ドSトンカチと泣き虫片手シリーズ   作:nakira

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いつもの男ハンター×女ハンターです。

間が空いてしまいましたが、狩りばかり。語りまくり。




かのひとへ、天釣舟

 

 

9.かのひとへ、天釣舟

 

 

ちゃきちゃきと珍しく積極的に狩りの支度をする、私の相棒。

懐かしいティガレックスを、あの時と違う得物で狩り、その得物──ベルダーハンマーを強化してきたのは一週間程前の事だ。

少し傷んだ防具も、僅かな修理で済んだお陰か1日で仕上がった。相棒──ウルは先程引き取った、そのユクモノ天装備を纏い、久し振りに見るとても真剣な横顔でポーチの内容を点検している。

 

「やっぱり、一人で行くの?」

 

何度目かの質問を、彼は片手で追い払う仕草で撥ね付ける。決意は固い様だ。

 

「ああ、タイマンだな」

 

びゅうっ、と強くなってきた風の勢いがあまりのんびりとしていられない事を告げている。

 

「ウルにぃ、手堅く行かなきゃいけない時だってあるよ! ハンマーだって相性悪………いとは言わないけど、でも…」

「あのな、一人なら二回乙れんの。二人ならお前がおれの乙枠取っちまうだろーが。正直に言ってみろ、一式装備作れる程クシャル狩った事あったか?」

 

長年の付き合いだけにズバズバと痛い所を突いてくる彼に、私はうっと唸ってしまいつつ、武器は作ったもん、と口を尖らせて、せめてもの反撃に出る。

彼だって知っている筈だ、あの頃の私といえば太刀を携えていた頃。その話を持ち出してくるなんて卑怯だ。撃退を繰り返し、尻尾を切れる位に弱った個体の討伐に数度行っただけで、それも切断武器を持っているからという理由で呼ばれたのだ。

勿論彼と離れていた時期に、パーティとはいえ撃退依頼を二度成功させた。身の丈に合った、片手剣使いに転身した今なら、やっとマトモに役に立てると思っている。これは、慢心じゃない筈だ。

 

「多分エルドが間に合う筈だ、おれはあくまで先遣で、運良く倒せれば良し、そうでなくても足止め係って訳」

 

顔を一切上げず、ホットドリンクと強走薬グレートを見比べている。あ、後者を詰めるだけ詰めた。それ、私が作っておいたんだけどな、有難うの一つもないのが彼らしい。ため息が漏れた。

目撃情報のあった密林へ発った後に雪山へ移動してしまったらしく、無駄足を踏まされたエルドからの救援依頼(凄く似合わない字面である)なので、彼の面子もかかる、なかなか正真正銘のヘルプなのだ。失敗は許されないのは私だって理解している。

 

「旦那しゃん、行っちゃうニャン?

ガネしゃびしいニャン」

 

すっかり赤ちゃんネコ語からアイルー語(おかしな事を言っている自覚はある。例えようがないんだよー)を話せるようになった、ウルの拾い子である短足アイルーのガーネットが、真ん丸の瞳で「ねーシアしゃん」と同意を求める。

この子が拾われてから暫く、クエストに出ずっぱりだったウルの替わりに彼女を預かる事になった。私のオトモ、つまり先輩アイルーのリンと言葉を勉強したり、下拵えから始まり少しずつ料理の手伝いくらいではあるが、キッチンアイルーの修行をしていたのだ。

ガーネット、略してガネちゃん。どうもあの短足と、猫らしくない真ん丸の目がユーモラスで、時々本気でこの家に階段が無くて良かったと思う。おそらく彼女は昇り降りが出来ないのではないだろうか…特に、降りるのが。

 

「ガネはうまいメシが作れるよーになってろ、な」

 

こう見えて生き物は嫌いではないウルが、手を止めてガネちゃんの頭を耳ごとわしわしと撫でる。嬉しくて背伸びして頭をすり寄せたガネちゃんがバランスを崩し、こてんと前につんのめって転がった。めちゃくちゃ可愛い…

