第一話 魔法少女、誕生
「うぐへっ、ぐひひひひひ……、」
どこからか気持ち悪い男の声が聞こえてきた。気味悪く笑いながら男は思う。上条さんは不幸なのではなく幸運なのではないか、と。
だって、スカートの中に顔を突っ込んだり、入浴シーンにしょっちゅう出くわしたり、触ると女の子の服が解けたり、女の子が以下略。
まぁそういうことだ。そんな事を考えながら彼はベッドの上で『と○る』を読んでいた。ちなみに頭にはパンツをかぶっている。「ギャルのパンティお~くれ」と言ったのではないが。
「なぁ、おまえ」
特別集中して本を読んでいるわけでもないのだが、一人しかいないはずの部屋で聞こえた男前声のことを気にする余裕など、彼にはなかった。
――いや、訂正する。彼には状況に対応できるだけの頭がなかったのだ。
「おい、日々徹夜!」
またイケメンボイスが聞こえる。最近幻聴が聞こえるな、と彼は『と○る○○の○○○○』の世界にフルダイブ。「うわっ、みことたんだ、グヘヘヘヘヘ……、」
「きけっ、このアホ!」
いい加減うるさくなってきたので、彼――日々徹夜(以降はてっちゃん)は顔を本から上げ辺りを見渡す。見渡すといっても狭い彼の部屋の中だけなのだが。見えるのは部屋においてあるバー○ラさんぐらい、ああ、筒隠○子ちゃんは入ってたらいいのになグヘ。聞こえた声は幻聴だと結論付け、てっちゃんは本の世界に戻って――、
「――いいかげんにせい、このあほおぉぉぉぉぉぉぉ!」
てっちゃんの頭をぬいぐるみが襲った。……意味が分からない? そんなことないはずだ、文字通り彼の頭を、熊の形をしたワイルドなぬいぐるみが襲ったのだから。しかし現実世界は邪魔が入っていけないな、フルダイブしてーな、違法のチップでいいから、と彼は思ったのだが。
「……ってぇ、なんだよ」
「おまえがさっきから無視するからだろ!」
「なんの用やねん、なんの。俺は読書中やぞ、見て分からんのかこのハゲが」
「……おまえ、驚かんのか?」
「なににだよ」
「なににって……、俺がしゃべってるって事に」
「? どこがおかしいんだ? 人形は喋るもんだろ?」
言い忘れていたがこのてっちゃん、頭が弱い(全国のてっちゃん、ごめんなさい)のだ。だから今のように人形が自分の意思で人の頭を襲ったり、喋ったりしても何も驚かない。
「……アホだ、このてっちゃん、本格的にアホだ……。本当にこんなやつでいいんだろうか……、」
「こんなやつって、何がやねん」
「でも、仕事は仕事だ」
何かに決心したように、人形(以降は熊さん)は呟く。
「おい、てっちゃん」
「なんやねん」
「――俺と契約して、魔法少女になれ」
「……………………」
「何か言えよ」
「……おまえアホか」
「貴様に言われたくない」
なんやこいつ、とてっちゃんは頭をかく。今の台詞、口調こそ違うものの、まるっきり『魔法少女ま○○☆○○カ』のパクリだ。ちなみに『やはり俺の○○○○○○は間違っている』の、『魔法少女とつか☆サイカ』ではないことだけ言っておこう。……少々マニアックすぎたか。
「……ってか俺は少女じゃない」
てっちゃんは、少女というよりは変態さんだ。
「知ってる」
「他を当たれ」
「平行線ですね、だから俺は言います」
「ホラ○ゾンじゃねぇわ!」
「でも、一回やってみたいでしょ?」
「それは……、」
熊さん、痛いとこついてくる、とてっちゃんは思った。確かに変態てっちゃんは魔法少女の格好をしたいと思ったことは一度や二度ではない。彼の視線が熊さんから離れ空を泳ぐ。
「ほら、やりたいんだろ? 吐いちまいなよ」
今がチャンスと熊さんも攻勢に出る。
「な、なんで俺がやらんなあかんねん」
「それは……、」
熊さんは少し俯き、力強く続けた。
「おまえがアホだから、だ」
熊さんは泣きそうな顔になっているてっちゃんを無視して話を続ける。
「魔法少女になるには二つ条件があるんだ。一つは、男であること。もう一つが、誰よりもアホであること、なんだ」
