前後編ぽくなりましたが、一先ず投下。
※性描写なし
新キャラ出てますー
丸鳥の羽に付き合わされる事××回…
「上位個体のクエストを、ウル殿にお願いしたいのですが」
最近、ベルナ村の村長より顔を合わせている集会所の受付嬢が、神妙な面持ちで、アイテムボックスの整理をしていたおれに話し掛けてきた。
「昇格試験はねーのか?」
「装備を整えて頂く時間はあると思います。少し今回は特殊でして…先に素材収集を許可します」
「は?」
よくよく聞き出すと、どうやら人手不足なんだそうだ。最近、人里に現れた上位相当のモンスターの数が多く、多くのハンターが討伐に行っているらしい。そこで、元G級という無駄な肩書のあるおれの実力を見込んで上位エリアを試験無しで解禁する、と。
「ただ、今は紹介出来る狩猟クエストがありませんので、採取や納品クエストを」
「またぁあああ!?」
「ウルさんはいい加減ベルダー一式以外を作りましょう! だからこんな措置を講じる事になったんですよ!」
「んっだよーおっちゃん年食ったしサクサク狩りてぇよ…」
ショートカットの受付嬢の後ろから、分厚いリストブックを持ったアイルーが走り出て来て俺に一枚のクエスト依頼書を投げつける。
「け、渓流の素材ツアー?」
「さっさと行けニャー!!」
ー
ーー
ーーー
「最近ご無沙汰だったわね」
「アネットさんこそ、ずっと高難易度のクエストばかりだったみたいですね。暫くぶりです」
「うふふ、相方がアレじゃあねェ…引っ張りだこなのよ」
のんびりとした口調とは裏腹に、色黒の肌を惜しげも無く晒した荒鉤爪装備を纏った、野性的な風貌のお姉様ーーエルドさんとペアを組んで狩りをしている女性ハンター、アネットさん。
全武器を一通り扱えるエルドさんとは違い、大剣一筋でどんな狩りにも行ってしまう。ブナハブラの大量発生と、ケルビの角取りが眉間に縦じわが出来る程嫌いで、知り合ってからはたまに頼まれていたんだけど…
笑ってどんなクエにも対応出来る(そしてそれだけの装備がある…女子かとツッコミを入れる程に)ペアのエルドさんとは逆に、苦手があって人間らしくて好きだ。
いや、エルドさんが嫌いとかではなくてね! 凄過ぎだし、私がダメダメだから、尊敬するしかなくて。
「でね! この間のアイツったら酷いのよー、私にイャンガルルガの尻尾切断頼んでおきながら双剣で斬り込んで自分で斬っちゃうワケ!」
「ま、まあ動きながらだし、突進斬りしますしね…」
「それはいーのよぉ! クエ後に『あれ、頼んだっけ? スマンつい斬れそうで』とか言って! 戦バカ過ぎでしょー」
まあ、後一撃で斬れるトコだったし、良いけどねェ…とアネットさん、綺麗な長い髪を括りもせず流して、フラヒヤビールのジョッキをダンッ!とテーブルに…わ、割れそう…
「シアちゃんはどう?」
「え?」
「思い人とは上手く行ってるの?」
私はさも、片思い中の乙女の様に振る舞いはぐらかす。
思い人…好きな人、と言ったらウルの事になるんだろう。でも恋人という存在ではない、もっともっと大きくて、無くしたくない私の居場所だから。
だから、私はむしろウルの所有物でいいくらいに思っている。あまり人には言えないけれど。
「ウソつきねェ」
野生の獣めいた、笑顔の中の鋭い瞳と視線が合った。
「シアちゃん、変わったもの。お姉さんの目は誤魔化せないわよー?」
対面していた筈なのに、アネットさんはテーブルから立ち上がり、私の隣に座り直す。そして、優しく語りかけてくる。思わず顔を伏せてしまう。
やめて、私、我慢できるもん。
今のままで構わない、ウルの隣に居られれば
「ご飯が食べられないオバカさんは、狩りでも活躍できないわよー?
