プロビデンス/神々の摂理   作:TAINZ

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べーっだー

「ねぇトウキ、エドも随分(ずいぶん)と豊かになってきているし、今更ギを取り戻さなくてもやっていけるでしょう、ジィジ達の語り部は200年も前の話だよ、トウキが真に受けなくてもいいと思う」

 

()き通るような白い(はだ)、それとまだ10代前半だというのに、髪は完全な白髪をした美しい少女と、こちらもまだ10代半ばにしか見えない褐色(かっしょく)のトウキが、深い雪の中2人きりで語り合っている。

 

「生きていくだけなら何とかなると思うけどよ、でもエドは1年の半分が(こお)ってんだぜ、その間に他所(よそ)の国はどんどん力を付けてってる、俺はネの国に行ってそれがよく分かったんだ、このまんまじゃー、いつかエドも奴等の食いもんにされる…」

 

ネは商業が盛んな国である、連合以外の国々にも率先(そっせん)して貿易(ぼうえき)を行っておりエドもその1国だった、更に1年前のことトウキは若さゆえと自らの技量を(ため)したくて、ネの商船に無断で乗り込んだ、船の乗組員はまだ幼いトウキに対して(とが)めることはせずに、雑用係りとして密航(みっこう)を見逃した。

さらに船長はネの国での身元引き受けまでしており、そのお陰でトウキは半年間をネの国で過ごした、その間トウキは船長と共に連合のあちこちを周り見聞を広めることが出来ていた、そのトウキの目にはどうしても穢土(エド)が連合よりも(おと)って写ってしまう。

 

「そうならないように、僕やトウキのお(とう)交渉(こうしょう)してるんじゃないか、それにトウキだって(ひい)バアの占いを知ってるよね、10年後には連合は滅亡(めつぼう)するって」

 

少女とトウキの家系はエドの国の代表的な家柄(いえがら)である、国の政治(まつりごと)や外交を主に()り行っておりエドにとっては重要(じゅうよう)なポジションである、そんな家柄に育ったトウキが自由奔放(ほんぽう)なのにはエドの国柄が(うかが)えた。

また、トウキはアピの血統が()いため肌の色は褐色なのに対し、少女は赤人の血統を強く引いていた為に肌の色が白い、そしてエドでは少女と同じ肌の色と白髪を持つ者は1人だけである、それが曾バアと少女が呼ぶエドの魔女なのだ。

 

「知ってるよ、黒人の末裔(まつえい)が大陸から攻めて来るってんだろー」

 

「僕に言わせればトウキがしようとしてることってね、無意味(むいみ)無駄(むだ)無用(むよう)無価値(むかち)なんだよー分かるー?」

 

少女は腰に手を当ててトウキに1歩近づき下からトウキの顔を見上げ、一言一言に力を込めて叩き伏せる様に言葉を発した、トウキはといえば()()る少女から逃れる様に上体を反らす。

 

「そ・そんなん()ってみなわからへんやん…」

 

「ネの言葉を使うな!」

 

少女は目を(すが)めて言い放つ。

 

・・・

 

嫌悪感(けんおかん)(あらわ)にした少女の表情に圧倒(あっとう)されたトウキは、一旦(いったん)少女から目を反らせ、

 

「…連合が滅亡した後はどうするんだよ…、次はエドが標的(ひょうてき)にされんの見え見えだぜ」

 

とても言い(にく)いことだったのだろう、トウキの顔色が暗く(しず)んだ。

 

「トウキは僕たちが負けるって思ってるの? トウキだって必死に修行してきたじゃないか」

 

トウキの弱気な発言に、少女の目が悲しみの色に染まった。

 

「負けねえ…、けど…勝てない…」

 

「どういう意味さ?」

 

「カルルはエド以外の国を見たことがねえから分かんねんだよ…、あれだけ豊かになってる連合が(かな)わない相手なんだ…」

 

 

「それは連合が油断してるからだよ、僕たちは戦の準備をしてるんだから負ける訳ない」

 

「負けない自信はある、でも戦が長引いたらどーする? もし1年以上の戦になったら食料は底をつくし、冬場に戦を仕掛けるとは思えねえが冬は魔獣(まじゅう)たちだって使えねえ、それよりも…黒人に魔法使いが居たらどうする…」

 

 

「僕じゃ、その魔法使いに勝てないってこと?」

 

「違う、そーじゃなくて…、向こうにも魔法使いが居たら…真っ先に(ねら)われるのはカルルなんだ、おれ達じゃあ魔法は(ふせ)げない…」

 

神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで話したトウキは、(くや)しそうに(くちびる)を噛んだ。

 

