理力の導き   作:アウトウォーズ

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ようやく、バランが本領発揮です。ようやくダイ大らしくなってきた…でしょうか。

どうぞ宜しくお願いします。



竜の騎士の親子 前編

 

 

 

ダイは心に直接呼びかけられたような気がして、ふと目を覚ました。

 

「マスター…‼︎」

 

思わず師に呼びかけた彼の額では、紋章が淡く輝いていた。

彼の本能が、身に迫る危機に戦闘態勢をとらせたのである。それに何よりも、直接的に心に語りかけられることで、ダイは危機感を募らせていた。

彼にはアナキンの声が、いつも通りの自信に満ち溢れている一方で、焦りを潜めていると気付いたのだ。

 

しかも伝えられたメッセージがまた、尋常ではなかった。

 

――竜の騎士と名乗る魔王軍の男が、そちらに向かっている。お前の動揺を誘って身内を騙るだろうが、気狂いの妄言に過ぎん。だが実力は確かだ、逃げろ。

 

 

 

 

 

 

 

ポップが親友を見咎めたのは、単なる偶然であった。

彼には考えるべき事があった。それはつまりは、これからの事である。マァムと何とか合流し、当初の目的は達成した。友人の師の言葉に従うなら、この場に留まるべきであろう。

 

しかし、彼にはどうにも嫌な予感がしたのだ。

 

何しろ、当初マァムだと思っていたあの怪獣王と、紛いなりにも事を構えてしまったのである。ここは既に安全ではなくなりつつある。そして更に悩ましい事には、ここを仮に立ち去ったとして、この地に残された人々の安全は保証されない。

 

「…まぁ、明日にでも相談するか。」

 

ひとしきり悩んだ後にそんな風に結論すると、彼は今まさにコソコソとレイラさんの家の戸を開いたダイと鉢合わせた。

ちなみにポップがウンウン唸っていたのは、ネイル村の広場である。どうしても寝付けずに、真夜中に起き出して来ていたのだ。

 

「ポップ!何やってんだよ、こんな遅くに。」

 

「お前こそこれから何するつもりだ?マァムに夜這いかけるなら、方向が逆だぞ。」

 

「?すぐまた難しいこと言うんだから…」

 

「…すまん、忘れてくれ。」

 

ポップはがっくりと項垂れた。ダイの歳の頃にはひとしきりそういう知識を身につけていた自分とは、まるで異なる反応である。この手の話題でからかおうとするのはもう止そう、と思うのであった。

 

「それより、一体何するつもりなんだよ。そんな物騒なモンまでしっかり握りしめるたぁ、穏やかじゃないな。」

 

ポップは何よりも、ダイの雰囲気に驚いていた。

その表情は、危機感に彩られている。こうして話していられるのが不思議なくらいに、緊迫感を漂わせているのだ。

 

その手に握りしめているのは、師に授けられたのだと自慢気に話していた剣である。ネイル村に至るまでに毎夜考え抜いて、名をつけていた。師の家名をとって付けたその名を…天空の剣といった。

 

そこまでしておいて、クロコダインとの対決の時には存在すら忘れてしまっていたのだから、動揺とは恐ろしいものである。

 

「ポップ、オレ…わかるんだ。とてつもなく厄介な奴が、オレを狙って近付いて来てるって。この場にいたら、皆を巻き込む事になる。…マスターが教えてくれたんだ。」

 

――コレがその、フォースとかいう力か。確かに便利な魔法だぜ。

 

ポップは頷いた。ダイはこう見えて、兄弟子のノヴァ並みに恐れを知らない。そんな彼が怯えているのだ。その予感がたとえから騒ぎに終わったとしても、自分はこの友人について行くべきだ。…少々、と言うよりも、かなり気がひけるが。

 

…元より、既にしでかしたこと以上のから騒ぎなど起こしようもない。どっしり構えていられるのは、いいものである。

 

「水臭い奴だな。1人で行くこたないじゃないか。せめて一言くらい、あってもいいだろう?

 

「綺麗事じゃ済まないんだ。ポップ…出来ればオマエも逃げてくれないか。コイツは次元が違う。しかも何となくわかるんだよ、こいつはオレだけを狙ってるって。一緒にさえいなければ、被害は無い筈なんだ。」

 

――そこまでヤバイ奴なのかよ!?

