理力の導き   作:アウトウォーズ

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ノヴァが戦闘します。

どうぞよろしくお願いします。


氷像

 

 

アナキンがヒュンケル達と剣を交える、少し前の事である。

 

「世話をかけたな。」

 

ーー危うくヒュンケルが使い物にならなくなる所であったが…。どうやら首一本繋がったようだ。

 

ハドラーは激昂したヒュンケルから受けた傷からようやく回復を果たし、ミストバーンにそう語りかけた。結果としてヒュンケルはより大きな暗黒闘気に目覚め、戦力として成長した。ハドラー自身もラーハルトに受けた傷をベホマで回復してしていた為、大魔王バーンの手を煩わせる事も無く戦線復帰を果たせる。スタンドプレーとしては上々の結果だろう。

 

ミストバーンは批判の言葉を飲み込んだようだが、それでも突き刺す様な視線は引っ込めない。それはそうであろう。

 

ハドラーは思わず、どうでも良い事を口走った。

 

「このザマで子孫を騙られたのでは、雷竜も浮かばれまい。少しは控えるとしよう。」

 

「…待て…それはどういう事だ…」

 

まさか反応されるとは思わなかったハドラーは、見事に面喰らった。

 

「なに、世迷い事よ。全く根拠のない話だ。忘れてくれ。」

 

「あの竜の死は確認済みだ…眷属も含めて生き残りは皆無…貴様が子孫である可能性など無い…」

 

本当に容赦の無い奴だな。

しかしミストバーンが雷竜を直に見知っていたとは、驚きである。ハドラーは興味を惹かれ、疑問を口にした。

 

「ボリクスとは、面識があったのか?」

 

「…魔軍司令の座は、元々はあのドラゴンの為に用意されたものだ…バーン様が直々に下拵えをなさり、お声をかけに向かわれた…」

 

ハドラー自身は鬼岩城で復活させられ、カーテン越しにしか相対した事が無い。それを考えると、自らあの御大が足を運ぶとは、なるほどなかなかの事態である。ミストバーンがそんな存在を忘れないのも、無理は無い。

 

「…その先は、聞かぬ方が賢いのだろうな。」

 

「…その通り、お前には資格がない…しかし敢えて話しておこう…」

 

そうしてミストバーンは、長々と昔話を始めた。この事はハドラーを、二重の意味で驚かせた。

まずは話の内容そのものが驚きであった。

 

大魔王バーンが雷竜ボリクスの元に赴けたのは、冥竜ヴェルザーとの戦いに敗れた後の事であった。それまでは、ボリクスの眷属達が一介の魔族であるバーンを近づけなかったそうだ。ついに果たせた対面が屍体で迎えられるとは、何とも皮肉なものである。

そしてものは試しにという事で蘇生呪文を試みたが、神の加護を受けていないバーンは成功しなかった。

 

しかしタダでは転ばない。

 

バーンの魔力はボリクスを骨と皮のみの状態で蘇生させ、ゾンビとして復活させた。その哀れな姿に、バーンは思わず恥じ入ったそうだ。

名誉の死を迎え、眠りについた誇り高い存在を生者の理屈で呼び戻すなどあってはならなかったと。バーンは、魂を振り絞って最大の魔力を注ぎ込み、亡き竜の魂をあの世へと導いた。

そう、この時に模られたのがカイザーフェニックスである。優美な形状と圧倒的火力に目が行きがちな技だが、その本質は魂そのものを焼きつくすところにあるそうだ。

 

この話を聞いたときに何よりも驚いたのが、こんな重要な情報をペラペラ…いや、正確にはボソボソと喋るミストバーンそのものに対してである。まあ、こんなのを知ったところで同じことが出来る筈も無いので、実害は皆無だろうが…。それにしても重要な情報が含まれているのは事実である。以前の彼からは考えられ無いことであった。

 

そもそもからして、屍体とはいえ最高位の竜の肉体を骨の欠片一つ残さずに蒸発させるなど、魂を消し去られるより恐ろしい事である。おまけにその際の威力が強すぎたため、仕方なくそれ以降は片手でカイザーフェニックスを撃つようになったそうだ。そうして幾周りかコンパクトな姿となり視認しやすくなったため、有名になっただの何だの…。両手で撃つメラゾーマはもはやメラゾーマじゃ無いだろう、という常識的な事を言う気分にはなれなかった。

