可憐な少女と恋のレシピ   作:のこのこ大王

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第2章 いきなりのピンチ!?

 

 

 

「え、えっと・・・二条(にじょう) 楓(かえで)・・・です」

 

 教室中の視線に萎縮しながら自己紹介をする。

 

 結局、伯母さん達の説得に負け・・・というか

 ゴリ押しに、抵抗虚しく学園の二年生として編入することになった。

 

 どこを見ても女の子しかいない教室。

 教室内に漂う匂いもどこか独特だ。

 

「二条さんは、ヨーロッパから帰ってきた帰国子女です。

 解らないことも多いと思いますので、気にかけてあげてください」

 

「はいっ!」

 

 先生の言葉に、女の子達の元気の良い挨拶が返ってくる。

 

 当たり前なのだが、やはりどこを向いても女子しか居ない。

 いつ女装がバレないか、そればかりが気になる。

 

「また二条さんは、都合により退職される西崎さんの代わりとして

 『寮の管理人』もされる予定です。

 

 扱いは、教職員と同じという少し特殊な形となり

 学園内でも多少、皆さんと違う作業をされることもありますが

 皆さん、仲良くしてあげてくださいね」

 

 その言葉に今度は教室中が、ざわつく。

 そりゃ当然だよね。

 

 まあ僕自身としては、注目度があがるのであまり触れないで欲しいが

 そういう訳にもいかないだろう。

 

 更に少女達の視線が集まるのを感じて

 つい自分の身だしなみが気になる。

 

 一応、女装した際に伯母さんにチェックしてもらったが

 あの笑いを堪えながらの顔は、忘れることが出来ない。

 

 いつか絶対に仕返ししてやろうと思っているが

 今はそれどころじゃない。

 

 僕が少女達の視線におびえている間に、いつの間にか朝礼が終わる。

 そして教師が教室を出た瞬間だった。

 

「寮の管理人ってどういうことかしら?」

「ねえねえ、ヨーロッパには何年いらしたの?」

「学園長の親戚って聞いたんだけど、ホント?」

「やっぱり海外と日本の学校は、違ったりするの?」

 

 言い方が悪いが、まるでハイエナが餌に群がるように

 女の子達に取り囲まれ、質問攻めにされてしまう。

 

 しかも同時に話してくるから何を言っているのかさっぱり解らない。

 

 聖徳太子は、これを聞き分けたと言われているのだから

 すごいと素直に関心してしまう。

 

「え・・・っと・・・」

 

 呑気なことを考えていると更に女の子達の輪が狭まってくる。

 女装している身としては、命の危機を感じるほど。

 

 さながら猛獣の檻に迷い込んだウサギな心境だ。

 

「もう、みんな。

 二条さんが困ってるじゃない」

 

 少し大きな声が聞こえてきたかと思えば

 周囲に集まっていた女の子達が、少しだけ離れてくれる。

 

「ちょ~っとごめんね~」

 

 それでも未だ壁のように群がっている女の子達の中から

 1人の女の子が現れる。

 

「いや、もう凄い人気だねぇ」

 

 髪をシュシュでまとめてサイドアップにしている

 元気が良さそうな女の子は、そう言いながら取り囲んでいる

 女の子達に向き直る。

 

「順番、順番。

 じゃないと二条さん、怖がってるじゃないの」

 

 そう言われて気づいたのか、申し訳無さそうに離れてくれる女の子達。

 

「だ、大丈夫。

 ちょっと・・・ビックリしただけだから」

 

「えへへ、ごめんね。

 みんなも悪気があった訳じゃないんだよ?

 

 ちょっと二条さんに興味があっただけで」

 

 少し押しが強そうだが、良い子だなと感心する。

 

「私、『神城(かみしろ) 凛(りん)』。

 よろしくね」

 

 そう言って手を伸ばしてくる彼女の手を握り返す。

 女の子らしいスベスベとした肌の感触に少し照れる。

 

「ぼ・・・私は、二条 楓。

 神城さん、よろしくね」

 

「別に凛でいいよ。

 私も楓って呼ぶから」

 

「ははは・・・・。

 ぼ・・・私、そういうの慣れてなくて。

 

 神城さんからでいいかな?」

 

 同年代の女の子の名前を呼ぶことに抵抗は無かったはずなのだが

 どうも同じ日本人という親近感が、逆に問題のようだ。

 

 海外に居た頃は、特に女性が多かったことと

 向こうは友達になれば、気軽に名前で呼び合ったりする文化だった

 こともあり、そう気にならなかったのだが・・・。

 

