理力の導き   作:アウトウォーズ

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成長

竜の騎士バランはダイの記憶を完全に消し去ると、その場を後にした。

 

「その子の記憶を取り戻させたければ、竜の騎士の所縁の地を訪れよ。」

 

ダイを残して立ち去ったのは、おそらく絶望を植え付けるためだと、アナキンは分析していた。

知己の者に知らない人扱いされるのは、実際に経験してみるとかなりクルものがあった。

 

こちらの動揺を誘い、放り出させようとでもするつもりなのであろうか。

 

実際に、ポップの負った心の傷などは酷いものであった。

アナキンも心技体の全てにおいて敗北を喫したことに蒼白となっていたが、ついに見兼ねて彼を遣いに出した。

 

世話になるネイル村で大騒ぎされても事なので、強力な援軍を呼びに行ってもらったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

アナキン・スカイウォーカーは一人、前世において師と二人がかりで挑んで敗れたドゥークー伯爵のことを思い出していた。

あの時も、気が狂いそうなほどの怒りに囚われた。ライトセーバーの腕でも、フォースの強大さでも、完膚無きまで打ち負かされたのである。

 

新たな生を得てまでこんな思いをする事になるとは思わなかったが…。

 

「まぁ、あんな化物相手では仕方のないことだろうな。」

 

「お兄ちゃん、何言ってるの?」

 

「いやいや、気にするな。オマエの親父さんにビックリしてしてしまったんだよ。お化けみたいに凄い人だった。」

 

「ふうん…」

 

見事なまでに精神的に逆行したダイをあやすアナキンの心は、晴れ晴れとしていた。

 

良くも悪くも、攻撃力云々で後ろ髪を引かれていた暗黒面への誘惑が、解消されたのである。

もはやバランは、ダークサイドの攻撃性ですら及ぶのか危ぶまれる次元に位置している。本気でシスに転向してその道の訓練を積んでなんとか、といったところか。アレは最早、ホラ話だと思っていた古代シスのレベルにある。辿り着けるかどうかすら怪しいものである。仮にそうなれたとしてその結果、あれ以上の化物に変貌される可能性が…いや、恐らくはそうなる。もはや、同じフィールドで勝負を挑むのは、アホらしくてやってられない。

 

ジェダイなら、別な道を探すべきである。

 

何よりも、あの傑物にはこっちの道へ戻って貰わねばならない。

あのドルオーラとかいう大技で打ち倒した巨悪の事を、詳しく語って貰わねばならぬ。まだ見ぬ大魔王バーン並みに厄介な相手だったのであろう、頭を取っだからと言ってその軍団が瓦解するとは限らないでは無いか。残党が跳梁している可能性は無いのか?主要幹部は全員討ったのか?シスの様に強力な弟子を育てていたりはしないのか?

そういった諸々を確かめなければならないのである。

男は黙ってを地で行くにも、限度があるだろう。

 

力押しでねじ伏せるのでは無く、かつてルークが父たるアナキンにしてくれた様に、彼自身の心でダークサイドから足を洗って貰わねば、ジェダイとしては失格であろう。

 

そもそも、フォースとは、ジェダイとは。

 

「知恵と防御のためか…やれやれ、敵の正体すら見抜けなかった半端者には、道は遠いな。」

 

アナキンは、呑気にもダイの頭を撫でながらそう呟くのであった。ちなみにその右頬は、見事に腫れ上がっている。

改めてとマァムと自己紹介し合った際に、一悶着あったのである。

 

それはさておき、アナキンはバランについて、完全に思い違いをしていた。あの男は、既にどこぞの王家に迎えられるくらいの功績を打ち立てている。コソ

 

「何呑気なこと言ってんだよ!」

 

バァン、と扉が跳ね除けられ、肩で息をするポップが現れた。

 

ーーおいおい、人様の家なのだから、もっと大事に扱わないと。

 

アナキンは、蝶番が外れかかった扉を見ながら、ため息をついた。昨晩のポップの取り乱し具合は、それはもう酷いものであった。少しは気分が晴れるだろうと思い、デルムリン島に行かせたのだが…昨晩のままである。

 

「お前が言う援軍って、コレか?コイツが、万軍に匹敵する神秘の結晶だとぉ?!オチョクルのも大概にしろよ!」

 

そう言ってポップが遥か彼方のダイの故郷から連れてきたのは、彼の両腕に抱きかかえられた、フォースの結晶体である。

見た目的には、ゴールデンメタルスライムというレアモンスターらしい。アナキンにとっては、フォースの輝きが強すぎてよく見えないくらいなのだが…。

ダイやポップにとっては、羽根つきの黄金スライムに見えるらしい。

 

「ピピー!ピ、ピ!」(失礼な!いきなり呼び出して、何なのこの扱い!)

