理力の導き   作:アウトウォーズ

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さて、いよいよダイと初対面を果たすことになります!

どうぞよろしくお願いします。


デルムリン島にて

モンスターの島に住む、人間の子供。

フォースの深淵に近い存在から神託めいた啓示を受けたアナキンは、素直にその言葉を受け取った。

そして冒険心をくすぐられ意気込み新たに冒険者ギルドを訪ねたのであるが、意外にもすぐに手がかりを得られた。

 

デルムリン島。

 

その筋では有名な島で、つい最近もパプニカの王女が儀式を済ませた際、野生児のような子供がいることを確認したとのこと。

案外早く出会えそうだな、と気楽に構えたアナキンは、その島の到着間際にフォースの揺らぎを感じた。

 

一瞬、アバン先生が言っていた魔王の再来かと勘繰ったが、それにしては局所的な予感だ。

おそらくは、目的地であるデルムリン島に限定されたものである。

そこでは柔和なモンスターばかりが生息するというから、これは外から敵性勢力の襲来を受けていると判断して良いだろう。

 

実際、アナキンはちょくちょく嫌がらせのような襲撃を受けていた。

一人でいる時に限って、魔王がいなくなり大人しくなったはずのモンスター達がいきなり豹変し、襲い掛かってくるのである。

これはジワジワと、彼の精神を蝕んだ。

 

何せ彼のみに限られた話である。

初回の襲撃時には、すわアバンの言ってたことはこれかと危機を知らせに冒険者ギルドへひた走ったのにも関わらず、翌日には大笑いされてしまった。

二度目に同じことがあったときには、念のための報告が白眼視される始末である。

おかげでマスター・ジャンヌの指導のもとで築いた冒険者ギルドでの評判が、ガタ落ちとなってしまった。

 

三度目ともなるとさすがに、背後に潜む酷く陰険なヨボヨボ老人の姿をフォースで探り当て、さんざんに痛めつけてやった。

ジェダイの面目躍如、といったところである。

しかし今回も何となくあの醜悪老人が関わっている気がし、アナキンは嫌な気分に包まれた。

あの傷を受けてなお、今回も跳梁しているようであれば、もう人間では無いと判断して一刀両断してしまっても構わない気がする。

 

そう考えて気持ちを楽にしたアナキンは、目的地に到達するまでの間にもフォースに集中し、現地での揺らぎを注意深く探るのであった。

今度はより深く、人間らしい複雑な感情を求めて。

 

 

 

 

その存在は、初めて味わう仲間たちの傷に、衝撃を受けているようだった。

 

見たこともないモンスター達に仲間が襲われ、傷ついていく。必死で抗しようにも多勢に無勢、あっさりと囲まれては分断され、追い回される。

森の中を逃げ回った体は、擦り傷だらけの有様であろう。しかしどうやら不思議と肉体的な痛みは感じていないようだ。

ただ…張り裂けそうなくらいに胸を痛めているのが伝わって来る。

 

仲間たちは、お前は特別なのだからと言い聞、よく知る人物のもとへ向かえと説いたようだ。

お前たちと一緒に戦う、と叫び返したいがその気力が浮かんで来ない。

初めて肌で味わう仲間の痛みに、その真摯な迫力に、言い返す言葉を持たないようであった。

 

そんな幼い存在が頼るべき存在は、しぜんと限られるだろう。

帰巣本能と言い換えてもいいだろうか。

その足が向かう先は、良く知る人物のもとである。

 

しかし、そこにはよく知るシルエットに加えてもう一つ、見覚えのない老人の姿が佇んでいるようであった。

 

 

 

 

 

既に島に上陸を果たし対象との距離が縮まったアナキンには、その光景が目に浮かぶようであった。

――おまけにジジイ、だと?

 

思い出すだに腹立たしい姿が脳裏に浮かび、アナキンは脚に集中させたフォースをさらに高め、森の中を突き進んだ。

茂みを避けて木々の幹を蹴って進むその姿は、まるでも何も忍者そのもの、といった様相を呈している。

 

そしてついに視界が開け、探っていた感情の起点と目の前の光景が重なり合う!

