やっと書きたい場面がかけた。。。
でもまだまだこれからです!
どうぞよろしくお願いします。
願わくば、次の瞬間に全てが終わっていて欲しい。
アナキンの心には、そんな願望にも近い後ろ向きな心が芽生えていた。
そして激情に任せて放ったフォースにも、それは間違いなく反映されている。
これ以上、闘争に身を晒したくは無かったのだ。
畳み掛けられる悲劇の連続を前に正気を保っていられるのも、最早限界だった。
これより先も感情を抑えてジェダイとして振舞うのは、無理があるんじゃないのか。怒りを単なる感情として解き放つ際、そんな危機感を脳裏が掠めた。
「…なかなかに、味な真似をしてくれるじゃぁないか」
しかし彼の負った業は、どこまでも非情だった。
目の前の道化師人形は、人間ならば四肢の骨をバラバラにされる程の衝撃を叩きつけてもなお、身を起こしたのだった。
そもそも単純にフォースを叩きつけるこのスキルは、前世でも機械人形相手には効果が薄かった。まして、こんな悪辣なプログラムを施された個体だ。どうせろくでもないチューンナップが為されているのであろう。
もっとも、躊躇いを乗せて放たれるフォースに、必殺の気概があるわけも無し。
片手をダラリと垂らしたつつも起き上がったキルバーンを睨みつけ、アナキンは顔を歪めた。
「キミのその超能力じゃあ、ボクを仕留めることは出来ないよ? そろそろ後悔の時間だ」
そう言うなり、その道化師は鎌を振り回し始めた。
するとどうだろう。
アナキンは急激な頭痛と脱力感に襲われ、激発を内に抱えた抱えたままその場に蹲ることになった。
「調子に乗り過ぎたんだよ、キミは」
アナキンはここに至って、一つの思いに囚われていた。
自分の手元に、苦難を切り裂いてきたあの武器がない事が、これ以上になく悔やまれた。
――この剣は、お前の命だ。
兄と慕い師と崇めたオビ・ワンに放たれた一言が、脳裏に木霊する。
そう、まさしくその通りである。
あの破邪の剣がない事が、これ程までに悔やまれる事はない。なぜならば。
――アレさえ有れば、ジェダイとして眼前の敵を打ち倒せるものを!
アナキンはこの世界に来て初めて襲われる無力感に、思わず声を漏らしていた。
「お許しを。。。」
その言葉は、これ以上なく相手を愉悦に浸らせるものだった。
死神と自称したその機械人形は、ゆっくりと歩を進めるとともに楽し気に言った。
「ふふふ、命乞いとは判っているじゃあないか」
だが、今のアナキンにそんな雑音は耳に入っていなかった。
今この瞬間にこの状況を打破する方法の罪深さに、その身を震わせているのだから。
それを見て取ったキルバーンは、一言付け加えるのを忘れない。
「せめて一瞬で、あの世に送ってあげるよ」
アナキンは超音波による激痛を思考から締め出し、今からやろうとしていることに集中した。
――この力を使うことは、前世ですら遂になかった。
半死半生で機械に生かされる身で実質使えなかったというのが、直接的な理由である。
しかしそれにも増して、どこかで心理的な理由から使うのを控えていた、と思いたい。
それ程までに、このフォースの使い方には禁忌感がある。
果たして”これ”を使ってしまってなお、自分はジェダイ足り得るのだろうか。
かのマスター・ヨーダなら、同様の状況でもあの強大なフォースのみで”ジェダイらしく”敵を打ち倒すことができるのだろう。
しかし今のアナキンには、その境地にまでは至っていなかった。
だから。
どうか、今だけは目を瞑って欲しい。
今、新たなる悪の跳梁を見逃さないために。
「オビ・ワン…、どうか、私に…、強さを!」
アナキンはそう叫ぶと、全身を襲う激痛をものともせずに立ち上がった。
彼はせめて、その痛みだけでも頭から締め出そうと意識を集中した。
至上に高められた怒りと言う名の罪深い感情を、必死で制御する。
全身を駆け巡る感情の昂ぶりを脳に伝えず。
全てを左の掌に集中させる。
そして、その力を持って目の前の悪を打ち倒すことを必死に願い、解き放った。
轟音と共に、電流が迸る‼
耳障りな甲高い放電音と共に青白い閃光が走り、一瞬で標的たるキルバーンに到達した。
それは直撃するや否や彼の全身に張り巡らされた魔力の操り糸を断ち切り、その運動エネルギーをもってして胴体を撃ち抜き、五肢を吹き飛ばした‼
アナキンは前世でこの、フォース・ライトニングを食らった経験から確信していた。
このシスの技術は、使い方によっては感電による電気的ダメージよりも、雷としての圧倒的な速度で相手を叩きのめすことに重点を置くことが出来る。…筈であると。
そして自爆なりなんなりの悪辣な罠を仕掛けていそうなこの相手には、まさしくその驚異的な速度と運動エネルギーをぶつけ、瞬時に無力化することが肝要であると踏んでいたのだ。
それは、主として拷問的な手段として用いるシスのそれとは違う、とせめてもの心理的な防壁を張ることが主眼だったが、この場においてそれは幸いしたようだ。
致命的なダメージを負ったキルバーンは、生首ひとつだけとなってすら、喋ってみせたのだから。
「馬鹿…な…。何だ…、この、異常な力は…」
アナキンは、それに答えなかった。
いや、答えることが出来なかった。
全く同じ感想を抱いていたからだ。
加えてダークサイドそのもである力を使ってしまった事実とそこから受ける更なる力への誘惑は、度し難いものがあったからだ。
――こんなに、こんなにあっけなくいくものなのか?