「僕のこと心配してくれるのは嬉しいけど、僕だっていつも修行してるんだよー」

 

カルルはニッコリと笑う、

 

「でもそっかートウキの(くせ)に、そんなことまで考えてたんだー、トウキの癖に、しっかたないなー、僕も協力してあげるよー」

 

「ほんまかー、んなら仲間集めんとなー」

 

トウキは長旅の間ネの方言の中で生活していたため、気を抜くとついネの言葉が出てしまう、カルルはそれが気に入らなくてトウキを(にら)んだ、

 

「悪かったって、そー睨むなよー」

 

「つぎ(しゃべ)ったらバースト(中級火炎魔法)だからね」

 

この頃のカルルが使える1番強力な魔法の名前を告げた。

 

「でも実際にはどうするの?」

 

「まずは情報収集(じょうほうしゅうしゅう)だよな、おれはネの国に潜伏(せんぷく)して連合を調べる、それから忍者軍には本土の山脈伝いに連絡網(れんらくもう)を造らせようと思ってる」

 

「ちょっと、話が大き過ぎるよー、いくらトウキが忍者軍の頭領(とうりょう)に成るからって、そんな大規模(だいきぼ)な作戦が(みと)められる訳ないでしょう」

 

「そうかー? 訓練の一貫(いっかん)として有りなんじゃないか、忍者なんだから隠密(おんみつ)行動の実施訓練(じっしくんれん)とか言ってさー、案外(あんがい)認めてくれんじゃね」

 

能天気(のうてんき)、楽天家、無責任、ウドの大木ー、あんたってどうしてそう簡単に考えられるんだろねー」

 

カルルはあきれ顔でトウキを(ののし)る、

 

「最後のはちがくねーかー」

 

カルルの毒舌(どくぜつ)()れてるトウキは笑顔で返した、

 

「まーでも、こんな寒い大地ではトウキみたいなのも必用なんだけどね」

 

ため息混じりに(つぶや)く、

 

「なんだ?」

 

「なんでもないよー」

 

今度はトウキがカルルの顔を覗き込むが、カルルはくるりと回りトウキに背を向けた。

 

・・・

 

「カルル…シャロットを(たの)んでも良いかな、さすがに連れてけねーからさー」

 

トウキは背を向けたままのカルルに問い掛けた、その問いに(おどろ)きの表情を(あら)わにしたカルルが振り返って沈黙(ちんもく)する。

 

・・・

 

「……そっか…」

 

カルルは(しばら)くの間うつむいていた、それからひと言だけ「そっか」と(つむ)いだ。

 

「連絡はこまめにすっから、だから頼む」

 

カルルはゆっくりと顔を上げてトウキを見た、

 

「僕は待ち(ぼう)けなんだね…」

 

トウキはここで初めて真剣(しんけん)な顔になり応えた。

 

「もお戦は始ってる、おれ達は曾バアの予言を変えるんだ」

 

トウキはカルルの両肩を(にぎ)って、目を離さずに言った。

 

「…トウキの癖に…バカな癖に…弱虫の癖に…、いつの間にか男になってズルイよー」

 

カルルの目には大粒の涙が溜まり、すぅーっと頬をつたい落ちる。

 

「ごめんなカルル、未来を変えたら幸せに暮らそうな」

 

トウキはそのままカルルを抱きしめ、頭を優しく()でた。

 

【】

 

ギの社である、ヒミコによって顔を上へと向かされたトウキは故郷(こきょう)での想い出を回想(かいそう)していた。

 

(カルル…わいの計画は順調にいっとる、あれから7年も掛っちまったがようやく足掛かりが出来たわ、やのにわいは…決心が(にぶ)りそうになる、…カルルすまん…)

 

「エドに関してゆわなあかんよなー、わいのゆうことを信じてくれゆーんは虫がええ話や、けんどわいは…あんたらんことが好きになってしもーたんや、あんたらだけやない、ネの奴等もおんなじや! 滅亡して欲しいない」

 

トウキは今の自分の気持ちを正直に告白した。

 

『何て言うかー、ありがとう』

 

ヒミコに両手で顔を挟まれているトウキは、ヒミコの顔を見つめたまま()の気持ちを告白した、それに対しじゃっかん頬を赤らめたヒミコがお礼を言う、

 

「アホかー、どないしたらそんな反応になんねん!」

 

本来は突っ込まれる側のトウキとしては珍しい立ち位置だった。

 

『やっぱりキミは優しいね』

 

「そんなんちゃうわ…」

 

ヒミコの言葉に苦虫(にがむし)を噛み(つぶ)した様な顔をする。

 

「滅亡とはどういう意味?」

 

ツクヨミが問い(ただ)した、

 

