「あー、もうおなかぺこぺこだよ~。ご飯、ご飯!」
掃除はなんとか昼食の前には終わり、バロンたちは食堂へと向かっていた。
この世界に来て初めての食事と言うことで、食いしん坊のカペンシスとイクシアはやけにはしゃいでいる。
「昨日ちょっと見たんだけど、ここの食堂、すげ~広かったんだぜ。それにさ、ここにいる人たちってみんな貴族なんだろ? どんな食事が出てくるのか、僕、楽しみだなあ~」
「リクザメ焼き、あるかな!?」
「きっとそれだけじゃないぜ。キャビアとかフォアグラとか、見たことも無いような料理がわんさか出てくるんだろうよ!」
「きゃ~! 私いっぱい食べる~!」
イクシアやカペンシスほど表には出していないが、バロンもリュンメイも内心期待で一杯だ。
ただ一人、ルイズだけが青ざめた顔をしている。
(……どうしよう。食事があんな残飯みたいなのだったら、みんなどんな反応するんだろう。ううん! ダメダメ! あくまで主人は私なんだから、それなりに立場をわからせないと! ……でも、ちょっとくらい分けて……)
「あら、教室の掃除は終わったの? ルイズ」
途中、赤い髪で褐色の肌を持つ女と出会った。背が高く顔の彫りは深い。何より目が行くのはそのバストだ。リュンメイに匹敵するほど大きいそれは、ブラウスのボタンを外すことでさらに強調されている。
ルイズが顔を赤くして何か言おうとした刹那、ルイズの背後から飛び出したカペンシスがどこからか取り出したバラの花をキュルケに差し出した。
「こんにちは。美しいお嬢さん。僕は愛のガンナー、カペンシスと申します」
そういったカペンシスの顔はこれまでの頼りない印象から一変し、きらきらと輝いている。特に注目すべきは目だ。異常なまでに伸びたまつげといくつもの星を浮かべる瞳。
これぞ、愛のガンナーカペンシスの奥義、百面相である。
「あ、ありがとう。」
あまりの変わりように、キュルケも若干引いていた。
「はーい。後にしてね」
が、その変化の持続時間はわずか一瞬。
イクシアがカペンシスの耳を引っ張ると、一瞬で情けないいつものカペンシスに戻り、これまた情けない悲鳴を上げて後方へ引っ張られる。
「……お、面白い人ね。あの人があなたの使い魔?」
「違うわ! ここにいる全員が私の使い魔なの!」
「あはは! 相変わらずとんでもないことをしてくれるわね! それで、まさかみんなと契約したの?」
「うっ……それは……」
「やっぱり。じゃあ、契約したのはあなたかしら?」
そう言ってキュルケは、流し目でバロンを見た。
「なんでわかった?」
「女のカンって奴よ。あなた、名前は?」
「バロンだ」
「私はキュルケ。バロン、ね。なかなかいいオトコじゃない?」
そう言って、キュルケが妖しい指使いでバロンを撫でる。慌ててリュンメイがバロンとキュルケの間に割って入った。
「ちょ、ちょっと、何してんの! いきなり!」
「何って、挨拶よ」
詰め寄るリュンメイに対して、きょとんとした表情のキュルケ。当のバロンは肩を抱いて震えている。
キュルケの指使いが、バロンと天敵ともいえる妖しいプリースト。おっさんことジェダの指使いを思い出させたからだ。
ジェダの診察は、バロンに大きなトラウマを植え付けている。もっとも、そのトラウマの半分はロキシーの所為でもあるのだが。
『モテるオトコは辛いわね~、バロン』
ロキシーがバロンをはやし立てるが、バロンの耳には届かない。
嫌な予感と悪寒が、バロンの全身を駆け巡っていたから。
『ハーッハッハッハ! どうだね? 私の指圧は?』
『かわいいのう、バロン殿は~』
『よいではないか、よいではないか』
バロンによってねじ曲げられた間違った記憶が、バロンの恐怖を呼び起こす。
「ふ~ん。あ、そう」
キュルケはリュンメイを見つめたまま意味ありげな笑みを浮かべると
、ルイズに手を振って先に食堂へと向かった。
結局、バロンがしばらくまともに動けず、カペンシスが女子生徒とすれ違うたびに声をかけたりするのでルイズたちが食堂についたのは生徒たちがデザートを食べ始めたころだった。