ゼロの使い魔~スラップアップパーティー~   作:あららどろ

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10話

「よっ。お見事」

 

 試合を終えたリュンメイを、バロンが迎えた。

 

 

「楽勝!」

 リュンメイが笑顔でガッツポーズをする。

 

 あの後、ギーシュがあの場で謝罪を行ったことでリュンメイの怒りは消え、なんとか丸く収まった。

 そういう点では、ギーシュが素直だったことに感謝したいくらいである。もしもリュンメイの怒りが収まっていなかったらと思うと、ぞっとする。

 

 イクシアほどでは無いにせよ、リュンメイの怒りの理不尽さには困ったモノである。

 

 最も、それ以上に困ったモノがいるのだから、些細な問題なのかもしれないが……

 

 

「あのっ……ありがとうございます。すごいです! 魔法も使わずに貴族を倒しちゃうなんて!」

 シエスタがきらきらした目でリュンメイに駆け寄る。

 

 魔法を使わず拳だけで。そして何よりも自分と同じ女性というのがシエスタの心に強い衝撃を与えたのだろう。

 

「あはは。別にたいしたことないよ」

「いえ、そんなことないです! 私、リュンメイさんみたいに強くなりたいです!」

 

 と、会話するリュンメイとシエスタの間に割り込む影。

 

「ねえねえ、幸薄そうなカワイ子ちゃん。リュンメイなんかみたいにならなくてもさあ、君は十分美しいだろう? だから、僕と二人でさあ~」

「はいはい。後にしましょうね~」

 

 その影は、イクシアによって一瞬でフェードアウトさせられる。

 シエスタは、その様子をぽかんとした表情で見た後、笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トリステイン魔法学園学長オールド・オスマンは、コルベールの持ってきた本を開き、示されたページを開く。その内容にざっと目を通すと、暫くの沈黙の後、大きなため息をついた。

 

「ガンダールヴ……始祖ブリミルの盾……」

「はい。本にはこれ以上の記述はありません。書いてあるのはルーンだけです」

「なるほど。確認するが、最初確認したとき、あの男にはこのルーンが浮かんでいたのは『確か』なんじゃな?」

「はい。誓って」

「そして、今、あの男にはガンダールヴのルーンが存在していないと」

「はい」

 

 これは明らかに普通ではないこと。本来、使い魔のルーンが自然に消えるのはその使い魔が死んだ時だけ。にもかかわらず、バロンという男からは使い魔のルーンが消えていた。しかし、そのことを知っているのはここにいるコルベールとオスマンの2人だけ。

 

 主人であるルイズはおろか、本人すらもルーンが失われたことには気付いていない。

 理由は2つ。

 まず最初に、使い魔のルーンが召喚してからすぐに消えたこと。契約直後に珍しいルーンだと簡単なスケッチをとったコルベールが、1時間程立ったあと、詳しいスケッチを行うためにバロンの元へ向かった時には既に彼の契約は解除されていたのだ。

 

 第2に、彼の手にはルーンの代わりに別の紋章が浮かんでいること。

 彼が普段、左手を布のようなもので覆い隠していることも理由の1つとしてあげられるが、コルベールが確認したとき、彼の左手には何か別の紋章が刻まれていた。

 おそらく彼は、そしてルイズは、その紋章をルーンと誤認したのであろう。

 

 

 今回問題なのは、その『紋章』だった。

 

 

 

「こちらが、彼の手に新しく現れた謎の紋章のスケッチです。そして、これに相当するのがこちらの本に」

「『創世と使徒』……こりゃまた古い本じゃのお~」

「はい。ジャンルは「創作」として扱われておりましたが……その、問題は内容でして……」

 コルベールから受け取った古書をめくり、オスマンはため息をついた。

「「ヒルダーの加護」を受けた者の証……「泣き目のヒルダー」か……」

「ご存じなのですか?」

「知らんのも無理はない。封印された話じゃからな」

 そう言って、オスマンは鼻毛を1本抜き、くしゃみをした。

 

「泣き目のヒルダー。またの名を始祖ヒルダー。始祖ブリミルと並ぶもう1人の始祖じゃよ」

「そ、そんな……聞いたことがありません。始祖ブリミルと並ぶメイジがいるなんて」

「言ったじゃろ。封印された話じゃと。わしも昔ちょろっと聞いただけじゃから詳細までは知らんが……そもそも、聞いた時には伝承が曲解されて伝わっただけじゃと思って半分聞き流していたしのう」