「ツッキーは星を読めるんやったな、んなら気付かへんのかー」

 

「ツッキーって呼ぶな~!」

 

ツクヨミは間髪入れずに呼び名を否定(ひてい)したが、トウキは構わずに続けた、

 

「ネの国が暗闇に(おお)われとるやろー」

 

「なんで暗闇の事を知ってるの?」

 

暗闇という言葉に反応したツクヨミは、あらためてトウキの言葉を問い質す。

 

「わいの故郷には魔女が居るんや、おっかないでー、そん魔女は9年も前に予言しとるんや、連合があと3年で滅亡する…てな」

 

おっかないと言うトウキは苦笑(くしょう)していたが、滅亡について語るときのトウキの顔は深い苦悩(くのう)に満ちていた。

 

「マジで言ってんのか! トウキ、エドは連合に宣戦布告(せんせんふこく)するってのかよ」

 

マキラだけじゃない、ヒミコを(ふく)むこの場にいた全員が同じ感想を持っていた。

 

「せやない、すまんな言葉が足りんて、連合を滅亡させるんはエドやない、大陸から来るんや、…黒人がな」

 

トウキはヒミコとツクヨミに視線で確認してから言った、失われた大陸での呼び名を。

 

「やっぱり…」

 

黒人という名称に様々な反応が出たが、1人ツクヨミだけが冷静に納得(なっとく)を示した。

 

「気付いとったんかー、ほんまに優秀やなツッキーは」

 

ツクヨミは視線だけでトウキに抗議(こうぎ)して、

 

「見えた訳じゃないの、暗闇の正体について考えて行き着いた答えが、黒人だった…」

 

確証(かくしょう)が持てなかったツクヨミは、誰にも相談をせずに自分の内に()めていた、黒人について話すのは今が始めてである、そしてその事が判断を間違えた原因でもあった。

 

「ツッキーにはほんまに悪いことした、堪忍(かんにん)してとは言わへん、わいの話を聞いた後でやったら、煮るなり焼くなりしてくれて構へん、やが最後まで話し聞いてくれんか」

 

トウキはツクヨミに向かって頭を下げて頼む、

 

「もちろん知ってること全部聞かせて(もら)うわよ、でも先にわたしの質問に答えて、エドの魔女は赤人なんでしょ~、その人はどうやって黒人が攻めてくることを知ったの~?」

 

ツクヨミにとって1番に気掛かりだったのは、自分の能力と魔女の能力との優劣(ゆうれつ)だった、ツクヨミの個人的な興味(きょうみ)もさることながら戦略(せんりゃく)的にも知る必要がある、ツクヨミが得意とする能力は星読みによる未来視(みらいし)と半径100km位までの千里眼(せんりがん)である、ツクヨミの千里眼では大陸は勿論エドすらも見える範囲(はんい)(はる)か遠方だった、対して魔女はエドに居ながらにして大陸の黒人を(とら)え、更には攻めてくる時期をいい当てている、同様の能力を持つ者としては圧倒(あっとう)的な差を突き付けられたのだ。

 

「曾バアの占いは夢占いやねん、カルルに聞いた話しなんやけどなー、曾バアは眠っとる間に意識(いしき)だけ別の生物ん中に入るん言うてたわー、サルでも鳥でも魚でも波長(はちょう)が合うんなら何でもええ入りたい放題(ほうだい)なんやと、んな中でも人間なんて1等入りやすいんやと言うとった、曾バアは入った生物の目と耳で遠いとこの情報を得て来るねん、つまりや曾バアは実際に黒人の侵略(しんりゃく)計画を見とるのや」

 

ツクヨミの千里眼も原理は同様なのだが、ツクヨミは自分の意識は体に置いたまま視覚(しかく)のみを飛ばすため距離に限界(げんかい)がある、それに対して魔女は意識そのものを飛ばすため距離に制限(せいげん)がないのと、視覚や聴覚(ちょうかく)は入った生物のものを利用(りよう)するため情報の解読(かいどく)不要(ふよう)である、つまり魔女が入った生物が理解した内容がそのまま魔女に伝わるのだ。

 

「そんな魔法…わたしは知らない…」

 

 

『ツッキーそんなの魔法じゃないよー、ほら見て見てー、どう?』

 

ツクヨミが頭を抱えて思い悩んでいると、ヒミコはツクヨミの前に立って自分を指さしながら見る様に(うなが)していた、

 

「どうって~、何が~?」

 

『あたしが考えてること分かるー?』

 

ツクヨミはヒミコの目を覗き込む、

 

「お腹()いた~」

 

『アッタリー』

 

ヒミコは腹に手を当てて言った。

 