あなた少し、恋煩いしてるには痩せすぎね」
優しく、頭を撫でられる。掌が温かくて、何故か視界がぼやけてくる。
ウルと違う、遠慮のない癖にこちらを気遣っている踏み込み方だなぁ。こんな撫でられ方、なんだか
「お母さんみたい」
くすっと笑っただけなのに、可笑しいくらいに涙が溢れる。本当に、私の目から出たのかなってくらい。
「ウルの前でしか、泣いた事無かったのになぁ」
「あら、お母さんじゃなくて『お姉さん』って呼んでくれるなら、幾らでも良いわよー?」
私、貴女を産むには随分と若いつもりだし♪と悪戯っぽくウインクをして、アネットさんがハンカチを差し出した。
私は少しずつ話した。
母が亡くなり、父も怪我が元で亡くなった事。居場所を無くし家から逃げ出した事。ポッケ村の父の友人を頼り、結局ハンターになった事。
ーーウルに出逢った時の事。
ー
ーー
ーーー
「クエストボード見えねえのか?」
それが、振り向いた彼の第一声だった。
私はけして背が低い方ではないが、彼は結構な長身で、声の元を辿ろうとした私は彼のディアブロス亜種の防具の肩くらいを見、ちょっと見上げなくては顔まで見えず驚いたのをよく覚えている。
中からのざわつきとは裏腹に、珍しく閑散としたクエストカウンターで、私が後ろからボードを覗き込もうとしていたのに気付き、彼は半身分くらい横に避けてくれたのだ。しかし私のハンターランクでは受注出来るクエストが無いようで。うーんと唸って踵を返すと、声を掛けられた。
「おれ、素材ツアーなんだけど、行く?」
「え?」
「下位クエスト無かったんだろ?」
何で分かったんですかと聞いたら、んなパピメル一式、下位ハンターちゃんだろうがと言われる。私が少しムッとしたのを察したのか、他に何かやりたかったのかと逆に聞き返された。
「もうすぐ、上位昇格試験なので。アイテムの材料補充に」
当時の私の得物は太刀、ヒドゥンサーベル。あまりディアブロスやティガレックスといった大型は得意ではないが、迅竜ナルガクルガは防具のスキル相性がいいのか比較的楽に狩れるモンスターである。炎への耐性が低いが、防具も一式揃えてはいる。今日は、たまたま採取目当てでパピメルなだけなんだけどね。
「ふーん、付き合ってやろか?」
「え?」
「試験、一人じゃきついんじゃないのか。アドバイスまでいかねーけど、くれてやったりできるし」
初対面の男性にかなりフランクに接せられ、私は混乱し通し。あまり良くない思い出があり、男性が少し苦手なのだ。
有難うございます、と言ったところで、しかしなぁと彼は続けた。
「きっとお前さんに依頼されっかな。ティガレックスが雪山で二回、それぞれ別個体が確認されたらしい、撃退もしくは捕獲、討伐ってとこだろう」
「まさか、試験がそれだって言うんですか」
「二頭は無理だろ、今ギルドでも協議しているらしいな。受付嬢が零してたぞ」
このハンターさんはギルドの関係者か何かなんだろうかと疑いだした時、まさしく下位クエストを扱っている受付嬢さんが慌ただしく奥から駆けて来て、私の名を呼んだ。
「上位昇格試験なのですが…早急にお願いしたく!
雪山に現れたティガレックスが、村に接近してきています! ブランゴ狩りに出ていたハンターさんがどうにか雪山に押し留めてくれていますが、時間の問題です。撃退または、一頭だけでも討伐をと…!」
苦手なティガレックス。一頭だけでもと言われたが、二頭狩れたら上位昇格は間違いない。
行けるのか? いや、行くしかない。断れる訳がない…
「同行しても良いんだろう?」
頭の上から声がする。
「も、勿論! 上位ハンターのウルさんがご一緒でしたら二頭討伐は間違いないですね!」
「こっちの姉ちゃんの昇格も問題ねえし、村も守れて一石二鳥だな」
私を置いてけぼりにして、話が進んでいく。
でも、心強い味方なのだ…きっと。
「ほれ、一張羅あんなら着替えてこいよ」
「は、はいっ!」
私は自宅へと踵を返して走り出す。
普通に笑っているのか含み笑いなのか判断しがたい、目尻の垂れた彼ーーそれがウルとの出逢いだった。
ー
ーー
ーーー
確かに、二頭のティガレックスは発見された。先遣というか、足止めをしてくれていたハンターさんのお陰で一頭は竜の巣、もう一頭は雪山の頂上と良いタイミング。
一先ず分断して戦おうという私の意見を却下し、ウルは私を連れて雪山エリア3の巣の個体に向かう。