ドゥークー、あんたはこんなに便利で強大な力を使いながら、ライトサイドに拘ったオレすら倒すことが出来なかったのか?
堰を切ったように溢れ出す誘惑の言葉は、留まることが無かった。
そもそも、この力を封印して戦いに身を置くことは、果たして正しいことなのか?
前世の対戦でこのフォース・スキルが解禁されていれば、ジェダイはあんなに大きな犠牲を被ることは無かったんじゃないか?
マスター・ヨーダほどの存在がこの境地に達していなかったとは、到底思えない。
怒りすら正しく制御下に置くことこそ、正しいジェダイの姿なんじゃないか?
ヨーダは、怒りから遠ざかるように説きこのスキルを封殺することで、どれだけの損害を自陣にもたらしたんだ?
「…この…バケモノ…」
生首でなお喋り続けるその存在に雑言を浴びせられ、アナキンはハッとなった。
まだかすかに放電を続ける左手を見つめながら、彼はゆっくりと首を振る。
「違う。オレは…、ジェダイだ」
その言葉は、前世で彼の息子が高らかに宣言を上げた時とは対照的に、ひどく弱弱しいものだった。
禁じていた枷を自ら解き放ってしまった罪悪感と、かつてと同じ道を歩もうとしてしまっている自身に対する恐怖から、聞き取ることすら困難なほどに小さな名乗りである。
「……そうですよね、マスター・ジャンヌ?」
その残響が消えると共にダラリと下がった左手は、最後に緑色に輝きを放ち静かになった。
彼…アナキン・スカイウォーカーがこのときを振り返り、ジェダイとして新たな力に覚醒するのはもう少し先のこととなる。
ディー村を襲ったこの事件は結局、ありふれた野盗による襲撃として処理された。
複数の犯行を繰り返していた黒蠅にかけられた懸賞金を受けとったアナキンは、その全額を生き残りの村人達に分け与えようとした。
だが、ことの次第を知った彼らとの繋がりは、最早断ち切られていた。彼らは一言も声を発さずに背を向けると、彼の前から立ち去った。
オニールとも、遂に言葉を交わすことが出来なかった。
墓を建てる手伝いすら、許されなかったのだ。
アナキンにはかけるべき言葉も、できることも無かった。もちろんフォースを用いればそんな傷ついた心を幾何かは癒すことができただろうが、それを彼が望みもしないことは明らかだ。
なけなしのお金すら受け取ってもらえず、アナキンはそれを村人たちの多くが移り住むことになった近隣の町へと寄付した。
そして、一人で近隣の冒険者ギルドに身を寄せ、モンスターの討伐依頼をこなしていた。
この時にアナキンは剣士として一念発起しようとし…、そして違和感から遂に剣を捨てた。やはりライトセーバーと実体剣は、全く勝手が異なる。
今更中途半端な扱い方を覚えるくらいなら、フォースの扱いに習熟した方が建設的である。
そう言い訳し、ダークサイドとの決別を急ぐのだった。
そんな時であった。
遂に、運命もアナキンに光をもたらした。
「おい、アナキン。ジャンヌさんを尋ねてきた人がいるぜ」
ギルドマスターに掛けられた声に、彼は壁に貼り付けられた依頼一覧から目線を外した。
そうして彼の目に飛び込んできたのは、これまたオメデタイ髪型に眼鏡をかけた、不思議な成人男性の姿だった。
珍しい外見ではあるが、理知的な佇まいのその男を見て、アナキンは予感に打ち震えた。
「はじめまして、私はアバン・デ・ジニュアール3世と申します。キミがジャンヌさんの孫の?」
「ええ、アナキン・スカイウォーカーです」
正解だった。
アナキンは、アバンという男の理性的な目を見て、そう確信した。
近くで網を張っていれば、必ずジャンヌ老に縁のある者がここを訪れると思っていた。
可能性の一つは、あの道化師のサイドに属する者。そしてもう一つが、この男の様に…光に属する者である。
