様な生易しい闘気剣とは、本質的に異なる存在である。
まぁこれは、無いものねだりだが…。
おまけに彼には、明確な目標があった。ダイの元に駆けつけるのだ。この目標達成の為には、彼は手段を選ばないつもりであった。ダークサイドの利用も止むなしと判断したのである。
そしてこれから対峙する事になる強者達をフォースで捉え、その姿を脳裏に克明なイメージとして描き出した。
その瞬間に、彼は浅薄な自分の判断を諌めた。
ーーいやいや、フォースの強大さに囚われてはいけない。意外と見た目も大事だ。危うく、フォースの感知のみでダークサイドに頼るところだった。
アナキンは思わずニヤリとしてしまった。確かに彼等の持つフォースは強大であるが、それは潜在力とでも言うべきものであって、現実問題としては荒削りな者が多い。なにせこの強大なフォースの持ち主の4人のうち、実に半分もの者が未熟であると、外見からして知れたのである。それはもう、2人の装備からして明らかであった。
アナキンがこの事に気づけたのは、この世界に来てからというもの、相当に武器に飢えていたからである。原材料が発見出来ないためライトセーバーの製作は遂に叶わず、その失敗事例には枚挙にいとまがない。呆れ果てたジャンヌ老のアドバイスに従い、彼はせめてとばかりにこの世界の武具をよく観察し、そして生来のエンジニアとしての目を養ってきた。
残念ながら鍛治師としての才には恵まれなかったが…。幸いにも、製作者がどんな思いを込めてその武器を作り上げたかを慮れるくらいには、彼の目は肥えた。
そのアナキンからすれば、ラーハルトとヒュンケルの2人は、その武器本来の性能を引き出し切れていない。成る程確かに、その武具は一見すると、武器+鎧で一体を成す、何ともユニークな作品である。実際に彼等はそうして使用しているのだから、決して用法を違えている訳では無い。
しかしこの年月の中で培われた彼の目は、その鎧と武具が一体になった姿を脳裏にありありと描き出すのであった。彼の鑑識眼からすれば、別な形態が描けるのである。その武具を題材に脳内でパズルをやった様なものだ。
そして一つの結論をもたらした。
ーーこの使い方は、製作者の思いに反する。
彼等の武具は、一つの狂おしいまでの願いを抱いた武人の手により作り上げられた筈である。そしてその願いとは、使用者ーーおそらくはその武人自身ーーの高すぎる攻撃力から武具そのものを守るという発想である。敵の攻撃から使用者を守る、常識的な鎧としての機能などは、副次的なものに過ぎない筈だ。恐らくはその武具が使用者の実力を認めた時にこそ、製作者たる武人が定めた本来の姿を取る筈である。つまりは、武具自体が鎧を纏うのである。
ーー恐らくは鎧剣だとか鎧の槍だとか、暗示的な命名が成された筈だ。
アナキンがもしその製作者の立場にあり、この世界の理に倣って思いを込めて名付けを行うなら、そうする筈だ。そして皮肉を込めて、鞘とかの形状をとらせた初期状態をこそ、本来の姿に近いものとするだろう。そうして全身鎧の機能の方にだけ注目した未熟な使用者の目を欺き、彼等が真にその武具の力を必要とする瞬間まで、その身を守らせ、使用者の成熟を促すのだ。
この武具は、製作者が自身の理想とする武具の使い手を育てる為に仕組んだ、高度な教育プログラムそのものである。アナキンは図らずも、ここまでの洞察をフォースに殆ど頼る事無く、自身の持つ鑑識眼を主として成してみせた。それは、製作者たる魔族の名工ですら全く意識せずに成した奇跡の種を、見事に発芽させる事になるのであるが…。それはこの戦いの先の事となる。
ーー正確には、もっと禍々しい名を冠しているだろうな。
アナキンは、その武具から漏れ出る負のフォースを感じ取り、その様に結論した。これほどの武具ですら、おそらくは製作者にとっては物足らぬものなのであろう。その武具からは、未だ道の途上にある製作者が抱いた負の感情が、ありありと漏れ出ていた。実際に今、剣士がまとう全身鎧などは禍々しい姿になってしまっている。
ーーこれほどの防御力を与えながら、オレの技ひとつにすら耐えられないのか!