 

「申し訳ない…。聞く耳持たない状態だったんでな、とりあえずブラスさんに手紙だけ渡すように頼んだんだ。」

 

「ピピ!ピーピー?ピ!」(そんな無責任な!ポップったら、ここまで来るまでずっと不機嫌だったんだよ?ボクの身にもなってよ!)

 

「そうだったのか…。おいおい、ポップ。R2に不快な思いさせるなよ。」

 

「ピピー!」(何その変な名前!)

 

アナキンは、前世でのアストロメックドロイドとのやりとりを思い出しながら、心が洗われる様な感覚を覚えた。かつての相棒の電子音みたいな鳴き声だから、そのまま呼んでしまうくらいである。

それを見たポップのボルテージは、上がるばかりだ。デタラメな一人芝居するなだの何だの騒いでゴメちゃんに事情を説明した後に、ようやく本論に入った。

 

「だから何で、ゴメがこの状況で役に立つんだよ?」

 

「…オマエはもう少しセンスがある様に見えたんだが…コイツの凄さを見破れないようでは、二流止まりだぞ。…まあいい。ダイの記憶を戻す手伝いをしてもらうんだ。」

 

「ピ、ピピィ…」(そんな事、ボクには出来ないよ…)

 

経緯を知らされたゴメは、力無く涙を流していた。ダイに他人扱いされた事が、よっぽどこたえたのだろう。その姿を見ては、さすがにR2とは呼べなくなってしまう。

 

「ああ、おまえは何もする必要ないよ。ただ少し…、おとなしくしててくれ。ちょっと熱くなるかもしれないが、我慢してくれよ?」

 

「ピピィ…(痛いのはヤダよぅ…)」

 

「大丈夫だって。」

 

「アナタの大丈夫は人様の大火傷な気がするから、気をつけてよ。」

 

「もっと言ったれ、マァム!」

 

アナキンはそうした野次には反応せず、ゆっくりと目を閉じた。

 

さぁ、反撃開始だ。

バランは、致命的なミスをやらかした。ジェダイの目の前で秘術を用いるなど、技を盗めと言ってる様なものである。ダイを大人しく連れ去ってから煮るなり焼くなりすればよかったものを、わざわざこちらに見せつける様に行うなど、傲慢にも程がある。

 

周囲に緑色の光が立ち込め、ポップもマァムも、思わず息を飲んだ。

 

そして…。

 

「うわぁ…何かスゴイ光ったね、今。」

 

ダイの様子に、まるで変化は無かった。

 

ーー失敗…か?

 

絶望感に包まれたポップが目をやると、そこにはニヤけ顏のアナキン・スカイウォーカーが妙にハイな表情を浮かべていた。

 

バッチリ目があって別なことを閃きやがったと悟ったポップは、昨日からカウントして最大の怒りに襲われた。

 

「おっ前!昨日から何なんだよ!さっさとやる事やれよ!」

 

「いや、これ以上無い機会だと思ったんだ。コイツの心は今や、精神逆行の影響で極めて純粋な状態にある。つまり…ジェダイとして仕込む上で、この上なく望ましい状態にあるんだ。この際だ、私がこのまま基礎から育て上げたい。記憶のある状態では、最早不可能な事だったからな…これはひょっとすると、とんでもなく化けるぞ。」

 

アナキンの脳裏に浮かんだのは、長期的なプランである。

ダイをこのまま3歳児くらいとして扱い、5・6年かけてジェダイの基礎的なトレーニングを積ませるのである。ジェダイの弟子、パダワンとしての正道を歩ませるのだ。出会った頃のダイも、アナキン自身も、そして彼の息子たるルーク・スカイウォーカーなどはその極地なのだが…、彼らは皆、ジェダイとしての訓練を受けるには歳をとり過ぎてから修行を積んだのである。

おまけに出会った頃のダイは、魔法や紋章といった、妙なフォースの使い方を覚えてしまっていた。

 

しかし今のダイはどうだ?!

 

疑いようも無く、ジェダイとしての教えを授ける相手として相応しいではないか。

妙な紋章だとか竜の騎士なんて、後からどうとでもなる。これほどのフォースの純粋さを保ったままダイが正しく育てば、間違いなく新たなジェダイの道を開くことになるだろう!