ポップは背筋が寒くなり、一歩後退った。彼は恐ろしかったのだ。ダイを怯えさせるその存在よりも、その言葉に素直に逃げ出そうとした自分が、である。

ポップは、自身に言い聞かせる様に言葉を紡いだ。

 

「バカ野郎…。まだ会ってからそうも経たないけどさ、そう言われてハイさよならじゃ、あんまりだろ?それに、約束はどうなる?お前はオレのこと、引っつかんでも逃げ出させなかった。おかげで凄い技も出来るようになった。今度はオレがお前を守ってやるよ。

 

「…いざとなって逃げ出されるのは精神的にクルから、逃げるなら本当に今のうちだよ?」

 

ダイがあまりにも見事に見透かすものだから、ポップは呆れ返るあまりに気が楽になってしまった。

 

「はいはい、天然だからって、何言っても許されると思うなよな。」

 

そしてポップは少し時間をもらい、レイラさんの部屋へと向かった。

その胸中に忍ばせたものを片手に。

 

「…夜這いっていうのをやるの?マァムじゃないの?こんな事してる場合じゃないんだよ?」

 

「…頼むからもう、それは忘れてくれよ。ケジメだよ、ケジメ。」

 

ポップはそう言いながら、レイラさんの部屋の扉の下に手紙をハサミ込んだ。ポップは小声で説明した。事情はどうあれ村に迷惑をかけたのだから、このまま立ち去るのはよくないと。

 

「なる程…。何て書いたの?」

 

「”ご迷惑おかけしました、ごめんなさい。ありがとうさようなら”ってだけだよ…って?!」

 

ポップは仰天した。

後頭部に冷たい金属を突き付けられているのがわかったからだ。よくよくその感触を探れば筒のような形状、つまりは大口径の銃口を象っていることがわかる。

こんなバカな事をするのは、あの暴力女に他ならない。

 

「お母さんの部屋の前で何やってんの?魔法使いクン。」

 

「…ホント、何なんだよオマエは…。」

 

ポップは呆れ返った。マァムの装備を見て、である。

彼女はトレードマークの魔弾銃の他にも、大きな背囊を背負っていた。まるでこれからどごぞへと赴く様な出で立ちである。

 

「お母さんと相談して決めたのよ。貴方達について行くって。正確には、私が貴方達をこの村から連れ出すんだけどね。」

 

この村では、ようやく善意の輪が巡り始めたばかりである。他所者の持ち込む厄災に汚されたくは無いのだと、マァムは言った。そしてその厄介者に情けをかけ、迷える道を共に歩むことが、アバンの弟子たる自分の役目であると。

 

――どうしてこうも、ノヴァみたいな奴に縁があるんだ。

 

ポップは明確な使命感を持つマァムの事が、正直苦手だった。可愛らしい外見には惹かれてならないのだが、何よりも息苦しい。この子にひたと見据えられると、自分の矮小さがさらけ出されるようで、居た堪れなくなるのだ。

 

そう、まるであの兄弟子の様に。

 

けれども、である。戦力としてどうかという話は、私情とは切り離して考えるべきものである。

 

「それなら話は早い。アンタが来てくれるなら、心強いよ。スグにこの村を出よう。」

 

 

 

 

 

村から離れ、ロモスの北を目指す。

鬱蒼とした森林を突き抜け街道を駆ける3人は、ダイの師であるアナキンとの距離を縮めるべく、ひた走っていた。

 

道中で、ポップはダイと出会う前後の経緯を、マァムに話した。本当はここら辺まで含めてレイラさんと話をしたかったのだが…。ダイの焦燥ぶりを見て、その道は捨てさった。そんな悠長な事は許されない。

 

ダイの顔色は、時間を追うにつれ蒼白になっていった。

 

「ダイ…もうここらで身を潜めましょう?貴方の様子、どう見ても普通じゃないわ。」

 

「マァム…出会ったばかりなんだ、巻き込むのは悪いよ。今からでも遅くない、ネイル村に戻ってくれないか。」

 

ダイは震えそうになる衝動を必死でこらえながら、マァムに告げた。意外な事にポップは喜んで同行を求めたが、ダイには手放しでは喜べなかった。

今言った通りである。初対面に近い間柄なのだ。

 

ポップとの口約束程の縁も無い。…もっとも、友人がその事に拘ってくれているからこそ、ダイはこうして仮初めの平静さを保っていられる訳である。掌を返されようものなら、闘気を全開にしてアナキンの元にスッ飛んで行ってしまうところである。

 

…もとい、こうして闘気を隠していても敵には看破される気がしてならなかったが。

 

「ダイ…こいつはコイツの事情で、オレ達と一緒に居てくれるんだ。感謝こそすれ、気遣いはよそうぜ。」

 

