「全く、信じられない! 起こしてって言ったのに!」
「まだ言うか、それ。あやまっただろ」
怒りを露にするルイズと、ばつが悪そうなバロン。俺だけの所為じゃないだろ。と、いう視線をカペンシスらに送るが、誰1人バロンと目を合わせない。
「しかし、すげーとこだなぁ。何から何まで、みんな高そうだぜ」
廊下や柱の造りを見ながらカペンシスがぼそりと呟く。
「当り前じゃない。メイジの学校だもの。貴族が通うんだからこれくらいは当然よ」
ルイズは、やや誇らしげに言った。カペンシスはふーんと頷くと、隣を歩く小柄な少女に目を落とした。
「イクシアもこの際、ルイズと一緒に一から学んだら?」
「バカにしないでカペンシス! あたし、もう一人前だもん!」
自分の実力が見習いの学生並と言われたイクシアが、抗議の声を上げる。カペンシスはへらへらと笑っていたが、ルイズは聞き捨てならないとばかりに声を荒げた。
「冗談言わないでよ。魔法が使えない平民がこの学校で学んで何になるっていうの?」
貴族が貴族たる所以。それが魔法だ。冗談でも平民がそれを使えると言うのは聞き捨てならないことだ。
イクシアはきょとんとした表情でルイズに言った。
「あたし、魔法使えるよ。メイジだもん」
「イクシアの場合、使えるというより、使われるって感じじゃ……」
「なんか言った?」
ちゃちゃを入れたカペンシスを、イクシアはじろりと横目でにらみつけて黙らせる。
「あのね……知らないんだろうから言ってあげるけど、平民が自分をメイジだと偽るのは冗談でも――」
そこまで言って、ルイズは言葉を詰まらせた。イクシアの耳。よく見るとそれは普通の人間のそれとは違っていた。大きく、尖ったそれ。それはまさしく、エルフの象徴。
もしも彼女がエルフだとするなら、魔法が使えるという発言にも納得がいく。
思わず後ずさりそうになったルイズだが、貴族のプライドがそれを踏みとどまらせた。
(何を恐れているの、ルイズ! たとえ相手がエルフだからって、今は私がご主人様。だから、怖がることなんてないわ!)
「あ、あんた、まさかエルフなの?」
必死に冷静を装ったが、その声はわずかに震えていた。幸いなことに、誰もそのことには気が付かなかったようだ。イクシアはきょとんとした顔で首をふった。
「あたし? 違うよ。あたしは魔界人」
「マ、マカイジン……? ふーん。聞いたことないわね」
違う。と言われて内心ほっとするルイズ。だが、安心はできない。こいつらは「アラド大陸」とかいう聞いたことのないド田舎からやってきたのだ。そこでは、エルフのことをマカイジンと呼んでいるのかもしれない。
「俺たちだってハルケギニアなんて聞いたこともねえよ。それより、いいのかよ。こんなにのんびり歩いてて」
「あ」
ルイズが走りだすのと、授業の開始を知らせる鐘が鳴ったのは同時だった。