プロビデンス/神々の摂理   作:TAINZ

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キミはあたしの家来にする

シキが放った超絶魔法・超弩級オレ様の怒り爆発拳(ファイナルボルテージグラッシュパーンチ)を開戦の合図として、ギの戦士達はネの国へと進軍を開始した。

 

サルメに率いられた1000人の狂戦士(バーサーカー)達に死の恐怖は一切無く、魔法も獣も恐れるモノは一切無い、ネの国を蹂躙(じゅうりん)しつくすまで闘争は終わらない。

 

「シキ待って…何か…おかしいよ~」

 

魔力を溜めるシキに向かってツクヨミが問い掛ける。

 

『あーん? お前は何も気にせず、オレ様のカッコいい姿を目に焼き付ければ良いんだよー、ハッハッハッハー』

 

シキは一瞬(いぶか)しげな視線をツクヨミに向けたが、すぐに余裕の笑顔で答えた。

 

「違うの~! 本当におかしいんだよシキ~、わたしが見た未来視には無かったんだよ~」

 

「くっくっくっくっく、がーっはっはっはっはっはー、ほんまに優秀やなーヒミコちゃんよー、せやでーヒミコちゃんが見たんわ偽物(にせもん)やー、どや…神さんの目ーを狂わせたったでー、ちったーわい等の努力が理解できたかー」

 

シキが放った雷光による(しび)れから回復した男が、満足気に笑いながら立ち上がる。

 

(ばく)!」

 

ツクヨミが先程ヒミコに放った縛呪を男に懸けた。

 

「はあっ!」

 

男が放った気合いが縛呪の魔法を霧散(むさん)させる。

 

「なによ~それ~…」

 

「残念やなーわいに精神魔法は効かへんでー」

 

(ノーマルサンダー)

 

シキは無表情のまま空に向かって人差し指を立てたその直後、空から一筋の光が男の頭上めがけて一直線に降り注いだ。

 

ガオオオーーーンンン…

 

男へと向かって降り注ぐ雷光、その雷光に向かって飛来する巨大な影、その影が大きな雄叫(おたけ)びを上げた、すると一直線に降り注ぐ光の筋が巨大な影へと向きを変え影に吸い込まれた。

 

雷光を吸収した大きな影は、そのまま聖櫃だった場所(今は天井と北側の壁が吹き飛んでいる)へと飛来した。

 

「早かったやん、カルルはちゃーんと脱出できてんやろなー」

 

男は飛来した巨大な影を(いつく)しむ様に撫でながら話しかける。

 

『なんだー? ソレはー』

 

ツクヨミは驚きの表情で、シキは(さげす)んだ表情で、飛来してきた巨大生物を見ていた。

 

「ろすとてくのろじーゆーんやったかー、おどれ等の魔法も似たよーなもんなんやろー」

 

男が言うこのセリフにはシキの表情が変わった。

 

『テメー何者だよ…なんでロストテクノロジーを知ってる』

 

「当ててみーやー、ヒントは200年前やー、わいが誰なんか当てたら教えたるでー、今回の仕掛けっちゅうもんをなー」

 

「200年前…ってまさか、アピの末裔(まつえい)!」

 

(かしこ)いなー、けんどそれじゃー半分や」

 

男は巨大生物の頭を撫でながら口元だけ笑って応える。

 

『テメー混血(ハーフ)だな、何色と混血しやがった!』

 

「正解、ほな答えてやらんとあかんなー、何色かって質問やったけかー、おめーさん等がゆーとこの失われた大陸やったか、そん大陸に居った時は赤人ゆーてたらしいな、ほんまもんは青っ白いんに赤人ゆーんはよー分からんが」

 

男は右腕を伸ばしながら興味なさげに話した。

 

『フッ、混血による配合は赤の得意分野だったか…、そのキメラも赤から(ゆず)り受けたってー訳か?』

 

