ドSトンカチと泣き虫片手シリーズ   作:nakira

7 / 9
男ハンター×女ハンター
※性描写なし

ちょっとだけ狩り。


娘立ちし日、空が哭く

 

 

一閃。

とは、ハンマーに似合わん言い方だったろうか。

素材ツアー中、『運悪く』遭遇したイャンクックの頭に愛槌ベルダーハンマーをかち上げ、エリア中に断末魔の何処か可愛らしい悲鳴が木霊する。

どうやらとてもいい一撃だったようだ。ようやっと戻ってきた感覚に、思わず安堵の溜息をつく。

 

鎖骨骨折とかいう事態になり、治癒に十日はかかると診断されたおれであったが、やはり治癒するのとハンターとしてバリバリ動けるかは別だったらしい。

ちまちまと近場の素材ツアーや採取クエストを受け、慣れて大振りのハンマーを力一杯振り回せるまで、一月近くかかってしまった。気づけば季節はクソ暑い夏ですよ。ま、包帯だの何だの巻かなくて良くなったからいーけどな。

 

「もう特産キノコは懲り懲りだっての」

 

思わず漏れた本音に、反応する相手は居ない。今日は珍しく相方は不在なのだ。何かと纏わりつくあいつが、防具の強化だと知り合いと出掛けており、まんじりともせずこうしてクエストに出てきてしまっている。

 

剥ぎ取りを終え、モドリ玉でベースキャンプへと戻る。キノコを納品、依頼を果たしてネコタクを待つ。

今日はあいつの飯にありつけるだろうか。

 

 

……………

 

 

「ハンターさんハンターさん、回り道しても良いかニャ?」

 

帰路の途中、アプトノス車の御者アイルーが振り向き、耳を伏せて(どうやら怯えながら)声を掛けてきた。

 

「風が怖いのニャ…」

 

たるんどる、とは言わないが、こうして人間と関わる仕事に就くアイルーは勤勉なものが多い。また人間好きなもの、好奇心旺盛なものが殆どなので、仕事中にこうした事は滅多に起こらないのだ。

経験上、アイルー達が落ち着かない時は異常気象や天災の前触れである事が多かった。

 

(逆に、多少の地震なら慌てず騒がずだから有難いよ。こっちがびっくりするくらい)

 

自慢のエピソードを語る相方が思い起こされて、少し和む。

しかし、どうやらそんな事態ではなさそうだ。

独力ではすこーーし、厳しい気がするので、迅速に村へ戻る事にする。

御者アイルーに声を掛けると、彼はうにゃうと返事をした。

その時、頬を撫でる風が一迅。

 

(まずいっ!)

 

「伏せてろっ!」

 

アプトノス車を飛び出し、ハンマーを構える。

やはり、『風』といったらこれか。

 

普段の堂々たるいぶし銀の体躯は赤錆に塗れてはいるが、そこには確かに、巨大な翼を広げ飛ぶ鋼龍クシャルダオラの姿があった。

 

錆びたクシャルダオラ。金属に似た身体の錆により、神経質で凶暴、動きこそ多少鈍くなるが危険な個体だ。

まさに赤錆色の鋼龍は、翼をはためかせながら何が奴の気を引いたのか、こちらへ突進してくる。

応戦するしかない、おれは愛槌ベルダーハンマーを構えた。

ユクモノ天一式装備、スキルは見切り、回避性能…そして、本日おれが装飾品で付けてきたスキルは『採取+1』。

……はい。

ガンバリマス。

 

突進をブシドースタイルで避けるも追撃は叶わず、風圧に思わずよろめく。羽ばたき口から出る竜巻をこちらへ飛ばしながら、鋼龍はこちらを睨んだ。おれが何したってんだ。

生憎、奴の風圧への常套手段である毒武器もいつも持ってくる奴がいねーんだ、やれても撃退が精一杯なんだよ。

 