そんな製作者の怒声が、漏れ聞こえてくるようだ。恐らくは、その製作者は剣士なのだろうとアナキンは仮説を立てて、敵情分析を終えた。
つまりは全身鎧としての副次的な機能に甘んじている現状からして、この二人は未熟者なのだ。力の理解を至上とするジェダイにとって、その道の半ばにある者などは、如何に強大な力を持とうが恐るるに足らない。この時点でアナキンの警戒すべき対象は4人から半分になり、更にはその2人のうち1人である女剣士は、すでに技を看破した相手であると気づいた。
つまりはあの、重戦車の様なモンスター1匹を徹底的に叩いてしまえば、厄介ながらも攻略法の知れた暴走女1人と、何処かが未成熟なままの2人が残るという算段である。これによって、アナキンの心は羽根の様に軽くなった。
ーー何だ、意外と大した事無いな。
と。
そしてその思いは、実際に攻撃を仕掛けることによって、確信へと変わった。やはり正しい予断であったと。彼らを翻弄するのは、まるで容易い。自身の武力と武具に信を置いているために、フォースを込めた言葉を放つけるだけで、簡単に動揺してくれる。警戒しなければならぬ筈の女剣士ですら、なぜか二の足を踏んでいる。
ひょっとしてこのまま、アバン先生の様に言葉で敵を退けることすら可能なのでは無いか?!
しかし彼はすぐさまこの洞察を、後悔する事になるのであった。
彼の耳に、腹の底に響く重低音が轟いた。
「全員落ち着け…。自身の中で敵を大きくしてどうする!流言に惑わされては、敵の思うツボだぞ!各々の力を信じよ!」
まるで魔法である。
さも今、この場に駆けつけたと言わんばかりの檄が飛んだのだ。
フォースの音速波とテレキネシスで、身動き一つ取れぬ程に叩きのめした筈のデカブツモンスターが、である。
挙句にその声で、アナキンが散々に引っ掻き回した三人の戦士たちの迷いが晴れていくのだから、これで驚くなという方が無理だろう。
アナキンのように声にフォースを載せるような器用な真似をしているわけでは、決してない。単純に大声張り上げただけである。
だがその檄がもたらした効果は、一目瞭然だ。フォースでもたらした筈の混乱は、一掃されてしまった。
アナキンはバカバカしくなって、かぶりを振った。
この重戦車の防御力を、完全に見誤ったのだ。
奴こそは当初の予定通りに、フォース・ライトニングすら用いて徹底的に叩き、身動き一つとれぬ有様にしておくべきだったのだ。
もはや完全に後の祭であると、アナキンは悟った。
今の彼とて、ダークサイドを切迫した状況で使うのは非常に危険である。追い詰められた心境でフォース・ライトニングを使うなど、自ら暗黒面に転向する様なものだ。もうこの手は打て無い。
頼りとすべきは…自身の手で磨き上げた、剣技のみである。
擬似ライトセーバーを握りしめ、ジェダイの騎士は敵と向かい合った。
再度交錯したとき、アナキンは槍騎士への評価を改めた。
コイツは身動きそのものが単純に速い!バランの配下の中でも、おそらく高位の戦力だ。
アナキンは、フォースを通じて槍騎士がどこを攻撃してくるか手に取るように分かったが、それでも苦戦を強いられた。
彼が得意とするゴリ押しなライトセーバーの運用ーーフォームⅤ・シエンーーでは、反撃まで辿り着けないのだ。それでも、彼はこの男にはこのまま対処すべきだと判断した。
中途半端にフォームを変更して速度で対抗しようとするのは、下策中の下策だろう。
「名を名乗れ。バランの使い魔よ。」
アナキンは槍騎士の攻撃を力任せに振り払い、その槍そのものを断つ気迫で撃を交わした。
「我が名は陸戦騎ラーハルト!矮小な使い魔などを使役する男を、主君と仰いだ覚えは無いわ!」
ランサーのハーフ魔族は、そのプライドの高さに比例する強者であった。
槍の扱いが、それはもう尋常では無い。挙句にこの、ありえ無い疾駆力である。
アナキンは浅慮を恥じた。ここまでの才能が二つも合わさった結果、この武具の運用には強引に別解が与えられてしまっている。
製作者はひたすらに破壊力を追求するタイプの男だった様だから、全くもって戦闘スタイルが異なるのだ。まさかこんな速さと、点を穿つ正確さで用いられるとは、思いもしなかっただろう。
「先鋭すぎるのも考えものだな。」
アナキンはその男の一撃を喰らうことをものともせずに、フォースの音速波をカウンターとして叩き込んだ。ラーハルトの振るう細槍は超速と精密の権化と化していたが、なまじ狙いが正確過ぎるためポイントをズラして受ける事で、本来のダメージを半減出来てしまうのである。
この様に皮膚を裂かれ肉を刮ぎ取られる痛みくらいでは、前世で四肢を焼き潰された経験を持つアナキンは揺るがない。