シキがキメラと言った巨大生物は、胴体と頭がオオカミで四肢がシカ、そして胴体の背中からはオオワシの翼が生えている、大きさにして一般のオオカミの十倍はゆうに有り、その体を自由に飛ばせる翼は更に巨大である。

 

「わい等と赤人を別々に考えんなや、わい等の先祖でもあるアピはー確かにおどれ等の先祖にこの地を盗られたなー、せやけどそれは200年も前のこと、そん後アピの一族は北の大地へと移り赤人と共存しとるんや、生粋(きっすい)のアピも生粋の赤人も、もーほとんど居らんわ」

 

『ハンッ、赤だろうがアピだろうが関係ねえな、ただテメー等はロストテクノロジーを今でも使ってるってーことだよなー』

 

シキは不快感をあらわにして吐き捨てるように言った、それに対し男は軽く笑う。

 

「さっきの火炎魔法って…」

 

「せや、カルルのとっておきやー、ヒミコの障壁魔法を破ったんがーカルルの火炎魔法やー、どやったーわいが悪戯(いたずら)せーへんでも破られたんとちゃうかー」

 

男は右手人差し指を空に向けてクルクルと回して、最後に手の平をパッと開きながらバーンッと付け加えた、ツクヨミに向けた笑顔はとても楽しげである。

 

『テメーは、あの状態から無事に逃げられたってー面だなー…』

 

「想像にまかせたるわー、でもなーわいの方でも誤算やったでー、カルルの魔法を嬢ちゃんが吹き飛ばしたんには正直(おど)れーたぜー、嬢ちゃんは何者や?」

 

男はツクヨミとシキを交互に見てから言う。

 

ツクヨミとシキは無言のまま男を(にら)み返した。

 

「まーええか、ヒミコゆーんやって名前ちゃうんやろー、ギの国の代表が呼ばれとる役職みたいなもんちゃうん、んなもん詮索(せんさく)してもしゃーないわなー、つーこって…ほな本題に入ろかー、こん戦はギの負けや、手打にせーへんかー」

 

男は両手を広げてツクヨミとシキの方へと歩み寄る、男の真意が理解できない2人は警戒しながら次の言葉を待った。

 

「おたくの色っぺーねーちゃんが攻めにいっとるネの国は、まったくの無関係やで、ゆーてる意味わかるなー」

 

「そ・んな…」

 

ツクヨミの表情が強張(こわば)る、

 

「ネの国から放たれた魔法でギが攻撃された、やからギの国は正当防衛やーちゅうてネを攻め落とすけんどー、さーていったい誰が放ったんやろねーあんな高等魔法をなー、ネみたいな魔法後進国がやでー、証拠(しょうこ)掴めんかったらー、ギは連合に単独で弓引いたことに成るわなー」

 

「ふざけないでよ! 確かにネの国から撃たれたんだからそんな…、でも…そんなことに成ったらギの国は四方から(はさ)み撃ちにされる…」

 

「ご名答ー、大当たりやで、それが今回の仕掛けやからなー」

 

男はニンマリと笑いながら拍手した。

 

『アッハッハッハッハー、バカかーテメーはー、テメーをとっ捕まえて火炎魔法を撃った奴を押さえりゃー良いだけだろーがー』

 

シキは男よりも惨忍(ざんにん)な笑みで返した。

 

「まーそー強がんなやー、何の準備もねーこーんな状態で、そー何発も超絶魔法がだせねーのは嬢ちゃんの方が分かってんだろー、退()(ぎわ)をわきまえるんも上に立つもんの務めやぞー」

 

聖櫃はもとより社それから小高い山にかけての結界は崩れていた、儀式によって作り出す魔力は望めず、魔法を精製する為の魔力はツクヨミとシキの体内に宿している分しかない。

 

「シキ…おね~ちゃんと変わって…」

 

『何言ってんだー、いまヒミッ…』

 

ツクヨミはシキに抱き付いてキスをした。

 

「封印…」

 

シキの銀髪が黒髪へと戻っていく。

 

