Re:ゼロから始まる異世界vs一方通行   作:量々

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第五話 魔法

 一方通行は広々とした訓練場に立っていた。

 ここは国ではなく、アストレア家が代々所有するかなり頑丈な訓練場である。

 

「本当に、全力でやってよろしいのですな?」 

 

 そう言ったのは一方通行に相対する集団の隊長だ。

 

「はい。

 本人もそう望んでおりますので」

 

 返答したのはラインハルト。 

 ついでにこの場を整えるのに奔走したのもラインハルトである。

 

(どうしてこうなったァ?)

 

 どころかこのありえない事態に一方通行を放り込んだのもラインハルトなのだった。

 

=======================

 

 一方通行はアストレア家に保護された後、ラインハルトと決め事を交わした。それは一方通行が王選に参加し、勝ち抜く努力を真面目に行う代わりに、空いた時間で叶えられる限りの願いをラインハルトが叶えるというものだ。

 

 厳密な取り決めをしなかったのはラインハルトヘの信用が少しと、最終的に放り出すと決めていたからである。

 

 それからというもの、一方通行の生活は王選に出るための勉学で染まった。一方通行が要求した力α、β、γの詳細情報については資料の用意に数日かかるとのことだ。

 理由としては、アストレア家が力α、もといマナやオドを魔法として使用することができない欠陥があるということ。次に力β、もとい加護の力は名前もついていないし、そもそも加護を保有している人自体が1万人に1人という低すぎる割合なのでろくな研究もされていないこと。王都の人口が20万人であることを考えれば当然と言えば当然である。力γに至ってはそんな力は聞いたことがないと言われる始末。よって、それっぽい力の資料を片っ端から集めさせるとラインハルトは約束した。

 

 その結果が――

 

「ぜってェ空いた時間じゃ終わンねェぞ?」

 

 ――部屋一つが埋まるほどの資料の山である。

 

「今日一日、王選について忘れてもらって構わない」

「――――」

「そう悲観する必要はないだろう?

 君の講師から聞いたけど、文字の読み書きは数時間でマスターしたそうじゃないか。その記憶力があれば、一日でこのすべてを記憶することも不可能じゃない」 

 

 不可能ではない。

 

 一方通行にとって、この程度の情報量を消化するには一日あれば十分すぎる。

 しかし、物理的な問題でこの量の紙媒体を読み切るには睡眠時間を大幅に削るしかないのも事実だった。せめて電子媒体であったなら話は違ったのだが。

 

「…………あァ、そうだなァ」

 

 それでも一方通行は納得した。

 次の日から講義は同じ時間から始まると聞かされても、仕方ないと割り切った。王になる教育というのが生半可なものではないというのは予想していたし、それに見合うだけの情報を用意してくれたのなら一日くらい徹夜したところでそう気にするほどの事ではない。

 なにより、この数日で一方通行はわかってきた。

 

「?」

 

 ラインハルトが天然であることを。

 

 ラインハルトは無言で睨む一方通行を心底不思議そうに見返していた。

 

 

 しかし、だ。

 スケジュールの都合上、事情を知っていた講師に次の日同情された辺りから一方通行にストレスがたまり始めた。寝不足でありながら、化け物じみた頭の回転速度は衰えず、その結果際限なく上がっていく講義の難度と講義速度。最近では講師の数を増やして複数人同時に講義を始めだし、もはや限界がどこにあるのか講師陣が内心わくわくし始め、それに感づき始めた一方通行がそろそろブチ切れるかといったところで――

 

「一方通行様。

 以前言っていた魔法解析の機会を御用意いたしました」

 

 ――そんな知らせを受けて、訓練場に向かった先に待ち構えていたのが、あの光景である。

 

=======================

 

 仮にも王候補兼巫女候補に王都有数の近衛騎士&宮廷魔術師部隊との本気の模擬戦をさせようとするラインハルト。

 

 あの時間は失われた故、一方通行の力を言葉の上でしか知らないはずである。

 加えて一方通行の知識が正しければ、使われる魔法の威力は、一撃でもまともに食らえば致命傷になりかねないことが予想される。にも関わらず、この場を作ったラインハルトの正気を疑いかけた一方通行に、ラインハルトが近づいて来た。

 

「一方通行様、くれぐれも殺しはなしでお願いします」

 

 王選候補になると決められてから日常となった様付けで、ラインハルトは当然のように殺しの禁止を言いつけた。

 

「正気かてめェ?」

「はて。

 これは一方通行様にとっても有益なものかと思いますが」

 

 またもやズレた発言をするラインハルトに一方通行は色々諦めた。

 何より、ラインハルトの眼を見ればわかる。一方通行が死ぬことなど、微塵も考慮していない。如何な事情でか、一方通行の力を完全に信用しきっていた。

 

