可憐な少女と恋のレシピ   作:のこのこ大王

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第5章 厳しい評価

 

 

 

 

 夜のラウンジは、夕食の時間も終わって人が少なくなる。

 しかし厨房だけは、未だ賑わっていた。

 

「このスープ、チーズ付きのクルトンと相性最高だわ」

「鯛のポワレも、良い味してる」

「甘辛煮の方も、ゴボウとこんにゃくに味が染みてて美味しいわよ」

 

 夕食の時間が終わり、料理をしていたメンバーは

 残り物を温め直したり、足りない分を追加で作って

 遅めの夕食を取っていた。

 

「う~ん、このアーモンドの入ったブラウニー美味しい!」

「いやいや、このハチミツも甘くていいよ~」

「マカロン食べれて幸せだわ~」

 

 それぞれ興味のある料理を食べている。

 料理人は、食べて学ぶことも多い。

 だからこそ料理の腕が高い人間が調理担当となるのは

 ある意味では当然の流れな訳で。

 

 愉しみながらの夕食が、そろそろ終わりに差し掛かった頃。

 

 楓は、厨房の中央に立つ。

 その行動に自然と注目が集まる。

 

「え~っと、皆さん。

 まずは、お疲れ様でした。

 

 初めてだったけど、予想外に忙しくて驚いちゃった」

 

 苦笑しながらの言葉に、笑いが起こる。

 

「一応、最後に総評って言うと大げさだけど

 反省会をしようと思います」

 

 今後はその言葉に厨房内が、ざわつく。

 そんなことをするとは思っていなかった少女達にとっては

 まさに不意打ちに等しいからだ。

 

 

 

 

 

第5章 厳しい評価

 

 

 

 

 

「まずは、メイン。

 神城 凛さんのグループが作った

 『豚肉・こんにゃく・ごぼうを使った甘辛煮』の評価から。

 

 味付けに関しては

 上手く調味料で全体をまとめたと思う。

 これに関しては神城さんの腕を素直に褒めたい。

 

 でもこの味付けでも誤魔化せなかった点がある。

 

 それは『材料の下処理』の部分。

 

 豚バラは余分の脂をしっかり処理出来てないから

 脂が強めに出てしまっている。

 

 ごぼうに関しても『ささがき』の厚みがバラバラだから

 全体的に火の通りも、ばらついているし

 水洗いをする際も、しっかりと洗い過ぎていて

 せっかくの風味を飛ばしちゃってるよね。

 そうした料理前の下処理が悪かったから

 どうしても味に影響が出ちゃったって所かな。

 サイズを安定させるのならピーラーを使っても良かったかもね。

 

 見た目に関しても

 これはかなり大雑把に大皿に盛りつけていたから

 ここは大きな改善が必要な箇所だね。

 

 1人分づつを小皿に分けたり、盛り付けも大皿の中で

 何かテーマを決めて飾りつけ出来ていたら良かったかも。

 

 最後に神城さんがちゃんと周囲に指示出来ていたかだけど

 これに関しては、一見して出来ていたように見える。

 

 だけど、明確な指示を出さずにかなり自己判断に任せていた。

 それ自体が悪い訳じゃないけど、その結果が下処理の甘さだったり

 人数の多さを上手く使えなかったことに繋がってしまっている。

 そう考えると、もう少し具体的に指示してあげて欲しかったかな」

 

 優しい声ではあるものの、事実を遠慮なく淡々と話す楓に

 少女達は、驚きと戸惑いの表情で固まってしまっている。

 

「では、次。

 

 御堂 雪絵さんの所の『鯛のポワレ』。

 

 料理の選択に関しては、問題無いと思う。

 挑戦という意味合いでは残念だったけど、安定を取るのも一つの選択だからね。

 

 味の方だけど

 レモンバターが少し濃すぎたかな。

 レモンとバターが微妙に喧嘩しちゃって、素材の味を少し邪魔してる感じになってる。

 多分、バターにエキストラ・バージンオリーブオイルが入ってるものを使用しちゃったのかな?

 

 調理する際に使うオイルもオリーブオイルだったみたいだから相性自体が悪い訳ではないけども

 おかげでオリーブオイルの味が強く出過ぎちゃってるんだよね。

 その味の濃さが今回、ポワレ全体の味の邪魔になってしまっている。

 

 鯛の皮目に関しても、もう少し強く焼いた方がパリっとしてて良かったかな。

 割合で言うなら、皮目8割、身は2割ぐらいで焼くのが丁度良いんだよね。

 

 あと御堂さんの近くに居た子達は、凄く頑張って動いていたけど

 少し離れた場所に居た子達は、何をしていいのか解らずに

 困ってたのが、ちょっと残念だね。

 

 神城さんの方もそうだけど

 何をして良いのか解らず、あまり仕事が出来なかった子が居たことを

 知って欲しいんだ。

 

 それを知れば次からは、そういう子達が出ないように出来るでしょ?