 

「…、ニゲ…ろ…。」

 

鬼面道士と呼ばれる一頭身サイズの、本来は可愛らしい筈のモンスターが一人の少女に迫っていた。

その柔和なシルエットは今、望まぬ敵意を滾らせているせいなのか、涙に濡れている。

その証左に、苦し気に呟かれるセリフはその少女を思っての警告である。

 

――いや待て、少女だと?

アナキンはてっきり、絶海の孤島で逞しく生きているその子供は、少年だと思っていた。

しかしそんな一瞬の逡巡も、次の瞬間に響いたセリフに搔き消される。

 

「益も無いことはせず、大人しく殺し合えい。キヒヒヒヒ。在庫処分には丁度良いわい。」

 

一度聞けば忘れない、耳障りな、そして悪趣味なしわがれ声。

 

――やはりお前か!

 

最早隠すことなく怒りを露にしたアナキンであるが、前方で急激に膨れ上がった攻撃的なフォースを目の前にして、咄嗟にそれに割って入った。

これは良くない兆候だ。

まさか、無用の殺生を行わせるわけにもいかない。

 

 

 

 

「よせっ!」

 

少女の鼓膜を、ひと言の単語が揺らす。

ブオン、という耳障りな音がそれに続いた次の瞬間には、目の前に人影が立ち塞がっていた。

そうして視界が塞がれた直後、老人の左手が宙に舞う。

 

目にもとまらぬ早業、とはまさしくこのことであろう。

少女は極度に発達した動体視力を持っている筈だが、辛うじて見切れたかどうかの振り抜きであった。

 

「…よそ様を巻き込むなよ。」

 

しかし彼女の驚きはそれだけに留まらない。

突如として現れた金髪の少年は心底嫌気が差した様につぶやくと、光輝く剣を持つ反対の左手を突き出し、重々しい音を放ったのだ。

 

ドンッ、ドンッ、ドン‼

 

彼女の目は何も映すことが無かったが、それでも何か圧倒的な”力”が三度、指向性を持ってその老人に襲い掛かったのが分かった。

彼女にいま少し知識があれば、それが音速を超えた衝撃波であることに気が付いたであろう。

そしてそれがもたらす事態の凄まじさにも、想像がついたはずである。

 

「うわあああ!」

 

彼女は思わず、その光景の凄まじさに大声を上げた。

視界の端に叩きだされた小柄な人影を追うと、何と片手足と生き別れになり、上空へとすっ飛ばされているではないか。

口から鮮血を噴出している有様からして、決して自発的にそうしているわけでは無いことが伺える。

それはまさしく、目の前に現れた金髪少年の仕業であった。

 

しばし目の前の事態に唖然とした彼女であったが、すぐさまハッとなる。

 

「ね、ねえキミ。私の仲間がひどい目に合っているんだ、助けてよ!」

 

 

 

 

アナキンは、少女に促されるままその危機の場に向かおうとしたが、その前にやるべきだと判断し鬼面道士というモンスターの前に立った。

フォースによりその心の霧を払いのける。

茫然自失とした有様の彼の覚醒を見届けると、アナキンは少女に連れられるがままに海岸線を駆け巡った。

 

「あいつらだよ!」

 

成る程、指差された目の前では確かに、柔和な顔をしたモンスター達が、それとは比較にならないくらい凶悪な奴らと激戦を繰り広げていた。どうも五分五分の状況で普通なら判断に迷うところであるが…。

どちらが悪者かは問いただすまでもないだろう。

片方はそれほどまでに醜悪な存在だった。

 

アナキンはそれにしても、と違和感に首を傾げた。

ここに至る迄に彼に襲撃を仕掛けてきたモンスター達は、魔法を中心として戦闘を展開していた。しかしこの島を襲っている側の奴等は対照的に、やたらと巨大で醜悪で、物理攻撃に特化している。

 

しかし、いざ擬似ライトセーバーを片手に挑みかかると見掛け倒しであることがわかる。

一蹴。

気持ち良いくらいのやられっぷりである。力強く速い動きで触手を伸ばしてくるが、いかんせん力押しだ。再生力だけは高くキリが無いので、フォースで吹き飛ばし島から遠ざけることにする。

いくら見た目が醜悪とはいえ、操られている可能性も否めないからだ。

 

まあ、醜悪なのは…首魁があの有様だ。

わからないでも無い。

なんと言う名前だったか…。

まあ、あの老体と違って、妙な搦め手で向かって来ないだけでも、良しとすべきであろうか。

 

しかし、先ほどからこの少女から感じる違和感は一体何なのだろう?

