プロビデンス/神々の摂理   作:TAINZ

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優柔不断ですがー、なにか?

…狩る.殺す.食べる.分解して吸収し.命を使い.カスを排泄(はいせつ).そしてまた食べる…

 

…お前は知っている…

 

…人とは.国とは.世界とは.そして宇宙とは.前にしか進まない…

 

…すべてのものに.停滞も.逆行も無いことを知っている…

 

…重力を持つものすべて.生あるものすべては.死に向かって進んでいる事実を知っている…

 

体格から察するに十代前半に見える少女は両手で抱えた膝に頭を押し付けていた、()れた黒髪が表情を(かく)しているため感情は読み取れないが、少女は胸の内から発する声に否定し続けていた。

 

…この国も.他の国も.ひとつの生あるものだ.喰うか喰われるかしか無いだろ…

 

{違うよ…、生きる為の狩りと、国同士の戦いはまったくの別物だよ}

 

…違わねーよ.人が成長をするように.国も成長を望んでる.より大きく.強くなりてーんだよ…

 

{それなら協力すれば良いよ、手を取り合って助け合えば良いんだ}

 

…お互いが平等ならな…

 

{平等じゃないって…言うの…}

 

…平等なものなんか.ひとつもねーな.それはお前が一番知っている事だ…

 

{あたしは…、何も望まないよ…、ただ平和であればそれでいい…}

 

…それが不可能だと言ってるんだよ…

 

{………}

 

…どっちみちもう手遅れだ.精々足掻(あが)いてみろよ.俺の出番に成らなきゃいーけどな…

 

胸の内から発せられていた声は少女をあざ笑うように言い捨て、そのまま少女の中の対話が終わる。

 

 

 

 

膝を抱えうずくまっていた少女はゆっくりと顔を上げ、(うつ)ろな瞳で天井を見上げた。

 

(うれ)い顔で天井を見つめる整った顔立ちは、少女と表するには大人びていて、成人と言っても(うなず)けた。

 

迷いを振り払うように頭を左右に振って立ち上り、部屋の中央に静かに立って装飾(そうしょく)(ほどこ)された円鏡を見つめる。

 

『われは問う、人は繁殖(はんしょく)するだけの(けもの)か?』

 

『殺して・食べて・死を待つだけの生物か?』

 

『国とは・世界とは…人が争い、(うば)い合う為のものなのか?』

 

『八百万の神々よ()が問いに応えたまえ…』

 

両手を顔の前で組合せきつく目を閉じた。

 

 

 

 

「姉様、天は当に告げております」

 

円鏡の前で祈るように問い続けていると、会わせ鏡のように(うり)二つの女子が現れた。

 

『ツクヨミ…』

 

(つや)やかな黒髪の長さ以外は、ほとんど見分けが付かない容姿(ようし)である。

 

「皆、戦仕度を整えて御座います」

 

小高い山の(ふもと)(もう)けられた社には、日焼けした若い男達が武器を手に集結していた、千人は居るであろう立派な軍隊が整っている。

 

双子であろう彼女達が居るのは社の裏手で正面からは見ることが出来ない、更に周囲は人目に()れることが無いように樹木で(おお)われ呪術的な結界も施されている、この国で最も大切な聖櫃(せいひつ)である。

 

大事な場所なのだから造りは堅牢(けんろう)であり、山火事などでも燃えることが無いよう外壁は岩盤で覆われていた、ただ牢屋(ろうや)のように見えなくもない。

 

「まだ躊躇(ためら)っているのですか?」

 

『……』

 

ツクヨミに視線を送った彼女は、目を(すが)めるだけで言葉は返さず、また円鏡を見つめる。

 

 

 

「はぁ~…、ま~たいつもの優柔不断(ゆうじゅうふだん)で、御・座・い・ま・す・か!!」

 

ツクヨミは大きなため息の後に、不愉快(ふゆかい)さを隠すことなく言う。

 

 

 

『…いつものって…なーにーかーなー』

 