 もう少しだけ全体を見渡せる余裕が出ると良いかもね」

 

「えっ!?

 そんな子居たのっ!?」

 

 思わずという感じで声を出す神城さん。

 

「うん。

 あとで確認してみると良いかも。

 

 みんなもしっかり事実を伝えてあげてね。

 これは2人が、成長する良い切っ掛けになると思うから」

 

 神城さんは、さっそく周囲の子達に話を聞いている。

 御堂さんも同じく、手伝ってくれた子達に話を聞いて回りだす。

 

「次はサイドの評価。

 まずは、柏木 千歳ちゃんの所。

 

 味に関しては、ほとんど問題無し。

 本場のスープ・ド・ポワソンに負けないぐらい美味しかったよ。

 何か言うとすれば、付け合わせをクルトンとチーズ以外に用意出来ると

 もっと良かったかな。

 

 見た目に関しては、鍋の周囲に付け合わせを飾り付けるようにして

 配置していたのは良かったけど、やっぱりもう少し数と種類があった方が

 良かったかなって思う。

 本場を意識するならルイユがあると良かったかも」

 

 周囲への指示に関してだけど

 ・・・あまり言いたくないけど、自分のこと以外は

 ほとんど任せっきりだったでしょ?

 流石に、アレはダメだと思うんだ。

 

 でも問題点が明確に出てる訳だから、次から気を付ければ問題ないと思うよ」

 

 初めの方の高評価に喜んでいた千歳だったが、後半になると恥ずかしそうに俯く。

 自分でも解っていることなので、余計に恥ずかしいのだろう。

 

「次は、橘 寧々ちゃんの所の評価。

 

 料理の選択、特にスープに関しては

 周囲の料理に合わせて味付けを変更する配慮、そして千歳ちゃんのフォローを含めて

 非常に良く動けていたと思う。

 

 味も周囲に合わせて変更したこともあって普通の紫菜湯(ズーツァイタン)とは違ったけど

 これはこれで良いと思えるほど、しっかりと出来ていた。

 

 補佐も先輩が居る中で、全員にしっかりと仕事を振れていたし

 何より全員が、しっかり料理に関われていたのも大きい。

 

 ただ残念なのが、見た目だね。

 普通に鍋や小鉢を置いただけだったから、評価のしようがない。

 

 だけど総合的に見るなら、今日一番良かったのは寧々ちゃんの所だと思う」

 

 遠くの方で黄色い歓声があがったかと思うと『やったね』などと

 喜ぶ声が聞こえてくる。

 

 恐らく寧々ちゃんを手伝っていた子達だろう。

 

 ふと緩みそうになる気を引き締める。

 まだまだ言わなければならないことは多いからだ。

 

 一度、深呼吸をしてから再度話を進める。

 

「では、最後のデザート。

 有栖川 透子ちゃんの所だね。

 

 マカロンを選んだのは良い選択だったよ。

 みんなに仕事を分担させてしっかり全員で動けていたのも

 凄く良かったと思う。

 

 だけど味に関しては、少し残念な箇所ある」

 

 そう言って楓は、彼女達が使ったアーモンドパウダーを出す。

 

「多分、風味を出そうと思ったのかな?と思うけど

 皮なしと皮付きの混合パウダーを使ったのが問題かな」

 

 そう言って残り物のマカロンを手に取る。

 

「ほら、これ。

 少しだけ黒い何かが何か所か見えるでしょ?

 

 アーモンドの皮が、こうして見た目に出ちゃうから

 見た目に影響を与えてしまう。

 あと味も濃く出やすいから、通常の分量でやっちゃうと

 どうしても今日のみたいに味を主張しやすくなってしまう。

 

 生クリームも、少し泡立て過ぎてて重くなってしまっている。

 

 パリ風マカロンは、生地とクリームを同時に食べるものだから

 この2つをセットにしての味を意識しないとダメな料理なんだ。

 

 だからそれぞれが味を主張するのではなく、2つで1つの味を

 出すようにしなければならない。

 

 今回に関して言えば、分担作業だったから

 生地とクリームは、それぞれ別の人が作ったんでしょ?

