「あァ?」
現れたのは赤い短髪に真っ白な制服(?)を着た美青年だ。
剣を腰に差しているところから見て騎士なのだと一方通行は判断した。
「僕はラインハルト。
先ほどエミリア様の悲鳴を聞いてね、徽章を盗んだ女の子の殺害現場を見てきたんだ」
「……だからァ?」
「あの場から高速で離れていく気配を感じて、話を聞きに来た」
「マジかよォ」
ありえねェな、と心中で続けた。
一方通行はあの場から亜音速で宙を駆け抜けたのだ。その気配を正確に辿り、この短時間でたどり着くなど尋常ではない。
というか人間技ではない。
既にこの周辺の地理を把握した一方通行はこの速度で逃げれば追われることはないだろうと高を括ってしまっていたのだ。
もし、これが最初の死に戻り前ならもっと慎重に、血痕一つ残さないレベルで証拠隠滅を図っていただろう。
幾多の死に戻りがいつの間にか一方通行から慎重さを奪っていた。
(あァ、こりゃ死体が一つ増えるなァ)
「それで、君は女の子を殺した犯人なのかな?」
一方通行は返事として、亜音速で抜き手を放つ。
能力を使用している故に加速に時間はかからない。文字通り最高速到達まで0秒。能力を使用していなければそのGで一方通行の方が軽く死んでいるだろう。
そして、人間の限界反応速度から考えるに、地球人基準ではこれを防ぐのは不可能である。
しかし、迫る抜き手に対してラインハルトは、いつの間にか抜いた剣で対応していた。
抜き手と剣が衝突する。
地面が陥没するが、ラインハルトは微動だにしなかった。
一方通行の手も、傷一つついていない。
「ッチ!
化け物がァ」
「よく言われるよ」
亜音速の衝撃を、ベクトル操作ですべて押し付けたというのにラインハルトは涼しげな顔をしている。
(仕方ねェ)
わざわざ亜音速で抑えているのは、騒ぎを嫌ったからだ。だが、事ここに至ってもう手遅れだと一方通行は悟った。
「いいぜェ。
本気で殺ってやんよォォ!」
「ふむ。
僕としては話を聞きたいだけなんだけどね」
一方通行の言う本気。
それは星の公転や自転から最大限エネルギーを転用したものであり、まさに次元が違う。
一応、ベクトル操作にも限界はある。
しかし、その力は地球という惑星の自転を5%遅らせるほどのふざけた限界量であり、それを自身の速度に変えれば、その速度は光速の99%を越える。
これはただ壁に衝突した余波で大国が一つ焦土になる程のものだ。
個人に対して使うような武力ではなく、ここが異世界だからこそ出せる、一方通行初めての本気である。
しかし――
「それはさすがに許容できないかな」
――目の前にいるのはラインハルトだ。
一方通行は知る由もないが、この世界には魔法一発で世界を丸ごと焦土に変えると言われた怪物がいた。
そして、それを相手に互角の戦いができる、それがラインハルトなのだ。
次元が違うと言えば、それはラインハルトにこそふさわしい。
一方通行が理解したのは、否。観測できたのは力βを介して自身の力が丸ごと消失し、反射すら許さず、剣が頭に迫ってきたことだ。
「すまないね。
国を滅ぼす力を軽はずみに使うような人は、殺さざるを得ないんだ」
――王国所属の騎士として、ね。
そんな風に続いた言葉まで一方通行は認識できなかった。
ラインハルトと違い、ただの一般人である一方通行に、その場で死んで蘇る力は持ち合わせていなかった。
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「ちょっと君、どうしたんだね?」
「クソがァァァァァァ!」
「お、おい!」
一方通行は考える。
勝機がないわけではないだろう、と。
力βが関わっていた以上、ラインハルトは加護の力で自身の力を無力化したはずである。それに対して力の総量で挑むのは下策だ。世界そのものを相手にしては意味がない。むしろそれを発動する条件を満たさないように殺すのが得策である。
加護である以上、そこに何らかの条件、絡繰りがあるはずだと一方通行は考える。
今回はラインハルトに会わないようにする、という選択肢はなかった。
自分より強いモノを許すつもりはないし、その強大な加護を見逃すという選択肢はない。
小細工を使わなければならない、というのも一方通行の癪に障るが、使うに値するだけの加護だと割り切った。
(まァ、焦る理由はなィ)
一方通行は無限コンテニューだとまでは思っていない。しかし、限りなくそれに近い状態なのだろうとは推測していた。なぜなら、先の魂観測時に発見したもの、それは一方通行に紐づく莫大な量の力γ。恐らくこれが死に戻りの原因だと判断していた。
それが一切減っていないことを考えれば、元の量が加護と同じく減るようなものでないと感じていた。それでも無限でないと思っているのは、この力が与えられたものであればその者の気まぐれで外される可能性を考えているのだ。ただ、わざわざ異世界から呼んだほどなのだ。そうそう外されることはないだろうとも推測している。