アナキンはこの槍騎士には、今の様にフォースの音速波で対抗することにした。こいつは規格外にも、フォースを一切用いずにこの速度で動き回り、槍を振るう。この上にフォースの扱いを覚えた日にはまるで手がつけられなくなるが、現在はそこが攻め入るべきポイントとなる。
しかし、確かな一撃をもらってしまったことに変わりは無い。
その隙を、あの厄介な女剣士が見過ごす筈もなかった。
「死ね。」
暗黒面の暴走中に言葉を放つ余裕を、いつの間にか身につけたのか。
この場で唯一の女性は底冷えのする声でそう言い放ち、真上から襲い掛かってきた。
アナキンは即座に構えを防御主体のフォームⅢ・ソレスに切り替えて、その女の高速連撃を凌いだ。
剣同士の衝突の瞬間にフォースを強め、擬似ライトセーバーの斬れ味を倍加させて大剣の刀身を叩き切ろうとするものの、効果は無い。
ーーこの女の剣は、本物のライトセーバーですら一時的には弾いてみせるだろう。無骨だが、これはこれで業物だ。
アナキンはそんな印象を抱いた。
おまけに女剣士が攻防一体の技としているダークサイドの暴走が、以前よりも的確に御されている。つい数日前の戦いから、間違いなく成長していた。この場で仕留め切らなければ、より厄介な存在として立ち塞がって来るだろう。
「少しは慎め!」
アナキンは鍔迫り合いの状態に持ち込むと、手近な大樹をフォースで根こそぎ持ち上げて、女剣士に投げつけた。
これはフォース・テレキネシスという技で、身近なものを手軽な凶器に変える、非常に有効な技だ。それでもイレーネなら高速剣で撃ち落とすであろうが、今の様にその剣技を拮抗状態に持ち込んで仕舞えば、質量兵器として非常に高い効果が見込める。
ーーこの女剣士には、テレキネシスで対応しよう。
そう決めた瞬間のアナキンは、完全に無防備な姿をさらしていた。
両手で握る擬似ライトセーバーで女剣士の剣撃を封じ、フォースで大樹を操作したその背中は、ガラ空きであった。
「ブラッディー・スクライド!」
その背中目掛けて、魔剣戦士の必殺の一撃が放たれた。
魔剣の超速の突き技が、暗黒闘気の濁流となってアナキンを襲う。
防御できる状態ではない。彼は咄嗟に正中線をズラし、致命傷だけを避けた。衝撃の凄まじさは言うに及ばず。
彼の体はフォースの音速波を喰らったヒュンケルと同じくらいに、吹き飛ばされた。
ある意味で、それはこの世界にきて初めてまともに喰らう攻撃であった。
だが、実質的な傷の深さとしては、骨まで達しかけたラーハルトの一撃の方が厳しいくらいであった。これにはバランの一撃を防いだのと真逆な理屈が働いていた。暗黒闘気はフォースの暗黒面に限りなく近いので、その力への防御を知るアナキンには効果を軽減されてしまう。
魔剣戦士はその刃を、直接突き立てるべきだった。
距離的に難しかっだであろうが、そうしなかった最大の理由は、ヒュンケルがその強力な暗黒闘気に信を寄せているからだろう。アナキンにしてみれば、間違いも甚だしい。
「そんなので遊んでる暇があるなら、アバン先生に謝って来い!」
アナキンは相手の必殺の一撃をものともせずに立ち上がると、ライトセーバーを片手で持ち、半身を引いた。
ライトセーバー同士の闘いを想定したこの構えは、フォームⅡ・マカーシという。この構えには一つ、大きなアドバンテージがある。
片手が空くのだ。
それはとりも直さず、このような結果をもたらす。
アナキンは右手の擬似ライトセーバーで魔剣戦士の剣を打ち払い、フォースを集中させていた左手を相手の胴体にねじ込んだ。
フォースの衝撃波を、至近弾で叩きつけたのである。
ラーハルトの時は咄嗟のカウンターであったが、そもそも今回はタメが全く異なる。
魔剣戦士は、全身鎧の上半身部分を粉々にされ、アンダーウェアーのみの上衣となって吹き飛んで行った。
「…。」
これほどの業物に対して随分と勿体無いことをしてしまったが、これも戦の常だろう。文化的資産は戦火に呑まれるのである。おまけに使用者責任だ。
「手負い三人片付けた程度で惚けるとは、随分と生温い戦場で育ったようだな。」
アナキンにはこの、背後にそびえ立つ重戦車が、先の3人の様に畳み掛けて来るタイプでは無いとわかっていた。その事を確かめる為に、敢えて呆然としてみせたのだ。
ーー少し苦しすぎるか。
アナキンはその製作者に対してどうやって言い訳しようかと、余計な事すら考えていたのだから。彼はみじんも殺気を感じさせずに自身の背後をとったその男を、敬意をもって見つめた。
「私はアナキン・スカイウォーカー。ジェダイの騎士にして、勇者アバンの同盟者。」
「オレはクロコダイン、獣王を名乗り、自負している。魔王軍百獣魔団の軍団長だ。」
その威武堂々とした佇まいの、なんたる頼もしさか!