 

「おめー、バカだな…」

「ウッ、ワタシ小さいから仕方にゃいのニャ。旦那サンのおてつだいできなくてゴメンナサイなのニャ…」

 

そうしていると、支度を整えたウルのオトモ、シルビアがとてとてと新調したマフモフ防具をくるくる回ってニャフニャフ喜びながら私に見せに来た。

真っ白い体毛にブルーアイズ。 美しい外見にそぐわず、この子はアシストアイルーとしてなかなかの腕の持ち主だ。巨大なブーメランがガノトトスの巨体を頭から尻尾まで貫通した時は驚いたものだ。

罠師スキル持ち片手剣泣かせの毒々落とし穴までしっかり持っている。

しかしクエストに出られなくとも、腐らずネンチャク草を栽培してはベタベタになってうちに愚痴りに来る。ウルの扱いの雑さは分かっているつもりなので、お風呂に入れてあげては時々農場を手伝って貰う仲なのである。

 

と、まあ色々喋ってみたものの、やっぱり心配は拭えないし着いていきたい気持ちは収まらない。

そわそわしている私を横目で見たウルは、私の頬を親指と人差し指でうにっと挟み、物騒な目つきで一言。

 

「物理的におねんねさせられたくなかったら、いい子にしてやがれ」

 

 

………………

 

 

「ポイズンタバルジン、悪かねーんだけどさ」

 

風の唸りの残滓が聞こえる、雪山のベースキャンプ。ユクモノカサの紐固く結び直し、おれは独りごちた。

ただの我が儘というか、ちっぽけなプライドの為というか、そう。

 

「これは証明、なんちって」

 

ハンターとしての腕前は、ランクの高さだけでは測れない。

G級ハンターの肩書きも過去のもの。

故に、自らが証を立てるしかないのだ。

 

(そこにランスを使わねーのは、もう意地通り越して妄執みてーなもんだけどな)

 

エリア1の、比較的天候も落ち着いた地点から、真の入口とも言うべき雪山の頂上に通じる洞窟に辿り着く。半歩遅れて、シルビアが四つ足で駆けてきた。

 

「用意は良いですか、ですニャア」

「おーよ」

 

返答には軽すぎる一言でも、オトモは満足したようで「シアちゃんくらい、このレイピアで活躍してみせるニャアよー」とレイアSネコレイピアを振り翳した。

頼りになるネコだ。結構、おれはこいつらにも助けられてたりする。

 

洞窟を通り抜け、氷の道を行き、歴代の狩人が幾度も使ったお陰か綺麗に段になった崖を登り、雑魚を吹き飛ばしながら、おれはクシャルダオラの吼える声を目指し走り抜けた。

 

洞窟を抜け周囲が明るくなり、白銀の景色に一瞬目が眩む。

開けた雪原の向こうに、鈍く煌めく龍が悠然と歩を進めていた。まだこちらには気づいていないのか、ヤツの機嫌次第で変わる天候も、荒れる気配はない。

強走薬をガブ飲みし、おれは距離を詰めた。

当然、太刀とかの長物の間合いくらいで気づかれるが、おれは構わず振り向いて怒りの咆哮を上げかける鋼龍のドタマに一撃くれてやる。金属質めいた悲鳴が小さく上がるが、構わず数度殴りつけかち上げた。

流石に、鋼龍の体の周囲に渦を巻いた風の鎧が生まれる。名前だけは聞こえは良いが、戦ってる側からしたらこの風の護りは本当に厄介なのだ。

真正面から撃を交えようとしても、この鎧と、纏う風でよろめかされてしまう。

距離を取ったと思いきや駆けてくる鋼龍をジャスト回避で素早くすり抜け、強溜め攻撃を振り向きに合わせる…つもりが、タイミングを外して後肢に当ててしまった。

こちらを追尾しているかのような、素早い動きだ。読まれているとは思わんが、おれは舌打ちをした。

まあ、クシャルダオラは頭にくれてやらんでも、弱点なのか尻尾に当たれば気絶の手助けになる。

見やればシルビアも正面の風鎧の厚い所を避けてブーメランで毒攻撃を入れてくれている、少し経てば鎧も剥げるだろう。

 