 

「貴重な話を聞かせて貰った。礼を言う。」

 

ハドラーはミストバーンに対して、まずは正直な感想を告げた。

彼にはわかったのだ。これは魔影参謀なりの、ハドラーに対する気遣いである事を。ボリクスに対する幼い憧れを笑わずに、知り得る限りの情報を聞かせて貰えたことは、それだけで喜ばしい事であった。

 

しかし、何故にこんな話をしたというのか。

 

その事を問おうとした時、ハドラーはふと気付かされた。

そもそもコイツは、一体いくつになるんだと。若々しさや生命力とは程遠い存在な分、全く気にしなかったが…魔族として見ても相当なジイさんな筈だ。

 

「歳か?」

 

とはさすがに言い出せず、ハドラーは大人しくアバンのもとへ向かうのであった。

魔影参謀に伴われて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アナキンによりアバン流の極意を強引に授けられたノヴァは、必死になって瞑想を繰り返していた。

果たしてアバン先生は無事なのか、また師を失うことになるのではないか、そうした余計な事は、一切考えなかった。彼は、勇者からの教えを忠実に守っていた。学べる限りを学べ、そう言われてカール王国を旅立ったのである。

 

とんぼ返りする事になるとは思わなかったが、移動時間すら学びのために費やさねば、師の期待を裏切ることになるのである。

 

今は耐え、ひたすらに自身の牙を研がなくてはならない時である。

 

ノヴァの目的地たるカールの地では、大きな闘気のぶつかり合いが感じられた…。

 

 

 

 

 

 

勇者アバンにとって幸いだったのは、破邪の洞窟が敵に露見する前に交戦に入れたことだった。

単身そこへと向かう途中で、接敵したのである。お引き取り願いたいことであるが、洞窟を目前にする前に相見えたことは、僥倖といえた。

それ以外の要素はすべからく、逆境を構成している。

 

「最後に戦ったのが地底魔城だから…およそ15年ぶりか。随分と差がついたものだな、アバン。」

 

魔軍司令ハドラーの言葉は、返答すらもたらされずに、虚しく響いた。

アバン・デ・ジュニアール3世は、地に伏せていた。

 

無理も無いことであった。

以前に相対した魔王とはまるで異なる男が、そこには佇んでいた。

 

「以前は魔物の軍団を連れていた貴方が…今はそこの彼と二人きりですか…。お互いに色々とあった様ですね。」

 

穏やかにそう告げるアバンの必殺技は、全く通用しなかった。

以前の魔力とはまるで比較にならないイオナズンに押し切られ、アバンの全身からは煙が立ち上っている。

 

彼が負った傷は、それだけに留まらない。大地斬はヘルズクロー、海破斬はメラゾーマでそれぞれ破られて、凄惨な結果がその身に刻み込まれていた。

 

「先に言った通りだ。今のオレは、大魔王バーン様の下で動く一軍人に過ぎん。挙句にはこの通り、任務の達成を疑問視されて、監視役まで付けられる始末だ。…笑いたければ笑え、これでは使い魔以下だ。」

 

自身を卑下する彼の表情に、後ろ暗さは皆無である。

 

――その通りですね、笑い出したいくらいですよ。

 

人格そのものが変わってしまった嘗ての魔王の姿に、アバンは頬の筋肉を緩めた。それは嘲りとは程遠い、親愛にも似た表情である。一体何があって、貴方は復活を遂げたのか。そしてそんな顔をするようになるまでに、どんな道を辿ったのか。

 

アバンとしては、ゆっくりお茶でもしながら話し合いたい気分であった。理想としては、崇めるフローラ様に同席してもらってもいいくらいだ。女王として、これ程の精神性を備えた魔族と会っておく事は、何物にも代えがたい経験になるだろう。

 

「確かに、お笑い種ですね。」

 

アバンは膝に力をいれながら、ゆっくりと立ち上がった。

 

「魔王ハドラーが、復活して目の前にいる…。以前よりも強大な力を身につけ、より邪悪な大魔王バーンの配下に成り下がっている…。貴方はまさしく、私が倒さねばならない相手です。しかし…今この場に限っては、全くその必要性を感じ無い。」

 

「何を腑抜けたことを。」

 