(なら、いつかは勝てるだろォ)
そう思った時、勝てないパターンが脳裏をよぎる。
ラインハルトが無数の加護を持ち、既に一方通行が思い描く絶対者に到達していたパターンだ。
そんなことあるはずがないと思いつつも、ラインハルトとの会話を選択肢に入れることにした。どの道ラインハルトは会話を望んでおり、そこから加護について引き出すのが手っ取り早いと考えていたからだ。
一方通行は前回とまったく同じやり取りの後、ラインハルトと再会する。
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あの剣での攻撃は回避するべきだ。その結論に達するのは至極当然のことであった。同時に光速の99%という絶望的な速度を出してなお、ラインハルトが反応し、対応してみせたことから近接戦闘自体が悪手だと考える。
よって、一方通行はラインハルトが来るであろうタインミングでベクトル操作による高速移動で上空へと舞い上がった。
「ふむ、僕は話を聞きたいだけなんだけどね」
一方通行が戦闘態勢であることを理解してラインハルトも構える。
同時に一歩通行は大気をベクトル操作の対象として認識した。
剣で切られるのなら上空へ上がればいい。
剣で受けられるのなら見えなくすればいい。
一方通行は無言で大気を飛ばす。何かが飛んでくるのは気づかれるかもしれない。それでも、その大気の塊は避けられるほど小さくはない。その上速度は光速の99.9%を超える。加護を使わず受けられるものではない。攻撃を見て、認識して発動するタイプなら加護で受けることはできないはず。
(これでェ!)
『矢避けの加護』
「はァ?」
その大気の砲撃は、物理法則を裏切り上空へと飛んでいく。
同時にラインハルトは剣を振るった。
一方通行は爆散した。
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三度、一方通行はラインハルトと再会する。
「ふむ、僕は話を聞きたいだけなんだけどね」
「……じゃあよォ、お前飛び道具を外すような加護を持ってんのかァ?」
「ああ、『矢避けの加護』のことだね」
「はァ」
ラインハルトが馬鹿正直に答えたことに、一方通行はため息をついた。
「それで、僕の話を」
「ふざけンじゃねェェェェ!」
絡繰りが分かれば対処は簡単。
風の大砲ではなく風の鞭を作り出す。と言っても、鞭はベクトル操作で動かすのだから当然予備動作はなく、速度は例によって亜光速である。
(矢避けの加護は通じねぞォ!
話したことを後悔しやがれェ)
『初見の加護』
「はァ!?」
にもかかわらず大気の鞭は前回の大砲と同じ結末を迎えた。
しかし、そこで一方通行の思考は止まらない。
この後すぐにラインハルトが振るう剣より、衝撃波が飛んでくるのだ。一方通行はそれを反射に任せた結果死亡している。その際、反射を突破する莫大な力βを感じたのは言うまでもない。
衝撃波の直線状から高速で退避するのは容易だった、が当然のように物理法則を無視して衝撃波はついてくる。それも恐ろしい速度で。
『先制の加護』
一方通行は爆散した。
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(これならァ!)
一方通行はラインハルトに再び説明を受け、『初見の加護』により、認識せずとも初めての攻撃は当たらないことが判明。ついでに『先制の加護』で初撃が外れないことも理解した。
つまり、先手必勝の風の鞭二連である。
『初見の加護』
『再臨の加護』
「はァ!?」
一方通行は爆散した。
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(これならどォする?)
一方通行は『再臨の加護』で二度目以降の攻撃も当たらないことを理解し、環境による変化でダメージを与える方針を取った。ただ、今回はだめもとだ。死に戻りに対する観念が薄れている証拠である。
内容としては膨大な空気を一つの大気だと認識し、そのベクトルを操作することでラインハルトの周囲から酸素を減らし、二酸化炭素の割合を急激に上げるのだ。
『解毒の加護』
一方通行は爆散した。
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(これはァ?)
先ほどの空気の成分変化には『解毒の加護』で対応したとのことなので、今度は大気自体を完全に排除し、真空を作る方針に変えた。今度もさほど期待はしていない。亜光速の攻撃でダメなのだから望み薄、そう考えてしまっている所が一方通行の頭がファンタジーしていない証拠であり、それでも実行しているのは一方通行が天才である証なのかもしれない。
「ぐっ!」
「きたァァァ!」
『蒼天の加護』
一方通行は爆散した。
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(こンでどうよォ?)