助けてと言ったくせに、やたらと止めに入ろうとしてくる。

確かに見た目は人間なのだが、フォースがそうでは無いと告げている。

この感覚は一体…。

 

ズガアアン‼︎

 

アナキンのそんな思惑をよそに、突如として雷光が岬に突き刺さった。

その光景を遠方から眺める事しか出来なかった彼であるが、そこから感じ取れるフォースはつぶさに分析すらすることができた。

そしてそのパターンから、彼はそれがマスター・ジャンヌが伝説上の人物しか出来ないと明言した、雷を操る呪文であろうと当たりをつけた。

 

そしてハッとするのであった。

マスター・ジャンヌに教えを受けた彼は、魔法とは、自然法則を強く用いる中立的なフォースの運用だ、と理解していた筈である。

それならば、何故。

今この瞬間にあのの雷の呪文を見るまで、暗黒面ですら中立的に運用できる可能性に思い至らなかったのだ!

 

そう、何も紫電そのものが悪だ、暗黒面だという理屈はどこかズレているのである。

余りにも悲惨な目に遭わされた回数が多かった為に色眼鏡で見ることしか出来なくなっていたとに、この時初めてアナキンは思い至った。

そしてこんな事態の最中であるにもかかわらず、この雷の呪文をとなえた人物を目にしてみたい、と切に願うのであった。

何故ならそこには、あの悪名高きフォース・ライトニングと同等の力を、究めて中立的に使いこなしてみせた存在がいるのだから。

 

だが、そんな彼の感動をよそに、いよいよ事態は混迷としてきている。

アナキンは、少女を置き去りにしかけながらもそちらに向けて駆け出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

アナキンは仰天した。

 

「ゴメちゃん!ゴメちゃん!」

 

おそらくは名前であろう単語を繰り返し、呼びかけを続ける少年。

そしてグッタリとその腕に抱かれる、黄金の小さなモンスター。

そのモンスターから漏れ出るフォースは、この島へと導いてくれたあの雫のような存在と瓜二つである。

 

そして何よりもその少年の姿。

それは、彼の後ろから駆けて来る少女の姿と瓜二つなのである!

 

「な、何だおまえらは!あいつらの仲間なのか!?」

 

気配に聡いのであろうか。

アナキン達の存在に気づいたその少年は、視界の端に入っただけで警戒も露わに叫び出す。

 

「だとしたら、どうする?」

 

アナキンは興味本位に問いかけ返した。

 

「この島から出て行くんだ!これ以上みんなに酷いことをするなら、許さないぞ!」

 

――成る程。

アナキンは内心ほくそ笑むと、深く頷いた。

彼の中では、とっさに答えが出たのである。

 

この少年こそ、彼が遙かな海を渡り追い求めてきた存在に違いない。

 

今、彼が口にした警告と牽制こそ、アナキンが追い求めるジェダイの正しい姿である。

それに加えて、である。先ほどの雷は正確な因果こそ不明であるが、周囲の焼け焦げた醜悪なモンスター達を見るからに、この少年に属するものと判断できた。

そしてこれ程の力を有しながらもその力に溺れることなく、対話することが出来ている。

 

この幼年にして身に付けたその厳然たる姿勢は、十分な判断材料となった。

 

「え!? お、お前、何でオレと同じ…。一体お前ら、何なんだよ!」

 

ようやく注意深く観察することができたのだろうか。

ようやく一つの結論に辿り着いた今となってアナキンは、その少年と同じ疑問を、背後から追いついてきた存在に抱いていた。

 

何となく、答えは見えているのだが。

そしてその正体に思い至って、うっすらと背筋に冷や汗をかき始めた。

 

――どうやら、盛大な勘違いをしていたようである。

それも致命的なレベルで。

事前の情報収集で鬼面道士に育てられた人間の子供がいる、と聞いていたのでこの少女がそれかと思い込んでしまったのだが…。

 

察するに、彼女が助けてと言っていたのは襲撃側のあの醜悪モンスターどものことであったらしい。

どうりでムキになって止めようとして来る訳だ。

アナキンは襲撃側の少女を仲間だと思い込み、その存在を保護しようとまでしていた訳である。

 

