可憐な少女と恋のレシピ   作:のこのこ大王

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まずは、この作品に興味を持って頂きありがとうございます。
この作品はオリジナル作品となっております。

まだまだ書き物初心者の駄文ではありますが
よろしければ暇つぶし程度に読んで頂けると幸いです。


第1章 そして『ボク』は『ワタシ』になった

 

 

 

 

 気持ち良い快晴の空を眺めながら

 大きなため息を吐く。

 

「はぁ・・・」

 

 ふと廊下の窓に映った自分を見る。

 

 背中まである長い髪には編み込みとリボン。

 赤を基調とした大胆だが洗練されたデザインの服。

 スカートから伸びた足。

 

 そこに映っているのは、どこからどう見ても女の子。

 

 どうしてこうなった?と考えるのも

 もう何度目になるか解らない。

 

 事の始まりは、1通の手紙だった。

 

 

 

 

 

第1章 そして『ボク』は『ワタシ』になった

 

 

 

 

 

「よし、これでようやく終わり・・・かな」

 

 手書きのメモを取り出すと

 最後に残った『フランス』という文字を塗り潰す。

 

「1年なんてあっという間だったなぁ」

 

 これで全ての予定が終わったことを意味する。

 

「お、とととっ・・・」

 

 うっかり手に持っていたトロフィーを落としかけ

 慌てて持ち直す。

 

「流石に、もらった直後に壊すのも悪いからね」

 

 そう言いながら、紙袋をカバンから取り出すと

 トロフィーを無造作に入れる。

 

 その時、1通の手紙が地面に落ちる。

 

「ああ、そう言えばまだ見てなかったな」

 

 それは今朝、いきなり届いたもの。

 手紙を拾うと、上の方を手で破って中を見る。

 そこには1枚の紙と飛行機のチケット。

 そして手書きの地図が入っていた。

 

 紙にはシンプルに1つの言葉。

 

『大事な話があるから来い』

 

 それだけしか書いていなかった。

 

「・・・相変わらずだなぁ」

 

 そう思いながらチケットを見る。

 

「げっ・・・」

 

 それは、今日出発の日本行きの航空券だった。

 

「いくらなんでも、これはひどいな・・・」

 

 苦笑しながらも、スマホを取り出してアプリを起動し

 空港までの最短距離を表示する。

 

「はぁ・・・タクシー代は

 後で請求しますからね、伯母さん」

 

 そう言いながらタクシーを捕まえて空港へと急ぐ。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 それからほぼ1日ほどかけて日本へと戻り

 そこから手書きの地図を頼りに目的地に向かう。

 

「へぇ~。

 雰囲気あるなぁ~」

 

 タクシーから降りて、桜の並木道を進むと

 そこには立派な西洋風の歴史を感じる建物が建っていた。

 

「ああ、ようやく来たわね」

 

 突然声を掛けられ振り向くと

 そこには見知った顔。

 

「元気そうですね、伯母さん」

 

「まあ健康にはそれなりに自信があるからね」

 

 短めの髪に洗練されたデザインのスーツを着た

 目の前の女性は、母親の姉にあたる人。

 

 『斉藤(さいとう) 真理(まり)』さんだ。

 

「はいはい。

 じゃあ伯母さん。

 

 今回の件、どういうことか説明して貰いますよ」

 

「わかったわかった」

 

 そう言いながら何故かこちらに歩いてくると

 僕の髪を触り始める。

 

 長い髪をまとめていたゴムを外すと

 携帯用の櫛を取り出し、髪を整える。

 

「えっと・・・何してるの?」

 

「ちょ・・・動くな。

 スグに終わるから」

 

 元々、うちの母親とこの伯母は

 僕のことを何かあるたびに女装させたがる。

 

 子供の頃は、そのせいで苦労した。

 

 今、肩にかかるぐらいの長い髪も

 これ以上は切れないため、こうなっている。

 

「お前、ここ最近ちゃんと髪の手入れしてないな?