先ほど環境変化はわずかにダメージを与えられた。あの化け物にもダメージが入る、というのが一方通行のモチベーションを一気に上げていく。一方通行はラインハルトが到着する前に大気を操り、太陽を雲で隠す。ラインハルトが言っていることが正しければ、晴れの日に強くなる『蒼天の加護』はこれで効果を失い、曇りの日に強くなれる加護を持ってない以上、環境変化ダメージの軽減はできないはずだ。
「ぐはっ!」
「よっしィ!」
さっきよりダメージが大きいことに歓喜する一方通行。
しかし――
『曇天の加護』
「――はァ!?」
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一方通行は心底驚いた。先ほどのあれはラインハルトが嘘をついた事でしかありえないと考えたからだ。今までの経験からラインハルトはとても人当たりがよく、お人よしに見えたから、嘘をつかれたことにとても衝撃が走った――のではない。
一つだけ、あそこで自己強化できる加護を持っていられる可能性があるのだ。
「ふむ、話を聞かせてもらいたいだけなんだけど」
「てめェ、加護をいくつもってやがる」
「すまない、もう覚えていないんだ」
「…………まさかァ、加護は後天的にも手に入ンのか?」
「生まれつきの体質でね。
望んだ加護がその場で与えられるんだ」
(神じゃねェか!)
加護が世界そのものだとすればそれが好きなだけ手に入るラインハルトはまさしく神だった。しかも恐ろしいことにその宇宙規模の力を、ラインハルトは小さな大地の上で振るっている。ラインハルトの気まぐれ一つで世界が、人類史が終わることを、一方通行は正確に理解した。
「クソがァァァ!!」
そんなことを思いつつも、既に曇りにはしてあった。
今回で決めるつもりだったからだ。
既に先ほどの死に戻りでラインハルトがどんな存在であろうと、ダメージが入ることは分かっているのだ。後出しで力を手に入れる間を与えず一撃で殺す。一方通行はそれだけを念頭に入れ、攻撃を、否環境変化を行う。
世界に漂う重力子を重力として一纏めにベクトル操作する。対象の範囲は一方通行が認識できる限界まで。あらゆる星、そして地上から流れる重力子を変動させることで多くの犠牲が出るだろう。重力変動による余波は、建物の倒壊から人間が吹っ飛ぶなどの災害に等しい現象になるはずだ。それで起こる被害はこの国だけでは済まない。世界を滅ぼすとはいかないまでも、その爪痕は世界中に残るはずだ。これが成功してしまえば一方通行はどこに行っても増悪されることだろう。
良心があればできるようなことではないともいえるが、そもそも絶対者を目指すべき理由と反している。完全に本末転倒だ。
しかし、そこまでわかっていて、一方通行は断行する。そこには正当な目的も、悪の美学も、理屈すらありはしない。
これはなりふり構わない、神へのやつあたりなのだ。
そして、遂にラインハルトが爆散する。
「は、ははハハはハはァ!
…………やっぱあいつも死ぬンだなァ」
宇宙一つにすら匹敵する力をもった者を殺せてしまったことに、一方通行の絶対者像が揺らぎ――
『不死鳥の加護』
「えェ?」
―― 一方通行は爆散した。
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「死ねェ死ねェ死ねェ」
ラインハルトが連続で爆散する。その場で蘇る『不死鳥の加護』は一度だけ蘇る加護だと聞いたからだ。
『不死鳥の加護』
『続・不死鳥の加護』
『続々・不死鳥の加護』
一方通行は爆散した。
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「なァ、ラインハルトォ」
「なんだい?」
「お前は、オレ以外にも本気で殺しにかかってくる奴ァいるか?」
「確かに、僕はいい家柄だからね。
狙われることも少なくないさ」
「お前は周囲からどれくらい強いと思われてる?」
ラインハルトは律儀に答え続ける
既に曇りで強化は消え、一方通行は臨戦態勢だというのに。
「んー、それなりのものではあると思うよ」
「はぐらかすな、本当のことを教えてくれ」
一方通行の本気を感じ取ったのか。
ラインハルトは答えた。
「…………剣聖の中で最強だと噂されてはいるね」
「剣聖ってのはどれぐらい強ィ?」
「初代剣聖は地上最強の神龍ボルニカを下している。
これで答えになるだろうか?」
「……あァ、十分だ」
ラインハルトは爆散する。
その直後、一方通行は復活前に肉片を散らし、一部を物理的に封印、一部を空へと飛ばした。
『不死鳥の加護』
「絶対者かァ……」
そうしてあっけなく、一方通行は最後の挑戦を終えた。