ツクヨミの物言いに対し、彼女も幾分(いくぶん)(いら)ついた返事を返す。

 

「い・つ・も・の・でしょう!」

 

『あたしがいつも何をしてるって言うのよ!』

 

「…て言うか~普段は良いよ! 別に~悪いことじゃないと思うからさ~、人は何の為に生まれたのとか~、生きている意味があるのか~とかね~、で~も…バッカじゃないの~」

 

『おねーちゃんに向かってバカとはなんだー』

 

「バカだからバカって言ってんの~! あのね~戦だよ~、戦争するの~!! 分かってる~」

 

会話が雑であり、語尾(ごび)が流れてしまう物言いをするツクヨミだが、表情は真剣そのものだ。

 

『………』

 

彼女は組み合わせていた両手をほどきしゃがみ込むと、両手で頭を抱えた。

 

『…分かんないんだよー、戦争ってなにー、あたしにどうしろって言うんだよー、…わっかんないんだよーー』

 

「あのさ~・このおね~ちゃんヤロウ! あんたがグダグダ考えてる間にさ~、ネの国はとっくに戦の準備できてるの~! もうこの社をロックオンしてんだよ~、どうすんの~」

 

ゆったりと聴こえる言い回しだが、ツクヨミはかなり限界に来ている、

 

『ツクヨミが言ってるだけじゃん、あたしにはそんなの見えない、見えないしー分からないしー知らないしー』

 

頭を抱えたまま左右に首を振りつつ無責任に言う彼女の言葉は、ツクヨミの感情を逆撫(さかな)でた。

 

ブチッ…

 

「あんた~・いっぺん殺そうか~、うん・そうしよう~」

 

ツクヨミから表情が消える、そして無表情のまま左手に持っていた杖を自信の前へと突き出した。

 

「…ふか()()あか()()えしりゅう()…」

 

突き出した杖を地面へと振り下ろす、杖の先端から周囲に掛けて透明な赤い幕が広がり始める。

 

「…()よりてん()()のぼ()りしりゅう()…」

 

振り下ろした杖を今度は真上へと振り上げる、すると赤い幕が金色の尾を引いて上空へと舞い上がった。

 

『わー・やめやめー・バカツキー! なにいきなり呪文唱(じゅもんとな)えてんのーー!!』

 

頭を抱えてうずくまっていた姉は、妹の呪文詠唱が本気であることに気付き飛び上がって、

 

『わかったー! マジでごめんー! (あやま)るからーー』

 

両手を合わせて頭を下げる。

 

上目使いにそーっとツクヨミの顔を覗く。

 

「…あま()()けるひかり()りゅう()…」

 

高く掲げた杖はツクヨミの頭上で円を描いていた。

 

『ツクヨミの見た未来視が、間違えるわけ有りまっせーーん!』

 

大声で自らの(あやま)ちを訂正(ていせい)した姉。

 

呪文詠唱を止めて姉を見る妹。

 

姉は両手を合わせたまま(うる)んだ瞳で妹を見つめる。

 

 

 

「……チッ…」

 

『チッて言った? いまチッて言ったよねー』

 

舌打ちをする妹に対しての姉の抗議であるが、

 

「あのね~おね~ちゃん、わたしだって戦なんてしたくないよ~、出来ることなら和平条約(わへいじょうやく)(むす)んで共存共生(きょうぞんきょうせい)したいって思ってる…」

 

『さっすがツッキー、あたしも共存共生にさんせー』

 

「話は最後まで聞こうね~、使者も送らずにうちをロックオンしてる相手にさ~、みんなで仲良く暮らそうよ~、と~か~い・え・な・い・よね~』

 

ツクヨミの顔はギリギリ笑顔ではあるが、右手に持ち替えた(つえ)を頭上に振りかざしながらでは脅迫(きょうはく)としか取れないのだが、

 

パンッ!