ここに至って、ようやくアバンの目には、在りし日のハドラーの面影が浮かんで見えた。

あの頃に通じるものがある、激しい闘争本能…。しかしそれすら、見る影もなくなっていた。以前は、自分と同等クラスの者にしかそうした表情は浮かべなかった筈だ。それが現在はどうか。

 

ここまで格下の相手を前にして尚、蘭々と滾らせているではないか。

 

「以前の貴方は、自分とそれ以上の者に対してしか、敵意を示さなかった…。それ以下の者には、まるで関心を示さずに部下に殺させていた。それが今やどうですか。これほど実力で下回る私に対して…貴方は敵意を剥き出しにしている。その真根には、思わぬ力を発揮するかもしれない私への期待がありますね。信頼と言ってもいい。敵を信頼することを覚えた魔王は…。もはや魔王とは呼べません。」

 

負け惜しみではないがアバンは、命を賭ける気にまではなれなかったのだ。

ハドラーはいきなり姿を現わすや否や、かつての敗北を濯ぐべく再戦を申し込んできた。

 

しかも、軍団を率いてではなく、魔軍司令ハドラーとして一対一で決着をつけたいと。

 

もちろんそんなバカな話が組織として許される筈も無いので、物言わぬ影法師を伴っていたが。

その男にしたって、いくらでも突ける隙をここまで放置する有様だ。

 

これは一体、どういうことなのか。とんだ茶番である。

 

「貴様…、理屈をゴネて全力を出さんつもりか?!オレを倒したストラッシュの一撃は、こんなものではなかった筈だぞ?!さっさと本気を出せ!」

 

「15年前の貴方は…確かに命を投げ打ってでも倒すべき相手でした。今、あの時の様にモンスターの軍団を引き連れてこの場にいるのならば、私は再びこの身を武器にかえて、貴方を討とうとするでしょう…しかし!」

 

アバンは毅然として言い放った。

 

「今の貴方は、魔族のハドラーだと言った!だから私も、一人の人間のアバンとして向き合いました!そしてもう、勝負の行方は見えた筈です!慢心の無い貴方には、無刀陣すら看破されてしまった!…ここまで言われても、まだ納得できませんか?決着も何も、もう既についているのですよ。完敗です。貴方の勝ちですよ。」

 

こんなにも堂々と敗北を宣言できるのは、世の中広しとはいえ、この男くらいなものであろう。実際にバランに敗北したアナキンなどは、言葉も持てぬ有様であった。

 

そしてハドラーからしてみれば、侮辱にもほどがある言葉であった。こんなバカな宣言があるかと。

 

「貴様、まだまだ痛めつけねば実力を見せぬと言うのか!」

 

「…そんな脅しをかけてくる時点で、貴方とこれ以上ことを構える気が失せましたよ。…以前の貴方なら、言葉より先に手が出た筈です。もう、わかっている筈だ。貴方は雪辱を果たしたのです。」

 

ハドラーは、興味が失せた様な目でアバンを見つめ、やがて拳の鉤爪を収めた。

蘇ってまで打ち倒したかった筈のアバンは、ここには居なかったのだから。

 

「ハドラー、貴様…」

 

すると、影法師がようやく口を開いた。ハドラーは彼に対して、有無を言わさぬ口調で言い放つ。

 

「アバンは既に重症だ。後は煮るなり焼くなり、好きにするがいい。そのためについて来たのだろう?…バーン様には、オレから申し開こう。結果も覚悟の上だ。」

 

さてさて、とばかりにアバンは剣を構えた。

一難去ってまた一難、とはまさにこれである。口先で丸め込んだつもりは毛頭ないが、この影法師はハドラーほど高尚な相手ではないだろう。そしてハドラーの彼に対する態度を見るに、この男…?もかなりの腕の持ち主だ。

 

アバンは隙を見て逃げ出すつもりであった。この男達が二人揃って目の前にいる以上、勝ち目はない。もとい別々に相対したところで、勝ち目は薄い…というより皆無なのだから。

 

その男の右手が、どういう理屈か鋭い刃を模った。

鋭い音を立て。

 

アバンの目線がそこに集中する。

 

よって、左手の動作に対する警戒が薄れた。

 

その次の瞬間。

 

突如として、空からノヴァが降ってきた。

その手に、アバンが使用を禁じた闘気剣を眩いばかりに光らせて。

 

「ノーザン・グランブレード!」

 

彼は、本気であった。

 

全力で、影法師の男の左肩から先を断ち切るつもりで、技を振るっていた。

 

