Re:ゼロから始まる異世界vs一方通行   作:量々

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第七話 大罪司教

「一方通行様」

「あァ?」

「見つかりましてございます」

「ッ!!」

 

 あれから一方通行は王選候補者としての義務に明け暮れていた。有力者達との会議、挨拶の繰り返し、合間の移動時間には次の会議と有力者達の趣味嗜好などについての勉強、打ち合わせの毎日。

 ほぼ休み無しに働き続けていた。

 

 その報告が上がったのは僅かな休息時間にだ。

 

「これがその詳細となります」

 

 一方通行は執事から受け取ったその報告書を見て、つぶやく。

 

「間に合わねェ、ってことはねェか」

 

 見つけだした奴らと接触できるその時間は、有力者との挨拶が終わってすぐの時間だ。

 

「こりゃァ、俺が一人で行きゃいいのかァ?」

 

 距離的に馬車では間に合わない。1分で数十キロの距離を移動できる者など世界を見渡しても極僅かだろう。

 

「いえ、ラインハルト様とお二人で、です」

「あァ……」

 

 当然、ラインハルトもその僅かに入る。

 

「一方通行様」

「あァ?」

「どうか、ご無事で」

 

 執事は王都で行われた模擬戦を知っている。一方通行が単身で王都を滅ぼせるような怪物だと知っている。ラインハルトの力も承知の上だ。それでも、執事は警告せずにはいられなかった。執事は知っていたから。先代剣聖でさえ、奴らの一派に殺されたということを。今代の剣聖が、例え先代と比べ物にならないほど強かったとしても、今回の相手は2人。そして、奴らの異質な力は、ラインハルトが最強だと確信していても万が一を想像させられる。

 一方通行が取り返しのつかない事にならないとは限らないのだ。

 

「はッ! いらねェ心配だなァ」

 

 この世界には一方通行に干渉できる力がある。見つけた者はその力を持つ者だ。一方通行がその力を求める以上、邂逅は必然で、避けられるものではない。下手をすれば殺されることもあるだろう。ラインハルトに散々殺られたように。

 だが、その力が齎すのは死だけでない。

 この世界に一方通行を無理やり引き込んだその力は一方通行の死を決して許さない。そして、一方通行はその力を利用し、使い倒すことを厭わない。

 

 いつまで続くか定かではない力を命綱にする。その危うさを、一方通行自身も当然理解している。その程度のリスクでは自身が止まらないことも。ラインハルトの存在が一方通行の理念を終わらせたその時から、決まっていたことだ。

 

=======================

 

 貴族の館から、一方通行とラインハルトが出てくる。その先に馬車はなかった。今から行く先は馬車では間に合わないからだ。

 

「先行しろォ」

「任された」

 

 ラインハルトは軽く膝を曲げると、一瞬にして空高く跳び上がる。貴族の館は街中にある。音速を超えるなら当然高度を取る必要があった。そして、薄い雲に足を掛ける。ラインハルトは当然のように雲を蹴ると、冗談のような速度で飛び出した。

 

『雲の加護』

 

 一方通行もソレに追従する。

 

(馬鹿げた飛び方してンなァ)

 

 一方通行が見る限り、ラインハルトは雲を足場とする加護以外を使っていないように見える。一定以上の騎士が自然に使っている、マナによる身体強化は働いているが、それだけだ。身体能力一つで雲から雲へと音速を超えて跳んでいる。

 

『伝心の加護』

 

「(二人いますね)」

「……見えねーよ」

 

 一方通行は頭に直接響く声に返答した。現在一方通行達は超音速飛行中である。物理法則に従うなら、こちらの言葉は聞こえないはずだが――

 

「(茶髪と白髪がいます)」

 

 ――当然のように返答が帰って来る。

 

「ンじゃ、白髪が俺だなァ」

「(はい、私が茶髪の相手をしましょう)」

 

 ラインハルトが物理法則に従わないのも慣れたものだ。

 

「殺すなよォ?」

「(心得ております)」

 

 今回の目的は力を奪うこと。最低限の解析が済む前に殺されては困る。

 

(アレかァ)

 

 一方通行にも見えた。2人の人影、バラバラになった竜車と倒れた人々、そして王都方面へ離れていく白いクジラの頭。

 

(捕鯨の帰り……なわけねェよなァ)

 

 そう判断したのは倒れた人の中に王候補クルシュ・カルステンの姿があったからだ。わざわざクルシュ本人が白いクジラの頭を運ぶ理由。それには一つ心当たりがあった。

 三大魔獣の一匹、白鯨だ。アストレア家からの情報では暴食の大罪司教だとも、元先代剣聖を殺した存在でもあるとも聞かされていた。本当にあの頭がソレなら苦々しくも思うが、今は別のターゲットがいる。