「……あァ、そうだな。

 その通りだァ」

「分かってくれて何よりです」

 

「では、双方準備はよろしいですか?」

 

 審判が声を掛けたときには、ラインハルトは既に観客席にいた。

 無駄に高度な瞬間移動に一方通行が呆れた目を向けるが、他の誰も驚いていないことに気が付く。

 

(そういやァ、ラインハルトは近衛騎士だったか)

 

 この光景は、審判も含めて見慣れているに違いなかった。

 

「あァ」

「はい」

 

「いざ尋常に…………始めッ!」

 

 かくして最精鋭の王都部隊と異世界の超能力者、一方通行の模擬戦は始まりを告げた。

 

=======================

 

「「「ウル・ゴーア」」」

 

 初手は宮廷魔術師の魔術からだった。

 火の玉が無数に降り注ぐ。

 当たれば人を殺すには一つで十分過ぎるそれが、30m離れた一方通行に殺到した。

 

「(無詠唱でウル・ゴーア、かァ)」

 

 一方通行は読み漁った知識を思い起こす。 

 火の魔法はゴーア、エル・ゴーア、ウル・ゴーア、アル・ゴーアの順で強くなっていく。強ければ強いほど詠唱に時間が掛かるし、威力や規模を保持しながら詠唱を破棄するのも難しくなる。実物を見たのは初めてであるが、一方通行には目の前の魔法が書物に書かれた物より劣化している様には見えなかった。

 

 一方通行は恐怖を与えるように口元を歪め、ゆっくりと歩き出す。

 

 次の瞬間起こった現象に、見物する騎士、魔術師達が目を見開く。

 彼らには一方通行が何かをしたようには見えなかった。マナを使った様子もなく、それでも火の玉は不自然に軌道が逸れ、虹色の光をまき散らしながら消滅したのだ。常識的に考えてそんな現象を起こせる力に、彼らは一つしか心当たりがなかった。

 

「探るぞ、放て」

 

 隊長を務める仏頂面の男は、一切の動揺なく次の指示を出す。

 

「ウル・ゴーア」「フーラ」「ヒューマ」「ドーナ」「ウル・ヒューマ」

 

 不可視の風、地面から生える氷と土、先ほどと同じ、火の玉が一方通行に周囲から襲い掛かる。

 

 隊長は不自然に逸れる様子から一方通行の力を回避系の加護だと考えた。

 故に加護を突破するパターンの魔法を打たせたのだ。

 

 二度目のウル・ゴーアは『初見の加護』対策、地面から生える氷と土の柱は『矢避けの加護』対策、不可視の風は可視、もしくは意識が必要なタイプの何かである可能性を考慮してある。

 一万人に一人、通常一つしか持たないはずの加護を突破するには十分な戦法である。

 

「ふむ」

 

 だから、そのすべてが通じなかったのは相手が悪かっただけなのだ。

 

 不可視の風が、氷と土の柱が、火の玉が、すべて逸れて虹色の光と共に消滅する光景を見て、彼らは――

 

「切り替える。 

 魔術師は援護しろ」

 

 ――それでも何の躊躇もなく次の行動に移っていた。

 

「クハッ!」

 

 練度の高さに一方通行が破顔する。

 

 そこにマナで体を強化する十余りの騎士達が、人間にあるまじき速度で迫った。

 

 最初の三人が見事な連携で一方通行に切り込む。 

 一人は正面、一人は右腕、一人は左腕。

 続く4人がその隙を縫うように構えている。

 

「ッ!」

 

 三人の剣が触れる瞬間、その軌道を巻き戻すように剣が勢いそのままに戻っていく。

 切り込んだ騎士の表情が歪んだ。

 

 一方通行が常時纏っている反射膜が正常に働いた結果である。

 自身の全力と等速で逆方向に剣が跳ね返ったのだ。一方通行のベクトル操作に加速度というモノはない。騎士の腕が砕けるのは必然だった。

 

「いいねェ!」

 

 腕に掛かった負荷で骨折しつつも剣は手放さず、一瞬表情を歪めただけでその場から跳躍した騎士を見て、一方通行は喜色の笑みを見せる。

 チンピラはもちろん、学園都市の暗部らではこうはいかない。

 

 これは練度の差だけではない。

 覚悟の差だ。

 

 自身を捨て駒として文字通り腕をくれてやれる精神性は見事と賛辞を贈るほかなかった。

 

 だからと言ってそれが実るとは限らないが。

 

 続く4人は目玉や髪、死角からの一撃やタイミングをずらす変則的な一撃も繰り出すがそのことごとくが弾かれ、最初の3人と同じ結果を辿った。

 