集会所にいたままのディアブロス亜種の防具一式に、ブラックテンペストというランスを担いでいる。厳しいのは見た目だけで、言動はかなり軽めなのが何とも言えない…のだが、狩りの腕は本物だった。
ランスという機動力に欠ける武器を、軽やかに使う。ガードに余り頼らないタイプのようで、器用にティガレックスの噛みつきや氷塊投げをステップでかわし、時にはカウンター突きで接近し怯んだ頭に連撃を入れる。三撃目後に隙がある為ほぼ毎回ステップを入れているのだが、彼の定点攻撃中、派手に足元に雪が舞う事はなかった。ほぼ同じ場所から動かず、まるでティガレックスが攻撃に吸い寄せられるように。
狭い氷室の竜の巣を走り回るティガレックスにも厭わず、必要な所でガードを入れつつカウンター突き。また同じ事の繰り返し。
そんなものを邪魔する訳にも行かず、私は後ろ脚に貼り付き、鬼刃斬りを繰り返し太刀の刃を鋭いものにしていく。尻尾が斬れた瞬間、ティガレックスが大きく前に吹っ飛び、彼が初めてずっこける事になる。
やばい、と思った時には彼は雪上に転がりつつ「ないすかー」と言ってくれていた。
不幸中の幸い、頭を傷つけられ尻尾をもがれたティガレックスはすぐに斃れ伏す。
「頭貼り付き楽しくて、離脱遅れちまった」
「すみません、まさかあんなに吹っ飛ぶとはっ…!」
「いーよ、でも尻尾斬れるのギリギリだったぜ。もーちょい被弾減らして頑張りな」
確かに的を射ている。ので、素直にはい、と返事をする。
「良い子だ…おっしゃトカゲもう一匹やっちまうぞ」
今度は試験らしくお前さんが頑張れよー、とナルガヘルムな私の頭をぽんぽんっ、と撫でる。
言い知れぬ、充足感、安心感、安堵感。なんて表現出来ない、掌の温かさなんだろう。
ああ、このひとは、大丈夫だ。
「ウルにぃ、待って!」
先に走り出していた彼の背中を追う。
初めて会った人に『ウルにぃ』だなんて、自分じゃ考えられない事だけど、勝手に口から滑り出ていた。
彼は驚いて振り向き、変な顔でーーいや、本当に変な顔だった、片眉を上げて目は見開いて…驚いたにも程があるーー耳に手を当て首を傾げた。
思わず笑ってしまう私を、彼はわざわざ戻って来て抱き上げ(というには色気がない、脇に手を入れ持ち上げ)、雪の積もって山になった部分に向かって放り投げた。
「ぶはっ! ちょ、ウルにぃっ!」
「だから、そのにぃってのは何なんだ?」
「じゃあ師匠?」
「んな良いもんじゃねえ」
「…じゃあウルにぃ」
「戻ってますが!」
「ウルにぃ、早く行こ」
雪を払って、山頂に向けて走り出す。後から何やらブツクサ言いながら、彼も着いてくる。
ーー当然、日暮れ前にティガレックス二頭の討伐は完了した。
ー
ーー
ーーー
「結構長い付き合いなのねェ」
「そうですね、その頃はまだ私も20の歳になってませんでしたし」
「先にマークスづてで貴女と知り合ったものねェ…一緒に狩りしてても可笑しくないのに」
で、とアネットさんが続ける。
「これからどうしたいの?
その様子じゃ、好きも嫌いもはっきり伝えてないんでしょぉ?」
ほんとは好きって言ってしまってるけど、まさか本気にしてるかなー…
「これから、ですか」
「別にぃ、明るい家族計画しなさいなんて言ってないのよー。痩せるほど悩むくらい、自分の気持ちと現状に齟齬があるワケでしょ?」
ちょっとぶっとんだ言い方に、くすりと笑いが漏れたが、後から続いた言葉は確かに私の心を揺らした。
黙った私に、アネットさんはフラヒヤビールのお代わりを給仕アイルーに頼み、残りを飲み干しジョッキを静かに置いた。
「マークスと色々あった後から、こっちに顔出さなくなったもんねェ…アイツ、血祭りに上げてやらなきゃ。いつがいい?」
「いやいやいや! それは、え、遠慮しますっ」
そーお? うふふ、やりたくなったらいつでも♪と言いながら、釣り目の野性的なお姉様は先を促してくる。ちょっと怖い。
「ウルにぃと、ずっと一緒にいたいです。できたら、私を好きになってほしい。便利なアイテムとして連れ回してくれるなら、それでも良いんですけど」
「後半だけ却下で♪」
「なっ! 何でですか、素直に話したのに」
「だって、好ましくなければそんなに長くペア組まないわよー。貴女の話だけ聞いてても、嫌な事は上手く立ちまわって避けるタイプでしょ、駐在ハンターなんて絶対嫌がるわよ」
