(ありえねェ。
オレは死ンだはず)
一方通行は思い出す。
あの破滅的なまでの力を。
核兵器とか、太陽とか、そんな力が比べ物にすらならないほどのエネルギー量。
一方通行では力の総量を測ることすらできなかったが、それが最低でもこの銀河系を軽く滅ぼせるほどだということは理解できた。
(あンなもン、世界そのものじゃねェか)
そんなものが一方通行に流れ込もうとしたのだ。
受け止めるどころか、余波だけですべてが吹き飛んだ。
その結果が肉体の爆散だ。
(恐らく、あのガキは向こう側から選ばれてンだなァ)
αはあの少女にとってスイッチでしかなかったのだ。
その後に起こる力の流れは、すべて向こう側から行われていたわけだ。それを一方通行は自分自身で行おうとした。その結果が制御不能な力の奔流だ。
「黙ってないで答えないか?
それほど調子が悪いのか?」
人が好さそうな騎士を無視して、一方通行はチンピラのもとに向かった。そこから少女に会い、問い詰めるために。
時間が巻き戻ったことを棚に置いて。
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「おィ!」
「あ?
アタシは忙しいんだ、また今度な!」
前回と同じようにチンピラを潰し、前回と同じように言葉を返す少女を見て、他人に記憶が残っていないことを確認していく。
「却下だァ」
「嘘だろッ!?」
家々の屋根を跳んで行く少女に宙を浮きながら並走し、考えておいた問いを投げかけた。
「風の加護だなァ」
「あ、ああそうだけど、兄ちゃん何者だ?」
「オレは一方通行。
ンで、風の加護ってのはどォこから引き出してる?」
「あ?
そりゃ世界からじゃねえのか?」
「ッ!!」
「詳しいこと聞かれてもしらねーぞ。
アタシスラム育ちだし」
衝撃だった。
(まさか、本当に世界そのものとはなァ)
真偽はさておき、今のところ筋は通っている。
そして、あれが世界そのものだというなら。
「く、は」
「兄ちゃん?」
(アレさえ手中に収めれば、なれる!)
絶対者。
レベル6。
本来の意味でのレベル6とは違うのだろう。しかし、それができたなら、レベル6を目指す必要はなくなる。
学園都市の技術に、無限に等しいエネルギーを掛け合わせれば、一方通行の敵はいなくなる。
最強などではない。
誰も手を伸ばそうとすらしない、絶対者の地位が手に入る。
「アハハハハハッ!」
「兄ちゃん、アタシ追われてるからさ、静かにしてくんね?」
「あァ」
そう返事をしながら、フェルトの首に手を当てる。
「へ?」
ピリっと言う音とともに、フェルトの眼から光が消える。
生体電気を弄って気を失わせたのだ。
そのまま高速移動で姿を消し、路地裏の一角にフェルトを寝かせる。
一方通行は試したかった。
フェルトを使ってβを得られるかを。
βをそのまま引き出せば一方通行は破裂する。ならばフェルトのαを操りβを引き出し、そのフェルトに向かってくるβをそのまま一方通行に移せば、一時的とはいえ加護を得られるのではないかという安直な実験。
しかし、一方通行のシミュレートでは、向こう側が想定外な動きを見せない限り成功する見通しだった。学園都市最高の脳は情報さえあれば、完全なシミュレートを可能にする。
もちろん、知らないことは分からないが。
「ま、コイツに悪影響はねェだろ」
たぶんなァ、と心の中で続ける。
そして、実践。
「は、はははははァ!」
完全な成功。
そしてここからが難関だ。
一方通行は知りたかった。
どうやって向こう側がフェルトと一方通行を区別しているのかを。
こうして繋がった今なら、逆算するまでもなく、力の流れそのものを鮮明に観測できる。もちろん、何を基準に区別しているのかも分かる――
「あァ?」
――はずだった。
(どういこったァ、コレは?)
基準にしているものは、確かに一方通行やフェルトの中を指していた。しかし、それが、基準となるものが見当たらない。そんなものはないのだ。観測できないのかとルールの再設定を見直すが、やはりできない。事前情報があってなお、疑似的で、間接的な観測すらできないのが、一方通行には不思議でならなかった。
(可能性があるとすればァ……)
細かすぎて見落としている?
よって一方通行はさらに繊細な力の流れに目を向ける。
一方通行は可能性としてもう一つを考えてはいたが、それを無視した。他にまったく影響を与えない、スカラー量の存在。そんなものがあれば確かに一方通行には観測できない。方向もなく、何に影響を与えるでもない、無意味なエネルギー。
しかし、その存在は矛盾している。
何にも影響を与えないのであれば、そんなものは一切観測できず、向こう側が判断基準にすることもできないはず。
結論から言えば、一方通行には観測できなかった。
(どォなってんだァ?)