「放て」

「「「アル・ゴーア」」」

 

「コイツはァ……」

 

 一方通行は仰ぎ見る。

 直径20m以上にもなる火の玉、小さな太陽の一撃を。

 

 先の騎士達は全力で退避している。

 近づきはしたものの攻撃に参加しなかった騎士も含めて、だ。

 

 アレはそれだけの一撃、切り札なのだろうと推測できた。

 大きさとは裏腹に圧倒的な速度で向かうソレに一方通行は思う。

 好都合だと。

 

 この実践の目的は魔法の解析にある。

 最初に撃たれた魔法の法則はすでに解析が済んでいた。

 

 故にあとは実験するだけ。

 

「そりゃァ、ちょっとばかし不用意だったなァ!?」

 

 オートな反射膜の設定ではなく、解析結果からマニュアルで火球のベクトル操作を行うと、ソレは寸分違わず方向を変えた。

 

 最大の一撃を反射される。

 そんな絶望的なはずの場面で、隊長は相変わらずの仏頂面で一言告げた。

 

「やれ」

「ウル・ヒューマ」

 

 一方通行は目を見開く。

 反射された直後の特大アル・ゴーアの中心に、氷の柱が突き刺さる。

 

 瞬間、一方通行の視界は白く染まった。

 

=======================

 

 アル・ゴーアとは、一定以上の何かに衝突した際大爆発を起こす火球の魔法。

 アル・ゴーアの性質そのものを変えられない限り、起爆する方法は敵に当てるだけに留まらない。速度の速い対象に当てるためには他の魔法で起爆するのは常套手段である。

 

 もし最初のように受け流された場合、虹色の光と共に消える前にウル・ヒューマで起爆する腹積もりだったのだ。それが反射されたことで若干段取りが狂ったものの、隊長も魔術師も迅速かつ完璧に対処して見せた。

 

 これは近衛騎士の剣が反射される様を見ていたことも大きい。

 

 一方通行の力の正体に、彼らは順調に近づきつつあった――

 

「んでェ、次はどうすんだァ?」

 

 ――が、それでも勝敗は動かない。

 

「…………」

 

 爆炎の中から無傷で現れた一方通行。

 そこでようやく騎士達の間に動揺が走る。

 

 魔法、物理、爆熱、爆風。

 これまでのすべてが一方通行になんらダメージを与えていないことを確認し、それでも隊長は無表情で命令を下した。

 

「足止めだ」

「ウル・ドーナ!」「アル・ゴーア!」

 

 一方通行の足元が急上昇する。

 土を操るウル・ドーナで一方通行の周囲が地面ごと高く上昇していく。一方通行はバランスを崩しつつ、見上げた先には先よりもかなり小規模のアル・ゴーア。

 一方通行の立っている土の柱、そのちょうど足場をアル・ゴーアが打ち抜いた。

 

 足場が爆散し、落ちる一方通行を見て隊長は確信する。

 

「ダメージにならなければ干渉はできる、か」

 

 隊長は隊員に聞こえるように推測を呟いた。

 その直後、落ちる一方通行の背中から二対の旋風が生えていく。

 無色故わかりにくいが、竜巻の翼である。そのまま一方通行は地面に落ちる直前に方向転換、そのまま騎士達に正面から突撃を敢行する。

 

「いいねェ!

 しっかり俺の敵やってんじゃねェかァ!」

 

 初めて魔法で干渉されて一方通行は凶悪な笑みを浮かべた。

 

「落とすぞ!

 本体には当てるな!」

「フーラ」「エル・フーラ」「ウル・フーラ」「ヒューマ」「ゴーア」

 

 各々が空飛ぶ魔術師を打ち落とす用の魔術を一方通行の背中に向かって撃ち放つ。

 竜巻の翼に風が、氷が、爆炎が直撃し、竜巻を散らしていく。

 

「ご苦労なこったァ」

 

 一方通行の翼が引きちぎられる。それでも一方通行は止まらない。あの翼は本体の繊細な動きを可能とするが、そも自身のベクトルを制御したほうが速度は断然上なのだ。

 

「直前で壁を造れ!」

「「「エル・ドーナ!」」」

 

 一方通行の前に土壁が現れる。

 

「――――」

 

 壁の向こうで隊長が指示を出すのが分かるが一方通行には聞こえていない。

 解析すればわかるがそこまでするつもりはなかった。

 

 勢いの乗った素人パンチ一発で数メートルの土壁が盛大に吹き飛ぶ。

 

 最近の鬱憤を晴らすように放ったそのパンチの直後、無防備になった一方通行に騎士達が強化した体で飛び掛かってくるのが見える。

 