その威力を見れば、アナキン・スカイウォーカーに彼の身を預けたアバンが如何な慧眼の持ち主か、わかろうというものである。

 

影法師…ミストバーンの左手の4指を使ったブレードは、一瞬で叩き折られてしまった。直前までビュートデストリンガーを放とうとしていた小指は、反応が間に合わなかったのだ。

しかしすんでのところで差し込んだ右のブレードで、なんとか事なきを得ていた。

 

「何者だ貴様。」

 

この後に及んでまで口を開こうとしないミストバーンに変わり、ハドラーが誰何した。

 

「ノヴァ…アバン先生の弟子だ!」

 

消沈していたハドラーの顔に、血の気が巡った。

つまらん横槍だったら即座に消し飛ばすつもりであったが、これは面白い事になった。

 

「フハハハハハハ、お互い変われば変わるものだな、アバン!貴様、このような隠し球を持っていたのか!」

 

「おやめなさい!」

 

大声を上げるハドラーに、色を成したアバンが剣の切っ先を向けた。

 

「事情が変わりました。要求通り、命を賭してお相手しましょう。」

 

「いいや、悪いがその申し出は却下だ。この小僧をオレに相手させたく無いようだが、どの道変わらんぞ。この男に刃を向けておいて、命があろう筈もない。ならばこのオレの手で叩きのめし、嫌が応にも貴様の全力を引き出してみせるぞ!」

 

アバンは、急展開を迎えたまさかの事態に、必死で頭を働かせた。

まさかアナキンに同行させたノヴァがこの場に戻ってきてしまうとは、予想外の事であった。この子の頑固さは、折り紙付きだ。絶対にこの場から逃げ出すようなことはしないだろう。

 

かくなる上は、彼も覚悟を決める必要がある。

 

しかし、師の心弟子知らず、とはよく言ったものである。

 

「…ボクの相手はオマエだよ、この雨合羽ヤロウ。」

 

ノヴァが、聞いた事も無い様な殺気を滲ませた声でミストバーンに言い放った。

 

「…面白い…。私の殺気に反応したのは、マグレでは無い様だ。悪くない反応だ…」

 

この言葉に一番驚いたのは、ハドラーその人である。

 

----今、こいつは何と言った?

 

面白いだと?そんなのは、あの生意気小僧ヒュンケルを見つけた時以来の言葉ではないか。おいおいまさか…。出立する前に言っていた素体が、この小僧に務まるとでも言うのか。

 

「ミストバーン、その小僧の相手をするつもりか?」

 

ハドラーは確認した。顔に暗い影を浮かべながら。

 

「…存分に。身の程を思い知らせてくれよう…」

 

その言葉を聞き、アバンも悟るのであった。まだ、ハドラーが相手してくれた方が命までは取られなかったであろうことを。

 

全ては後の祭りであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ノヴァは、ミストバーンと呼ばれた雨合羽人間を、ギラリと睨みつけた。

彼は、この男がしようとしたことを上空からしっかりと見ていたのだ。

 

「オマエ、先生に何をしようとした?」

 

返事はない。どうやら、敵に対して語る言葉を持たぬらしい。

 

「答えられなくても聞くぞ。なぜ、敵意の無い先生に、刃を向けた!この卑怯者!」

 

…まだまだ青い…

 

ミストバーンは砕かれずに残った自身の左小指を高速で引き伸ばし、ノヴァの右目瞼に向かわせた。

これが、アバンに対してやろうとした事だ。

 

思い上がった子供をあやすには、少し過ぎた技だったかもしれない。

 

けれども、ミストバーンの期待は良いように裏切られた。

 

「舐めるなぁ!」

 

ノヴァは闘気剣を一閃すると、研ぎ澄まされた一撃でビュートでストリンガーを打ち払った。

ヒュンケルに比べれば荒削りも良いところだが、なかなかの剣速である。

 

…やはりそれなりのものを秘めていたか…

 

「…どれ。足掻いてみせろ…」

 

ミストバーンは、ローブの下で嗤った。

 

彼はまず、右手からビュートデストリンガーを放った。人差し指を用いて、倍の速度で撃ち込む。

 

ノヴァはこれに対しても、何とか対応してみせた。

再び闘気剣で、直に切り裂いたのだ。

 

だが、間隙を与えずに襲い来る鉤爪の嵐に、彼は防戦一方に追い込まれた。

怒涛の攻撃の前に、ノヴァは防いでいる感覚すら失っていった。

 

----防げてない。そうさせられてるだけだ!