それもそうなんだけど…彼は意外と優しくて面倒見がいいから分からない。だいたい、
「好きなんて、言われた事無いです」
「ふーん。じゃあ、貴女が彼にされて嬉しい事って何?」
すぐ浮かぶに決まってる、悔しい事に全てのきっかけだから。
「良い子だ、って言われて頭を撫でてくれること…?」
我ながら子どもじみていて、恥ずかしく後半は消え入りそうな声になってしまう。
ぷっ、とアネットさんも吹き出した。ほら、言わなきゃ良かった…
「シアちゃん、カワイイわねェ…」
「いいえ、可愛かったらとっくに大事にされてます」
「いや…だって、分かってやってるわよー、それ」
アネットさんは、にやにやしながら、もう半分近く減ったジョッキに口をつける。
「ワルイ男に捕まったのねェ」
不意に、アネットさんがウインクした。私の後ろを見ていたようで、視線を追ってみるとエルドさんだった。
激昂ラージャンのものと思しき腕装備を挟んで、火竜リオレウスと天廻龍シャガルマガラの防具と、もう一目見て何か凄い人来た!という雰囲気になっている。武器は初めて見る、弓だ。
彼は迷わずアネットさんの隣に腰掛け、メニューを引き寄せながら言った。
「テオ弓作ったから、何か飯食って狩りに行くぞ!」
「…相変わらず、新しい装備作るの好きねェ」
「アネットも大剣以外やれば良いのだ、毎日新鮮で良いぞ!」
ふはは、と何処かの教官を思い出す豪快な笑い方のエルドさんが、そうだと膝を叩いて私に向き直った。
「シアの白疾風一式、強化がまだだったろう。よし行こう!」
「え、や、嬉しいんですけど、今日は武器以外何も持ってきてなくて…」
「アイテム持ち込み不可という条件のクエストがある、丁度そこからの筈だ」
あれよあれよという間に、三人でクエストに行く事になってしまった。
ウルにぃ、朝出掛けたっきりだなぁ…まあ、少しくらい留守しても、大丈夫だよね?
ー
ーー
ーーー
漸く、渓流から一番近いユクモ村だ。
久々に丸一日渓流に居たぜ…特産キノコ集め以来か。アプトノス車に揺られ、夜に出発したのがもう日の出。一応目は瞑ったものの、木のガタゴト言うアプトノス車の寝心地が良い筈もなく、非常に眠い。
そういや、これ、といったものを集める時、何故か引っ掛かる素材ってものがある。物欲センサーなんて言い方をする奴もいるようだが、今日はまさしくそれが発動したらしい。
乱入してきたロアルドロスと喧嘩してたアオアシラにはビビったけどな。
「ガーグァ、絶滅すんな…」
タル配便から届いた素材ツアーの荷物をほどき、確かに数が足りているか確認する。丸鳥の羽! これ、テストに出んぞ。
集会所に隣接した加工屋へ急ぎ、目的のものを依頼する。出発前に目星を付けて、手元にある材料だけ預けておいたので、加工屋も頷いて奥で待っててくれと促してくれた。採寸を済ませて、寝て待つ事にする。
流石に朝一番に出掛けるハンター達が出て来たのか、話し声がしてきたが構わず睡魔は襲ってくるのだった。
「…ってこ……とで…」
「……に、よ…くね」
「はい、有難うございました、また!」
一際でけー声。我ながら変な言い方だが、何だかよく頭に通ってくる声だ。
「あ、ウルにぃ」
なんだ、シアか。
ちょっとこっち来い、ねみい。
「ウルにぃ、装備つくるの? 私も白疾風の強化なんだよー…わっ!?」
シアが、ボロいベルダー装備を着たままのおれを見て察したのか、嬉しそうに近寄ってくる。そのまま捕まえて、驚いている小娘の胸元に顔を埋め、また寝転がるとする。
やっぱあったけえな、こいつ。
「ウルにぃっ…」
ちっとこうして抱かれてろ、抱き枕シア。てか、防具強化か、インナーに毛布ぐるぐる巻きってどんな格好だよ。素直に着るこいつもこいつだが、加工屋ももっとなんか、なあ…
「ウル…ずるいよ、私がウルの事しか考えられないの、知ってる癖に」
んなもん、年単位でご存知ですとも。おれも、お前が可愛いからな。
夢現に色々問い掛けられるのが鬱陶しくなって、五月蝿い唇を抓んで少し力を入れる。
「好きじゃなきゃ、んなとこにキスなんかしねえ。少なくともおれはな」
静かになったので、今度は遠慮なく胡座の中に座らせて、肩に額を預けて寄り掛かる。やっと眠れるぜ…
「ずるいよ、ばかウル」
目が覚めたら、新しい防具の出来上がりだ。
end...