ミス・ロングビル……「土くれのフーケ」は心の中で舌打ちをした。
思ったよりも面倒なことになりそうだ。ただの平民だと侮っていた彼らが、実はゴーレム退治の経験がある上にメイジ殺しかもしれないというのだから。
彼らのおとぎ話を信じたわけではないが、かといって嘘だと切り捨てるには4人の平民の話に統合性がある。
それに、それらが全てホラだったとしてもあの鍛えられた肉体を持つ女はギーシュに勝利したというのは事実だ。ドットのギーシュと自分とでは比較にすらならないだろうが、それでもあの女がまだ余力を残していたところを見ると楽勝というわけにはいかないだろう。
「でも、なんでそんな危険な天城に登ったのよ? 聞く限りでは、得に財宝とかがあったわけでもないんでしょ?」
「あ~。まあ、色々あるんだが……簡単に言うとどんな病をも治すという伝説の秘宝、ベヒーモスの涙を手に入れる為に成り行きで……ってところか」
「へえ。なんで……」
言いかけたところで、ルイズは両手で口を押さえた。その秘宝で何を治したいのか。そんなことは考えるまでもなくわかっていたからだ。
だが、その話に食いついたのは予想外なことにタバサだった。
「その秘宝について詳しく教えて」
タバサはずいっとバロンに顔を寄せた。その顔は真剣そのものだ。
普段の言動からは信じられないような積極的なタバサをみて、キュルケは目を見開いた。
「詳しくって言われても……空飛ぶ鯨、ベヒーモスが流す涙ってことしか俺にもわかんねえんだ」
「お願い。持っているならそれを譲って。どんなことでもする。どんな対価も支払う」
抱き着かんとする勢いで詰め寄るタバサにバロンはたじろぐ。
「わ、悪い。もう持ってないんだ。それに、多分もう1度手に入れるのも不可能だと思う」
「……そう」
タバサはしょんぼりした顔でバロンから離れた。
「……お前も、治したい病があるのか?」
バロンが聞くが、タバサは何も言わない。それ見たバロンがボリボリと頭をかいた。
「……まあ、しゃあねえか。言いたくないこともあるだろうしな。俺だって、人に言いたいことじゃねえし」
腕の拘束具を撫でながらバロンが言う。
「なあ……タバサ、だっけ」
「……そう」
「詳しいことは聞かねえよ。けど、俺も俺の呪いを解くための方法を探してるんだ。なあ、鬼になる呪いを解く方法に、心当たりはないか?」
「鬼になる呪い……? それって、鬼病? もしかしてダーリン、鬼病にかかってるの!?」
「「「だ、ダーリン!?」」」
ルイズとリュンメイ、そしてカペンシスが同時に叫ぶ。
「鬼病……? カザンの呪いがこっちにもあるのか!?」
「え、ええ。私の祖国で数件だけ報告のある謎の病気……体が徐々に鬼になり、次第に正気を失う病……なんでも貴族の1人娘が発症したとかで、大量の水のメイジと世界各地のありとあらゆる秘薬を使って治療を図ったけど、結局助からなかったって聞いたわ」
「くそ……そうかよ。でも、なんでこっちにもカザンの呪いが……」
「ちょ、ちょっと! ダーリンってどういうことよ!」
「あーら、ダーリンはダーリンよ。私、ダーリンのこと気に行っちゃった。ね、ダーリンって呼んでもいいでしょう?」
「おい、ずるいぞバロン!!」
「お、お前ら暴れるな!」