 一方通行はそのターゲットに正面から突っ込んだ。

 

「ん?」

「ッ!」

 

 超音速での突進。掠れば肉体が消し飛ぶだろうが、一方通行は直撃しないように、かつ余波で人が死ぬことも無いよう計算して地面に突っ込んだ。茶髪と白髪を引き離すための一撃だ。地が抉れ、爆風が巻き起こり、土砂と共に倒れた人々が宙へ舞い上がる。

 目論見通り一番近かった白髪と茶髪も大きくぶっ飛び、片方をラインハルトが追っていった。

 そして、白髪は――

 

「あのさ、温厚な僕でもこれは怒るよ? 争いが嫌いで、平穏を愛する僕でも、いきなり吹っ飛ばされるとか殺されても文句を言えない所業だよね? 権利侵害以前に人間として……ッ!?」

 

 ――際限なく空に落ちて行く。

 

 一方通行はふっ飛ばした白髪の背に触れ、白髪に掛かる自転、公転の重力バランスを崩したのだ。一方通行が高速移動する際の理屈と同じである。ついでに一方通行は白髪に触れ続けることで魂の解析を始めた。

 

「あァ?

 眠ィことォ言ってンじゃねェぞ、この三下がァ。

 状況分かってンのかァ?」

「わかってないわかってない分かってないのはそっちだよ! 僕はその気になればいつだって君たちを殺せる。君が存在していられるのは僕の慈悲のおかげだって理解してほしいね。あいつらを助けに来たんだろ? 人間として最低の行為をしても、僕をどかしたかったんだろ? なら分からせてやるよ。僕に逆らったって無意味なんだってことをさぁ!」

 

 一方通行は不意に解析結果の変化を感じる。突然ぶち切れた白髪が空中で見を捻りだし、右手を振るったのはその瞬間だった。

 

「へぇ、躱すんだ。お手ては真っ赤みたいだけど」

 

 一見、苦し紛れの一撃を大きく躱してみせた一方通行。それでも背中に手を当てていた一方通行の掌は、皮膚が削れ、真っ赤に染め上がっていた。大して血が飛び散らなかったのは出ていないのは血流操作をしているからである。しかし一方通行は凶悪な笑みを浮かべて笑っていた。

 

「ギャハハ!

 権能ってのはァ、想像以上に無茶苦茶しやがる!」

 

 それは触れただけでその箇所を消滅させてみせた力に向けた言葉――――ではない。ついでに腕を振るった先に発生した消滅効果を伴う衝撃波(?)も関係ない。一方通行が注目したのはその異常な肉体だ。背に触れて直接観測したその体は、隅々に至るまでなんの生存反応も返されなかった。

 

(息もしてねェ、血も、電気信号すら流さずに動いてやがる。挙句心臓が停止し、僅かな温度変化すら起こらねェ)

 

 まさしく無茶苦茶だ。死亡判定で言えば2つを満たしてる。そんな奴が放つ攻撃も、また物理法則に反していた。しかし、物理法則から外れきったソレを、全く反射できないとは言わない。一度は躱したが、そこにベクトルがあり、法則があるのなら反射膜の再設定で対応できる。直前で消滅効果が追加されなければ反射できていたはずだ。

 

(意味がねェ、かァ)

 

「どんな手品かしらないが、自分の攻撃で傷つくわけが無いだろう!?」

 

 無茶苦茶に腕を振り始めた白髪の消滅波、とでも言うべき遠距離攻撃を一方通行は無事反射してみせた。しかし、一方通行の半ば予想通り、それは白髪の肉体を傷つけるには至らなかった。白髪の肉体は外部から見れば動いてはいるが内部を見れば完全に停止している。これでダメージが入らないなら、確実に殺せる手は思い当たらなかった。

 

 だから――

 

(ここまで、だなァ)

 

 ―― 一方通行はラインハルトに交代を要求することに決める。

 

 打つ手が無いわけじゃない。触れたところを消滅させる状態を維持していたら、地面に着地できず、何の抵抗もなく地面を潜り続けることになるのは必死。ならば消滅を解除する瞬間、重力操作で宇宙までふっ飛ばせばいい。今まで見た力しかないのなら、この地に戻ってくることもないだろう。但し、いつ死ぬかわからないから論外だが。白髪を殺す手がかかりもある。白髪の無敵は条件付きだと一方通行は見ていた。白髪を無敵たらしめる条件は、今なら少し時間を掛ければ解明できる類のものだとも。