「その通りよダイ、私の事は気にしないで。何よりこのままま一晩中駆けずり回ってたんじゃ、イザッて時に何も出来ないわ。…それにアンタも、意外と見てるとこ見てるのね。」

 

「…お節介女に褒められても、嬉しかねーよ。」

 

ダイの心配を他所に、ポップとマァムは啀み合いすら始めそうな剣幕である。

 

――違うよ。2人ともまるで分かってない。

 

ポップもマァムも、厄介な魔王軍の重鎮に狙われているという自覚は有る様だが、ダイからしてみれば過小評価も甚だしかった。特にポップなんかは酷い。なまじ獣王との遭遇戦の際に新呪文など身に付けてしまったものだから、妙に自信をつけてしまっている。

いや、恐怖心を押し殺すために、意図的にハイになっている素振りすらある。

 

センスの無さにお墨付きを貰ったとはいえ、仮にもあのアナキンからフォースの導きを受けたダイには、分かってしまうのだ。

これから自分達が直面する事になる敵の、強大さが。

 

「このまま走り続けるのが、一番だよ。マスターと合流すること以外に、オレ達に出来ることは無い。」

 

ダイは青白い顔をしながらもキッパリとそう告げて、2人の視線の衝突に終止符をうった。

 

ポップの声は、掠れた。

どこまで見つめても絶望の光しか浮かべない目の前の友人の目に、気圧されていた。

 

「それは言い過ぎじゃないか?獣王の時とは違って、ちゃんとその剣を使うんだろ。オマエはアバン先生より強いストラッシュを使えるし、オレにはフバーハがある、おまけにマァムは遠距離からの回復までしてくれるんだ。そこまで怯える必要は無いだろ?」

 

――結構見所あるかも、コイツ。

 

マァムは少し、ほんの少しだがポップを見直した。フバーハというのはかなりの高等呪文だ。常ならハッタリと断じる所だが、この後に及んで大見得を切るということは、それなりに使いこなすのだろう。それに彼女は、チンケな男の吐く嘘が、直感的にわかる様になっていた。あの、低級冒険者達との出会いのせいで。

 

その事に加えて、ポップの言う通り、なるほど今のメンバーは確かに攻防のバランスが取れている。話半分に信じたとして、両親とアバン先生のパーティーにすらいい勝負できるかもしれない。

 

だが。

 

「…一時的には、堪えられるかもしれない。もし危ういと感じたら、本当に逃げてくれ。他人の心配してる余裕は無いよ…オマエにならもう、わかるだろ、ポップ。」

 

ダイが絶望的な声でそう告げると、ポップの手から杖が滑り落ちた。

彼は迫り来るルーラの光を見つめ、棒立ちになっていた。

 

その顔は、ダイ以上に蒼白である。

彼が咄嗟にルーラで逃げ出さなかったのは、何も勇気を振り絞ったとかそういう訳では無い。単純に、迫り来る膨大な魔力に圧倒されていたのである。

 

「何でお前がここに来るんだよ、バラン…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

マァムはフォースの事など知らない。

闘気や魔法の根本をなす概念など教わったことも無く、ポップの様にその妙技を又聞きした事すら無かった。

しかしそれでも。

 

いかに目の前に降り立った男が異常な存在かは、自身の震えが教えてくれた。

それはマァムにとっては、初めての経験だった。暴力的な男に対する嫌悪感だとか、自身の身体に走った生理的な不浄感だとかとは、程遠い感覚である。

 

生物としての本能が告げる、単純な恐怖感。

それが四肢の動きを妨げ、微動だに出来ない。

 

いや、それは何も彼女だけの事では無く、共に歩み始めた少年2人も同様であった。まして、フォースの道を知るダイと、カール王国にてその恐ろしさを思い知らされたポップの狼狽えぶりは、その比では無かった。彼等は、呼吸にすら困難を伴う程に、身動ぎ一つしなかった。

 

「そこを退いてくれないかしら?私達はこの先に用があるの。」

 

マァムは、いつぞや行ったモンスター退治の際と、まるで同じセリフを吐いていた。そうする事くらいしか、咄嗟には出来なかったのである。

 

「人間の小娘風情が、一端の口を聞くとは笑わせる。」

 

その男はせせら嗤うと、一歩踏み出した。

そして、たったそれだけの事で。

 

マァムの身体は一歩後じさった。全く意図せずに。それはもう、本能的な恐怖心に包み込まれていると言って間違い無いだろう。

 

「私こそ用がある…お前にな。」

 

その男は静かにそう告げ、ダイの目の前で立ち止まった。

 

