「それで、フーケの奴はどこに行ったの!?」
「はっ! ここは、どこ!? あなたは誰!? そして僕は誰っ!?」
気絶状態から無理やりたたき起こされたカペンシスは、そのショックが抜けきらないのかその言葉は要領を得ない。
ルイズの質問に答えないどころか、そこらのガラスに映った自分の姿を見て
「誰だ、このナイスガイは! って、僕か! 僕は何て美しいんだ!」
なんて馬鹿なことを言う始末。これはもう手遅れだということでイクシアがカペンシスの頭部をぶっ叩いて黙らせた。
哀れカペンシスは3度目の気絶をし、なんとも間抜けな表情で床にあおむけに倒れた。
「だ、大丈夫なの?」
そのカペンシスの様子に、顔を青くするキュルケ。寡黙なタバサも表には出さなかったが、ちらちらとカペンシスの方をみてその様子を気にしている様子だ。
「大丈夫よ。いつもこんな感じだから」
「カペンシスだもん」
と、ルイズとイクシア。
「……で、なんかよう?」
「あ、そうだ。あなたたちを呼びに来たのよ。宝物庫の入り口に先生たちが集まってるらしいから、ちょっと話を聞きにいかない? その……カペンシス、の情報提供っていう口実もできたみたいだし」
「あ、じゃあこいつ起こさなきゃ」
「カペンシス、起きて!」
ガンガンガンとウェリーでカペンシスの大事なところをたたくイクシア。カペンシスはその痛みで無理やり覚醒させられたが、彼の顔には死相が浮かんでいた。
「なんか……色んなところがすっごく痛いんだけど……記憶もないし……」
頭と股を抑えて首をかしげるカペンシスの肩を、バロンが優しくたたく。キュルケはそんな2人のやり取りを見て僅かに口元をゆがませた。
ルイズたちが宝物庫に着くと、教師陣が集まり言いあいをしていた。
よほど白熱しているようで、生徒が見物に来たことにも気づいていない。その言い合いは聞くに堪えない責任の押し付け合いであった。
貴族専門の大泥棒、土くれのフーケの仕業とのことらしいが、肝心のフーケについての情報は出てこない。
「いや、当直は何をしていたのか!」
「も、申し訳ありません…」
「ミセス! 『破壊の杖』の弁償ができるのですかな!?」
そこに、学院長のオールド・オスマンがやってきた。
「まあまあ、そんなに女性を責めるものではないぞギトー君。当直を真面目に勤めなんだのはなにもシュヴルーズに限ったことではない。これはこの場にいる全員の責任じゃ」
その一言で、その場にいた教師陣がみな口を閉じ、うつむく。その場にいた全員が思い当たる節があるのだろう。当直の番が自分でなかっただけなのだ。
自分ならフーケの被害を防げたと言えるものはその場に誰1人としていなかった。
「さて、フーケを追う手がかりが欲しいものじゃが……」
「それについてですが、「土くれ」のフーケについての目撃情報を調べてきました」
教師たちをかき分けて、眼鏡が似合う秘書、ミス・ロングビルが姿を現す。
「仕事が早いの」
「近くの森の廃屋に、何かを抱えた黒ずくめのローブの男が入って行ったそうです。おそらく、それがフーケで間違いないかと」
「ふむ。どのあたりじゃ?」
「はい。徒歩で半日。馬で四時間といたところでしょうか」
「すぐに王室に報告しなければ……」
コルベールの訴えはオスマンによって退けられた。
「ばかもん。王室なぞに知らせていてはフーケに逃げられる。魔法学院の威信に賭け、わしらの手でフーケを捕まえるのじゃ。我こそはと思う者、杖を掲げよ」
だが、先ほどまでは威勢よく吠えていた教師たちはまるでアリの巣を見る少年少女のように地面に視線を降ろし、杖を上げる者は1人もいない。その情けないありさまに、バロンは思わずため息をついた。
「……あほくさ」
その言葉に、何人かの教師が反応する。平民に馬鹿にされたのがよほど気に入らないのだろう。1人の教師が声を荒立ててバロンに詰め寄った。
「き、君は平民の分際で我々貴族を愚弄するというのか!?」
「貴族貴族って、貴族が尊敬されているのは平民には使えない魔法の力とやらで俺たちのような平民にできないことを簡単にやってのけるからこその地位なんだろ?」
バロンの言葉に、教師は何をいまさらと呆れて首を振る。
「当然だ。君たちのような平民にはわからないかもしれないが、我々は魔法の力でこの世界の発展に大きく貢献した。我々貴族無くして君たち平民の平穏な生活はあり得ない」
「なら、俺たちが安眠できるように恐ろしい盗賊をその偉大な魔法の力で捕まえてくれよ。そうしてくれると、俺も貴族を素直に尊敬できるんだけどな」
バロンが口元に笑みを浮かべてそう言うと、教師は口を噤んで1歩下がった。
あほらしい。
こんな奴らのどこを尊敬しろというのか。
バロンは心の中で毒づいた。
これ以上言うとご主人様が怒りそうなので口には出さなかったが。
しばらくの沈黙が続いた。皆、誰か手を上げるものはいないかときょろきょろあたりを見回すばかりで誰一人手を上げようとしない、どの教師も日ごろから自分の属性が最強だと言ってきかないくせにいざとなると怖気づいて動けなくなる。
情けない教師陣のありさまにオスマンが呆れてため息をつくと、1つの杖が掲げられた。
ルイズだった。
「ミス・ヴァリエール! 立場をわきまえなさい。生徒が出る幕ではありません」
「では、どなたか私の代わりにフーケ討伐へ向かってくれるのですか?」
ルイズの問いに、反対の声を上げていた教師陣が口を噤んで目をそらす。
「やはり、私が行きます」
「よく言ったルイズ」
バロンがルイズの頭を撫でると、ルイズは子ども扱いしないでとその手を振り払った。だが、その顔は僅かにゆがんでいる。
それを見たキュルケが、負けじと杖を掲げた。
「ヴァリエールに負けていられませんわ。私もフーケ討伐に名乗りを上げます」
「ツェルプストー……君もか」
コルベールがあきれた声を出す。
「さっすがキュルケさんだ! そこいらの臆病者の貴族とは度胸もバストも一味違う!」
「あ、ありがとう……」
突如として隣に現れたカペンシスに驚くキュルケ。
「なあに、恐れる必要はありません。なぜなら、美しく可憐なあなたの手を煩わせるまでもなくこのカペンシスが一瞬にして悪党を打ち取ってしまうからです。さあ、平和な明日に向かって2人でともに歩もうではあぁ~りませんか」
そんなキュルケに構わず、カペンシスは妄想の中に入っていく。妄想がラストスパートに入ったのか、不気味な笑みを浮かべて笑うカペンシスに流石のキュルケもドン引きだった。
どよめきの中、さらに1つの杖が上がった。タバサだった。信じられないという視線をキュルケが向ける。
「……来てくれるの? タバサ?」
「心配」
青い髪の少女は短くそう答えた。
「あっ……やばい、ちょっと嬉しいかも」
喜びと感動が入り混じった表情を浮かべたキュルケに対し、タバサは相変わらず無表情だった。
ルイズもタバサに向かって頭を下げる。
「ありがとう、タバサ」
「別に」
それを見たオスマンは頷いた。
「ふむ……では、彼らに頼むとしよう」