 

『その手があったかー、使者おくろうよー、戦なんて止めよーってさー』

 

両手を目の前で軽快(けいかい)に叩くと、姉は顔を輝かせた。

 

「人の話は~、ちゃんと聞け~!!」

 

ツクヨミは振りかざしていた杖を姉の頭めがけて振り降ろした。

 

『うわぁぁぁ』

 

(おどろ)きの声とは裏腹に杖の軌道(きどう)を軽く交わす。

 

「どうして()けるんですか~」

 

ツクヨミはとても残念そうに言う、

 

『なに言ってんのー? 当たったら死ぬでしょー』

 

「どうせ当たらないですけどね~」

 

姉の身体能力を熟知しているツクヨミとしては避けられることは想定内のことであり、振りかざした杖が(おど)しとして役に立たないことも重々承知していた、それでも言わずにはいられなかったのである。

 

『ねえツッキー、どうせとか言わないでさー、使者を送ってみない? なんならあたしが行こうかー』

 

「バカなことを言わないで!!」

 

ツクヨミが怒鳴る、

 

『…ごめん』

 

ツクヨミの怒りに対して小さく謝罪する、

 

「使者など送っても死者になって帰るだけです」

 

怒ってしまったことが気まずいのか、珍しくダジャレを言ったわりには表情が暗い、

 

 

 

 

『あたしはさー、ただー殺すのもー、殺されるのも嫌だなー』

 

場の空気を変えるべく満面の笑顔で言う姉、

 

「……きれいごと…」

 

目を細めてつぶやく妹、

 

『分かってるよー、でも…撃たれるかもしれないからー、先に撃つっていうのはー、ちょっとねー』

 

この場にそぐわない調子で、腕組みして頭を傾げる。

 

「おね~ちゃん…、それは…その考え方は強者だからだよ…、弱者はやられる前にやらないとって考える…」

 

ツクヨミは初めて悲しげな表情を見せた。

 

『やだなー、ツッキーの方が全然強いじゃん、魔法は超一流だしー、頭も良いしー、可愛いしー、運動神経はー…まー置いといてー、非の打ち所がないとはツッキーのことだー」

 

姉として妹を(はげ)ましているのだろう、身振り手振りを交えながら仰々(ぎょうぎょう)しく言う。

 

「知ってる…、わたしは努力をしているから…、誰にも負けないように頑張っているから…」

 

『そうだよー、ツッキーは偉いんだよー、おねーちゃんの自慢(じまん)の妹だよー』

 

「おね~ちゃんは何の努力もしてないのに…、双子なのに…、どうしてこんなにも差があるの~!」

 

『ツク…』

 

「ごめん…なさい…、こんなこと言うつもりじゃ…」

 

『ううん、ぜんぜーんだよー、ツッキーにいーっぱい背負わせてるからー、反省しないとねー』

 

「じゃあ~」

 

『それとこれとは別問題です、戦争はマジむりー、殺し合いとかー、無いですわー』

 

両腕を大きく交差させ×印を作り、口を尖らせながら言う。

 

 

 

「これだけは言うまいと思ってたのに…、あなた今日だけで~、どんだけの命を喰らってると思ってんの~、こんの大喰らいが~」

 

姉の弱点を攻めるツクヨミ、

 

『それは言わないでー』

 

ガックリとうな垂れる姉、

 

「おね~ちゃんは肉も魚も米も大好物だよね~、もしも戦争に負けたら~、もう食べられなくなっちゃうかも~」

 

ジワジワと外堀から攻める妹、

 

『ううぅぅぅ…』

 

お腹を抱えて(うめ)き声を()らす姉、

 

「人は食べないと死んじゃうよね~」

 

『あたしの食欲がー、(うら)めしいー』

 

「価値観を()りかえるつもりじゃないけど~、狩りだって立派な殺し合いでしょ~、

 

 

 

「どうして? おね~ちゃんはヒミコなんだよ、ギの国で一番(えら)い人なんだよ、まずはギの国のこと、ギの民の事を一番に考えなきゃいけないのに、なのに、なんで敵国の民・食物である動植物も、同じように考えちゃうの?」

 

『うん…おねーちゃんはバカだけど、自分の立場くらい分かってる、でも同じなんだよーみんなあたし達と一緒でしょー、国があって・立場があって・家族があって・家がある、守りたいものがあり・奪いたいものがある、あたしだって…欲しいものくらい…』

 

・・・

 

 

パンッ!

