一瞬で廃墟と化した教室を、バロンとカペンシス、そしてイクシアの3人が片付ける。机に突っ伏して落ち込んでいるルイズを、リュンメイが慰めていた。
「なんで僕がこんなことを……」
「ほら、文句言わないの、カペンシス!」
「美銃士カペンシスには掃除なんて似合わないんだけどなあ……」
「いーから黙って掃除する!」
「へいへい……」
イクシアも、バロンたちに出会うまではよくその魔法の腕を罵られた。落ちこぼれの魔法使いということで、親近感がわいているのだろうか。
教室の片付けがあらかた終わった頃、机に突っ伏したままのルイズがぽつりぽつりと呟いた。
「私、魔法が成功したことないの。1度も……」
ルイズの声は震えていた。泣くまいと必死に押さえ込んでいる。だが、ついにソレも限界に達し、彼女の目からは大粒の涙が滝のように溢れ出した。
「努力だって誰よりもしてる……でも、できないの……だから「ゼロ」なの! 私は「ゼロ」!! 「ゼロのルイズ」なのよ!」
魔法が使えない彼女が、どのような扱いを受けてきたか。先程の光景が思い出される。イクシアもかつての自分の姿と重ねているのだろう。箒を握りしめてうつむいている。
バロンが、ルイズの隣に座った。
「……俺の腕になんでこんなモンがついてるのか教えてやろうか」
ルイズは返事をせず、ただちらりとバロンの腕を見た。
バロンは腕に巻きつけられた包帯を外した。バロンの腕を見て、ルイズは息を呑んだ。
ドクドクと脈打つ赤黒く染まった腕。鋭い爪と、恐ろしいまでに発達した筋肉は人の身体を容易に引き裂いてしまいそうだ。
「……な、なに、その腕」
「カザン症候群って言ってな。俺は鬼に呪われている」
「お、鬼……? き、危険じゃないの?」
「危険さ。俺はいつ死ぬかもわからないし、暴走して誰かを襲うかもしれない。その恐怖で眠れない日々が続いた……その上、まともな治療法は存在しないと来たもんだ。当たり前っちゃ当たり前だけどよ、俺のいた地方じゃ俺は人間扱いされなかった」
ルイズはこのバロンという男が受けたであろう迫害を想い、胸を抑えた。
自分のように見下され、蔑まれるだけでは済まないだろう。命を狙われることがあってもおかしくない。
ルイズだって、「使い魔だから万が一鬼になっても自分を襲うことはしないだろう」という思いが無ければ恐怖で逃げ出していたかもしれない。
ルイズは思わず口に出した。
「……なんで、そんな腕で笑っていられるの?」
「だって、治るかどうかもわからないんでしょう!? その上みんなに迫害されて……なんであんたは!」
「諦めてないからだ」
「俺は諦めねえ。絶対にこの腕を治してやる。どんなに辛い思いをしても、絶対に折れねえ。それでも折れそうになった時は、仲間が支えてくれる」
バロンはそう言って、後ろに控える3人を見た。カペンシス、リュンメイ、イクシア。皆、バロンと共に旅をしてくれた大切な仲間だ。
「そして、光が見えたんだ。この腕を治す手がかりが……存在したんだ。この腕を治す秘薬は確かに存在した。夢物語だってあきらめなかったから、俺はようやくここまで来たんだ」
そう言って、バロンはルイズの手を握った。
「だからお前も負けんな。もし折れそうになったら、俺たちが支えてやる」
バロンはルイズに笑いかけた。
胸の奥からこみあげてくる何かを強がりで隠し、ルイズは立ち上がった。
「と、当然よ! この私がこの程度で諦めるとでも思ったの!? 使い魔の分際で!」
そっぽを向いたルイズだが、心の底からわき上がってくる感情を隠し切れていない。誰もがそれに気づいていたが、誰もが何も言わない。ただ、だまってルイズに笑顔を送った。
だが、カペンシスの腹がその空気を台無しにする。
ぐ~~っ。
静かな教室にカペンシスの腹の音が響いた。
「あ、あんたねえ!」
リュンメイが拳を握りしめると、カペンシスはしりもちをついて両手を振った。
「タ、タンマタンマ! 悪気はないんだって! ただ、朝から何も食べてないからさあ! リュンメイだってそうだろ?」
「うっ……言われてみれば……」
「そういえば、そうだな。じゃ、とっとと終わらせて飯にするか」
そういって、バロンが箒を握りなおした。