 しかし、今はその時間が惜しい。なぜなら既に最低限の目的、魂の観測を達していたからだ。一方通行が白髪を観測した時間は数十秒。魂の観測は数秒で終わらせている。残った時間でしたのは白髪に流れる力の観測だ。加護でもなければマナでもない。にも関わらず一方通行が操作できないほどの莫大な力。観測できたのは力の流れ、つまり流入先と流出先だけだ。しかし、力の流出先が白髪の無敵状態に関係していることは推測できた。もう一人の大罪司教がいなければすぐにでも向かっただろう。けれど優先すべきは魂の解析。白髪に執着し、それを違えるつもりはなかった。そして力の流入先、その根源は観測できない、というより理解できなかった。否、一方通行には理解できないということだけが理解できていた。

 

(神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの、かァ)

 

 その時、一方通行の頭に浮かんだのは学園都市の創造理由にして、存在理由。それはレベル6、人を神へ到達させること…………ではない。人に理解できないモノを、人ならざる存在になることで理解することである。神になることなど、所詮手段でしかない。

 

 つまり、この力の先に待っているのは――――

 

 待っているモノは――――

 

=======================

 

 茶髪の男は最初の不意打ちで宙を舞い、天地が入れ替わる視点の中、鮮やかに着地してみせた。さすがに白髪のように服の乱れさえないとは行かないが、少なくとも混乱の一つもない。自身の前に立つ赤髪の騎士、ラインハルトをしっかり見据えていた。

 

「不意打ちなんて、礼儀がなってない騎士様だなァ?」

「すまないね。被害者を遠ざけるためにも、反対するわけには行かなかったんだ」

「あァ、もう一人の方か。 

 んじゃ、名乗ってやるよ。

 魔女教大罪司教、『暴食』担当のライ・バテンカイトス」

 

 その茶髪の男、バテンカイトスは礼儀正しく名前を名乗った。対してラインハルトの超直感はこの名乗り自体が罠だと判断を下す。

 しかし――

 

「ルグニカ王国近衛騎士団所属、『剣聖』の家系、ラインハルト・ヴァン・アストレア」

 

 ――躊躇なく名乗りを返した。

 

 嫌な笑みを浮かべてバテンカイトスが走り出す。

 

「んじゃァ、イタダキマス!」

 

 二本の短剣を構え、剣聖に単身で挑む。

 

 一見無謀極まりない行いだが、バテンカイトスは勝機があると考えていた。ラインハルトが知る由もないが、バテンカイトスはその権能で狩った相手の技量や経験、記憶を手に入れることができる。中には剣聖クラスの英雄もいないではない。ついでに先代、先々代剣聖の全力戦闘を見たものもいるのだ。もちろん、衆目の中で行われた剣聖テレシア・ヴァン・アストレアと剣鬼ヴィルヘルムの戦いもその一つ。バテンカイトスは剣聖の限界もその剣技もよく知っている。剣聖は只人でも限界まで剣技を鍛えることで下す事ができる存在であることも。事実、ヴィルヘルムは下している。

 

 バテンカイトスの場合は努力ではないが数多の技術を手に入れ、それらを使った戦技は先代剣聖やヴィルヘルムに劣るものではなかった。

 つまり、今のバテンカイトスは技量で先代剣聖クラス、知識や経験は未だ若い現剣聖を超えているのだ。ついでにラインハルトは無手である。これでは剣聖の加護は十全に機能しない。

 ここまでお膳立てされていれば、むしろ負けるほうがおかしいと考えるのも無理はなかった。

 

 だがら――

 

「早いね、それに素晴らしい技量だ」

 

 ――おかしいのはラインハルトだ。

  

「はァ!?」

 

 ラインハルトの手刀は二本の短剣と搗ち合い、なんの抵抗もなく短剣を切り裂いた。バテンカイトスは驚きつつも流れるように短剣を手放し、両手で掌打を打ち出す。短剣を切り裂いたラインハルトの両手は泳いでいる。これから始まるのは拳王が奥義の再現、喰らえば肉体の強度にかかわらず内蔵にダメージが入る。耐えられるようなものではない。

 

「それは不味そうだ」

「馬鹿なァ!」

 

 しかし、続いてバテンカイトスは信じられない光景を目にする。ラインハルトは持ち上げた片膝で腹部への掌打を受け流したのだ。仮にも拳王の一撃、そんな片手間に流せるような技ではない。曲芸と言うには次元が違いすぎる。続けて体ごと流れたバテンカイトスの横腹に、ラインハルトは両手を当てた。

 

「こうかな?」

「ッ!?」

 

 体が十メートル単位でぶっ飛んだ。

 

「ふむ、散らしたのかな? さすが本家の技術だね」

 

 ラインハルトが使ったのは先の奥義の模倣。但し、バテンカイトスは無理矢理後方に跳びつつ、拳王の技術で威力を散らした。ソレがなければその場で体が折れ、ダメージは内蔵に集中していたはずである。

 ラインハルトは逃さないために着地地点に跳んでいく。

 蹂躙劇はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

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