アナキンは咄嗟に、今世においても決して認めるつもりの無い、前世での娘のボーイフレンド…の、相棒を思い出していた。成る程、あの薄汚い密貿易者風情が、自身の手を煩わせる程に恐れを知らぬ振る舞いが出来たのは、こうした相棒が側に控えていたからなのだな、と理解するのであった。
思えばマスター・ヨーダも、あの男の相棒の同族には妙に親愛の情を抱いていた。これだけの存在感が背後に控えていてくれるのは、それだけで心強いものがある。短躯な彼には、居心地の良い存在であったのだろう。
「アンタはあの3人とは、毛色が違うな。私は不意打ちを卑怯とは思っていないぞ。何故にさっさと攻撃しなかった。」
「なに、つい先日、オレを妙な女の名で呼ぶバカな少年2人を相手にしてな…。つまらぬ闘いには、憂いておったのだ。お前程の男なら、この憂いを濯いでくれるだろう?!」
そう言うと、獣王クロコダインはその巨体をもって突進を掛けてきた。
今まで挑んできた三人とは異なり速度こそ無いが、一撃でアナキンを致死に至らしめる攻撃である。
アナキンはその場で擬似ライトセーバーの出力を最大にして、モンスターではなく武人を迎え撃つのであった。
彼に相対するためのフォームは、既に決めてある。
フォームⅣ・アタール。マスター・ヨーダが得意とした、高速で相手を掻き乱す戦法である。そう、先のラーハルトとの対峙にアナキンの脳裏をかすめたやり方だ。
アナキンは地を蹴ってクロコダインの頭上を飛び越すと、その背中に擬似ライトセーバーを突き立てた。
だが。まるで予想しない事が起きた。
既にボロボロになった鎧を突き破った擬似ライトセーバーは、その皮膚を裂き、筋肉を突き破ろうとした半ばで受け止められてしまったのである。
そのままクロコダインが体をひねると、その巨大な尻尾が彼を打ち据えた。
ーークソッタレが!