「ふーん…一つの身体に二つの人格っちゅー訳やなー」

 

「おね~ちゃん、ごめんなさい…わたしが間違えて…」

 

『大丈夫、まだ間に合うから』

 

ヒミコは、目に涙を溜めて謝るツクヨミの身体を強く抱きしめた。

 

『…キミの願いは分からないけど手出ししないでね、約束してくれたらキミの願いも聞いてあげるから』

 

黒髪黒眼に戻ったヒミコが男に視線を移して言う。

 

「なんもせーへん、約束したるわー」

 

ヒミコは男をグッと睨んでから言う。

 

『嘘ついたら針千本飲ませるからねー』

 

「分かったからー、はよーやりーや」

 

ヒミコはツクヨミを座らせると仁王立ちになり両手のひらを仰向けにして構える、目を閉じて全神経を集中させてサルメを感じた、少ししてサルメの位置が特定できると目を開き魔法を唱える。

 

『われはギの皇女、鬼姫である、ギの民はわれの意に従い停戦せよー、迅雷(ライトメッセンジャー)

 

ヒミコが広げた両手の平から放出された無数の光は、サルメとそれに続く1000人の狂戦士達へと降り注がれた、朱色だった戦士たちの刺青はだんだんと黄色に変わりやがて元の青へと変わる、それに伴い進軍の足もスピードを落とし、そして止った、それは国境を超える(わず)か手前であり、当然ネの国からも目視されていた。

 

「おね~ちゃん、ありがとう…でも…」

 

『大丈夫・大丈夫ー、ツッキーがシキを抑えてくれたからー、最悪の事態には成らなかったんだからさー、よしよし・いい子いい子ー』

 

ヒミコはツクヨミの頭を優しく撫でながら言って、

 

『約束を守ってくれた事には感謝するよ、でも…随分と酷い事をするじゃないかー』

 

ヒミコは男に向き直って告げる、男は(あご)に手を当てて何も言わずにヒミコを見つめた。

 

「お前の真の目的はなんなの~、ギの国を滅ぼすのなら姉様の邪魔をすれば出来たでしょ~」

 

ツクヨミは(くや)しさを込めて男を睨んだ。

 

(何しとんのやわいは…、ギの国を滅ぼすっちゅーんが最大の目的やったやないか…、てかーそん為に修行に励んできたんやで…、今更どんな顔してあいつ等に会えちゅーねん…)

 

男は頭を掻きながら独り言を言う。

 

『キミは…いやキミの一族は、ギの国を・この地を取り戻したいって思っているのかい?』

 

「まったく…場にそぐわんこと(質問)をゆー姫さんやなー、当然…ってーゆーたいとこなんやが…、ほんまちょーし狂うわ…、正直ゆーて…わいにも分からん!」

 

ヒミコの質問に対して、頭を掻いていた手を忙しく動かして悩んだ挙げ句、バッと両手を開いて開き直った。

 

「分からん!って何よ~、こんだけメチャクチャにしといて~、無責任すぎでしょ~」

 

ツクヨミは目を見開き鬼気迫る顔で男に言い寄る、それに対し男は両手の平をツクヨミに向けたまま後退して行く、だが男はキメラのオオカミにその行く手を(はば)まれた。

 

「シャレットー、おめー…」

 

後退を阻止(そし)された男は、自らがシャレットと呼ぶオオカミに対して非難の視線を向ける、しかしシャレットはいっこうに構うそぶりはない。

 

「なんとか言いなさいよ! 復讐(ふくしゅう)でも略奪(りゃくだつ)でも何でもいい、あなた達が正当だと思う言い分をぶつけなさいよ~、それすらも無いなんて侮辱(ぶじょく)は…絶対に…」

 

ツクヨミの目から悔し涙がこぼれ落ちる。

 

「なんも泣かんでもええやん、わいだって困ってんねんからなー」

 

男はツクヨミが泣いたことで心底困った顔をした、そこに今度はヒミコが歩み寄る。

 