 

 ダメじゃないか。

 こういうのはしっかりやらないとスグ傷むのだからな」

 

「いや・・・僕が女の子なら気にもするけど、男だからね。

 ちょっとぐらい―――」

 

「そういう考えがダメだって言ってるんだよ」

 

 以前、勝手に短くして

 2人に思いっきり怒られたこともあった。

 

 それ以来、もう面倒になって髪に関しては

 ゴムでまとめるようになった。

 

 正直2人には悪いが下らない話だとは思う。

 

 一人で海外に行き、ようやくそれからも解放されたと思ったが

 やはりまだまだなようだ。

 

「よし・・・これでバッチリだ」

 

 満足そうに頷く伯母さん。

 

 髪を解いて真っ直ぐになった髪。

 僕自身気にしている小柄さもあって

 これじゃ遠くから見たら女の子に見えてしまうかもしれない。

 

 ・・・まあ、髪をまとめていても

 何故か女の子と間違われることが非常に多いけど・・・。

 

「で、どういうことなの?」

 

 何がバッチリなのかは知らないが

 こっちはヨーロッパから突然呼び戻されたのだ。

 

 さっさと事情を説明して貰いたい。

 

「まあまあ。

 こんな所で立ち話も何だし、とりあえず行くぞ」

 

 そう言ってさっさと建物の方へと進んでいく。

 

「ちょ・・・ちょっと待ってよ!」

 

 慌てて後を追いかける。

 

 建物の中は、外観と変わらないほど

 豪華さと歴史的な雰囲気を持つ内装だった。

 

 周囲をキョロキョロと見回しながらも

 見失わないように伯母さんの後ろをついていく。

 

 時折、学生服を来た女の子を見かける。

 

 ・・・そう言えば伯母さんは、何処かの学園で

 学園長をしていると聞いたことがあった。

 

 なるほど、ここは学園なのか。

 

 そんなことを考えているうちに学園長室に到着する。

 

「久しぶりね」

 

「あっ! 西崎さんっ!

 お久しぶりですっ!」

 

 僕は久しぶりに会った調理服姿の女性に頭を下げる。

 

 『西崎(にしざき) 良子(よしこ)』さん。

 僕が料理の道に進む切っ掛けをくれた人だ。

 

 懐かしいなと少し昔の記憶を思い出していると

 学園長室の椅子に座った伯母さんが声をかけてくる。

 

「さて、じゃあ話をするかな」

 

「そうそう。

 『大事な話』って何?」

 

「まず、ここの話からだ」

 

 そう言って下を指さす伯母さん。

 

 語られたのは、ここが歴史のある学園だということ。

 

 そして伯母さんが学園長で

 西崎さんが寮の管理人をしていること。

 

「へぇ、西崎さん。

 今は、ここで働いてたんですね」

 

「まあここまでは前振りみたいなものだ」

 

「そう、実はここからが問題なのよ」

 

 2人して深刻そうな顔をする。

 

「・・・問題って何?」

 

「それは私から説明するわ」

 

 そうして西崎さんが説明をしてくれる。

 

「昔の友達が、今度パリに店を出すの。

 で、その店を任せたいって連絡があって―――」

 

「わあ、すごい!

 おめでとうございます!」

 

 西崎さんは、いつか海外で腕を振るいたいと言っていた。

 

 その夢が実現するのだ。

 

 自然と自分のことのように嬉しい気持ちになる。

 

「ありがとう。

 ・・・でもこの話を受けるにあたって1つだけ問題があるのよ。

 

 私がここから居なくなったら

 寮の管理人が居なくなっちゃうわ」 

 

「それは・・・大変ですね」

 

「そこで、お前の出番という訳だ」

 

 待ってましたと言わんばかりに会話に入ってくる伯母さん。

 

「・・・嫌な予感しかしないんだけど」

 

「寮の管理人は、寮生に対して食事を作ることになる。

 

 この学園で出す食事は、一流であることが求められる。

 何しろ、料理人志望の舌の肥えた学生ばかりだからな。

 

 中途半端なものは出せない」

 

「他の生徒も居るのだけど、あの子達にも

 何か刺激が欲しいのよ」

 

「そして、楓。

 数々の大会で優勝してきたお前なら適任だろ?」

 

「適任・・・なのかなぁ?」

 

 僕、『二条(にじょう) 楓(かえで)』は

 研修生としてヨーロッパへ修行の旅に出た。

 

 そこで数々の大会などにも参加してそれなりの結果を出せている。

 ここ1年間は、国際料理委員会から紹介された

 イタリアにある3つ星レストランでコックとして働いたり

 フランスの有名スイーツ店でパティシエとして働くなど

 料理を問わず様々なことをやってきた。

 

「何もずっとやれって言ってる訳じゃない。

 お前が卒業するまでの間だけで構わない。

 

 それぐらいまでには、ちゃんとした代わりを探すさ」

 

「・・・ん?卒業?」

 

「お前、学校にまともに通ってなかっただろ」

 

 僕は、数々の大会で良い成績を残したこともあり

 学校には行かずに海外に出たという経緯がある。

 

 だから『学校で仲間と愉しく』なんてことは

 義務教育までしか経験していない。

 

「ついでだから、学園に生徒として通えば

 卒業資格も取れて便利だぞ」

 

「いやいや!