 

アナキンの想像力は、ルークとレイアにしてあげられなかった子育てに対する思いとともに、異常なほどに逞しくなっていた。

子育て?どこの家庭でもやってることじゃないか。ダークサイドすら制御下に置いたジェダイとして歩み始めている自分にとっては、さしたる問題にはならんだろう。

 

ーーそうだ、今の私ならば可能な筈だ!

 

そんな確かな感触を抱いた時の事だった。

 

「アナキン…小さな子の面倒見た事はあるの?育てるって簡単に言うけど、想像以上に大変なの知らないでしょ?大人しく元に戻しなさいよ。」

 

「却下だ、却下!さっさとダイを元に戻せ!」

 

軽くトリップしていたアナキンは、現実を突きつけるマァムと、必死の叫びを上げるポップの言葉により正気に戻された。

怒りにあかせるポップはともかく、マァムの言葉は間違いなく正論だ。アナキンは父親として見れば、単身出奔に育児放棄に長子虐待と、この上ないダメ親父である。世が世なら、ジェダイはおろか一般の官憲に引っ立てられるレベルである。

 

しっかし、原始的なコミュニティでは年頃の娘はひとしきりの育児経験を積むと聞いたことがあるが、このマァムとかいう少女はまさしくその典型であろう。子に過大な期待を寄せるバカ親にも似たアナキンの心理を、見事に看破してみせたのだから。

 

「…まあ、ブラスさんから我が子を奪う様なことは出来んな。なに、少し思考実験を重ねただけだ。安心しろ。ゴメの記憶の中にいるダイは、間違いなく復活する。」

 

やれやれ、といった具合にアナキンは首を振ると、ようやく当初の予定通りにフォースを集中し始めた…。

 

 

 

 

 

ポップの見立てでは、ダイの記憶はデルムリン島を出る頃まで逆行していた。

 

「あれ?ここ…デルムリン島じゃないぞ?!ゴメちゃん、ここどこ?!」

 

「ピピー!」

 

そんなやりとりの後、これまでの経緯を語られたダイは再び混乱して、眠りについていた。

それも仕方の無いことだろう。

 

ダイは、自分の父親が魔王軍の軍団長となっていたことに、相当なショックを受けていた。竜魔人という化け物の様な姿に変貌したことや、その強さが全力を出したアナキン・スカイウォーカーを上回っていたことは、その衝撃の前では些事に過ぎないようであった。

 

アナキンがこのまま育てようとか言い始めた時には誘拐現場を目撃した様な気分になったが、今となってはそれもありだったのかと思ってしまうくらいである。

 

「ままならねぇもんだよな、ゴメ。」

 

「ピピィ〜」

 

「…ワリィ、やっぱり何言ってるかわかんねぇ…」

 

ポップは、寝静まったダイを部屋に残して静かに立ち去ると、扉を閉めてそんなやり取りをゴメちゃんと交わしていた。

今の彼は、感情の高ぶりこそナリを潜めていたが、自身の非力さに対してはより大きな憤りを感じていた。

 

アナキンは、確かに全力を出してバランを食い止めてくれた。最終的には力負けしていたが、あそこまでの手傷を負わせることが出来たからバランはダイをこちらの手元に残したのだ、とポップは分析していた。ジェダイの騎士は別な見解をしている様だが、ポップにはそうは思えなかった。あの上でダイを連れ去ろうとして予想外の力を発揮されたら、折角収めた勝利が水の泡だ。そう判断したバランが、退いたのだ。ある意味で撃退に成功したと言っていい。

 

アナキン・スカイウォーカーが、である。

 

しかしその際にポップ自身がしていた事と言えば、虫ケラの様に地面を舐めていただけだ。

こんなザマで厚かましくも友人面することなど出来ず、ポップの顔に差した影は濃さを増すばかりであった。

 

「でさ…今回はどうだったんだよ?」

 

暫く言葉も無く立ち尽くしていたポップに、部屋の中から僅かな声が呼びかけてきた。

思わずギョッとなった彼に、ダイの声は何かを悟った様な静かなトーンで呼びかけてきた。

 

「あれ、気のせいかな…いや、確かにそこにいるだろ。水くさいなぁ、ど〜せ変なこと気にかけてるんだろ?別に何も言わなくてもいいから、聞くだけ聞いてよ。」

 

ポップは、天真爛漫な筈のダイの声に、以前では考えられない程の落ち着きがある事に気付かされた。

恐らく、記憶は失っても肉体があの激戦を覚えているのだ。そしてそれは、間違いなくダイの心の器を広げている。その事に思い至り、ポップはより一層惨めな気持ちになるのであった。

 