アナキンはこの時ほど、武器を恨んだことは無かった。
筋違いな八つ当たりであるが、その激痛たるや度し難いものがあった。前世においてすら、数えるほどのものであろう。ましてやそれが生物由来の衝撃だなどとは、まるで戯言だ。
さすがに吹き飛ばされる際に剣把を手放すような真似はしなかったが、かなり際どかった。
「やるじゃないか、若いの。」
獣王クロコダインは、まるでダメージを感じさせない、不敵な笑みを浮かべた。
彼とて、軽傷では済んでいない。先のダメージがそのまま残っている上に、背中から串刺しにされかけたのだ。立っていること自体がおかしい。けれども現実問題として、その戦意はまるで衰えていない。
「…アンタも大概だな。」
ーーコイツは鬼門だ。
アナキンは顔を歪めた。
流石のアナキンも、痛みを堪えきれなくなっていたのである。ラーハルトとヒュンケルからもらった一撃が、ここに来てどうにも耐え難くなってきている。超常の技を持つジェダイとはいえ、その身体は普通の人間とまるで変わらない。このまま畳みかけられれば、結果は言わずもがなである。
何よりこのまま痛みつけられると、ダークサイドに転向してしまいそうだ。
ヒュンケルから貰ったたダークサイドの奔流は、それほどまでに度し難い威力と衝撃を、ジェダイの騎士にもたらしていた。
「…この辺りで終いにしないか?」
「何をヤワな事を。お互いに、まだまだイケるでは無いか。」
アナキンは獣王の回答を待ち、擬似ライトセーバーに注いでいたフォースを常のレベルにまで落とし込んだ。いよいよ余裕が無くなって来たのである。
事態には流動的に対処しなければならない。最早、剣技での対抗は望み薄であった。
そしてひたすらに、フォースを高めることに集中した。
そこからは一方的な展開になった。
相手取った4人は流石だった。おそらく先の一合でこちらの癖を見抜いたのであろう。アナキンは、マカーシやアタールといった他のフォームで咄嗟に対処する余裕を、完全に奪われてしまった。
やはりこういう時にものを言うのは、嫌というほど親しんだ闘法を置いて他にない。アナキンは、相手の振るう武具を打ち払う事にのみ専心し、前世の師であるオビ・ワンのフォーム・ソレスの妙技を、見事に体現してみせた。
あの師は、並のジェダイ・マスターなら命を落とすような状況から何度も生還した。それを最も間近で見てきたアナキンはついにこの闘いを通して、その根本を掴んだのである。
「仕留めきれん…」
「…認めざるを得んな…」
ヒュンケルが呟き、ラーハルトがアナキンの評価を上げた。彼等も万全とは程遠い。はじめに喰らった音速波のダメージが、ここまで尾を引いているのである。特に、あまり闘気を用いないラーハルトには、その影響が大きく出ていた。
「このままでは埒が明かんぞ。」
「…各々、最速の技で同時に仕掛けてくれ。闘気を溜める時間は…私が用意する。」
クロコダインの問いに対して、イレーネは全員へ返した。
言わずもがな彼女の剣技は、集団戦には向かない。これまでは、暗黒闘気の暴走技である高速剣を、一振りに限って完全な制御下に置くことで急場を凌いできたのだが…。
事ここに至っては、本来の闘法に戻すつもりだった。
「お前じゃ力不足だよ。」
「そうか……詳しくお教え願おう。」
イレーネはアナキンの挑発を物ともせずに、当初からの涼しい顔のままに高速剣を発動させた。
足元の地表に亀裂が走り、空気が引き裂かれる。見間違いようがなかった。開戦当初から全く衰え知らずな威力である。
しかし、アナキンは見逃さなかった。
これは、先ほどまでのとは質的に一つ上だ。
体外に溢れ出していたダークサイドが、最早殆ど感じられ無い。その暴走を体内に閉じ込めることに、成功し始めているのだ。
「慎めと言った途端にコレか…。」
アナキンは自分の言葉が敵の成長を促してしまった事に落胆しながらも、一つの確信に至った。
やはりこの世界でのフォースは、在り方が少し異なるのだ。同じように超人的な身体能力を発揮しているように見えて、ジェダイのそれは実態としてはフォース・テレキネシスに近い。つまりは自身の体を、フォースを用いてマリオネットの様に操っているのである。ライトセーバーも同様である。
けれどもこの世界でのフォースの運用…闘気は、どうやら身体そのものを一時的に別物へ変えるようだ。究極的には、素手で鋼鉄を引き裂く様なことも可能であろう。どちらが上とも下とも言い難いが、一つだけはっきりした。
----闘気というフォースの運用方法は、遠距離には不向きだ。
そしてイレーネの連撃にひたすら耐え、待ちに待ったその瞬間。
アナキンは研ぎ澄ませたフォースを利用して、同時に4人の敵を捌くのであった!