 その手には盾も武器も握っていない。

 

 そして――

 

「あァッ!?」

 

 ――彼らは一方通行に取り付くことに成功した。

 

「(コイツらァ!)」

 

 反射膜に異常はない。

 

 隊長は先程盛り上がった地面が反射されなかったことからいくつか仮説を立てた。

 

 一つはせり上がる土壁が破壊されなかったことから、それ単体で無害なものなら一方通行に影響を与えることができるということ。

 一つは一方通行が容易くバランスを崩したことから、素の身体能力は見た目通り大したことがないかもしれないということ。

 最後に、ラインハルトが持つ加護の知識から明確な害意のない、ただ体重をかけるだけの攻撃と定義できないようなものならダメージを与えられるのではないかということ。

 

 それらの推測から騎士達は割れ物に触るようにゆっくりと、一方通行に一切衝撃を与えずその体に組み付いたのだ。

 

 そして次に体重を掛ける。

 

 甲冑を含め、80㎏は優に超える重量だ。3人も絡めば240㎏越えで、当然一方通行の体が支えられる重量ではない、が――

 

「んなことで越えられる程、安かねェンだよォ。

 この三下がァ!」

 

 ―― 一方通行に掛かった体重が一定値を超えた瞬間、3人がぶっ飛ぶ。

 

 絡みついていたせいか、何度も体を反射させながら、体中に打撲を刻み、吹っ飛んだ3人が立ち上がることはなかった。

 

「いくぞッ!」

 

 隊長の掛け声と同時に残った騎士達が突っ込んでくる。魔術師達も残った魔力を絞るように構える。

 

「はッ!

 結局最後は玉砕ですかァ!?」

 

 そう言いつつも、一方通行は最後まで期待していた。

 なぜなら隊長の表情は自棄になった人間のそれではない。

  

 何かを狙っている。

 

 それが分かっていて一方通行は突っ込む。

 

 すべての策を正面から踏みつぶすために。

 

 一人目、正面から斬りかかってきた騎士を反射しつつ、蹴り飛ばす。どうやら剣を一方通行に添えてから引き斬るつもりだったらしいが、触れた後からも反射膜は機能する。先の体重を掛けるモノと芸が変わってないと一方通行は見下す。

 

 二人目、三人目以降はさらに芸がなかった。

 

 最初のようにただただ斬りかかってくるだけ。

 

 しかし、むしろ一方通行の笑みは深まった。

 

「(何か狙ってやがンなァ)」

 

 そして、最後の一人。

 

 隊長は明らかに破れかぶれの一撃を繰り出す。 

 

 そして、一方通行は――

 

「てめェに演技は向いてねェなァ」

 

 ――その意図を理解した。

 

 隊長の繰り出す一太刀は、一方通行の反射膜で……左に逸れる。

 直後、一方通行の亜音速の手刀で鎧が拉げた。

 

 隊長は反応すらできずに訓練場の壁に叩き付けられる。

 

「そこまでッ!

 勝者、一方通行!」

 

=======================

 

「…………」

 

 観客席には、異様な雰囲気が漂っていた。

 たった一人の人間に、王国最高戦力たる近衛騎士と魔術師がいとも容易く蹂躙されたのだ。

 

 近衛騎士の判断も、魔術師達の技量も落ち度はなかったと断言できる。それほど見事な対応だった。だからこそ一方通行の理不尽さが際立つ。

 

 それでも、ここに至って彼らが恐怖を抱くことはなかった。

 

 脅威ではあると感じつつも、それが恐怖へと変わらないのは一重にラインハルトの存在あってこそだ。王国最高戦力が敗れた、といってもその中にラインハルトはいなかった。近衛騎士が王国最高戦力たりえるのもラインハルトがいるからなのだ。

 

「訓練場を均し終え次第、ラインハルト殿と一方通行殿の試合を始めます」

 

 故に、この宣言に彼らが熱狂したのも無理からぬ話である。

 

=======================

 

「オイ、聞いてねェぞ」

「うん?

 僕の加護の力を解析するために用意したんだけど、必要なかったかい?」

 

 一方通行の視点ではもうラインハルトの力の解析はお腹いっぱいである。

 戦るなら何か勝算がたってからだ。

 

「今はいらねェ」

「ふむ。

 しかし、もう予定を組んでしまっているからね。

 これも王選のためだから、我慢してほしい」

「はァ!?

 てめェ、解析だとかいってなかったかァ!?」

「じゃあ僕は控室で刃引きした剣を選んでくるよ」

「話を聞けェ!」

 

 このあと滅茶苦茶ボコられた。

 

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