「呼びたくなったらいつでも名前で呼んでくれて構わないから。

 

 私の方も、二条さんって呼んだ方がいい?」

 

「呼び方は、何でも。

 神城さんに任せるよ」

 

「じゃあ、楓さんってことで」

 

 そう言いながら微笑む彼女に

 思わず照れてしまう。

 

「ちょっとお二人さん。

 良い雰囲気の所、申し訳ないのだけれど

 私も挨拶させて頂いてもよろしいかしら?」

 

 とても丁寧な口調で現れた女の子は

 長い髪に花柄の大き目な髪飾りが印象的だ。

 

「おっ、ゆっきー。

 ゆっきーも興味あるの?」

 

「私だけじゃなく、転校生なんだから全校生徒が興味あると思うわよ」

 

 凛の言葉に素っ気ない感じで答える少女。

 

「えっと、あの・・・」

 

「あら、ごめんなさい。

 私は『御堂(みどう) 雪絵(ゆきえ)』よ。

 よろしくお願いするわ」

 

 堂々とした態度で迷いが感じられない。

 男の僕より立派に見えて・・・いや、これ以上考えたら

 自分が落ち込むだけだ。

 

「相変わらずだねぇ、ゆっきー」

 

「何がよ」

 

「そういう素っ気ない態度が、だよ」

 

「別に普通じゃない」

 

 何気ない会話を続ける2人。

 それだけで仲が良いのが解る。

 

 そのやり取りから、ふと視線をそらすと

 窓の外には快晴の空が広がっていた。

 

「(・・・ホントに、大丈夫だろうか)」

 

 こうして少女達の輪に女装をして入り込んでいるという事実に

 軽い罪悪感を感じつつ、次の授業の準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

第2章 いきなりのピンチ!?

 

 

 

 

 

 リシアンサス女学園

 

 日本が世界に目を向けてスグの時代。

 未だ男尊女卑が当たり前と言われた頃に

 『女性にも等しく教育を行うべきだ』と唱えた女性たちによって

 建てられたのが始まりとされる。

 

 学園の名前となっているリシアンサスとは

 別名を『ユーストマ』『トルコキキョウ』などと言うリンドウ科に属する花の名だ。

 

 様々な種類と色があり、それぞれ花言葉も違うが

 「希望」「優美」「清々しい美しさ」「永遠の愛」など、どれも素晴らしいものばかり。

 

 たくさんの種類・花言葉があるように、どのような道に進んでも

 乙女らしさを失わず、美しく咲き誇って欲しいという願いから

 この花の名を付けたらしい。

 

 開校当時から家庭科に力を入れており、その影響なのか

 現在では、料理人を育てる調理師学校となっている。

 

 元は、お嬢様学校であり徹底した情操教育が根強く残っているためか

 やや時代から取り残された感があるが、乱れた若者文化から娘を遠ざけたいと

 思っている保護者達からの支持もあり、今でもお金持ちのお嬢様が多く

 在籍している歴史と伝統ある学園となっている。

 

 手にしていたパンフレットを閉じると、ため息を1つ。

 

「(女学園で女装なんて、本当にバレずにやっていけるのかなぁ?)」

 

 何とか1日目を終え、寮に帰ってきた僕は

 ベットに身を投げ出しながら、ため息を吐く。

 

 僕は教職員扱いで、しかも寮の管理人という立場から

 一般生徒と違い最後の授業が免除され

 早く帰ることが出来るのは、正直有り難かった。

 

 何気なく見た時計で時間を確認すると

 ゆっくりと起き上がる。

 

「そろそろこっちの仕事もしないと・・・」

 

 そう言いながらクローゼットを開ける。

 

 伯母さんが用意した可愛らしい服の数々を見なかったことにして

 目当ての服を取り出す。

 

「・・・はぁ」

 

 何度見てもため息しか出ない。

 

 調理服と言えば、真っ白で無駄なデザインが無い

 シンプルだが動きやすいものが基本だ。

 

 しかし目の前の服は、短めのスカートに大量のフリル。

 上着にもリボンやフリルが付いている。

 

 そう、僕に用意された服は

 これ以上ないほど自己主張の激しいものだった。

 

「・・・もう、ダメかも」

 

 思わず心が折れそうになる。

 

 だが迫る時間に背中を押されるように

 仕方なくその服に袖を通す。

 

「最近の女の子は、こういうオシャレもするってことかなぁ?」

 

 年頃の女の子達なら、こういった部分にも気を遣うはず。

 だったら逆に普通の調理服では浮いてしまうのかも。

 

 などと考えながら縦長の鏡で自分の姿を確認する。

 