 

敵の思い通りに剣を振らされ、技を強いられ、傷を負わされる。

 

雨合羽は、その場から一歩も動いていない。

これに対してノヴァは、足運びにすら限定をかけられていた。手足の動きから闘気の発動に至るまでの全てを読まれ…いや最早、その全てを操られていた。

 

ノヴァには、この男の何もかもが謎だった。唯一窺い知れたのが、ローブの下に細い鎖状の硬体を忍ばせている事くらいだ。それをまるで伸縮自在な指の様に扱い、攻撃してくる。

 

その硬体鎖の長さと量が、これまた尋常じゃあない。剣で切り裂こうが絡ませようがものともせずに、次から次へと引きずり出しては無造作にけしかけてくる。ノヴァが叩き切った鎖状物体の分量だけでも、相当なものだ。

 

どれだけの重量をその衣の下に穿いているというのか。自身の身を守る鎧として巻きつけてでもいるのだろうが、重装備も良い所である。怪しげな魔法使いそのものといった格好をしている癖に、全くそれっぽく無い。戦士ですら、これ程ガチガチには固め無いだろう。

 

「成る程…基礎的な身体能力は、ヒュンケルにまるで及ばないな。」

 

明らさまに値踏みしている様を見せつけられ、ノヴァはキレた。

 

ーー機を伺っていれば、いい気になりやがって!

 

「大地斬!」

 

ノヴァは覚えたての技を、その時初めて使用した。練習も何も、イメトレしかして無いのだ。下手すれば不発に終わる可能性すらあったが、ノヴァは躊躇わなかった。そんな暇は元より無いのである。

 

カール王国を出発する前にアナキンに聞いた所によると、アバン流では最初期の訓練技に位置するそうだ。実戦でもかなり使えるから、真っ先に教わるのだとか。

実際にアナキンのやり方を見た限りでは、技としての難度は高くない。

 

攻撃が命中する瞬間に闘気を爆発させるだけだ。しかし…アナキンは闘気…というよりは、フォースと言うものが薄い所を狙って放っていた。あの男が最小限の力で地面すら割り裂いた秘訣は、そこにある筈だ。地面にも闘気があるなんてことは、あの瞬間に知ったばかりである。そんな高度なことが、今の自分に出来るのか?

 

――いいや、一見しただけとはいえ、初歩技を使えずにまごつく不名誉を晒すくらいならば、いっそ散ってやる!

 

そうして放たれたノヴァの大地斬は、ビュートデストリンガーの片腕分、つまりは5発全てを一撃で吹き飛ばした。

 

「…流石はアバンが庇おうとした弟子だ…闘気の扱いは、天性のものがある…」

 

そこからは、さらに一方的な展開となった。もはや嬲り殺しである。

この雨合羽人間は、一体どれほどの謎を秘めているというのか。ビュートデストリンガーの速度は更に上を行き、倍加していた。

 

最早、闘気剣の剣技だけでは捌き切ることは不可能であった。

 

「くっそ、海破斬!」

 

ノヴァは、逡巡の暇すら与えられずにアバン流最速の剣技を使用させられた。この技は先の大地斬とは違い、実質的にも闘気弾と剣術の複合技だ。自力で編み出した技の完成版を提示して貰っておいて、出来ない筈が無かった。

 

だが、それを用いてすら次々に傷を負わされた。

右手、左手、右足、左足…その気になればいつでも必殺の一撃をもたらせるのに関わらず、全身に隈なく傷跡を刻まれる。

そう、それは先ほどのアバンの様に。

 

ノヴァの身動きは、とうとう精彩を欠き始めるに至った。

 

…そろそろ終いにするか…

 

ミストバーンが右手を翳すと、暗黒闘気の細い糸がノヴァの全身に絡みついた。

いよいよ魔影参謀ミストバーンが、その肩書きに相応しい秘術の一端を晒し始めたのである。闘魔傀儡掌という技だ。

物理攻撃への対処で手一杯になっていたノヴァは、成す術もなく身動きを封じられた。

 

ーーコイツ、相当に陰険な野郎だな!