風の柱が幾つも襲い来るようなブレスを避け、納刀しおれは閃光玉を投げる。

最近搦め手はシアにやらせっぱなしだったが、腕は落ちていなかったらしく。しっかりと目が眩んだ鋼龍の風の鎧が見えなくなったのを、確認して接近する。

抜刀からかち上げ、ヤツの頭が間近に…

 

「シルビア! 尻尾だァァァ!」

 

やや遅れて繰り出される俗称『お手』に、勢いよく吹っ飛びながら、 おれは貫通ブーメランを投げていたうちの白猫へ叫ぶ。

そう、間違っていなければ、おれはコイツに一度遭っている。

 

「ご主人、笛はしばらくアテにしないで…ニャア!」

 

いつも思うが、どっから取り出したのか身の丈ほどの巨大なブーメランを振り回し、シルビアが尻尾へ上手く定点攻撃を仕掛けた。

吹雪のせいか離れた場所に吹き飛ばされたおれは体勢を整え、回復薬グレートに口をつける。

これは只の勘だ、だがおれの推測が正しければ…それは只の確固たる事実になる。

 

ほんの、ほんの幾分だけ柔らかく感じる肉質。おそらく脱皮後間もないのだろう。外殻も骨格であるクシャルダオラなので一瞬で硬質化する事は知られているが、一応おれは弱点叩かないと仕事にならんハンマー使い。(頭だけ叩いてりゃ良いってもんじゃないのよ、頭弱点じゃなかった時の、しかもソロハンマーってば悲しいのよ)

一度折れかけたようにも見える、削れた角。

何より先日、エルドと共に追い払ったのは錆びたクシャルダオラだ。

これだけ揃ってこの結論にちいっとでも辿り着かないとしたら、ハンター失格だろ。

 

おれは、昔のおれを超えてやる。

 

天災だろーが古龍だろーが、忌まれしものにだってお目通りしたじゃねーか。

 

タイミングをはかり、フェイントに大振りな溜め攻撃を。振りかぶると、散々頭を殴られたクシャルダオラが泡を食って空へ逃れる。

おれには見えている。

 

「ニャアアアーォウ!!」

 

小さな体が伸びきったバネのごとく、瞬間広がり、毒々しい刀身を垣間見せた。

シルビアの獣の咆哮はクシャルダオラのそれを悲鳴へと塗り替えた。

ドシャッと無様に地べたに叩きつけられたソイツを、今度はおれが頭にトドメの一撃。二撃。三撃目で目を回す。

この隙に粉塵を使う。何故って、尻尾の切り手が居なくなっちゃ困るからな。

そして、

 

「スピニングメテオぉ!!」

 

先日初めて使って味をしめたこの狩技。ブシドースタイルで回避に偏りがちなおれにはぴったりの火力だ、いや勿論、強溜め攻撃も多用するがラッシュ時の火力がやはり劣るこのスタイルには良いと思う。

(ただし普段は臨戦ばかりなのは秘密)

などと語っている間に一通りの攻撃を頭にお見舞いし、スタンを取る。

狙い通り、尻尾もブーメランがまさに薙ぎ払うように切断したところだ。

鋼の体の至る所に大小の傷が走り、そう戦闘も長くない事が知れた。

 

尾を斬られ血反吐の泡を吹き、尚も立ち上がるクシャルダオラは突然垂直に飛び立ち、姿を消した。

 

「なっ…こんなところで撃退なんてさせてたまるか!」

 

流石のおれらの奮闘も、古龍の再生力の前では双六のようなもんだ。六の目を出すと振り出しに戻るとは、現実で味わいたくはねえ!