ダイは、完全に気圧されていた。相手の実力は遠方からも嫌というほど思い知らされていたが、実際に相対するのとではまるで異なる。

それでも、彼は心までは屈せずに口を開いた。

 

「オマエは一体、何なんだ。オレになんの用だ。」

 

「我が名は竜騎将バラン、魔王軍超竜軍団の長だ。お前とは深き縁がある故、配下に迎えに来た。」

 

ダイは、生唾を飲み込んだ。

この男は、アナキンがフォースで伝えた通りのことを仄めかしてきた。

まるで悪夢のようだ。自分の身内らしき人物が、魔王軍に加担しているとハッキリ告げてきたのだから。

 

言葉すら返せないダイを見て、ポップが舌戦の口火を切った。

 

「…以前は世話になったな、バランさんよ。」

 

「誰かと思えば、尻尾を巻いた小僧では無いか。…お前があのスカイウォーカーという少年を呼んだのなら、それだけは好判断だったとほめてやろう。今回もとっとと失せるが良い。」

 

ポップは、バランが最後に少しだけ込めた脅しに、心の底から震え上がった。

どうしようも無いことが、嫌と言うほどわかるのだ。バランのいう事はまさしく然りで、今この場に踏みとどまることは全く意味を成さない。ダイにもさんざん推奨された、アナキンの下に助けを求めに走ることを、さっさと実行すべきなのだ。

 

しかし、バランの言葉は無情にも、ポップのその希望すら打ち砕いた。

 

「…もっともあの少年ももう、生きてはおるまいがな。私の部下も含めた4人の実力者が、無力化に動いている。あの獣王もそのうちの一人だ。さすがに凌ぎ切れんだろう。」

 

その瞬間、ポップの目の前は冗談抜きで真っ暗になった。

人間、あまりの心理的衝撃を受けると、誇張抜きでそうなるものである。ポップにしてみればあの獣王と同格の者を思い浮かべること自体が難しい上に、そんなのを4人も相手に対処する術など思いつきもしなかった。

 

そんな中で、唯一希望を失わなかったのはダイである。

 

――いや、マスターは確かに生きている。少し疲れてるみたいだけど、確かにこっちに向かうフォースを感じる。

 

彼はそして、このことをポップに伝えるようとして、思い留まった。

この中で、リリルーラを使えるのはポップだけだ。今の状態で増援の知らせに走ろうものなら、目の前のバランが確実に撃ち落とすであろう。こいつはそのくらい、平然とやる。それだけの苛烈さを秘めている。

 

タイミングは、慎重に見計らう必要があった。

 

「貴方はダイを迎えに来たというけど…ダイにその気は無さそうよ?機会を改めたら?」

 

ポップとダイが黙りこくる中で、対話の姿勢を忘れていないのはマァムだけであった。

 

――何呑気なこと言ってんだ、こいつが口で終わる訳無いだろう!はなっから実力行使を決めてるんだよ!

 

ポップなどは、軽い怒りすら込めてマァムを睨みつける有様である。

だがそのことによって、彼は少しばかりか冷静になるのであった。

 

「私とダイは、竜の騎士という希少な同族同士だ…。永らく離れていたが、こうしてようやく再開できたのだ。連れ戻そうとするのは、当然のことだろう?」

 

「…そうは思えないわ。」

 

その異様さを目の前にしながらバランを否定してみせるマァムの胆の太さは、天晴なものである。

ある意味で、ノヴァの不退の決意に通じるものがあるかもしれない。

 

実際に、彼女はバランに睨みつけられても、微動だにしなかった。

 

「貴様いま何と言った?」

 

「貴方の目からは、身内への慈しみがまるで感じられないのよ。モノ扱いしようとしているのが、透けて見えるわ。」

 

――あの悪質な冒険者たちと、同じ目つきよ。

 

さすがにそこまで言う勇気はマァムには無かったが、それでも彼女は一歩も引かなかった。

この男のやろうとしていることは、あの男達とまるで一緒だ。

その強引さがどんな不快な思いをさせるかを全くもって分からずに、自分の欲望だけを突き通そうとしている。

 

「ダイも、自分の意見くらいはハッキリ言ってあげなさいよ。こんな人に遠慮する必要は無いわ。」

 

こうして水を向けるところなんかは、見事なものである。

ダイはその言葉にようやく、アナキンすら認めた純粋なフォースをその身に、滾らせ始めた。

 

「マァムの言う通りだよ。ついて行くなんて冗談じゃない。アンタは…暗黒面に呑まれ過ぎている。アンタが魔王軍にいる時点で、オレ達に共通するもの何て無い。単なる敵同士だ。」

