理力の導き   作:アウトウォーズ

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時間軸を前にズラシて、本編開始前のマァムの少女時代を描いてみました。

彼女の「慈愛」というキーワードは、表現が難しいです…。
敵にすら慰みを与える原作のマァムは、ダイ達と会う前にもそれなりの経験をしたのではないかと思い、このような過去を想像してみました。

純粋さにあかせて行動する大器な村娘が、小さな世界に生きる人に居た堪れない思いをさせてしまうイメージです。

どうぞよろしくお願いします。


ネイル村のマァム(前編)

 

 

とある村に、アナキンと双璧を成す”荒らし”として冒険者ギルドで忌み嫌われ、妙な尊敬を集める少女がいた。

 

ネイル村のマァム。

この界隈では知られた名である。

 

何もその見た目の可愛らしさが知れ渡った訳では無い。そもそもからして、冒険者ですら無い。全ては彼女の精神がして成した事の、賜物である。

 

はじめは、近隣から来たお手伝いくらいの印象しか抱かせなかった。鮮やかな桃色の髪にゴーグルを引っさげ、風変わりな布の服に身を包んだ、元気な少女。その出で立ちに、強力な力を伺わせるものは何もなかった。

 

唯一つ、その腰には妙な物を穿いていた。

その見慣れぬ物もまた、脅威を抱かせるものでは無い。

その名を魔弾銃という。

 

これには、彼女の師の並々ならぬ愛情が込められていた。

実はこの少女、生来の優しさが災いして、返しのついたナイフだとか棘だらけのモーニングスターみたいな、明ら様に殺傷力を追求した凶器はてんで受け付け無いのである。

何せ、この魔弾銃が武器だと知っただけで泣き出したくらい、本質的に暴力と対極の存在だ。

 

その純粋さは、初めて顔を合わす人間にも十分に伝わった。

 

「ネイル村のマァムです!宜しくお願いします!」

 

ハツラツとした受け答え。優しげな表情。子供達に見せる笑顔。老人への慈しみ。

モンスターでお困りの際はお声掛け下さい!という挨拶の二の句は無かったことにされてしまったが、彼女はそれくらいに周囲の村の者達から愛された。

 

彼女の巡回はネイル村の警護のついでであるので、せいぜいが1月に1回くらいのものだ。おまけにモンスター被害など、そう頻繁には起こらない。モンスターに迷惑はしているのだが、排除する手間暇をかけるなら、みんな避けて通るのだ。彼女は定期的に周囲の村を巡っては異常が無いかを確かめに来たが、はじめの半年は全く成果が無かった。

それにもかかわらず、せっかく寄ったんだからと様々な雑用をこなすうちに、彼女は得難い信用を積み上げていった。

 

彼女が初めてその力を求められたのは、これまた実に彼女らしいものだった。

 

「すまんのう。こんな老い先短いワシのために…」

 

骨折の治療である。被傷者が若い労働力であれば、お金を出してでも回復魔法の使い手が呼ばれるのだが…。残念ながら等しくそれを成すだけの蓄えは、この界隈の村人達には無かった。

常なら泣く泣く回復を待つしかない。

 

それを全く縁もゆかりも無い少女が、全くのボランティアで治癒魔法を使い、癒してくれたのだ。

事が事なだけに、祭り上げる輩が出てもおかしくは無かった。それ程までに、回復魔法の使い手が辺境に留まる理由は薄いのである。せいぜい有償の冒険者がいるくらいだ。

 

「何言ってるんですか。あと10年は生きて、ひ孫を抱いてあげなくちゃ!」

 

彼女の少し勝気な性格は、変な恩義や妙な負い目を抱かせなかった。傷を癒された老婆とその家族は、それはもう曽孫の様に一日中甘やかしては、誠心誠意を込めた質素な食事を共にした。

マァムが報償として受けたのは、それくらいである。

 

そうした事が、各村で数度、繰り返された。

 

村医者は商売上がったりだなあ、と苦笑いを浮かべた。月1の頻度では影響は殆ど無いのだが、口さがない者は何処にでもいるものだ。マァムちゃんなら無償でやってくれるのに、と零す心無い者は総スカンを食らった。

 

そうしたある種の愚痴が風聞になると、マァムは青くなって一軒一軒の医者宅を訪れた。貴方がたの評判を貶めるつもりは無かった、申し訳ないと。誠心誠意を込めて頭を下げたのである。

