ゼロの使い魔~スラップアップパーティー~   作:あららどろ

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第1章 遭遇!鬼の剣士とゼロの魔法使い
1話


 バロン=アベルは、自らの左腕に巻き付けられた鬼装具を撫でた。

 

 バロンが己の左腕に拘束具をつけている理由。それは彼が感傷に浸る理由と共にその腕にあった。

 

 赤黒く変色し、発達した筋肉を持つ人外の腕――鬼手。

 

 カザン症候群と呼ばれる、カザンの呪いにより発症する不治の病だ。

 

 その呪いは、凄まじい力と引き替えに正気を奪う。

 初めは体の一部が鬼と化す。時が進むにつれ呪いは全身へ回り、やがてあらゆるものを破壊するだけの鬼と化す。

 

 そうならない為に、鬼を鎖で封じておく必要があるのだ。

 

 だが、それも完璧では無い。たとえ鎖で鬼を封じても、カザンの呪いは徐々に体を蝕む。症状が進めばもはや鬼は鎖では押さえることができなくなるだろう。

 そして、何かの拍子で鬼装具が外れれば――。

 

 

 元々、鬼手は大人の背ほどもある大剣を片手で楽々振り回せるほどの腕力を有している。人間など、素手で簡単に引き裂いてしまう。そんな力を持っている上にいつ暴れ出すかわからないのだから、鬼手を持つ者が歓迎されるはずも無い。

 

 故に人々は鬼手を恐れ、忌み嫌う。バロンもカザンの呪いにかかってから数え切れないほどの差別と迫害を受けて生きてきた。

 

 だが、鬼手を恐れる人の気持ちもわからなくもない。自分ですらこの腕を恐れているのだから。

 

 だからバロンは旅をしていた。

 この腕を治す方法を探す旅。

 

 長い旅の末、万病に効く伝説の秘宝「ベヒーモスの涙」を手に入れた。だが、それは旅の途中で出会った、バロンと同じくカザンの呪いに苦しむ少女、ステラに譲った。

 

 結局バロンの腕は以前として鬼手のままである。

 

 ベヒーモスの涙はあらゆる奇跡が重ならなければ入手できない秘宝だ。もう1度手に入れる頃には全身にカザンの呪いが回ってしまっているだろう。

 だが諦めるつもりはない。

 別の方法を探すため、バロンは仲間と共に新たな旅へ出た。

 バロンが鬼化する前に、カザンの呪いを解く方法を探す為。

 

 そう。バロンには時間が無いのだ。だが、いまだ手がかりすら掴めていない。時間が無いというのに……

 

 ばこん。

 バロンの頭に少女の拳が炸裂する。

 

「この、バカ! 何で起こしてくれないのよ!」

「いってーな! 俺だって慣れないトコに来て疲れてんだ! それくらい忘れててもしょーがねーだろ!」

 

 バロンはこのピンク髪の少女の「使い魔」となり、ここに縛られている。

 

「忘れてた!? あんた、使い魔の分際で~!!」

「俺はお前の奴隷じゃねえぞ!」

「バカバカバカバカ!!」

「誰がバカだ! このバカ!」

「バカバカバカ!」

「バカバカバカバカバカ!」

「バカバカバカバカバカバカバカ!」

 

 少なくとも、誰かに起こして貰わなければまともに起きられないようなガキンチョの相手をしている場合では無いのだ。全くそう見えないのだが。

 

「うるさいわねえ……何やってんの?」

「寝不足は体によくないんだぞ。全く、僕の美貌が台無しになったらどうしてくれるんだ」

「カペンシス、寝ぼけてるの? 最初から無いものは無くならないよ」

 

 ルイズの部屋の隅にできた空間のヒビから、3人の男女が顔を出す。

 

「お前らも起こせよ!」

「あのねえ、そもそも私はここに来る前から2日もロクに寝てないのよ」

 

 橙の胴着に身を包んだ、胸以外に脂肪が全く付いていない引き締まった体の女性――リュンメイ=ランカ。その鍛え抜いた己の体を武器に戦う「格闘家」だ。

 

「僕だって、昨日は夜遅くまでカペッチョのメンテナンスしてたんだよ。どうもこの世界の空気が合わないらしくてさあ」

『カペカペ~』

 

 水玉模様のパジャマを来て、大きなあくびをしている長身の男性はカペンシス。銃の扱いを得意とする「ガンナー」であり、同時に機械知識に長けたメカニックだ。

 カペンシスのそばには、彼がカペッチョと呼び親しんでいるロボットが飛んでいる。

 

「あたし、カペンシスがうるさくてよく眠れなかった~」

 目をこすりながら口をとがらせているおさげの少女はイクシア=ジュン。四元素を司り魔法を扱う「メイジ」……なのだが、ルイズと同じく魔法の腕はよろしくない。

 

 ルイズを除いた4人は、ルイズの部屋にできた次元の亀裂の中で生活している。この亀裂は通称「セリアの部屋」と呼ばれる拠点空間に繋がっていた。

 

 最低限の生活品が揃ったマイルームはそこそこ広く、4人が住んでも十分すぎる広さだ。問題があるとすれば、万が一次元の亀裂が閉じてしまうと次元の狭間に取り残されてしまうことだろうか。

 最も、この亀裂は安定しているので、眠っている間に閉じてしまうということはないだろうが。

 

 

 ルイズの部屋で生活するということも考えたが、少女1人が住む部屋にしては大きいものの、5人もの人間が生活すればそれなりに窮屈感がでる。

 元々不安定なルイズの機嫌を維持する為にも、セリアの部屋で生活するのが一番、という結論に至った。

 

 

「ああっ! もう、朝食には間に合わないわ! ほら、行くわよ! あんたたち!」

「うお、お前、離せってこの野郎!」

 ルイズに引きずられて部屋を出て行くバロンの悲痛な叫びが廊下に響いた。

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