「おね~ちゃん、いったい何が言いたいのよ~」

 

『うーんとねー、魔女さんは特別な魔法を使ってるんじゃなくってー、千里眼の応用みたいなもんなんだよー、以心伝心(いしんでんしん)って分かるでしょー、千里眼で飛ばした意識と以心伝心を組み合わせた感じなんじゃないかなー、修得(しゅうとく)するにはいっぱい時間掛っちゃうかもだけどー、ツッキーなら出来るようになるよー』

 

ヒミコは落ち込んでいたツクヨミを(はげ)ますのが目的だったが、

 

『でもね、人の意識を覗くのは絶対にダメだよ!』

 

ヒミコは強い視線をツクヨミに向けた。

 

「でもそれじゃ~…」

 

ツクヨミは言いかけてハッと気付く、

 

『ダメだからね』

 

ヒミコは笑顔に戻って念を押した。

 

「はい…」

 

ヒミコの体にはもう1つの人格である四鬼(シキ)が居る、ヒミコはシキの意識を常に感じており、またシキは常にヒミコの意識を見続けなくてはならない、そのことがどれだけの負担(ふたん)になっているのかツクヨミは誰よりも知っていた。

 

『とりあえずご飯食べようよー、ねートウキー、そのぐらい問題ないよねー』

 

ヒミコだけ場違いな明るさで周りを見ながら言う、

 

「せやなー、今晩は何も動かん(はず)やから、今のうちに食っとった方がええな」

 

『よし決まりー、腹が減っては戦は出来ぬでござるよー』

 

ヒミコのあっけらかんとした号令により軍議は一時中断した。

 

『ツッキーも休まないとダメだよ、さっきから千里眼使いっぱなしでしょー、そんなんだと大事な時に倒れちゃうからねー』

 

「おね~ちゃんさっきからわたしのこと心配しすぎ~、わたしはもう子供じゃないんだからね~」

 

『分かってるってー、いつも頼りにしてるよー』

 

ニコニコと笑いながら言うヒミコに対して、ツクヨミは大きなため息を付いた、

 

「分かりました~、ちゃんと休憩(きゅうけい)するから~」

 

『ツッキー大好きー』

 

ヒミコはツクヨミに抱きついた、ツクヨミはなされるがまま大きな欠伸(あくび)をする。

 

・・・

 

『トウキ、ご飯が出来るまで散歩(さんぽ)しよ』

 

「うん? あぁ」

 

ヒミコが聖櫃だった場所へと歩いて行き、その後をトウキがついて行った、

 

『森が(さわ)がしいんだよねー、トウキの仲間でしょー』

 

ヒミコは背を向けたまま山の右手を指差し、落ち着いた声で言う。

 

「千里眼でも見えん筈やのに、分かるんかー?」

 

トウキの声には少し驚きの色が混じっていた、

 

『みーんな目で見えるモノに意識が向いちゃうからねー、聞きずらくなってるのかなー』

 

トウキが仲間の存在を認めたにも関わらず、ヒミコの表情は(おだ)やかなままである、

 

「ギに危害(きがい)を加える真似(まね)はせーへん」

 

トウキは真顔で告げた。

 

『そんなことは分かってるよー、そーじゃなくってー、トウキは仲間の人に連絡しなきゃなんじゃないかと思ってー』

 

ヒミコがトウキと2人きりで社を抜けたのはトウキを自由に動かせる為だった。

 

「わいがあいつ等と会うても構わんのか?」

 

『どうしてそんなことを聞くんだい? キミの方こそ変な奴だなー』

 

ヒミコは腕を組んで首を傾げる、トウキはそんなヒミコの姿に思わず笑みがこぼれる、

 

『なっ…バカにしてんだろー』

 

「してへん、くっはははははー」

 

『本当に失礼なヤツだなキミはー』

 

ヒミコは組んでいた両腕をほどいて、握り拳を作りながら地団駄(じだんだ)を踏む、

 

「堪忍してー、可笑(おか)しゅうて腹が(よじ)れてまうー」

 

『もお知らない、トウキなんて何処(どこ)にでも行っちゃえー』

 

(ほんまに堪忍してーな、姫さんはカルルみたーで…ほっとかれへんやん)

 

『なんだい? 急に(だま)ってー、文句が有るなら言ってみなよ』

 

ヒミコは唇を尖らせてトウキを挑発(ちょうはつ)した、

 

「わいは必ず帰ってくる、ヒミコがなんと言おうが、わいはヒミコの家来や!」

 

歯を見せて笑ったトウキはそのまま音もなく姿を消した、ヒミコは1人聖謐であった場所に残り空を見上げた。

 

『べーっだー』

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