海破斬を逸らしてクロコダインに向かわせ、獣王痛恨撃を同様にヒュンケルへ、イレーネとラーハルトの攻撃は軌道を操り、相撃たせたのである。いや、正確にはそうしようとして、見事に目論見を外した。
ガキィン、と金属同士のぶつかる鋭い音が響き渡った。
イレーネとラーハルトは、不可視の妨害を受けて仲間の身体へと向かった武器の軌道を力づくで捻じ曲げ、双方の武器が衝突する形を作り上げることで相打ちを避けた。
「邪魔するな女!」
「貴様こそ!」
ハーケンディストールと高速剣のぶつかり合いの衝撃は、それはもう凄まじいものであった。
お互いの勢いそのままに、てんでバラバラな方向へと弾け飛ぶ。
そこに、闘気技が直撃した。
ラーハルトは海波斬を、イレーネは獣王痛恨撃をモロに受けてしまい、それぞれ地面に倒れこんだ。
アナキンは残る二人に追撃しようとし…遂には両手を下ろした。
ヒュンケルとクロコダインは、仲間の元へと駆け寄っていた。
つい先ほどまで、彼らは勝ちの間近にいた。それが一瞬で形成を逆転され、その契機を自分たちの手でもたらしてしまったのである。彼らの動揺は、然るべきものであった。
中でもクロコダインのしでかした間違いは大きかった。彼は、従来通りに肉弾戦を仕掛けるべきだったのだ。
アナキンは、闘気技を飛び道具として用いられた場合には、真っ向から跳ね返すのは無理としても、今の様に軌道を反らすくらいは難なくやってみせる自信があったのだ。そして実際に成功した。
しかし実体武具の軌道操作まではやはり万全には行えず、それが図らずも、今のラーハルトとイレーネの結果をもたらした。せいぜいが掠る程度だろうから、この後の追い打ちで一気にトドメを刺そうと想定していた当初よりも、実際の効果は大きかった。
「…もう、ここまでにしないか。」
ここまで見事に相打ちしてくれるとは、まったくもって想定外である。何より単なる偶然だ。この上向かってくるなら容赦するつもりは無いが、ヒュンケルとクロコダインは背中を見せている。敵とはいえそんな2人を手にかけるなど、ジェダイのする事では無かった。
「おい、しっかりしろ!」
イレーネが胸に大穴開けた状態でムクリと起き上がり、ラーハルトに向けて叫んでいる。
その顔は、初めて見せる表情を浮かべていた。
焦りである。
彼女がバランから預かった大事な部下は、瀕死の状態である。もとより闘気技に馴染みの薄い彼は、アナキンの放ったフォースの音速波に加えてブラッディー・スクライドまで叩き込まれて、意識すら定かではなかった。
「…お前にその暗黒闘気とやらは、まるで向いてないよ。アバンが…何よりその剣が、泣いてるぞ。」
アナキン・スカイウォーカーは呆然と立ち尽くすヒュンケルに対してそう言い残すと、一人その場から立ち去った。
結果として、満身創痍である。
この状態でダイの下に駆けつけて、一体何が出来るのか。
彼は溜息を一つつき、フォース・スプリントを用いてダイのもとへと急いだ。
以上が、鎧の武器シリーズの私なりの解釈でございます。
如何だったでしょうか。
原作においてあの二振りは、バーン様への献上品とされました。しかしどんな思いで製作されたかまでは、深くは語られていないと記憶しています。
普通に考えれば、剣士であるロン・ベルクが魔法対策として自分用に作った逸品ということになるのですが…。
そもそもロン・ベルクは、自身の強大な技に絶えられない武具の脆さに憂いて、刀鍛冶への道を歩み出した筈です。
それがいくら献上品とはいえ、当初の目的を忘れて保身のための武具を製作するでしょうか。
鎧の魔槍はまだ良いのです、刀鍛冶としての腕を磨くために作ったと考えれば、まだ納得できます。
しかし剣ですよ、剣。いち鍛冶師となったロン・ベルクですが、自分の本業たる剣の製作において、初心を曲げるでしょうか。
自分の全身を覆わせるくらいなら、彼の性格的には剣に鎧を纏わせる方がしっくり来ませんでしょうか。
こんな思いで原作を読み返しておりましたら、ラーハルトが鎧化前の状態でハーケンディストールをやっているではありませんか。
その時ふと思ったのですが…そもそも彼に、鎧は必要だったのでしょうか?
ヒュンケルもミストバーンも、物理的には擦りもしませんでした。
真ミスト以降はさすがに旗色が悪くなりましたが…そもそも規格外すぎて、防御が用を成さない相手だったように思います。なにせラスボスですし。
鎧が無ければ一撃で挽肉にされてしまったのかもしれませんが…。
「防御?…ウスノロの言い訳だな。そんなのにリソースを割くくらいなら、全部オフェンスに回してくれ。」的な注文をして、ロン・ベルクをニヤリとさせるラーハルトが思い浮かび、上記のようになりました。