一つ目の条件は、男なら誰でもいいんだが、二つ目の条件がなかなかね、と熊さんはぬいぐるみのくせにクールに言う。
「おまえは……、なんなんだ」
てっちゃんはなんとか声を絞り出す。
「俺? 俺はキュ○べえみたいなものだと……、」「そこもパクるのかよ!」
熊さん、なかなかのパクりっぷりである。ってか、ぬいぐるみもアニメ見るんだな、とてっちゃんは持ち前のアホさを発揮して、さっきアホアホ言われて悲しくなっていた事を忘れて感心したりする。まぁ、イケイケの中学生モデルでもアニメ見たりいけない女の子ゲームしたりする時代だからね。
「で、なんで俺が魔法少女に? 理由を聞いてないぞ」
「あ、そうだった。それの説明を忘れてた」
思い出したように熊さんは言う。
「ええっとだな、もうすぐここ、大阪府で、第五次聖灰戦争が始まる」
まるっきりフェ○トのぱくりじゃねーかとてっちゃんは思ったが、そこはつっこまずに熊さんの話を聞く。
「それに六人の魔法少女が参加し、聖灰をかけて戦……、」「フ○イトじゃねぇか!」
やっぱりつっこむ。ちなみにてっちゃんは変態王の称号を持ってる(高校の中で)から、もしかしたら王たちの宴に呼ばれるかもしれないな、ということは置いといて。
「まぁ、パクリは気にせず聞け。その聖灰を手にしたものは――、」
さっきまで怒鳴っていた事を忘れたてっちゃんの喉が、ゴクリと鳴る。
「キューズ○―ルで2600円分の商品券を手にすることが――、」「えらく現実的だなぁ、おい!」
「まぁ、そういうことだ」
なにがそういうことかわからなかったが、それでもてっちゃんは考える。景品がエッチなDVDとか本なら参加しただろうに――、
「――いや、待てよ」
金で買えばいいじゃないか、なんでそんな事をはじめから気づかなかったんだ俺は、とてっちゃんは自分を責めるのだが……。
正直に答えると、理由はてっちゃんがアホだったから、それだけだったりする。
「その話、乗った。
――魔法少女に、俺はなる!」
てっちゃんは、今にも『一つなぎの財宝』(ワン○―ス)が出てきそうな宣言を高らかにした。
「契約成立、だな」
「ああ、成立だ」
熊さんは人形なのににかっと笑った。嘘だけど。
――一時間後、
「おい、テレビの魔法少女みたいに変身とかできないのかよ!」
思わず叫んでいた。世の中の不条理に、社会の圧力に――。
「そんな便利な事があるか、よし、出るぞ」
少しして、ピピルピルピルピピルピ~、と撲殺天使に撲殺されそうな効果音と共に、ロッカールーム(キュー○モールの服やさんの試着室のロッカールーム)の中から……、ワイルドな人形を抱えた、生きるホラーが出てきた。
「これはゾ○ビですか?」「いいえ、魔法少女です」「またパクリじゃねーか!」
ホラー、その正体は――ミニスカートから出ているいびつな、とても美脚とは言えない足。まっ平らの胸元。可愛げの無い目、短くて癖のある髪の毛――生ける伝説、高比良だった。
唯一彼を女の子っぽく見せるかもしれないのは、小さな身体だけだった。身長165センチ(自称)の身体は小さい。どれくらい小さいかと聞かれれば、電柱を蹴ったら少し傾きそうなくらいだ、と答えそうなくらい小さい。あと、「種○、身長伸びたな」「えっ、ホント?」「嘘だ」ってくらい小さい。
「あ、でもこの模様、もしかして……、」
散々幻滅させられたてっちゃんは、最後の希望を託して右手に浮かんでいる三つのハートマークを見る。フェイ○がモデルだとしたらこの模様はもしかして○殊かも……、
「あ、それはただのハートマーク。可愛いだろ」
「マジかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
てっちゃんは本当に泣きそうになった。仮にそれが霊○でも使い道があるわけではないのだが。ってか熊さん、ハートの刺青可愛いって……。
魔法少女 てつや☆マギカの2600円への道のりは長い。
つづく(のか?)