医師たちは、その家族も含めて、これまた真っ青になった。

ーーおいおい勘弁してくれ、こんな子に頭下げさせたんじゃ、本物の悪徳医師になっちまうじゃないか。

性根を疑われた医師たちが妻や子供達から吊るし上げを食い、一時的な家庭内不和をもたらしてしまうあたり、マァムも幼かったのである。

 

マァムの実家で母親のレイラを交えて、話し合いの場が持たれた。

 

「いや、だからその、善意も過ぎると相手を恐縮させてしまうんだよ。私達が君に福祉事業の代行をお願いしたという事にしてくれると、こちらも助かるんだ。」

 

「わかりました…でも、コレは受け取れません。私は、対価が欲しくて困ってる人を助けた訳では無いんです!そんな物の為に教わった力を用いたと知ったら、アバン先生も悲しむわ…。」

 

ーーやめろ!お願いだからその、純粋な目でこっちを見ないでくれ!

居た堪れなくなった村医者達は、後はよろしくとレイラに目で告げ、その場を去った。一包みのお金を残して。

その袋の重みにマアムは、途方にくれてしまった。彼女の母レイラは苦笑いを浮かべて、半泣きになってしまった娘と語りあった。

 

「マァム、貴女の善意は素晴らしいものよ?でも、何事も一方通行は良くないわ。お医者様達がお礼をしてくれたんだから、それはちゃんと受け取らないと。

 

「でも、教わった力は人のために使うものでしょう?アバン先生は、その行いの中で慈愛を育め、と仰ったわ。こんな、商人の真似事なんて…。

 

マァムは悲しかったのだ。何で、ただ一言ありがとうとだけ告げて終わりにしてくれないのか。去り際の医師達は、悲しそうな顔をしていた。自分は確かに怪我した人を助けて、その場ではみんな笑顔になってくれたのに、何故こんなことになってしまうのか。

 

「そのお金は、お医者様達が貴女の善意に応えて用意した物よ。決して、貴女の行いを貶めるための賄賂では無いの。貴女はそれだけの事を成したのだから、悲しまずに微笑まなきゃ。貴女も、お礼を言った相手が悲しそうにしてたら、哀しくなってしまうでしょう?施しを授けるだけじゃなくて、相手からのお礼の受け方も勉強しないとね。

 

「でも、お金は人の心を狂わせるのでしょう?王都には、目の色を変えた商人が沢山いると聞くもの。私はそんな存在にはなりたく無い…。

 

「人も力も、根本から悪い存在は無いと教えたでしょう。お金も同じ。愛し方を知らないだけなのよ。……実際に見ないとわからないかしら?」

 

レイラはその日のうちに、マァムにその全額を、ネイル村の村長に届けさせた。しっかりと金額を明記させて、これはマァムのお金ではあったがその瞬間から、周囲の村も含めたこの地区共用の財産とさせる書面を作ってもらった。このうえで、薬を購入し配布する事にしか使わないという文章を付け加えさせた。

 

要は、医師達が拠出したお金を、薬購入と配布の為の基金としたのである。

 

マァムが周囲の村を回る際にはこの基金から必要な金額だけが引き出され、訪問先の村医師から薬が買われた。それがマァム自身によって別の村の住人達に手渡される。村単体ではそこまで需要が無いものであっても、複数集まると一定の量を成す。

当初は余り物を購入していたマァムも、そのうち各村でのニーズを把握し始めて、適切な薬を各村に適量配分することに成功し始めた。

 

こうして、マァムのボランティア活動を軸とした共助の輪が出来上がり、それはそれは喜ばれた。村医師達は、積極的にこの基金への寄付を行った。周囲の村々で自分の薬が喜ばれる上に、翌月には一周回った基金の担い手が、同額以上の薬を買い上げてくれるのだ。村長同士の寄り合いでも話題になり、さすがはレイラさんの娘だという事で老人達の眉尻を下げさせ、基金への拠出が上増しされた。

 

この頃にはマァムも心身ともに一回り成長していた。布の服は一回り小さくなり、少女から女性への目覚めを周囲に惜しげもなく見せつける事になった。しかしそうした思春期に入り複雑な思いを抱く筈の年頃になっても、本人は全く頓着することなく、相も変わらず周囲と分け隔てなく接した。

それがまた老人達の好評を買った。

 

「ちょっと待て、若い娘に護衛もつけずにそんな事させてるのか?!」

 

そうした非難がネイル村の村長にもたらされるのは、時間の問題だった。それはそうである。村々はお互いにそれなりの距離がある上、道中は無頼漢だけでなく、モンスターすら出没する魔の森に近いのだ。

 