 

 オスマンが小指で耳をほじる。

 

「曰く、始祖ブリミルは正確には「使徒ブリミル」と言うらしい。「使徒」の単語くらいは聞いたことがあるじゃろ?」

 コルベールはあり得ないと首を振った。歴史の中には何度が名前が出てくる悪名高い者たちだ。出現の度に、人々に大きな災害や戦争をもたらす、悪魔の代名詞のような言葉だ。

 

 そんな恐ろしい存在と、神に等しい始祖ブリミルが同じ存在であるなど到底信じられるものではなかった。

 

「……そんな、あり得ません! 始祖ブリミルがあの恐るべき「使徒」だったなんて」

「使徒全てが悪というわけではないということじゃ。そもそも使徒とは神に匹敵する力を持つ者を指す言葉であり、決して悪魔を指す言葉ではないのじゃよ。問題はヒルダーじゃ」

「……と、言いますと?」

「ヒルダーの野望の達成のためには使徒の命とそして世界の命がどうしても必要らしい。それに気づいた使徒ブリミルが彼女の野望を打ち砕こうとしたものの結局ヒルダーの策略に溺れ命を落としたそうじゃ」

 

 これも信じがたい話だった。あの始祖ブリミルが悪魔に敗れるなど、信じる方が無理な話だ。

 

「内容からして信じたくないという人のが多いじゃろて。その結果、今わしらが知る始祖ブリミルの話が出来上がったのかもしれんがな」

 

 しばらく言葉を失っていたコルベールだったが、やがて口を開いた。

 

「……信じたくはないですが……この話はまた後程、個人的に整理をつけるとして…………もう1つ、気になることが」

「あの男の手か?」

「はい。数ヶ月前から、ゲルマニアで報告のある『鬼病』と非常によく似ていまして……」

「ふうむ。鬼に取り憑かれたようになるという例の病か……しかしあの男、正気を失っているようには見えなかったが」

「腕につけている拘束具が関係しているのかもしれませんが……」

「鬼病をよく知っている。ということか。……して、それだけか?」

「この「創生と使徒」の中で鬼病と思われる病について触れている記述があるのです」

 

 そう言って、コルベールは付箋のついたページを開いた。

 

「この本では『カザンの呪い』と呼んでいますが……このカザンというのも使徒に関係があるらしく……あの男、やはり世界を滅ぼす使徒の手先なのでは?」

「そう結論を焦るな。偶然が重なったという可能性だってあるじゃろ。見たところ素行に問題もないようじゃしの」

「はあ。まあ……」

 

 仲間がいきなり決闘騒ぎを起こしたりと、問題があるかないかでいえばないとは言えないのだが……コルベールは曖昧な返事をしてお茶を濁した。

 

「ここ最近起きている奇妙な現象。謎の伝染病がぽつぽつ出るわ、ガリアでも偽装者なんていう不吉な噂が流れとると聞く。極めつけに、鬼病……そこにヒルダーの加護を持つ者が現れたとなれば、そう遠くない未来、何かが起こるのは先ず間違いないじゃろ」

 

 そう言って、オスマンは『創世と使徒』を閉じ、大きなため息をついた。

 

「しかし……あの子が召喚した使い魔は4人。始祖ブリミルの使い魔も4体。わしはこれが偶然とは思えないんじゃよ」

「まさか……ミス・ヴァリエールが始祖……いえ、使徒の因子を持つとでも?」

「そこまでは言っとらん。じゃが、彼らが始祖ブリミルの意思を継ぐ者として召喚されたのであれば……彼らはヒルダーと相対する者ということになる」

 そう言って、オスマンはすう、と目を細めた。オスマンのこれまでに無いほどの真剣な目に、コルベールは思わず息を飲む。

「どちらにせよ、あの者らから何かしらの情報を引き出すべきなのは間違いない。そしてもしも彼らが世界の崩壊を望むヒルダーの手先だというのなら……どんな手を使ってでも洗いざらい情報を奪い、その後は…………世界平和の為に消えて貰うことにになるかもしれんの……」

 

 恐ろしいことを平気な顔をして言ってのけたオスマンは、また鼻毛を抜いて大きなくしゃみを1発かました。

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