1話
(さあて、どうしたもんかねえ)
ミス・ロングビルは宝物庫の扉を撫でて目を細めた。
この中に納められている究極の杖。それが目的で忍びこんだはいいが、この宝物庫は想像以上にガードが堅い。
フーケには時間がない。できるだけ早くコトを済ませてトンズラしたいところだが、どうも難しそうだ。
強力な固定化の魔法がかかっている。流石はかの有名な学園と言ったところか。特に魔法に対しての耐久力はピカイチだ。
スクウェアクラスのメイジが束になっても破壊することは難しいだろう。
が、それは魔法ならばの話。ゴーレムのような物理攻撃ならば、破壊することは決して不可能ではない。これは数日前に愚かなコルベールがベラベラと喋ってくれた。
それでも、一瞬で壁を破壊できるわけではない。それなりの時間はかかるだろう。作業が完了するまでには何人かの教師が到着してしまうだろう。腐っても教師。囲まれれば只ではすまない。
ロングビルが諦めて立ち去ろうとした時、空が光った。
(なにっ!?)
見上げると、空から何か光る物がこちらに向かって一直線に向かってくる。その輝きにロングビルの視界が白く染まる。
衝撃に備えたロングビルだったが、いつまでたっても衝撃も、音も聞こえてこない。
恐る恐る目を開けると、先程の輝きは嘘のように跡形も残さず消えていた。
「なんだったんだ……いったい」
そうつぶやいて視線を戻したロングビルは、思わずほくそ笑んだ。
宝物庫の壁に大きなヒビが入っていたのだ。そのヒビは、ゴーレムでひと殴りすれば簡単に砕けてしまいそうな程のダメージを宝物庫が受けていることを示してる。
何が起こったかはわからない。だが、丁度いい。
ロングビルは――いや、フーケは、高笑いと共にゴーレムを呼び出した。
その様子を、別の世界から見ていた存在がいた。
そいつもまた、笑っていた。
トリステインに、使徒の影が近付いていた。
「はあい。愉快な4人組さ〜ん。いるかしら?」
朝、ドタドタと騒がしい音を立ててキュルケがルイズの部屋に飛び込んできた。
「誰だ?」
「えーっと、誰だっけ?」
しかし残念ながら、バロンらがキュルケと会話したのはギーシュの決闘騒ぎの日の1度だけ、
それも少しの間だけだったので、バロンとイクシアの記憶には残っていなかった。
しかし、1人。キュルケの顔と名前を完璧に記憶し、誰よりも早く行動に移した男がいた。
「やあキュルケさん。僕に会いに来てくれたのかい? さあ、2人で朝日に向かってランニングしよう」
と、どこからか取り出した薔薇をキュルケに差し出す愛のガンナー。が、ルイズが後頭部を杖で殴打して黙らせる。
痙攣するカペンシスをバロンとイクシアが隅にどかし、とどめの一撃とばかりにイクシアが『燃えないゴミ』と書いた紙をカペンシスに貼り付ける。
あっけにとられていたキュルケだが、既にこのやり取りに慣れていたルイズは何事も無かったかのようにキュルケに噛み付く。
「ちょっとツェルプストー! 私の部屋に断りもなく入ってこないで!」
「え、あ、べ、別にいいじゃない。それより、面白い話を持ってきたの」
「何よ?」
「泥棒」
キュルケの隣にいた青い髪の少女が、本から眼も話さずに言った。
「誰、この子…?」
ルイズがキュルケに聞く。
「あたしの友達よ。タバサって言うの」
「そう。よろしく」
「んで、何しに来たんだ? 泥棒だって?」
バロンが問うと、タバサが外を指差した。
「大騒ぎ」
「そうなのよ。昨日の夜に宝物庫に盗賊が入ったらしくって。ちょっと話を聞きに行かない?」
「あ、僕、そいつ見たかも」
ふと、目を覚ましたカペンシスが呟いた。
「見た!? いつ!?」
リュンメイが聞くと、カペンシスはポケっとした表情で言った。
「昨日、カペッチョと外を散歩してたら凄い光が見えたんだよね。なんだろって思ってたらでかいゴーレムが現れて、なんかの建物を破壊してた。今思えば、あれが泥棒だったんだろうなあ」
あははは。と笑うカペンシスにルイズが青筋を立てて近寄る。
「ねえ、カペンシス? なんであなたはそれを見て何もしなかったの?」
「え? 僕はてっきり工事か何かかと……」
「このばかあああああああ!!」
爆発が起こり、カペンシスは起きて早々2度目の気絶をした。