「モンスターくらいなら、この魔弾銃でイチコロですよ!心配は無用です!」

 

見慣れぬ武器を誇らしげに抱えるマァムに、疑わしげな視線が向けられた。ただしネイル村の村民は、その限りではない。彼女の生地では周知の事実であり、せっかくだから近隣の村にもその恩恵を与えてあげなさい、ということで始まった彼女のボランティア巡業なのであるから、当然である。

 

じゃあその威力を見せてくれ、という要望は周囲の村の少年・青年達から出された。

彼らはある意味で、村医師以上にいたたまれない立場に置かれていた。結構物騒な巡業をさも当たり前のようにこなすマァムは、その苦労をまるで感じさせ無かったのだ。え?誰も手伝って無いの?という段になり、お前ら何やってんだよ、という非難はしぜんと、マァムの同年代の男の子たちに向けられた。

 

「ですから始めに言いましたよね!私はもともとこれが本職なんです!」

 

そんな職など冒険者以外に聞いたことも無いのだが。ともかくマァムは、実際に彼らの前でモンスターたちを討伐してみせた。

それからようやく、マァムやネイル村の皆が当初願った通りに、ことが進んだ。

 

彼女は定期的に村々での薬巡業をこなしながら、行く先々でモンスターたちをやっつけた。

何も無駄な殺生をする訳ではなく、怖くて遠回りせざるを得ない場所にいるモンスターを追い払うといったことが殆どである。

これが、結構な評判になった。

 

交通の円滑化は、ある意味で重要な事業そのものである。

彼女の評判は鰻登りに上がり、全く関係のないルートを辿って、冒険者ギルドにもたらされることになった。

 

そう、一時は、というより現在もアナキン・スカイウォーカーがその名を名簿に記したことを忘れてそのままにしている、国を超えた網を持つ組織である。

アナキンは結構な有名を馳せていたので、この時点で知り合っていればその後の不幸は訪れ無かったのだが…。

それはもう、どうしようもないことである。

 

「”荒らし”のアナキンの真似事を、今度は本当に無償でやるバカが現れやがった。」

 

厄介ごとを引き受けて糊口をしのぐのが、彼ら冒険者である。

この点アナキンも、生活費相当の報酬を確かに受け取っていた。周囲の冒険者達では討伐不可能なほどの上級モンスターを小遣い程度の金額でケロリと受けてしまうところから、相場と実力の二重の意味で”荒らし”なのである。余裕のある実力者達からはやっかみ半分、賞賛半分といった具合で受け入れられたが…。

 

どんぐりの背比べをしている食い詰め者達は、そうそう殊勝ではいられない。

彼らの肩身は、否が応にも狭くなった。殆どタダで大物を討ち取ってくれる冒険者がいるのに、この程度のモンスターに何でこんな金額を払わないといけないのか、と言われては当然いい気はしない。

 

しかしアナキンはまだ、冒険者登録をしていたので、ギルドが仕事を割り振るとかで対応が可能だった。

この点、マァムは完全なボランティアである。これは彼ら低級冒険者からしてみれば、悪夢以外の何物でも無い。

そもそも、冒険者ギルドに来る依頼そのものが減るのだ。

 

「マァムっていう、結構可愛い女の子なんだってさ。若いのによくやるよなぁ…。」

 

「遠方じゃアナキンとかいう凄腕の若造に、仕事全部取られたらしいからな。こりゃオレ達も危ういな!」

 

グハハハハ、と豪気な笑い声をあげていられる冒険者達は、自身がそれなりの実力を持ち、マァムには少し荷が重いモンスターを討伐できる実力を持ち合わせていた。差別化が自然となされているので、万が一顔を合わせたとしても仲良く談笑できる余裕があるだろう。

 

駆け出し冒険者だった頃のアナキンに比べれば、実際にマァムの成した事は可愛いものであった。何しろ遠慮というものをまるで知らない頃のアナキンである。モンスターの下級も上級も関係なしに、手当たり次第に破格の報償で狩って回ったのだ。青くも荒ぶる心がもたらした結果は、ギルドの秩序を短期的に破壊し尽くした。

 

半月も経たぬうちに、その地区の冒険者達全員が職にあぶれたのである。細々とした地元密着型の商店街で、グローバルサプライチェーンを持った多国籍企業が価格破壊競争を展した様なものだから、結果は悲惨なものだった。

 