 管理人しながら学生とか無理だから!」

 

 いつも自由人だと思っていたが

 いつも以上にとんでもないことを言い出してきた伯母さんに

 思わず大きな声で反論してしまう。

 

「なんだ、嫌なのか?

 

 そうなると西崎が、ここを出ていけないじゃないか」

 

「そうなるのは・・・困るのよねぇ」

 

 何かしらを訴えかけるような瞳でこちらを見る西崎さん。

 

「寮の大半のことは、専門の業者がやってくれる。

 お前は、料理のことだけに集中すればいい。

 

 そっちだってサポートしてくれる学生が居るんだぞ。

 この手厚い体制の何が不満なんだ?」

 

 駄々こねてないで、さっさと引き受けろと

 言わんばかりの顔でこちらを見てくる伯母さん。

 

「ああっ、もうっ!

 やればいいんでしょ、やればっ!」

 

 西崎さんの夢を潰すのは申し訳ない。

 

 というか、僕が引き受けざる負えない状況を

 初めから用意していたことを考えると

 僕に拒否権なんて初めから無いのだろう。

 

「おお、そうか。

 引き受けてくれるか。

 

 いや~、よかったなぁ~」

 

「初めからそのつもりだった癖に・・・」

 

「人聞きの悪いこと言うな。

 

 あくまでお前の意思に任せた結果だろうに」

 

「・・・はいはい。

 昔から伯母さんは、そういう人でしたね」

 

 ため息を吐きながら、片手をひらひらと振り

 もうどうでもいいよと合図する。

 

「ごめんなさいね。

 何だか不意打ちみたいなことをして・・・」

 

「いえ、どうせ伯母さんが言い出したことでしょうから

 大丈夫ですよ、西崎さん。

 

 むしろこれも良い経験になるでしょうから

 修行の一環だと思って頑張ります」

 

「そう・・・そう言ってくれると助かるわ。

 ・・・と言う訳で、はいこれ」

 

 申し訳無さそうに

 西崎さんが服を渡してくる。

 

「それは、お前の学生服だ。

 

 ああ、もう編入の手続きは出来てるから

 明日からよろしくな」

 

 もう確定事項だというように言い放つ伯母さん。

 

「やっぱり最初から、そのつもりだったんじゃないか!」

 

「まあまあ、そう言うな。

 この件は、真奈(まな)の奴も了承済みだ」

 

 真奈というのは、母さんの名前だ。

 どうしてこの人たちは、いつも当事者である僕の意見を

 聞かずに勝手に話を進めるのだろうか。

 

「ん?」

 

 手にした学生服に違和感を感じて、その場で広げる。

 

「・・・えっと、伯母さん?」

 

「学園内ではこれから学園長と呼ぶように」

 

「そんなことより、これってスカートって奴だよね?」

 

「ああ、そうだが?」

 

「何で『そんな当たり前のこと聞くんだ?』って顔するんだよ!

 

 僕が言いたいのは、どうして女子用の学生服なのかってこと!」

 

「だって・・・なぁ?」

 

 そう言いながら西崎さんの方を見る伯母さん。

 すると西崎さんが1枚のパンフレットを差し出してくる。

 

 それを受け取って中身を確認する。

 それは、今居る建物が映っている学園案内のもの。

 

「え~っと・・・『リシアンサス女学園』入学案な―――」

 

 そこには―――

 

「じょ・・・女学園だってぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーー!!!」

 

 この時ほど、大きな声で叫んだことはないというほど

 衝撃的な内容だった。

 

 

 

 

 

第1章 そして『ボク』は『ワタシ』になった ~完~

 

 

 

 




とりあえず気分転換に新しい作品へ挑戦してみました。
更新は適当になりそうですが、まあ亀更新にならないようにはしたいです。

基本的には別作品が優先ではありますが
こっちもそれなりに進めていこうとは思ってます。

もしよろしければ暇つぶしのお供にどうぞ。

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