 鏡には、凄く可愛い女の子が映っているのだが

 それが自分だと思うと、何だか微妙な気分になってくる。

 

「・・・余計なことを考えちゃダメだな」

 

 自分にそう言い聞かせ、調理場へと向かう。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

「やっぱり良いなぁ~」

 

 調理場に入ると、自然と笑みが浮かぶ。

 学校の家庭科室を思わせるほど大きな部屋の中に

 最新式の調理器具などが設置されている。

 

 一度、引継ぎも兼ねて西崎さんに寮の中を案内して貰って時にも

 訪れているが、何度見ても素晴らしいと思える。

 

 正直、海外の一流レストランに劣らぬ設備を揃えているなんて

 流石は、お嬢様学校だと言える。

 

 調理場の横には、大きなラウンジがあり

 そこで食事をするようになっている。

 

 食事のスタイルは、基本的にバイキングスタイル。

 好きなものを好きなだけ食べられるようになっていて

 さながらホテルの食事のようだ。

 

「さってと、準備を始めるかなぁ~」

 

 何を作るのかは、管理人に一任されている。

 冷蔵庫の中身や昨日に発注された食材データなどを見ながら

 どうしようかと考える。

 

「・・・あ、良いなぁ。

 これ高いんだよねぇ~」

 

 高級でなかなか自分では手が出せない材料を見つけ

 少し興奮気味に手に取る。

 

 こういうものも比較的自由に使えるのだから

 非常に良い環境だと言える。

 

 そうして悩みながら食材チェックをしている時だった。

 

「よっし、今日もやるぞ~」

 

「今日は何だろうね?」

 

 華やかな声がして、ふと入口を見ると

 調理服姿の少女が2人。

 

「こんにちは」

 

「え? あ、こ・・・こんにちは」

 

「ん? あ、はい。 こんにちはです」

 

 とりあえず挨拶をすると、こちらに気づいたようで

 驚きながらも挨拶を返してくれる。

 

「私、今日からお世話になる『二条 楓』っていいます。

 よろしくね」

 

「ああ~、そう言えば今日新しい寮母さんが来るって言ってましたねぇ」

 

「え? でも私達と同じぐらいに見えるよ、ちーちゃん?」

 

「あ、ホントだ。

 あれ? 寮母さん・・・ですよね?」

 

 ちーちゃんと呼ばれた子が、不思議そうな顔でこちらを見てくる。

 

「うん・・・一応、寮の管理人を任されてるけど

 学園の2年生として編入してるから、どちらかと言うと学生なのかも。

 

 でも、教職員扱いって言われてるから・・・微妙な所かな」

 

「学生なのに寮母さんもされるんですか!?」

 

 もう1人の少し大人しそうな印象の娘が

 驚きながら聞いてくる。

 

 個人的には『寮母』と呼ばれることの方に抵抗を感じてしまう。

 

「まあ・・・一応、ね」

 

「凄いですね、楓さま!」

 

「ホントだね、ちーちゃん!」

 

 2人は愉しそうに、はしゃいでいる。

 

 この学園では目上の先輩のことをさま付けで呼ぶ習慣があるらしい。

 個人的には『お姉さま』とかじゃないだけマシだと思っている。

 

「あ、自己紹介を忘れてました。

 

 私は1年生の『柏木(かしわぎ) 千歳(ちとせ)』って言います」

 

「わ、私は『橘(たちばな) 寧々(ねね)』です。

 ちーちゃんと同じ1年です。

 よろしくお願いします」 

 

 元気の良い千歳ちゃんは、低めのツインテールを揺らし

 その1歩後ろでは、肩に触れる程度の髪に手を当て

 毛先をいじっている寧々ちゃん。

 大き目のリボンも特徴的だ。

 

 2人と挨拶をしていると、調理服を来た生徒達が

 1人、また1人と入ってくる。

 

 伯母さんに聞いた話によると

 料理の授業で上位の成績になった人は

 寮の食事を作る側に回るらしい。

 

 そしてそれは名誉あることらしく

 定期的にある試験で成績を落とせば

 スグその役割を誰かに取られてしまう。

 

 つまりこの立場を長く維持している人ほど

 優れた料理人だという証であり、学生達の憧れとなるらしい。

 

 それに自分達のライバルとも言える他の生徒達に

 食事を提供するのだから『この程度か』なんて思われないためにも

 自然と力も入るだろう。

 

「うわぁ~、可愛い~!!」

 

 突然後ろから大きな声が上がり、驚きながら振り返ろうとする。

 しかしほんの少しの差で振り返る前に

 後ろから誰かに抱きつかれる。

 

「何この調理服。

 すっごい可愛いんだけど~♪」

 

「え!? あ・・・か、神城さん!?」

 

 抱きついてきたのは、一番初めに自己紹介をした

 神城 凛さんだった。

 

「あ、凛さまもそう思います?