これはいかん、と話し合いの場が持たれようとした。しかし貨幣価値を知らぬ少年はイチャモンをつけられたと勘違いし、その場の全員を袋叩きにしてしまうのである。後日、ようやく自分のやった事に思い至ったのか大人しく頭を下げに来た時には、それはそれは騒がしい復讐劇が巻き起こった。腕力ではどうしようも無いので、酒で勝負だという次元を超えた解決手段が取られたのである。

 

こうして、2週間+まる2日間、その地区の主戦力たる冒険者達全員が動けなくなるという事態を経て、彼らはようやく打ち解けたのであった。これ以降、アナキンは冒険者ギルドの用心棒的な位置に収まった。「こんなのは国の騎士団に頼めよ」という様な困難過ぎる依頼や、犠牲が出そうな上級モンスターの討伐パーティーに助っ人として参加する、という調整がなされたのである。

 

この点でマァムが共助の精神で成した無償事業は、自衛力のある集落ならば依頼はして来ないかな、というレベルの低い仕事である。それが一地域から消えたくらいのものである。それなりの冒険者にしてみれば単価が低いが数だけはある、つまりは有象無象の仕事がちょっと減るだけで、影響は無い。

 

つまりは、薬の輪巡業が始まる前に村医者が受けた影響の様なものだ。問題は、閉鎖的なコミュニティがモグリの村医者を排斥する自浄作用を持つのに対して、冒険者ギルドでは食いっぱくれる質の低い冒険者がそのまま放置されるという点であろう。

 

「…聞いたか、今の?」

「ああ。」

 

マァムの素性を聞いた低質な冒険者達は、色めき立った。

よくよく情報を集めると、妙な遠距離武器を使うという。

ならば接近して組み伏せてしまえば、後は生意気な女の子が残るだけというだけである。

しかも結構な上物らしい。

 

こうして、マァムの元には態度も口も悪い、ギルドでも白眼視される様な冒険者集団が訪れた。

彼らの思っていた以上にマァムは可愛らしく、そして甘ちゃんだった。身に迫った危機にすら、その得物を抜こうともしなかったのである。

 

「なにすんのよ!キャアっ!」

 

と、男達を狂喜させる黄色い悲鳴をあげた。

そして、見るだけで涎を垂らしてしまう程に見事に取り乱してみせた。

 

無知な少女に、手痛い教訓がもたらされた。

彼女はどうしてこんな事になってしまったのかと悔し涙に暮れ、嗚咽を漏らしながら身体に残る嫌な感触を水で清めた。

そしてこうひした被害に遭った女性の例に漏れず、周囲にその苦境を語ろうとしなかった。

 

 

 

 

 

 

その日の晩、悉く男として再起不能に陥ったならず者集団が直近のギルド施設に担ぎ込まれた。

目論見は見事に裏切られ、彼らの誰一人としてマァムに3秒以上は触れられなかった。彼女は接近してからが、真に厄介な存在であった。

 

タックルは悉く膝で合わされ。

よしんば背後からその豊満な肉体を抑えつけたとしても、容赦ない肘打ちに見舞われ。

万が一組み伏せるのに成功したとして、ありえ無い膂力と未知の体術で関節を破壊される。

 

不思議なことに、その間にもキャーキャーと悲鳴を上げ、挙句には悔し涙すら浮かべるのである。

 

何しろマァム本人が、よくよく意識してやっている訳では無いのである。

それはもう無意識に刷り込まれた、父親ロカの遺伝子だとしか言え無いであろう。

彼女は接近戦における、天性のスペシャリストであった。

 

世間知らずの田舎娘に"教育"を施すと目の色変えた下卑た男達は、文字通りに全滅させられるまで、自分達が何を相手にしているのか全く気づけなかった。眼前の仲間達の被害も何かの間違いだ、くらいにしか思わなかった。彼らの目は、少女の健康的な肢体と初々しい反応に釘付けにされていた。

 

バカなことしやがって、これに懲りて足洗えよという具合にしか受け止めなかったギルド支部であったが、次の日にはそのツケを払うことになった。

 

「私の娘がお世話になった様で。」

 

かの勇者アバンと冒険を共にした、元僧侶のレイラが現れたのだ。怒りに顔を歪めて。

マァムはその勝気な性格が災いして、一切何も語りはしなかった。しかし青い顔して布団に潜り込んだ娘の異常に気付かぬ母はいない。たった一晩で尻尾を掴み、この地に訪れたのである。

 

「やはりあの子には、この村は狭すぎましたか…。」

 

事情を聞いたレイラは、そう溢して去って行った。

 

彼女はそのままの勢いでネイル村の村長の家に乗り込み、マァムには薬の輪巡業を辞めさせることを伝えた。その役目はネイル村の若者に替わらせると。その際の迫力に、逆らえる者はいなかった。