 

『それだー!』

 

「………」

 

『あたし達は移動できるじゃないかー、曾祖父(そうそふ)だかその前だかって、海を渡ってこの地に来たんだしー、漁なんて毎日してんだから海は()れっこー、つまり戦わなくったってすむ方法あるじゃーん』

 

「この期に(およ)んで、まだ回避(かいひ)模索(もさく)しているとは…」

 

『んなこと言ったってー嫌なものは嫌なのー』

 

「曾祖父じゃ無いです、もうギの国は200年この地で生きてきました」

 

『そうだっけー、ごめーん・忘れてたー』

 

ツクヨミの周囲が白い(もや)で覆われる、部屋の温度が一気に下がった、

 

「十代前のご先祖が~、どのような経緯(けいい)()て~、この地にたどり着いたか~、まさか~、お忘れでは有りませんよね~」

 

鬼姫は顔をブルブルと左右に降りつつ、

 

『あ・あったり前だのクラッカーだよー、いや・です、はい』

 

ツクヨミの顔色を(うかが)いながら後退(あとずさ)りする鬼姫である、

 

『おねーちゃんそこまでバカじゃないしー、えへっ』

 

笑いながら言う鬼姫の両手には、大きな円鏡(えんきょう)(たて)がわりに(かま)えられていた。

 

「ヤタノカガミを構えて言っても、説得力無いんですけど~」

 

ツクヨミは手を()りながらタメ息を付き、真顔になって話し始めた。

 

「わたし達のご先祖様だって、安住の地を求めて侵略(しんりゃく)をしました、先住民族(せんじゅうみんぞく)アピからこの地を奪ったのです、きれい事なんて1つもありません、戦って・殺して・殺されて・勝ち取った土地です、生きるっていうのは、民を(ひき)いるっていうのは、そういうもんだよ…」

 

『ツク…』

 

鬼姫は円鏡から目だけ(のぞ)かせて、ツクヨミの様子を(うかが)う。

 

「この地を逃れたところで、また別の地に住む人と戦に成るだけだよね、いい加減理解しようよ」

 

ツクヨミは説得というよりも懇願(こんがん)していた、

 

「おね~ちゃんが…、いいえヒミコ様が御覚悟(かくご)さえ(いただ)ければ、ギの国が傷付くことはありません、ネの国など七竜天蒸発(しちりゅうてんしょうはつ)の一撃で跡形(あとかた)もなく消し去って仕舞(しま)えるのです」

 

『消し去る…か、でもでもツッキー、ネの国がヤタノカガミ持ってたらさー、()ね返されちゃうよー』

 

「まさか~、あの魔法後進国に限ってそれは無いって~」

 

ケラケラと笑うツクヨミに対して、ヒミコは思案(しあん)げに続ける、

 

『なら、ネはどうやって此処(ここ)をロックオンしたの? ネが後進なら超遠距離(ちょうえんきょり)魔法ってムリだしー、ツッキーが視たのってーピンポイントだよねー、それって超超高等魔法なんですけどー』

 

ツクヨミの表情が固まる、

 

『ウリウリー、己を知り相手を知って百戦あやうからずー、ツッキーの決まり文句じゃなかったっけー、どやっ・なんか言うてみー』

 

ツクヨミは両目を閉じて眉間(みけん)にシワを寄せたまま微動(びどう)だにしない。

 

・・・

 

「あああああ~~~!」

 

ツクヨミが大声で叫んだ。

 

「ネのヤツ~()ちやがった~~!」

 

『へ…え…?』

 

 




ここまで読んで頂いた方に心から感謝\(__)
今後の展開としては、残酷なシーンや卑猥な表現もたぶん出てきます。
それでも読んでいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
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