正確にいうと、前回のを長くしすぎました
先ずは名からだろうという常識にかられ、彼は問いを投げる
「貴女、名前は何と言うんですか?」
背筋を正し、改まった表情で告げた問いに、彼女は考え込んだ
「名前…………機体名称の、ことなら、ART.123番機体、なの」
ART.123番機体
それが彼女の名前……否、少し待て
確かに機体名称ならそうなのだろうが、彼が求めている答えではない
半分思考しながら、曖昧な言葉を紡ぐ
「こ、個体名、と言うんでしょうか……」
自信無さげに、実際、自信はないのだが、言葉を続ける琥珀
「貴女だけの名前を、教えてくれませんか?」
そんな問いに、彼女が出した答えは理解不能だった
当然と言えば当然だろう
ART.123番機体。己の呼称など元より必要とせず、同時に必要だったとしても
「えっと…………無い、んですか?」
彼からの問いも、彼女はただ頷くしか出来なかった
「そうなんですか…………」
彼女はその答えを聞いた彼を見て、胸部がちくりと痛む
一瞬不思議に思ったが、彼女は誤認だろうと判断して気にしなかった
と、ふとその時、一つの事柄に気付いた
目の前の彼は彼女の目から見て平気な顔をしているが、尋常ではない激痛が走っているはずである
死んでもおかしくないほどなのに、眼前の彼はというと
「とりあえず、黒ウサギから服を頂けるように話をして来ましょうか……」
暢気に彼女の事を考えているようだった
やっと見付けた追求対象をここで失うのは不味い、と判断した彼女は直ぐ様行動を起こした
「こは、く」
「はい?なんですか?」
名を呼び、抱き付きやすくなった途端、彼女は彼に飛び付いた
目を白黒させる彼を無視して、直ぐにデータを確保する
(体温データ、損傷具合……インストール)
弾き出された結果の大半はやはり臓器の物が多い
中には呪術的なものまで含まれている辺り、彼は相当お人好しなのが伺えた
腐った臓器や、傷んでいて修復するのに時間のかかる臓器を破壊
同時に空いた空間に真新しい臓器を想像し、創造する
だが、治してもなお腐るものがあった
その様なものに対しては、呪い返しや、反射、永遠治癒を組み合わせて対処する
この作業時間、僅か十秒
医者泣かせにも程がある
急激な体調の改善に彼も思わず呆けた声を出す
「へ……?」
そんな彼には歯牙にもかけず、淡々と彼女は事後報告を行う
「琥珀の、内臓とか、なおし、たの」
そこで、また彼は普通ではあり得ない返答をした
「あ、ありがとう、ございます」
今度は、彼女が目を丸くする番だった
「……?……琥珀の、だから、道具に、言わなくても、いいと、おもうの」
その通りである
使用した道具に礼を述べるなど、あり得ないことだ
心の中で感謝はすれど、そのように礼を述べ始めるとキリがない
彼女も道具であるが故に、一瞬彼の正気を疑った
だが……
訳がわからない。彼女は理解不能としか判断できなかった
待機形態とはいえ、彼女なりに人間を見てきた中で、彼は異常だった
それ故に、興味を持ったわけではあるが
彼も、己の論理が常識的に考えれば異常なのは分かっているようで、補足と弁明を続けた
「私は、貴女を道具とは思わない」
頑なな声色で、貫き通すように
「貴女には、意思がある」
己で思考し、己の意思で行動を決めている
「貴女には、言葉がある」
意思疏通をして、他者を理解しようとしている
「そんな貴女を、私は物とは思わない」
肉体の有無は関係ない、大切なのは精神であると、彼はそう告げた
説法を解く、お坊様さながらに
「…………わかっ、た、の」
彼の言葉は、不思議と彼女の心にストンと落ちた
パズルのピースの一つが、埋まったような感覚に近いのだろう
彼も彼女の瞳の奥に何かを見たのか、優しい目をしていた
そして、彼の右手が優しく彼女の頭を撫でた
父のように、兄のように
「ん…… 」
無意識に、彼女は心地好い声を出す
ふと、その時、彼女の体に熱が灯った
(機体温度上昇を確認、原因不明、エラー)
彼の熱が彼女にも伝播されたのだろうと推測して、彼女はそのエラーを気にかけなかった
ある程度時間が経った頃、自然と彼の手は離れていった
少しだけ、彼女は胸を締め付けられる感覚を覚えた
と、忘れていたことを思い出したのか、改まった様子で彼は考えていた
「…名前、どうしましょうか…………」
そこなのだ、気掛かりなのは
ART.123番機体
これでは流石に名を呼ぶときに長すぎる
うんうん唸っている彼に、名を気にしていない彼女は告げる
「琥珀が、好きなように、よんでくれれば、いい、の」
その答えを聞いて、更に彼は悩んだ
元より、名付けるのは苦手なのだ
生返事を返しながら、色々な名を模索する
模索した結果、
結局、色々と捻りを付けようかと思っていたが、諦めた
「……アート、なんてどうでしょうか?」
由縁は至って簡単、ARTの部分を英語で読んだだけだ
流石に適当すぎたか、と無表情の彼女を見つめる彼
程無くして、彼女が口を開いて一言だけ告げた
「…………あー、と」
おかしな所で訓点が入っていたため、彼はもう一度告げる
「アート、です」
彼の言葉を聞いて、小さく頷いた
「時点から、本機体は、アートなの」
心なしか無表情ながらに満足そうな雰囲気を纏っている彼女に、彼も言葉を紡いだ
「えっと…………よろしくお願いしますね、アート」
はにかむようにして笑いかける彼に、対して、アートは
「ん」
ただ一言、端的な返事を返した
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