ゼロの使い魔~スラップアップパーティー~   作:あららどろ

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7話

 予想外の出来事に、皆が口を開くことを忘れていた。

 ただ1人、リュンメイだけが、怒りに満ちた目で必死に起き上がろうともがくギーシュをにらみつけている。

 

 

 ――なんだ、なにが起きた。

 

 かろうじて、目の前にたった女の平民が自分に何かをした。ということだけはわかった。だが、そこから先が思い出せない。

 衝撃もあるかもしれない。

 景色がゆがみ、体が思うように動かない。

 

 そうだ。

 あの女の腕が消えたんだ。

 

 次に意識が戻ったとき、机にたたきつけられていた。

 

 

 近接戦闘慣れしたバロンや、なんだかんだ言ってポテンシャルは高いカペンシスなら、その動きに対応できただろう。イクシアだって、かわすことができるかどうかはさておき、リュンメイの殺気に気づくことはできただろう。

 

 彼らはそれなりに実戦経験がある。そして、幾度となく死線を超えてきた。

 

 だが、実戦の経験もなく、殺気を感じることができず、なおかつ近接戦闘など想定していないギーシュは気付けなかった。テーブルの上にたたきつけられて初めて攻撃されたことに気づいたのだ。

 

 ギーシュだけではない。その場にいたほとんどの人間がまだ事態を飲み込めていない。ただ一人、キュルケの隣でサラダを頬張っている青い髪の少女だけが、リュンメイが攻撃したということを理解できていた。

 

 

 しばらくの沈黙。それを、ギーシュの震える声が破った。

 

「貴様、平民の分際で貴族である僕に手を……」

 

 赤く腫れ上がった頬を押さえ、ギーシュは静かに言葉を発した。それから一呼吸おいて

「決闘だ!!」

 と、叫んだ。

 

 その言葉を皮切りに生徒達に興奮が生まれる。その興奮は共鳴するように周りに広がり、大きくなり、やがて熱狂へ変わった。

 

「決闘だッ!」

「平民が貴族に手を上げたんだ! 許されるわけがない!」

「こいつは見物だ!」

 

「ちょっと待って! そんなの私が認めないわ! ナシよナシ!」

 やや遅れて正気に戻ったルイズが、慌てて止めに入る。だが、怒りのボルテージがマックスになったリュンメイもギーシュも話を聞こうともしない。

 

「いいわ! その勝負、受けて立つ!」

 

 リュンメイは拳を手のひらに打ち付けて音を鳴らすと、フシューと荒い鼻息をはき出した。その瞳は野獣のようにギラギラと光っている。

 

 バロンたちが見れば、一目散に逃げ出すであろう「リュンメイがキレた時の目」だ。

 二股をしたあげく、メイドに八つ当たりするギーシュを見て、リュンメイはキレたのだ。

 

 しかし、ギーシュがそのことなど知るよしもない。ついでに言ってしまえば、ギーシュはリュンメイがかつて様々な闘技大会に出場し、優勝賞金を稼いでいたという事実を知らない。

 その対戦相手には、魔法を使うメイジも少なからず含まれていたと言うことも。

 

 もしもギーシュの決闘相手がカペンシスであれば、ギーシュにも勝機は十分にあっただろう。

 とはいえカペンシスが弱いわけではない。

 普段の情けない姿からは想像もつかないが、スイッチが入った時のカペンシスは難攻不落と呼ばれた天城を踏破し、天界への侵略を進めたデロス帝国最強の騎士団「鬼騎士」の幹部を退けるほどの実力者だ。

 

 問題は、スイッチが入っていない時のカペンシスは最下級モンスターであるゴブリンや、そもそもモンスターですらないリクザメに完敗するという安定性の無さである。

 

 つまるところこのカペンシスという男、やるときはやる男だが、やらない時はとことんやらない男なのだ。

 そして恐らく、今日のカペンシスはやらない時のカペンシスなのだ。

 

 だが、悲しきかな。リュンメイはそんなカペンシスとは違いいつでもどこでもやる女なのだ。

 

 対魔法も経験豊富なリュンメイにギーシュが勝つ可能性などこれぽっちもない。だが、そんなことすら露知らないギーシュは怒りに身を任せてリュンメイに食いついた。

 

「その根性だけは認めてやる……! 二十分後、ヴェストリの広場に来るがいい! 平民如きが貴族に楯突くとどうなるか、身をもって教えてやる!」

 

 バラの香りを漂わせて食道を去るギーシュの背に一瞥をくれたリュンメイに、ルイズの拳が襲いかかる。

 

「このばかああああああああああああああああああ!!」

 

「わっ!? ちょ、ちょっとルイズ、何するのよ!?」

「何するのよ!? じゃないでしょバカ!! こっちが言いたい台詞よ! あんた、平民がメイジに喧嘩売るとどうなるかわかってんの!? ほら、さっさとギーシュを追いかけるわよ!! 私も一緒に謝りにいってあげるから!!」

「あいつは女の敵よ! 一回懲らしめなきゃ!」

「あー、まー大丈夫だろ。リュンメイなら」

 

 大慌てのルイズに対して、バロンもリュンメイもイクシアも落ち着いている。カペンシスは状況がよくわかっていないらしく、大きく膨らんだおなかを満足そうにさすっている。

 

「あ、あんたたち、メイジの恐ろしさを知らないのよ!」

 

「いーじゃん。リュンメイ、あんな奴、こてんぱんにしてよ!」

「任せといて! それで、ヴェストリの広場ってどこ?」

 

 何よこいつら。正気なの?

 メイジの実力を知らないっていうの?

 いくら見習いだって、相手はメイジなのよ。魔法も使えない平民が勝てるはずもない。

 

 困惑するルイズを他所に、リュンメイたちは決闘の準備を進めている。きっと彼らは自分たちの実力を過信しているのだ。そして、メイジの力を侮っている。

 その楽観的な思考に、ルイズは怒りを覚えた。

 

「もう知らない! あんたなんか殺されちゃえばいいのよ!!」

 そう吐き捨てて、ルイズは食堂を飛び出した。

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