「さすがにマスターみたいに心の中までは分かんないけど、何となくわかるんだ。ポップは今回、オレとの約束守ってくれたろ。だったらそれ以上気にしないでさ、また一緒に魔王軍やっつけようぜ!オレ、ちょっとここで休ませて貰うから、その間に新魔法の一つでも頼むよ。」

 

ーー簡単に言うなよ、お前とは違うんだ。

 

ポップはそんな事を思った。

ダイは間違いなく戦いのエリートだ。竜の騎士たるバランの力を受け継ぎ、ジェダイの騎士たるアナキンの教えを受けている。そんな凄い存在が友人なのは、正直重くてしょうがない。初めて信頼を向けてくれた時は、それはそれは誇らしい気分だった。

 

けれど…バランに向き合って、初めて死を覚悟させられた。

ヒヤリハット的な意味での死なら、獣王クロコダインと相対した時にも思い知らされた。しかし…バランはそんな生易しい相手ではなかった。

あれはもっと、根源的な暴力そのものを象っていた。

 

その前では、竦み上がってしまって何も出来なかった。少々上級の呪文が使えるようになった程度では、もはやどうしようも無いだろう。

仮に極大呪文が使えるようになったとしても、真正面から撃ち込んだのでは意味を成さないだろう。

 

既存の魔法には無い、根本的に異なる使い方でもしない限りは…。

 

そこまで考えて、ポップは宙を睨んだ。

 

「ダイ…待ってろよ。大魔法使いへの道は、こっからだ!」

 

余計なことを考えてる場合じゃないのだ。

利用できるものは、何だって利用しないと!

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタ、魔法使えるだろ。」

 

ポップは、アナキンを問い詰めようとした。しかし彼の目論見は見事に外される。

 

「無理だ。私のフォースの運用概念は、既に固まって揺るがない。理解は出来るが、実際にやってみせるのは不可能だよ。」

 

この間、たったの2秒ほどである。

しかしこれしきで引き下がるほど、ポップは殊勝ではいられない。

 

「だったら、その理解とやらで何かスゴイ魔法を教えてくれよ。」

 

盛大なため息を吐かれたが、ポップは我慢してそれを受け流した。コイツとは、別に相性は悪くない気がするのだが、今の自分は冷静ではない。教えを請うためには、平身低頭は第一歩であろう。

 

「そのスゴイ事をやってみてダイの親父に撃ち負けた訳なんだが…。オマエ、現実が分かってるのか?」

 

「現状維持でその余裕はオカシイだろ。もう何か次の手を見つけてるんだろ?!だったらせめて、それを教えてくれよ!」

 

アナキンは少し首を傾げた後に、ダイよりは見所あるじゃないか、と零した。

どこまでも失礼な奴である。

 

「そこまで言うなら、別に出し惜しみするモンでもない。…ソレ、喰らえ。」

 

そう言うと、アナキンはポップに対して右手をかざした。

昨日その掌から迸る電撃の威力をまざまざと見せつけられたポップは、本能的に椅子から転げ落ちた。

 

「バッカやろ!いきなり脅かしやがって…って、イダダダダダ!」

 

ポップは、身体の内側を走り抜ける電撃の激痛に襲われて、その場でのたうち回った。

ちなみにここはマァムの実家の、屋内である。

 

二人はもちろん、鬼の様な表情を浮かべたマァムによってその場から叩き出された。

 

「まぁ、つまりはそう言う事だ。」

 

昨日と同じく右頬を大きく腫らしたアナキンは、説明が面倒くさくなったのか投げやりな様子でそう告げた。

ポップはジェダイでもテレパシストでも何でもないので、こんな説明でわかる筈がない。

 

「だっから、さっきのは一体何だったんだよ!味方を攻撃するバカがあるか!」

 

「…新たな魔法の運用を探りたいと言うから、わかりやすくしてやったんじゃないか。実際に食らってみるのが一番だろ?」

 

呆れ返った声でアナキンはそう告げると、今のは単なる戯れに過ぎない事を説明した。そもそも攻撃なら、ポップが生きてる訳が無いだろうと言って。

 

「今のは、バランに撃ったフォース・ライトニングとは、似て非なるものだよ。単純に電荷を操作しただけだ、おまえの身体の内部のな。静電気レベルでこれほどの威力が出る。おまけに私は、ダークサイドを一切用いていない。」

 

「だからその、ダークサイドって何なんだよ。」

 

「……その区別すらつかずに、魔法を使っていたのか?…さすがはダイのお友達だ。無知な者同士で、気が合うのだろうな。」

 

----このヤロウ、人が下手に出てればツケ上がりやがって…!