 

今迄の鎖状の何かの攻撃といい、相手の身動きを封じる技に長け過ぎている。

ノヴァは絡みついた暗黒闘気の糸の頑丈さに、相手の秘めたる実力以上の何かを感じ取っていた。じわじわと手傷を負わせてくるやり方といい、まるでこちらの肉体に恨みでもあるかの様な戦い方である。

 

そして、対抗手段ならば一つしかない。

 

「空裂斬!」

 

これこそが、まさしくぶっつけ本番の技であった。

つい先日まで成功しなかった技なのだ。イメージトレーニングでは完璧だった大地斬や空裂斬とは異なり、全くもって強気に出れない。

ギリギリまで追い詰められたこの精神の高まりをもって、放つしか無かった。

 

そしてそれは、何とか技としての形を成し、見事に闘魔傀儡掌の糸を断ち切った。

 

「…素晴らしい…」

 

ノヴァが土壇場で見せた闘気の輝きに、ミストバーンはローブの下で微笑みを浮かべた。

もとい、この男に表情などあろう筈も無かったが、もし唇があればそれはそれは満足げな笑みを浮かべていただろう。

 

ノヴァはもう既に、卒倒寸前の体である。

今この矮小な身体を支配しようとすれば、いとも簡単にそれを成すことが出来る。

ヒュンケルの肉体のスペアとしては不足も良いところだが、この個体の闘気の素養には目を見張るものがある。暗黒闘気に染め上げた上で支配すれば、暗黒闘気を極めることに役立つであろう。

 

…是非とも手に入れたい…

 

初めて欲望を剥き出しにした闇の闘法の達人は、これ以上の手傷を負わせずに相手を封じる方法を探した。

傀儡掌が破られてしまったのは嬉しい誤算であったが、これ以上の暗黒闘気技では素体の命が危うくなる。

 

暫しの逡巡の後に、それは思いもよらぬ方法でもたらされた。

 

「マヒャド!」

 

ノヴァが最上級の吹雪呪文を放ったのだ。

 

これはミストバーンにとっては、まさしく奇貨であった。

常人ならばその威力に全身の動きを封じられるところであるが、暗黒闘気を極めた者にとってはこの程度の魔力では足止めにもならない。

それどころか…。

 

半端な力は、自らの身を焼くことになる。

 

ミストバーンはノヴァのマヒャドを丸ごと、自らの衣の中に招き入れた。そして暗黒闘気で包み込むと自身の魔力を注ぎ込み、威力を増幅して打ち返すのであった。

 

まさかこんな返し技をされるとは思っていなかったノヴァに、これを防ぐ手段は無かった。

 

「嘘…だろ…?」

 

一瞬の逡巡が命取りとなり、彼は一瞬にして氷像と化してしまった。

小指一つ、全く動かせない。

 

最上級の氷雪呪文ではあるが、ノヴァの魔力ではここまで見事に敵を封じ込める込めることはできない。

それなりの闘気を込めれば、内側から打ち破ることはできた。

しかし、今回ばかりは事情が異なった。

暗黒闘気とより上位の魔力を上乗せされ、最早別物と化した技を喰らい、ノヴァは身動きはおろか意識までその氷の中に閉じ込められようとしていた。

 

そうして次第に、彼の意識は暗闇へと引きずり込まれていき…。

 

後に残されたのは、見込んだ素体を手に入れ満足げな様子のミストバーンであった。

手を伸ばし、暗黒闘気の秘術で鬼岩城へと転送しようとする。

 

そこへ。

 

闘気の奔流が襲いかかった。

 

不意をつかれたミストバーンは、その技を大きく回避する事しか出来なかった。いや、命の輝きをそのまま削り取ったようなその一撃は、最早彼の秘術をもってしても弾き返す事は至難だ。

それ程までに、絶大な闘気流であった。

 

この場で彼に向かってそんな事をしてくる人物は、一人しかいない。

 

勇者アバン、その人である。

 

 

 

 

 

 

 





ノヴァ君、ゴメン。今回のキミは、完全な前座なんだ。

だからロモス→カールの大移動ルーラ+必殺技で、衣の下の右腕に傷を負わすとか、話の流れ的に出来ないんだよ。それやっちゃうと脱ぎ始めちゃう人に殺されちゃうから、魔法力が枯渇寸前だったという事にしてくれ…。

それにこの後、将来的に相手する事になる奴がとんでもない事になるから、見なくて正解だったと思う。

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