 

レイラは悩んでいた。娘の器は、最早この界隈では収まらぬ程に大きな物になり始めていた。決して絶大な魔力や飛び抜けた戦闘力を持つ訳では無いが、その優しさがもたらす成果がレイラの力の及ぶ範囲から逸脱し始めたのだ。

 

マァムが男の子であったなら、彼女は迷いなく旅に出させたであろう。けれどもマァムは、大事な一人娘なのである。自分の目の届く限り、女の子としての幸せを教えてあげたかった。

 

まさかその前に、こんな悲劇に見舞われるとは思わなかったのだ。マァムの天然っぷりも大概なものだが、それは間違いなくレイラからの遺伝であった。彼女の場合には、明らさまに逞しい筋骨隆々の伴侶候補が若くから側にいてくれたから、こうしたバカな事が起きなかったのである。

 

「そう…。あの人達、私のせいで職を失ったのね……。私、どうしたら良いの?折角お医者さん達と二人三脚で仲良くやっていけると思ったのに…まさかモンスターをやっつけて、困る人が居たなんて…。お母さん、私は何を間違えたのの?」

 

娘の身に大事無く、その心も飢えたモンスターに噛まれた程度にしか揺れ無かったのは、不幸中の幸いであった。この事でマァムが女として身体に傷を受け、その心にトラウマが刻まれようものなら、レイラは発狂してしまったであろう。

 

何しろ、夫と娘と静かに暮らしたいという自分の願望が、すべての元凶になっているという事実に、彼女は苛まれた。

 

「違うのよ、マァム。貴女は何も悪く無いの。貴女の助けを必要としている人は、この村にもよそにも、沢山いるの。貴女は相応しい場所にいないだけなのよ。…ごめんなさい。」

 

娘は母が何故謝るのか分からず、そしてレイラは娘の今後を思い、深く嘆息するのであった。そして娘の放った言葉に、彼女の悩みはより深みへと到達するのである。

 

「じゃあさ、その無職の人達を雇ってあげられないかしら?私のかわりに、薬の巡業をやって貰うのよ。お医者様達と相談して、お給料も基金から出せる様になれば、その人達も困らずに済むでしょう?」

 

レイラは二重の意味で驚かされた。マァムの発想は、失業者を慈善事業に就かせるスキームとして、どこぞの国の宰相にでも売りつけたい程の物である。やはり間違い無い、より大きな世界にこの子は必要とされている。

挙句には、何をされかけたのか、分かってなさ過ぎる。女としての魅力を開花させ始めているのにも関わらず、その自覚が全く無いのだ。その側には、レイラを守ってくれたロカの様な存在すらいない。

 

――このままではこの子は、ダメになってしまう。

広い世界へ羽ばたつだけの器を持ちながら、女性としてあまりに無防備で、それを守ってくれる存在が居ない。これではとっちに転んだところで、マァムの才器は埋もれてしまう。

 

レイラは大きな危機感に苛まれながら、再びアバンに助けを求めようと思った。

 

――あの人はあの人で、とっとと収まるべき器に収まるべきなのだから……。

ことここに至っては、アバンを餌にして娘をカール王国に差し出すのはどうだろうかとすら、彼女は思い始めていた。マァムがこれまでに成した事といま言い出した事は、より大きな規模で実行しても無理無く回る筈である。いや、波及効果とスケールメリットが見込まれるから、国家主導で基金を拠出しても税収でペイする。宰相級の頭脳を持つアバンをセットで差出せば、王国としても諸手を挙げて受け入れてくれるだろう。

 

 

ジェダイと大魔導士の卵達が揃って訪れたのは、こんな状況にあるネイル村であった。

 

 

 

 





当初は魔弾銃+武神流=グラマトン・クレリックなマァムで行こうと思っていましたが……どうにもトリガーハッピーなマァムにしかなりませんでしたので、さすがにボツにしました。
マァムの原型すらありません。

ようやく最終戦までのプロットが完成しました。
今から思うと、クロコダインをマァムと取り違えるネタは、悪ふざけが過ぎました…。
原作でのクロコダイン戦でのポップの動きは完成度が高すぎますので、いっそギャグ展開にしてしまおうと思ったのですが…。
大まかな流れが出来上がりましたので、今後はこうした悪ふざけはなくなります!

次話でようやく、ポップとダイが正真正銘のマァムと出会いますが、その時にも少々クロコダインのことを引きずってしまいます。
どうぞご寛恕下さいませ。


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