ギの戦士達が山の麓に在る社へと戻っていた、誰の顔にも不満の色が
「お客人、俺はめんどくせえのが嫌いだ、手っ取り早く
自分の身長ほどもある斧を軽々と担いだマキラは、隊列から離れトウキの元へと歩いて行く。
「下がりなさいマキラ、姫様の御前です」
サルメが独断で行動するマキラを
「
マキラはサルメの制止などお構いなしというように、後ろ手に軽く手をひらつかせて答えた。
「隊長自らが手本と成らないで
サルメは獣の
『ストーップーー』
ヒミコが叫ぶ……ヒミコの叫びには魔術が組み込まれているのか? 数秒であるが声の響く
「申し訳ございません」
サルメはヒミコに向き直り片膝を着いて伏せた。
『あたしこそごめんね、ちゃんと皆に説明しなきゃなんだけどー、まだそのなんて言うかー、ネの国とも変な関係になっちゃててー、えーとだから…』
ヒミコは言葉に詰まり言い
「さきほど鬼姫より停戦の号令がかかりはしたが今現在も戦時下である、皆の心に
ヒミコが詰まった言葉をツクヨミが引き継いで話をする、これが普段ツクヨミが担当する役目である。
「ツッキーさま、俺等は姫達に不満がある訳じゃないんすよ、この客人と、隣にいるオオカミの化けもんに対してだって文句なんか無いっす、ただ・これから味方に成るってんなら、どっちが強えか知りてえじゃねえっすか」
「ええな! にーちゃんみてーなサッパリしとんの、わいもすっきやでー」
これまで腕を組んだまま事の成り行きを
「あんた…ネの
トウキの方言に
「お前ら~、人の話を最後まで聞け~」
皆の感情に1人で心配していたツクヨミにとって、野郎2人の無神経さは
『ツッキー地が出てるよー』
当事者である実姉は、野郎達よりも無神経だった、でも当の本人にはまったく害意がないので、ツクヨミとしても対応に困る。
「おね~ちゃん、いま突っ込むとこってそこじゃないでしょ~」
『えーと、ツッキー顔怖いよ…とかかな?』
ヒミコは
「もういい、おね~ちゃんは
ツクヨミは目を吊り上げてヒミコを睨み、殺気だった怒りを
「ね~マキラ、わたし今言ったよね~、ギは今も戦時下だって~、立会い~? そんなことして
そしてツクヨミの怒りの
「おいおいツッキーさまよー、まさか俺が負けるとか思ってんじゃねえよなあ」
また、幼馴染みのマキラも
「そりゃ~ま~マキラは強いけど…、だからって怪我をしないとは限らないじゃない、てか~皆の前でツッキーって呼ぶな~」
マキラの実力に対してツクヨミは誰よりも信頼している、なので別のことで
「へーい、ツクヨミさまー了解いたしやしたー、ならばケガをしなきゃあ良いんすね」
マキラは片目を
「ま・あ・そ~だけど…」
ツクヨミは自分の言った言葉を思い出しながら渋々と了承した、と言うよりは丸め込まれたが正解だろう。
「客人、
マキラは担いでいた斧を地面に突き立ててから、
「わいは何でもかまへんけんどー、いちおーゆーとくがわいは忍者やでー、ステゴロやと勝負にならんとちゃうかー」
トウキは組んでいた腕をほどきニンマリと笑う、マキラの問いに応えながら自らの装備を脱ぎ捨て上半身裸に成った、そして
「おいおいその体のどこが忍者だよ、まったく
マキラもトウキと同じく、装備を外しながら上半身裸になる、マキラは海の男ならではの大きくて分厚い筋肉を
「くっくっくっく・興が乗ってきたわー、マキラはんゆーんやったか、あんさんほんまええ体しとんのー、ちと
トウキは目を
「なめてる…ってえ訳じゃないみいだな」
飛び交う罵声に
「マキラはんこそ
お互いの視線がぶつかり合い、マキラそしてトウキ両者の顔から笑みが消えた、マキラが一足先に土俵に上がりトウキがその後に続く、マキラが土俵に上がった時には