 

バランは怒りに目を滾らせ、その視線だけで見るものを殺しかねない勢いで言葉を紡いだ。

 

「あの少年と似たようなことを言うな…。まさかお前…。」

 

「そうだ、あのアナキンが、オレのマスターだ!」

 

ダイはそう言い放つと、ゆっくりと背中に負ぶった剣を引き抜いた。

師とその苗字から頂いた、天空の剣である。

 

ダイはその剣の持つ温かみに心の平静を取り戻し、そして額の紋章を爛々と輝かせた。この時の彼に、獣王との戦いの中で見せた遠慮や躊躇などは、微塵も無かった。その強大なフォースの揺らめきは既にアナキンのそれと同等であり、大地を震わせた。

 

「バカな…!」

 

その光景には、バランすらたじろぐ程であった。

竜の騎士としての成長を知る彼にとっては、ダイの紋章の力を初めて目にした時のアナキン以上の驚きがあった。通常、この年でここまで竜の紋章の力を操ることは出来ないのである。

 

それが可能だという事は、取りも直さずあの妙な力を持つスカイウォーカーがダイに同等の力を授けたという事である。

 

バランは瞬時に、戦闘態勢をとった。

つまりは彼も、紋章の力を発揮したのである。

 

「同じ紋章の輝き…?!」

 

マァムは仮にもバランが真実を語っていたことに、驚かされた。そして、こんな珍しい力を持つ者同士が、近い関係に無い筈がないことにも、すぐさま思い至った。

 

「ダイ、ちょっと待って!」

 

「オレと同じ力なら、一点に集中すれば撃ち抜ける!わかってるな、ポップ!」

 

「おう!今度は間違わねえぜ!」

 

しかし、マァムの静止はまるで用を成さなかった。

ダイは眼前の敵に集中していたし、ポップはポップで、敵の迫力に呑まれずに魔力を高めることに必死であった。

 

二人揃って、つい先ほどまでの動揺は微塵も無い。

ダイは完全に頭を戦闘モードに切り替えており、その彼の声が心に染み入ったポップは、生来の臆病な気質を友人との約束が包み込んでいた。

結果的にこの時の二人は、歴戦の兵もかくやという程の連携ぶりを見せた。

 

ダイは竜闘気をその剣先に、ポップは魔力をその指先に集中して、それぞれ最大の効果を発する技を同時に放ったのである。

 

「ストラッシュ!」

 

「メラゾーマ!」

 

ダイは持ちうる中で一番の威力を持つアバン流奥義を剣先の一点から撃ち、ポップは一番得意とする最大の呪文を、指先に魔力を絞り込んで撃った。

 

出力が上がったそれぞれの技は、まっすぐな直線を描いてそれぞれバランの身体に向かった!

 

どちらにも、並々ならぬ威力が込められている。

ダイには確信があったのだ。先のクロコダインとの戦闘において、自分の特殊なフォースは、攻防の両面において十二分な高まりを与えてくれた。その一方で、要所要所では、バカにならないダメージを負ってしまった。

つまりは、防ぎぎきれるダメージには限界があるのだ。

 

その時の経験が彼にもたらした知識が、今の戦法である。

 

如何に異様な佇まいのバランとはいえ、これでは…。

 

確かな手ごたえを感じて見つめるその先では、竜闘気を展開したバランが平然と立っていた。

 

「バカな!あり得ない!」

 

ポップが悲鳴を上げた。

今のメラゾーマは、デルムリン島でつかんだ感触を忠実に再現して、高い密度で放った。

高位の賢者が使うフバーハですら、貫通してみせる自信があったのだ。

 

それなのに…。

 

バランには、まるで効いていない。

 

ポップとて、竜闘気に関してはダイと同じくらいの分析を成していた。

それがこの様な結果に終わるとは、つまり…。

 

闘気の容量がダイとはそもそもからして異なり、見事に防がれた。

攻撃自体が、見切られていた。

 

のどちらかである。

 

いずれにせよ、実力的に隔絶した差があるということなのだ。

 

「…その年にしてよくぞそこまで竜闘気を扱ったと褒めてやりたい処だが…。相手が悪かったな。」

 

絶望が、彼等の心を包み込んだ。

 





やはりバランの登場シーンには、このくらいの絶望感が無いとダメですよね。
以前描いた時は、向かった先にひょっこり居る感じでしたので、拍子抜けもいいところです。

まだまだバランのターンが続きます。…というよりも、彼はずっとこんな感じですね。

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