『キミの願いを言いなよ、あたしはそれを聞くと約束した、だからキミの願いに答えなきゃならないだろ』

 

そう言ったヒミコの表情は男を敵として見る眼差しはなく、それはただの会話であり、普段ツクヨミからもたらされる相談に対する様な、まったくの自然体であった。

 

「姫さん…ほんまのヒミコはおめーさんなんやろ…なんでや? どないしたらわいをそんな目で見れるんやー、わいはギの国を滅ぼそうとした相手やぞ…」

 

男は明らかに動揺していた、自分に向けられる眼差しが男にとって信じ(がた)いものなのである。

 

『その質問に答えることがキミの願いなの? それでいいなら答えるけど』

 

「いや、ちげー…」

 

男は慌てて否定しようとしたが、その仕草を見るヒミコは小首を傾げる。

 

「あーええわーそれでええ、何でなんや…」

 

『キミはもう見ちゃったから隠しても仕方ないのかな、教えてあげるのは構わないんだけど…、でも本当は絶対の秘密なんだ………キミは…この秘密を知れば…生きてこの国を出ることは出来ない…』

 

そう告げたヒミコの黒い瞳が深い闇へと化して()く、その瞳は男の瞳孔(どうこう)を捕えて離さない、そして男の意識はヒミコの瞳の奥へ奥へと引き込まれてゆく………。

 

ガオオオオオオーーーーン

 

シャレットが主の異変に反応し牙を剥いて()えた。

 

「なんやー今のはー、魔法の気配なんてせんかったぞ…」

 

男の(ひたい)に大粒の汗が流れる。

 

「魔法じゃない…呪いよ…」

 

ツクヨミが(はかな)い声で言う。

 

「呪い…やと…あれが…、ヒミコとは…あんな世界を常に見とんのか…、ふっ…ふっ…ふはは…はっ…はははははは…、そーかい…ありゃーねーわなー、オメーよう正気で居れんなー、あっはっはっはっはっはぁ…」

 

肩で呼吸をしている男はゆっくりと呼吸を整えながらヒミコの顔を見詰め、

 

「んで、わいはもうギから生きて出れんのやったかー、どないするーヒミコにやったら殺されたってもええで」

 

男はすべてを受け入れた顔で微笑み床に座った。

 

『優しいんだねキミ…あんなに酷い事したのに変なの』

 

男の言動に驚いたヒミコだったが、照れくさそうな笑顔を作った。

 

「なんかもーどーでもええわー、ヒミコが抱えとるもんに比べたら…、わいの命なんてしょーもないチンカスに思えたったわ―、かまへん…好きにしたってやー」

 

この上なく清々しい表情を見せた男は床に大の字で寝そべった。

 

『キミ…さっきからあたしの名前を呼んでおいてさー、キミの名前を教えないのって不公平だと思うんだけどー』

 

ヒミコは()ねた様に唇を尖らせて言う。

 

「おね~ちゃん!」

 

今度はヒミコの言動に驚いたツクヨミが叫んだ。

 

「わいの名はトウキ、穢土(エド)の国一等(いっとう)の忍者やー、(おぼ)えとってや」

 

トウキと名乗った男は屈託(くったく)なく笑った。

 

『トウキ…かー、ふーん…へーえ…ふーん…へーえ…』

 

「なんや?」

 

『トウキ…トウキ…北の大地とトウキ………トウキビだー!』

 

「あかーん、それを(つな)げるんだけは堪忍(かんにん)して~な~」

 

『あれあれれー、忍者は耐え忍ぶから忍者なんでしょー、しかも一等の忍者って言ってたのにー、なっさけないなー』

 

「おね~ちゃん、何考えてるの~、こんな状況だってゆ~のに~」

 

「せや、ひと思いに殺ったれやー、恥ずかしゅうて(かな)わんわ―」

 

『決ーめた、トウキ、キミはあたしの家来にする』

 

腰に両手を当てたヒミコは、そう高らかに宣言したのだった。

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