『トウキー、あんたはあたしの家来に成ったんだからー、負けたら承知しないぞー』
静寂に包まれていた空気の中、まったく空気を読まないヒミコのこのひと言に戦士達がどよめいた、トウキはトウキでどよめきには目もくれず
「おね~ちゃん! なんてこと言うのよ~、マキラはギの隊長でしょ~、マキラの方を応援するのが
こちらもこちらで多少ずれた
『だってー、トウキの味方って誰もいないからー、可哀想でしょー』
ヒミコに対しては合っていた。
「どうしておね~ちゃんはいっつも~、もう少し自分の立場を考えてよ~」
『ちゃんと考えてるじゃーん、不公平にならない様に考えたよー』
「だから~、不公平になるのが当然なの~、トウキはよそ者なんだからそれでいいの~」
『えーあたしはそーゆーの嫌いだなー、同じ
「うぅ…ずるい…、こんな時に正論を言うなんて…」
姉妹喧嘩の軍配は、どうやらヒミコに上がった。
「ほんまにわっからん姫さんやなー、あないな地獄を見続けとんのに…、どないしたらあんな性格になるっちゅーねん…」
トウキは目を細めてヒミコを見詰め、口元だけ笑った。
「あんた…、ヒーさまの秘密を知ってるのか?」
マキラはトウキにだけ聞こえるように質問する。
「わいはもー姫さんに命差し出してんねん、わいが言えるんはそれだけや」
マキラはそう言うトウキの目を永らく見続け、
「水を差したな、忘れてくれ」
「のーぷろぐれむや」
お互いがひと言づつ言い終えると
「
睨み合う2人の間に現れたのはサルメだった、そしてサルメの手には
「わいは構へんよ」
「なら頼む」
「両者・かまえてー、見合うてー」
サルメが刀を右手に立てて持ち、腰を落としながら右足を引く、
「時間です、手を付いて、腰を下ろしてー」
サルメの掛け声にマキラ、そしてトウキもタイミングを合わせてゆく、
「待ったなし!」
お互いに寸分ずれることなく右拳を地面に叩き付けた。
「はっきよい!」
マキラ、トウキ、共に一直線に突進してお互いの額同士が激しくぶつかった、
「ようはっけよい、はっけよい!」
サルメの掛け声が響く中、マキラとトウキは激しい張り手の
「のーこった、残ったー」
マキラは激しく顔面を叩かれながらも、下から上へと持ち上げるようにトウキを土俵際まで追い詰めてゆく、
「はっきよい、はっきよい」
完全に押し込まれているトウキは、マキラの下から繰り出す張り手を両手で掴み一本背負いを打つ、
「残った、残ったー」
完全に宙に舞うマキラだったが、空中で反転して投げを打ったトウキの眼前に着地した、
「ようはっけよい、はっけよい」
今度は2人ともお互いの腰に手を回しガップリ四つの形に成る、
「さあ残った、のこーったー」
普段は冷静なサルメも、この大一番に力が入る、
『そこだー、トウキー寄りきれー!』
「マキラ~、頑張れ~」
トップである姫達の応援合戦はそのまま戦士達に連動した、ギの国が
「おうよー」
マキラが上下に大きくがぶりを入れグイグイと押し戻す、トウキはあっとうい間に土俵の中央まで戻された、
「ずおりゃー」
トウキはマキラのがぶりのタイミングに合わせて
「のーこったー、残ったー」
両者が片足立ちのまま土俵際へと流れていく、2人を追うサルメも土俵際へと
『いっけー! トウキー』
「残して~! マキラ~」
トウキが左手を引いて
「うおりゃー」
マキラに
「負けるな~、バカ~マキラ~」
土俵際で
・・・・・
「そこまでーーー」
最後にうっちゃりを放ったマキラは、キレイなブリッジをした姿勢で土俵を割っていた。
・・・
「わいの敗けや…」
土俵の中央で