「ハンターにゃん、くるにゃぁぁあ!」

 

噛んでる噛んでる、と思わず苦笑する。ブシドーを駆使して接近し、邪魔な風を抑えにかかるが、やはりそこはコイツ。上手く首を振りハンマーの動きから逃げ、被害を最小限に抑えてくる。

とにかく、この風を何とかしねーといけないので、ひたすら頭を狙いつつ、飛ばれた時にはアプトノス車に竜巻が走らないよう気を配る。

 

「ネコ太郎!」

「ハニャーー! ハンターにゃん、気球がチカチカしたニャ!」

 

気球? 観測隊のアレだろうか、モンスターの位置を教えてもらったりと初心者の頃には世話になったもんだが…

溜めを不意の噛み付きに邪魔され、地面に転がる。そのまま飛び出すようにダッシュしハンマーを振り上げた。

耳障りな悲鳴と共に鋼龍が転がり、風を抑える為の角破壊も、そう遠くないと感じる。

 

「ネコ太郎!気球が、どうしたってー!?」

 

勢いよく、体勢を立て直そうと跳ね起きた鋼龍の俯き加減の頭に回りながら一発目、遠心力で二発目…あ、実は溜め過ぎちまったもんで。

ギャッ、ギャと小刻みの悲鳴が合間に聞こえ、ラストのかち上げで完全にヤツが目を回した。うーん、ハンマー冥利に尽きるぜ。誰かいたらもっと良かったんだが。

 

「ここにっ、いるぞぉぉおーー!」

 

おれの真横をすり抜けた影。

束ねているのに自由な長い髪が、兜からはみ出している。重く見える甲冑が、軽やかに躍っていた。

蒼白い、独特の雷のようなフォルムの双剣はキリンのものか。おそらくは防具により、属性の力を引き出されているようだ。

しかし、残念な事に錆びたクシャルダオラは原種と効果的な属性が変わってしまう。元々よく効いていた雷属性があまり通らないのだ。

 

そんな解説をしていても仕方が無いので、素早く得物を研ぎ、現れた影──エルドを窺い攻撃に参加する。

目配せ一つで自然に、双剣は潜り込むような特有のステップを踏み、おれに頭を譲る。すまねーこってす。後ろ脚はかてーだろうに。

 

「すまん! わしもまさか錆びてるとは思わなんだ!」

「おれは遭う事すら知らなんだ!」

 

軽口を叩くと、エルドはにんまりと笑って「倒すのは骨が折れそうだな?」と問うた。無論、速攻で頷く。

 

鬼人強化が途切れた事が無い、とはどの地方のハンターの宣伝文句だったかな。目の前の奴の事では無かったと思ったが。

角が折られ、尻尾の千切れかけた錆鋼龍が怒りに燃え飛び去るのは、数分後の事だった。

 

 

……………

 

 

「助かりましたニャ、こんな珍事そう無い事なのニャ」

 

だから、と続ける御者アイルーを制し、おれはポーチを探り目当ての草をくれてやった。帰りを待つ猫共への土産だったんだが、まあいいさ。

 

「おぬし出来た猫だのう、お陰でアプトノスも逃げず、こうして無事帰還出来るわい」

 

同乗しているエルド。どうやら話を聞くに、燼滅刃が現れそうな場所を目星を付けつつ巡回しているのだそうだ。観測隊とも協力関係にあるそうで、やっぱ元研究所員は違うねえ。

 

「この所静かでな、つい雷双剣なぞ担いだらこのザマよ」

「ま、燼滅刃のせいで環境も不安定なんでしょうな」

 

兜を脱いで髷も解き放ったエルドは、文字通り自由人だ。ギルドにも研究所にも認められて、今のように有事の際には協力が得られている。圧倒的な実力がそれを可能にしていた。

 

「ランスのお主と共闘してみたいもんだな」

「はぁ、もう暫く触ってませんがね。初心者の持ち物みたいなモンしかないくらいすわ」

 