これは一つの賭けですらあったが、決して分の悪いものでは無いと踏んでいた。
そう、最後の最後まで高潔を貫き通したジャンヌ老の生前に縁のある者が、あんな者達だけな筈がないのだ。いや、そんなことはあって良い筈がなかった。
そんなアナキンの願いは、遂に受け入れられた。
それも最高の形で。
アナキンは、目の前に立つアバンという男を、ほれぼれとして見つめた。
深く探るまでもない。これほどまでに澄んだフォースの持ち主も、珍しいものである。さぞ曇りのない人生を送って来たのであろう。
そんな彼の姿が少し妬ましくもある、アナキンであった。
「ついて来て下さい。少し歩きますが、ご案内しますよ」
どこへ、とは告げずに彼はギルドの正面玄関へと向かうのだった。
静かな色の花束を持つアバンに、事情を説明するのも野暮だと判断したからだ。
ジャンヌの墓に至る道中、二人はかわす言葉を持たなかった。
これは普段あっけらかんとしたアバンにしては珍しいことであるのだが、それを知る由もないアナキンは、静かに墓参りを終えることが出来て満足だった。
二人の間に情報のやり取りが発生したのは、アバンが墓前に花を添え終えた後のことである。
「14歳にしては、随分としっかりしていますね。二人きりで暮らしていたはずのお祖母さんの死にもめげず、立派に弔われている」
「ありがとうございます。実際には数年前に養子にしてもらったので、私にとっては母の様な存在でした。もっと一緒に過ごしたかったところではあったのですが…」
改めて、お悔みを。
アバンはそう告げると、しばらく口を閉ざした。
両者の間に再び沈黙が下り、そして微かに重い空気が立ち込めるのであるが、アナキンにはそれが嫌では無かった。
「あなたが優しい少年で、本当に良かった。あなたに看取ってもらえたセブランスさんは、幸せだった。私はそう思いますよ」
「ありがとうございます。では私はその言葉への感謝として、この場では真実のみを話すと誓いましょう」
アナキンは目頭が熱くなりそうだったので、話を先に進めた。
今は、偲ぶことよりもこの出会いを一瞬たりとも無駄にしないことが重要であるのだから。
「随分と聡明な少年でもあるようだ。では私もあなたに倣い、核心だけを尋ねましょう。私には、ジャンヌさんがおられた村でこれ程の犠牲が出てしまったことが、どうしても腑に落ちないのですよ。加えて彼女に対して口を閉ざす関係者に、村の跡地とはかけ離れた場所に、まるで隠れるようにして建てられたこの墓標。―――いったい、あの夜あの村で、本当は何が起きたのですか?」
なるほど、とアナキンは感心した。
ことが起きてからそう時間が経っていないというのに、なかなかに情報を集めている。これだけのことから鋭い質問を発してくることからして、かなりの切れ者のようである。
「では、全てを話す前に私からも一つ質問をさせて下さい――我が師ジャンヌと貴方の関係について」
「良いでしょう。何より、彼女を師とするのであれば兄弟子としての立場もあります。あなたにはお伝えしなければならないでしょうね――、私が彼女から受け継いだ、凍れる時間の呪法について」
アナキンは、初めて聞く単語に首を傾げながらも、アバンの話に引き込まれていくのであった。
そうして語り合われ、次第に明らかになる過去、そして事実の連続に、二人は時が経つのも忘れ、そして改めて惜しい人を亡くしたことに思いを馳せた。
奇しくもそれは、アナキン・スカイウォーカーが二度目の人生において迎える15歳の誕生日の出来事であった。
フォース・ライトニングをEP6で初めて見た時の衝撃。
あの反則感は今でも忘れられません。
EP2以降、随分と弱体化した気がしないでも無いですが。。。
ちなみにアナキンが撃ったライトニングは、EP3でヨーダがかまされたのをイメージしています!