「よっと…」
ブリッジの姿勢から軽く上体を起こして立ったマキラが、自分の両手を見詰めそれから両
「わいは…なにをやっとんのやーー!」
ドガーーンっと、トウキが地面を力一杯に殴りつけると土俵にヒビが入った、そしてトウキはゆっくりと立ち上がりマキラへ向かって頭を下げた。
「
その成り行きを見ていたヒミコが、小走りに土俵へ上がると軽やかにジャンプした、そのまま前方宙返りすると頭を下げているトウキの後頭部に
「ぐぎぇー」
顔面から土俵へ叩き付けられたトウキには何が起こったのか見当もつかない。
『試合に勝った方がそんな顔をしてたらさー、負けた相手に失礼じゃないか、シャンとしないとダメだぞー』
鼻血を出しながら
「せやかて…わいは…、力比べしよーゆーたんに…、わいの身体は逃げてしもーたんや、神聖な奉納相撲を…穢してしもーた、わいは自分が情けなーて悔しゅーて…」
マキラがうっちゃりを仕掛けた瞬間のこと、羽交い絞めが
「ヒーさまの言う通りだぜトウキー、試合に勝ったのはお前だ、でも力比べに勝ったのは俺だぜ、それで良いよなー」
マキラは歯を見せながらトウキの元へ歩み寄り、トウキの手を取って引き起した。
「ええんか…」
「お前こそいいのかー、力
「完敗やー」
「試合はお前の勝ちだ、胸を張れよ」
マキラがトウキの胸をドンッと叩いて笑った。
「おおきに」
トウキの顔にも笑顔が戻った。
「見ての通りだー、この試合は俺の負けだー、物言いのある奴は土俵に上がりな、もう一番相手に成るぜー」
マキラは戦士達に向かって叫ぶ、皆が納得した訳ではないだろうが異論の声は出なかった、ただ1人を除いて、
「バカマキラ~、負けるなって言ったのに~」
ツクヨミだけは目を
「わるかったってー、そー怒んなよー」
マキラは両手を合わせてツクヨミに謝るが、ツクヨミはそっぽを向いてしまった。
「これにてー奉納相撲は打ち止めー」
サルメが試合終了を告げて余興の幕が下りた、それから軍配の代わりに持っていた刀をトウキに差し出す。
「わいにくれるんか?」
「姫様を護るための刀だ、常に
「信じてくれるんか?」
「今のところはね」
「姫さんが変わり者やと、下に着く者も変わり者になるんか?」
そう言いながらトウキは
『あたしのー、どこが変人だってゆーのよー!』
頬を
「ぐはっ…、…まったく手のはえー姫さんやなー」
トウキは頬を
「なートウキ、何で
マキラは首を傾げる。
「なんやそんなんも分からんのかー、男の器量についてはまだわいに部がありそーやな、あっはっはっはっはー」
トウキの言葉の意味が理解できないマキラに、
「そうかもな、お前はいまだ
そうサルメが
「やべ、忘れてたー」
マキラはツクヨミの元へ駆けて行き、トウキはシャレットのところで装備を身に付ける、サルメは8名の隊長を
「気付いてるかも知れんが、わいはネの国の人間やない」
開口一番にトウキが言う。
「当てようか、お前はアピの子孫だろ」
マキラが
「わいも感じたで、ギの国にも残っとったんやなー、アピの血統みたいんがなー」
トウキとマキラがお互いを見ながら笑う。
「俺の
「ほんまか…、わいは…わいの一族は…、なんも知らんと憎み続けとったんか…」
『トウキ、憎むことは間違いじゃないでしょ、キミ達のご先祖方は土地と家族と神々を奪われたんだから、生きていく為にも憎しみ続けなければならなかったんだよ、だからそれを否定しちゃだめだ』
ヒミコが下を向くトウキの顔を両手で
『あたしは自分の罪から目を
ヒミコはトウキの目をしっかりと見続けた、
「姉様、その辺で…」
ツクヨミがヒミコの肩に手を
「
そして軍議は明け方まで続けられる・・・