石ころでも踏んだのか、車がガタンと揺れ、おっとと、と声を漏らしながらエルドが言う。

傾きかけた彼の水筒を支えてやりながら、それに応える。

 

「いいランサーに会いたいもんだ。わしも使うが、どうも専業には劣るね。

──シアの御父上は、優れたランサーだった。不動のヴィンセントを知っとるか?」

 

おれはかぶりを振る。

そうか、お主はポッケ村出身だったかと彼は思い出したように続け、とある地方の貴族の名を出した。

それなら聞いた事がある、豊かな鉱山の近くで良い金属製の武具が作られると有名だった。しかし今はモンスターの影響で鉱山も深くまで採掘が出来ないと、新たな事業に手を出していると噂に聞いた。

そこまでをざっと話すと、エルドは視線を落とした。

 

「貴族お抱えのハンターが、そのヴィンセントだ。『不動』の二つ名はそれ以上でもそれ以下でもない、素晴らしいランサーだったよ」

 

過去形の結び。

シアの両親は亡くなっていると聞いているが、しかしそんな、ハンターだったという話は全く聞いた事がない。

 

「あの頃は、わしも若造でのう、まだ太刀ばかり振り回しておったわ。彼に手解きを受けたくてわざわざ出向いたのよ」

 

エルドが手解きを請う程だ、さぞ名のあるハンターだったのだろう。

 

「わしが鉱山付近に向かい来るバサルモスの群れを狩っとる間に、大嵐が来たのよ。ヴィンセントが独りで向かわされたのは、謀(はかりごと)だったのだと後で気付いたわい」

 

エルドの水筒から、ツンと酒臭がした。おい、こいつ狩りに酒持って来てやがる。

 

「大嵐の主と、ヴィンセントは相討ちになってしもうた。手当が遅れて脚を失ってしもうたのだ、それがもとで、病で亡くなった奥方の後を追って行ったわい」

 

どうしてわしはあの日、大量のバサルモスなんぞ喜んで狩りまくったのか、と水筒を握る手が震えた。

 

「大嵐の主って、先刻のアレか」

「……そうだ、まさかヴィンセントの命日に、当のクシャルダオラに遭うとはな」

 

シアの父は、何らかの策謀でクシャルダオラに立ち向かわされたという訳か。貴族のお抱えならば、きな臭い事にも関わっていたのだろう。シアがポッケ村に来た頃の風評はあながち全て的外れでもなかったのか。

 

「わしとした事が、感傷的になってしもうたな…すまなかった」

「狩り中に酒なんて、どこまで自由人なのかと思っちまったぜ」

 

軽口を叩くと、いつもはアネットにバレるからしないと笑って彼は答えた。いや、バレなくても止めとけよ。

 

「シアを見つけた時は、心底驚いたわい。ヴィンセントの娘がハンターになっとるなんてな…」

 

おれは、ユクモノカサを脱いで髪をかきあげた。頭を抱えたいような気もする。

父親と同じランサーを見つけてまとわりつくなんて、どこまでヒヨコなんだピヨピヨシアめ。

思いがけずちょっとフクザツな気分になってきてしまったおれは、エルドの水筒から一口拝借する。強い酒だ、芳醇な香りと喉が焼けるような感触。

 

「次は」

 

思いがけなく、軋む歯車に油をさしたように、おれの口が滑らかに言葉を紡ぐ。

 

「アレを仕留めますかね」

 

別に素材が要るとも自分の村の危機でも何でもないけども。(いや、未然に防ぐ事にはなるが)

 

「……そうだな、わしもたまに使いたい武器があったわ」

 

にやり、とエルドが拳を突き出す。

同じように拳を軽くそこに当て、柄にもなくおれも儀式に参加した。

 

まーた素材集めか、ソロはめんどくせーな。

 

 

……end.

 

 

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