――いや、おそらく洗脳か何か、悪質な処置をされていたに違いない。不可抗力だ。

しかし彼はそんな大失態を自分の中で揉み消すと、堂々とした声で言い放った。

 

「随分と引っ掻き回してくれる…。そろそろ出てきたらどうだ、ご老体!」

 

アナキンは少し声を張り上げ、少女と、その後ろの空間を睨みつけた。

すると…、薄っすらと濁っていた空気の中から、半身を血みどろにした醜悪老人が姿を現した。

 

「こ、このクソガキが…。この、妖魔司教ザボエラ様にこんな無礼を働きおってからに…。」

 

「ああ、そんな名前だったな…。しかし貴方も懲りない人だな。おまけに毎回回りくどいことをしてくれるときたもんだ。それで?この子は一体何なんだ!」

 

「ど、何処までも舐めおってからにぃーー‼︎何をボサッとしておる2号、行けい!」

 

会話が始まるや否や、ザボエラはその少女をけしかけた。

 

すると何ということだろう。

 

目の前で、つい先ほどまで少年と同じ姿かたちを模っていた造形が変化し、本来と思しき一回り小さな姿へと変貌を遂げると、アナキンへと襲い掛かってきたのだ!

両者は高速で交差し、そして再び相手へと向きなおる。

この間、アナキンは擬似ライトセーバーを発動させて踏み込んだだけで、殆ど動けていなかった。

 

「やるじゃないか。」

 

彼はニヤリと笑う。

この世界に転生して、初めてまともな斬撃を受けたからである。

 

疑似ライトセーバーを出す瞬間の効果音に拘ったアナキンは、フォースを操り空気を震わせることでその音を実現している。

やってみると意外と難しいために修練を重ねた彼ではあるが、それ故に疑似ライトセーバーの初動は本来のそれに比べて1秒近く遅れるのだ。今回はそれが結果に繋がった訳である。

つまりその少女の踏み込みの速度は、それ程までに驚異的なものであった。

 

そして再び、無駄口ひとつ叩くこと無く切り掛かってくる!

アナキンはその太刀筋を捌きながらふと、そう言えばこいつは何故これまで襲い掛かってこなかったのか、いやそもそもあの鬼面道士の前で何をしようとしていたのか、という疑問を浮かべた。

油断さえしなければ、そうした余計なことを考えられるくらいには地力の差があるのである。

 

アナキンは落ち着き払い、返す一閃で相手の剣そのものを断ち切り戦闘力を奪った。

しかし少女は全く臆すること無く、断ち切られた剣をもって立ち向かって来る。

 

「もうやめておけ。お前は邪悪には染まり切っていない。」

 

そんな言葉を投げかけながら、アナキンは相手の動作の隙をついて右肘の半ばを斬りつけた。

擬似ライトセーバーなので、その刃にあたる部分はフォースを高速で振動させ高熱を纏わせている。

よってその切り口から、鮮血が噴き出すことは無かった。

 

しかしその痛みたるや、相当なものである。

実際に体験したことのあるアナキンには、それはトラウマとなるくらいによくわかっていることだ。

 

しかし。

 

少女は、全く意に介せずといった具合で鋭い殺気を向けてくるのである。

おまけにその傷口は、常人には、というよりも人間にはありえない速度で修復していく。

――まさかコイツ…。

さすがに叩きのめす気にもなれず、アナキンは嫌な予感に苛まれながらも、すぐさま反撃できる態勢をキープし続けた。

 

その攻めあぐねている姿に溜飲を下げたのか、さも嬉しそうな声が響く。

 

「キヒヒヒ。そやつはタイプⅡ型妖魔…人間社会潜入型の半人半妖2号機じゃよ。どうじゃ、驚いたか?やりにくかろう?イヒヒヒ、そうじゃろそうじゃろう。何せこやつ、元は人間なんじゃからのう!キヒヒヒヒヒ!」

 

アナキンの予想の中でも最悪のものが、真実として語られた。

傍観者と化していた少年すら、この事態には色をなした。

 

「お、お前その子に一体何をしたんだよ‼」

 

「よせ‼ 聞くな!」

 

アナキンは咄嗟にその少年の耳の周囲を瞬間的にフォースで包み込み、一切の音声を遮断した。

こんな、身の毛のよだつ様な悪趣味な話を聞かせて、彼の精神を歪めるわけにはいかない。

 