 私もそう思ってたんですよ~」

 

「フリルとかいっぱい付いてて、可愛いですよね」

 

 千歳ちゃんと寧々ちゃんも、それぞれ感想を口にする。

 

「ああ、もうお持ち帰りしちゃっていい?

 いいよね?」

 

 そう言いながら興奮気味に身体を密着させてくる。

 

「あ・・・ダメ、です・・・」

 

 女の子の良い匂いだけでなく、2つの弾力のあるアレが

 背中に押し付けられ、その形を変化させる。

 押し付けられているものは、元の形に戻ろうと反発するため

 これでもかと自己主張をし始める。

 

 しかも抱きしめながら色んな場所を、そのスベスベな手で

 触ってくるため未知の感覚に戸惑ってしまう。

 

 これはマズイ。

 色々と、色んな意味で、色んな場所もマズイことになっている。

 

「や・・・ダ、メェ、だよ。

 こんな・・・ひゃぁ・・・」

 

「あらぁん、ちょっとして気持ち良くなっちゃったのかなぁ?

 じゃあ、ココはどうかなぁ?」

 

「ひぅっ!

 ・・・み、耳を噛んじゃ・・・はぅ!」

 

 耳たぶを甘噛みされ、思わず悶える。

 

「おお、す、すごい・・・」

 

「わわ・・・わわわ・・・!」

 

 後輩2人は止めるどころか、顔を真っ赤にしながら観戦モードだ。

 

「あぁ~、その顔を真っ赤にしながら耐える表情とか

 最高に可愛いわぁ~♪

 

 さて・・・じゃあそろそろ―――」

 

 そう言いながら彼女の手が触れられるとマズイ場所へ伸びる。

 

「そ、そこは・・・!」

 

 彼女の手を止めるべく手を掴もうとした瞬間。

 

 バンッ!

 

 と大きな音と共に神城さんが離れる。

 

「いった~ぃ!」

 

 頭を押さえて涙目になっている神城さん。

 

「もう、嫌がってる相手に何してるのよアナタは」

 

 その後ろには配膳トレーを持った御堂 雪絵さんの姿。

 

「み、御堂さん・・・ありがとう!」

 

 いきなりのピンチだったが、彼女のおかげで

 助かったと言える。

 

「―――ッ!」

 

 彼女の方を見ると、何故か顔を真っ赤にして

 視線を逸らす。

 

「(顔を真っ赤にしてうるうるとした涙目になりながら

  上目づかいでこっちを見る二条さん、可愛い過ぎる・・・!)」

 

 何やらブツブツと言いながら

 その後、あからさまな咳払いをしてから

 こちらに視線を戻す。

 

「え、え~っと。

 そう、凛。

 

 毎度毎度、そういうことは止めなさいと言ってるでしょう?」

 

 やはり何かに耐えきれなくなった感じで視線を神城さんに移す御堂さん。

 

「だって~、可愛かったんだも~ん」

 

「そ、それについては否定しないけど

 それとこれとは別問題でしょうに」

 

 よく見ると、周囲の女の子達は普通の・・・というべきか

 余計なデザインのないシンプルの白い調理服で統一されている。

 

 ・・・アレ? もしかしてこんなフリフリでコスプレ感のある

 少女趣味全開の調理服着てるのは僕だけ・・・なの?

 

 何やら収拾のつかない状況になりつつあった状態だが

 鐘の音が鳴ったことで事態が動く。

 

「あら、もうこんな時間」

「そろそろ準備しないとダメですわね」

 

 誰かが言った言葉に自然と皆の顔が調理師の顔になる。

 

 そう、時間が無いのだ。

 

 スグに定位置なのだろうか、皆が調理台の前に立つ。

 

「え、え~っと、初めまして。

 今日から寮の管理人を兼任することになった二条 楓です。

 

 まだまだ解らないこともあるから、みんなには迷惑をかけたり

 するかもしれませんが、よろしくお願いします」

 

「はいっ!」

 

 元気の良い返事が返ってくる。

 自然と僕もやる気が出てくる。

 

「では、今日の夕食と調理担当だけど―――」

 

 その発表に、その場に居た全員が驚きの表情をした。

 

 

 

 

 

第2章 いきなりのピンチ!? ~完~

 

 

 

 

 


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