 

慌てて、お馴染みの横穴に飛び込む。狭い雪の道を這って進むと崖に出るのだ。ギルドの観測隊御用達の山頂付近へと続いており、逃げたクシャルダオラの位置を図るにはもってこいの高台。ロッククライミングは面倒だが、背に腹はかえられまい。

 

「旦那さん、おかしいニャア!

『音が何も聞こえない』ニャア…」

「なに……っ」

 

アイルーの耳は聡い。食われる側の小さな生き物として発達させてきた能力は伊達ではない。そのシルビアの言葉におれは絶句する、が、ひとまず辺りを伺いながら崖を登りきった。

 

「まじかよ」

 

そこには、見るも無惨な光景が広がっていた。

不幸にもクシャルダオラの脱皮に居合わせたのか、血飛沫と防具であろう金属の欠片が火花のように弾けて散り。慌てて回復したのだろう、瓶や秘薬サイズの小瓶が少量バラ撒かれているが、中身の入ったものも交じっている様子からして、そんな暇すら与えてもらえない状態だったのかもしれない。

……と、辺りを観察してモンスターの気配が無いのを確認し、生存者あるいは、言いたくないがその痕跡の発見に努める。

これは、クシャルダオラの追跡は断念已む無しだ。

 

「頼むぞ…死体背負って下山なんかしたくねーからな」

 

シアを背負って下山したのをちらりと思い出すが、あれはもうおれの宿命だ、宿業だ。

 

「……れか………い…」

 

風にかき消されそうな音…いや、人の声か!

おれは姿勢を低くして、潜り込めそうな場所があるのかと雪を掻き分ける。しかし、元々狭い場所だ、そんなスペースなんて────

 

「ここ、ぬけが……はさ………け…て」

 

やや高めの、しかし男の声だ。いや、がっかりなんてしていない、非常事態だ。お前らおれをただのオンナ好きだと思ってやしないか?

(いや、まあ間違いではない)

 

声の方を必死に探ると、なんと声の主はクシャルダオラの抜け殻の間に挟まっていた。

少し観察し、自分で何とか出来そうだと判断する。荷馬車が横転した時のように、背を向けて辛うじて手をかけられる凹凸を探し当てると、シルビアに彼を引っ張り出すよう命じた。

 

「せー、のっっ!!!」

 

鋼と名のつく古龍の抜け殻、真面目に硬く、重い…!

勢いで持ち上げたのは良いが、柔軟な動きを可能とする為に強度はそれなりなユクモノコテに殻がくい込み、重さで脂汗が滲み出てくる。

とにかくこの体勢を維持する為、と腹に力を込めて踏ん張る。白い塊が隙間に入り込み、ずるずると青い何かを引っ張っていた。

 

「ネコちゃん、頭装備の金具を外してくれないか、色々マズイ」

「あっごめんなさいニャア! そのままじゃデュラハンだニャア」

 

シルビアを視認した後、目を閉じてただ踏ん張るだけだったおれは、腕が出せたお陰で自らおれの股の間から逆匍匐前進してくる眼鏡の男を見てしまった。

爽やかに「どうもありがとうございます」と礼を言われるが、取り敢えずさっさと脚まで出せ。お前の男の象徴ギロチンの刑に処すぞ。

 

「っは、助かった…」

「…………………ぐ」

 

音を吸う雪の上を、小さな衣擦れと金具の音を立てて這い出してきた男の安堵の声。

もう唸り声しか出ず、おれはそろそろと力を緩めて古龍の抜け殻を置いた。体の位置をずらしてすぐに離脱できる程の余力が無かったのだ。

 

「改めて、助けてくれて本当に助かりました。こんなところで話も何なので、宜しければモドりませんか?」

 

眼鏡の青ピエロは、少し情けない笑顔でポーチからモドリ玉を取り出した。

クシャルダオラこそ取り逃がしたが、今度の雪山は、人間背負って帰らなくて良いらしい。

 

 

 

…end.

 

 


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