しかし有頂天になったザボエラの口は、とどまることを知らなかった。

 

「キヒヒヒヒ!飢え死にしかけておったこ奴を捕まえて、ワシが作り出した妖魔と手術で融合させてやったのよ!1号機は痛みに耐えきれずに発狂したんでのう、こやつは痛覚を取り除いたうえで特殊加工し、栄えある半妖に仕立てあげてやったのよ‼ その時のこ奴の顔といったら無かったぞ!キイーッヒッヒッヒ!ワシが側にいてやらんと命令一つ聞けない愚図じゃがのう、ようやく役に立つときが来た訳じゃわい! 」

 

――この、ベラベラしゃべりやがって!

話の途中でさすがにその半妖はアナキンの隙に感づき、突進をかけてきた。

彼はフォースの操作で少年への音声を遮断し続けたまま、それに対処せねばならない。

 

さすがに今度ばかりは、分が悪かった。

ことここに至って、ライトセーバーの動作音の再現にフォースを使ってしまっているのが、悔やまれた。

いやいや、それだけではない。

切り口の再現にこだわったため、切断力を発揮する以上のフォースを刃の部分に使ってしまっている。

彼は無駄に積んだ訓練の弊害で、こうした諸々の余分なフォースを使わずには闘気剣を発動できないレベルにまで達してしまっていた。

とてつもなく器用なアバン先生に対抗して得た成果なのだが、よくよく考えなくったって意地になってまで再現する必要は無かったんだ。

 

アナキンは、アバン先生という心強い味方を得て少し浮かれていたことに、今更ながらに気づかされた。

そしてその教訓は、鋭い痛みを伴って左腕に刻み込まれた。

 

アナキンはライトセーバーのそれとは全く異なる実体剣の痛みに顔をしかめ、そしてその腕を出血を抑えるべく少女と距離をとった。

 

そんな彼女に、今度は少年がナイフを構えて飛びかかる。

 

「やめろぉ!」

 

おそらく、その少年にもアナキンが何がしから庇っていることが伝わったのだろう。

そんな、耳を塞れるというよくわからない行為に対しても、彼は好意を敏感に察したのだ。…ということまではアナキンには分からなかったが、とにかくこの事態を急速に収める必要が、彼にはあった。

 

あの少年の実力がいかほどのものかはわからないが、つまらない手傷を負わせる訳にはいかない。

せっかく辿りつけた弟子候補なのだ。

話をする前に大怪我を――しかもアナキン自身が持ち込んだに近い形で――負われては、たまったものでは無かった。

 

仕方が無い。

 

「少年、伏せろ!」

 

アナキンは結果的に足を引っ張ることになった疑似ライトセーバーを、鋭く宙に放った。

しかし決して投げ槍になったとかイラついたとかではなく、これはこれで立派なセイバースローというジェダイの技なのである。

 

それは見事な楕円曲線を描いて少年の背を回り込み、

そして剣を握る少女の両手首を断ち切り、

最後に醜悪老人の腹部を斬り裂き、

アナキンの手元に戻った。

 

「グアアアア!き、貴様ら顔は覚えたぞ!背中に気を付けろ!」

 

そんなセリフを吐きながら、ザボエラがその姿を掻き消す。

 

――どうせそのうち、呼んでもいないのにケロっとして姿を現すつもりだろ。

アナキンはそんな無様な老人に、定期的に敵性の情報をもたらしてくれる役割を期待していた。なので今回も致命傷だけ負わせて追い払うことに終始した。

通算二度目となるこのやり方も、そろそろ敵に発覚しそうなので今回限りで最後になりそうであるが…。

 

そんなことを思っていると水音が上がり、もう一つの問題もこの場から退場してくれたことを伝える。

念のために遠ざかるフォースを確認して、アナキンは闘気剣からフォースを解き放った。

シュウウゥン、とそれはライトセーバーの終動時と同じ音を立ててそれは収まった。

 

この少年との話がすんだら、いま一度鍛えなおす必要があるな、と心に決めるアナキンであった。

 

 

 

 




いかがだったでしょうか。
原作を読み返していたらイメージが固定化されてしまったため、
苦肉の策でこのような形となりました。

次話とセットでお読みいただければ幸いです。
どうぞご意見・ご感想のほど、よろしくお願いします。

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