一応一方通行はもう一つの可能性を探る実験に踏み切る。
フェルトのαを使って、風の加護のオン、オフを繰り返す。
その瞬間だけ、観測できない何かを観測するために向こう側が何かしている可能性を考えたからだ。しかし、それも徒労に終わる。そもそも、そんなことをしていれば、一度目に力の流れを把握した時にわかっていなければおかしい。
ダメもとの実験はやはり成果を出さずに終わった。
「あァ!?」
かに思えた。
実際、向こう側が何かしているということは観測できなかった。
しかし、前回の世界でフェルトの力を観測した時と比べて、出現したわずかな誤差に、規則性があるように感じたのだ。
一方通行は人間であり、いくら緻密な計算を行っているとはいえ、能力に影響しないレベルの誤差は許容している。そもそもそんな誤差の原因を気にしていればキリがないのだ。
一方通行が観測できるのは触れているモノとその周囲僅か数ミリ、反射膜が出せるほどの距離だ。外部の空気の動きで出るような僅かすぎる誤差を気にしたことはなかった。
しかし、ここに来て一方通行は無理に観測範囲を広げだす。具体的には、自身は大気に触れているものと考え、大気を観測するのだ。但し大気の範囲をフェルトと自身の周囲に限定。あくまで誤差はフェルト本人に生ずる誤差だけを観測する。
一方通行は自身の反射すら切って思考に、観測に没頭する。
そのまま三十分が過ぎ、変化が起こった
「あァ…………コレが魂かァ」
魂、そう呼べるようなモノを間接的に観測することに成功したのだ。正確にはもう一つ、力γも。
そして、それらは一方通行が直接観測できない以上、本体はただのスカラー量なのだろう。外に極々僅かな影響を与えながら、本体そのものは外からの影響を受けない摩訶不思議な存在。誤差の集合体に法則を見つけ、間接的にだが一方通行は確かに観測できていた。
「さァて実験の時間だァ」
今度は自身のαを操ってβを直接引き出す。
但しその際に自身のパラメータに出るあらゆる誤差を意図的に制御し、その情報を向こう側に観測させる必要がある。それも、向こう側に気づかせないままに。偽装対象はフェルトの魂の動き。
失敗の代償は死。
命を懸けてやるようなことではない。
そんな考え方もできる。
しかし――
「オレをここに送り込ンだ奴はァ、よっぽど死なせたくないらしィなァ」
――復活するとわかっていれば別である。
今回の誤差観測で、自身が何者かに観測されていることにようやく気が付いたのだ。
この観測者が時間を巻き戻した張本人だとも。
「いいぜェ。
何でもてめェの思い通りになると思ってンなら――」
実験、開始。
「まずはてめェからぶち殺すッ!」
フェルトと一方通行は爆散した。
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「ちょっと君、どうしたんだね?」
騎士のような恰好をしたおっさんはこれで三度目である。
(なるほどなァ。
同じ魂が二人いれば、二人とも加護の使用に失敗するってかァ)
一方通行はその場から高速移動で姿を消し、チンピラの場所へと向かった。
フェルトを待ち伏せするために。
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「ちょっとどけどけどけ! そこの奴、ホントに邪魔!」
路地裏の中央で、一方通行はフェルトを待ち受けていた。
ボコったチンピラは隅にまとめてある。
路地裏の端にいた前回までと違い、フェルトに邪魔だと罵られる。
一方通行はさっと横に避けた。
「お、あんがとな兄ちゃん!」
そういって横を通っていく瞬間――
「へ?」
――フェルトの胸を一方通行の腕が貫いていた。
返り血が付くこともない。
フェルトは一瞬にして命を終えた。
そして、一方通行は高速移動ですぐさまその場を退避する。
当然だ。フェルトが追われていることは今までの事から察するのは難しくない。殺された現場を見られるわけにはいかなかった。
「キャーッ!」
裏路地から悲鳴が聞こえてきたが、それを確認することなく一方通行は遠くの路地裏に入る。
(三度目の正直ってかァ?)
一方通行は魂の偽装を開始。
自動反射と同じく、魂の偽装をオートに設定。
「く、は、ハハハはァァ!
今度こそォ、手に入れたァ!!」
風の加護を自らの力のみで起動する。
向こう側を、世界を騙し、その力の一端を自由にできる権利を得たのだ。
もう、いらない。
レベル6なんて必要ない。
一方通行は直感していた。
こうやって加護を集めていけば、いつかはたどり着くだろう。
この世界に自身を呼び出したモノに。
そして加護の全てを手にしたとき、一方通行はたどり着く。
この世界の神に、絶対者に。
そんな予感は――
「君、少し話をいいかな?」
――長くは続かなかった。
死が、やってくる。