 

ポップは、アナキンにギラでも食らわせてやりたいくらいだった。

素知らぬ顔をするアナキンは、闘気も魔法も、フォースの利用方法が異なるだけだと説明した。

 

「闘気の方がダークサイドに近い、と解釈している。闘気を発現させたダイは、普段より荒っぽくなるだろう?自身の生まれ持った肉体を、戦闘のためとはいえ変質させるんだ…。精神にも当然、影響が出る。その極値がバランの竜魔人だ。あそこまで人間から遠のくとは、思いもよらなかったがな。」

 

あれなんかは、ダークサイドを極めたシスそのものだよ。

そうとは言い切れず、アナキンは言葉を飲み込んだ。

 

「その点、この魔法とは素晴らしい。何せ、極めて中立的に対象に変化を及ぼすんだ。だから本質的には…、魔法は”撃つ”必要すら無いと思う。燃やしたいならば、直接燃やせば良い。いちいちこっちで起こした炎を相手に届けるなんて、面倒だとは思わないか?もっとも…、かなり難易度が高いから実戦向きでは無いが…。パッと思いついたのはこのやり方だ。」

 

フォース・テレキネシスを戦闘中のドゥークー伯爵やダース・シディアスにかける様なものである。

そりゃ理論的には可能であろうが、成功した者はいない。

それ程に現実離れした事を語っているのだ。

 

「あの竜魔人が相手だ、痛覚の耐性も相当だろう。けれども完全な不意を突くことになる。我々が実戦でこの技術を使いこなせれば…」

 

「おおっ!」

 

「敵の注意をそらす事が可能だ。」

 

ポップはズッコケた。

そこまで高めた技術をもってして、効果がその程度とは。期待はずれも甚だしい。

 

「全然ダメじゃ無いか!」

 

「…先程の激痛を思い出してもみろ。相手の身体の内側へと直接作用させるんだ、最早、魔法ならではの中立的な作用とは程遠い。これは、相当に危険な技だ。覚えがあるんじゃないか?禁じられた魔法の術とか、そういう類のものだよ。あくまで最終手段、それも小技程度に考えておかないと、力に呑まれるぞ。」

 

最後の一言に、ポップは背筋が寒くなった。

思えば相当に、残酷な技だ。魔王を倒すそうとする勇者が、返しのついた剣に毒を塗りたくって挑む様なものである。最早どちらが悪者か、わかったものでは無い。

 

「禁呪法…。」

 

ポップの呟いた言葉に、アナキンは顔をしかめた。

やはりどこの世界の人間も、考えることは一緒なのかと。これほど素晴らしい魔法という概念を持つ世界においても、やはり道を違える者はいるのだと、思い知らされたのだ。

 

「アンタ…さっき、パッと思いついたと言ってたよな…。禁呪法は、そんな簡単に閃けるもんじゃない筈だぜ。ましてやスグに出来るなんて…、まさか実際に使った事があるのか?」

 

「…ようやく、畏れを抱いたか。いいぞ、その調子で、常に警戒しろ。力には、代償が付き物だ。強大な力を求めるならば、常にそのことを自覚しなければならない…。まあ、そうやって警戒しすぎると逆に呑まれる。ここらへんの加減は、じっくりと教えてやろう…それに、私が扱う”禁呪法”は、昨日散々見ただろ?」

 

----コレのことだ。

 

そう言って、アナキンはフォース・ライトニングを再び使用した。

凄まじい電撃音を轟かせ、青々とした電撃が迸る。

 

それは天に向かって、空中をひた走った。まるで、自然法則そのものに半逆するかの様に。

 

それが四散する光景を見つめながら、ポップはぽつりと零した。

 

「…アンタ一体、何者なんだ。」

 

「…自分で名乗るのも痴がましいが…平和の守護者…ジェダイだ…。今も、これから先もだ。」

 

ポップはアナキンと目を合わせて、ゆっくりと頷いた。

それは、初めてポップがアナキンの上位に立った瞬間だった。

 

アナキンは、過去のことには触れてくれるなと、目で訴えてきたのである。

いずれは気づかれる時が来るとしても、今はまだ、シスに身をやつした過去を語りたくは無いのだ。

 

そうした思いを感じ取り、ポップは確かに頷いた。

 

「…わかった。重要なのはこれからの未来だ。そしてこの技術は、おそらくそれを切り開くのに役立つ…たとえ禁呪法に近いと言えども、だ。」

 

「…やはりおまえは、見込みがあるよ。だからこそ、その言葉をゆめ忘れてくれるな。」

 

アナキンはどこかしら疲れた様な表情を浮かべ、ポップに笑いかけるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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