 分担作業だと、そういうこともあるってことを覚えておいた方がいいかもね。

 

 次に作る時は、そのことも考えて

 まず作業する人達が『どういうマカロンを作るのか』ってことを

 話し合っておくと良いと思うよ」

 

 透子ちゃんは、自分の手元にあったマカロンをジッと見つめている。

 彼女にとっては厳しい評価になったかもしれないが

 彼女の成長のためには、これを乗り越えて貰わなければいけない。

 

「じゃあ次に手伝いをしていた人の話をしよう。

 

 まずは―――」

 

 こうして1人1人の作業や行動に関しての

 良かった点と悪かった点をあげていく。

 

 良い評価だった人、厳しめの評価だった人。

 それぞれが様々な表情でこちらの話を聞いている。

 時には反論もあったりしたが、それにも丁寧に答えていく。

 

 

 そして気づけばかなりの時間が過ぎていた。

 

「・・・以上。

 これで私の話は終わり。

 

 他に何か質問とかあれば聞くけど、何かある?」

 

 誰も手を上げたり声を発することなく

 ただ静寂だけが答えとばかりに返ってくる。

 

「これでお終い。

 じゃあ、あとはみんなで掃除して帰ろうか」

 

「はい」

 

 少し元気の無い声で、全員が返事を返してくれる。

 

 そうして掃除を終わらせた時には

 夜もかなり遅い時間となっていた。

 

 スグに更衣室で着替えた少女達は、そのままお風呂へと直行する。

 少し重い雰囲気も、皆でお風呂に入っていれば

 自然と和らいでいく。

 

「お? 難しい顔してどうしたのかな?

 せっかくの美人顔にシワが出来ちゃうぞ?」

 

 雪絵の顔を見た凛が、そう言って後ろから抱きつく。

 

「・・・だからって、どうしていつも抱きつくのよ」

 

「私なりの愛情表現じゃない♪」

 

「その愛情、そこにでも捨てておいてもらえるかしら?」

 

 そう言って彼女は、お風呂場の排水溝を指す。

 

「・・・ホント、今日は一段とご機嫌斜めじゃない?」

 

「・・・あれだけやられて、アナタは悔しくないの?」

 

「う~ん。

 ・・・でもまあ大半は事実だからにゃ~」

 

 実際、手伝ってくれた子達に話を聞くと

 一部ではあるものの、何を手伝うべきか

 迷っていたという声があった。

 

 言われてみてから残っていた料理を見てみたが

 甘辛煮は、確かにごぼうの形がバラバラで味の付き方に差があった。

 ポワレも言われてから意識して食べ直すと

 確かに鯛の味よりもオリーブオイルの味の方が前に出ていた。

 

 本当に指摘された通りだったので、何も言えなかったのだ。

 

「そうだとしてもよ。

 同じ歳の子に、あれだけの差を見せつけられて

 何も思わないのかってこと」

 

「あのブラウニー、ヤバかったよねぇ~・・・。

 思わず全種類を2週してしまった」

 

「アナタの体重計の数値が

 どうなろうと知ったことではないわ」

 

「今それを言わないで!」

 

 2人のやりとりに周囲から笑い声が聞こえてくる。

 

「まあ、それはさておき

 一人で何もかもしながら、全体をあれだけ見れていた。

 正直私は、悔しいの一言しか出てこないわ。

 

 指摘された部分も、的確だったから

 言い返せなかったのも含めて、余計に・・・ね」

 

 そんな話にいつの間にかお風呂場に居た少女達が参加してくる。

 

「でも、雪絵さんの言うことも解りますわ」

 

「そうです。

 ちょっと料理が出来るからって、あの言い方はあんまりです」

 

「でも、1人であれだけ大量のブラウニー作りながら全員の作業を

 チェック出来るのって十分凄いと思うけど」

 

 どんどんと参加する人数が増えていき

 勝手に色んな場所で話を進める少女達。

 

「でもでも、やっぱりもう少し言い方ってものが―――」

「まだ1回目なのに、それだけで話を進めるのも―――」

「いやいや、あれだけ厳しい評価をしなくても―――」

「でもそれじゃ―――」

「いやだから―――」

 

 いつの間にか、お風呂場では

 楓の今日の態度や意見に関しての話一色となっていた。

 

 好意的な意見もあるものの、否定的な意見が多い。

 やはりいきなり出てきた人間に大きい顔をされたので

 あまり良い気分ではないというのが主な理由だ。

 

「はいはい、みんなそこまで。

 このままお風呂場で言い合っても結論なんて出ないわ。

 

 彼女のことは、嫌でもこれから見ていくことになるのだから

 とりあえず様子見ってことにしましょう」

 

 収拾のつかない状態になっていた話を

 雪絵が強引にまとめる。

 

「まあ、雪絵さんがそう言われるのなら・・・」

「そうですわ。 まだ1回目ですものね」

 

 その言葉にようやく落ち着きを取り戻し始める娘達。

 

 一方そんな話をされていると知らない楓は

 自分の部屋でシャワーを浴びていた。

 

「教職員扱いでよかったなぁ~」

 

 寮の中にある教職員の部屋には

 一般生徒の部屋とは違い、小さいながらも

 お風呂やトイレなどが付いている。

 

 もしこれが無かったら、僕は女湯に入らなければならない訳で。

 

 そう考えると命の危険を感じるが

 そうならずに済んだので、良かったと心から感謝している。

 

「やっぱり今日のは、やり過ぎたかなぁ」

 

 ふと帰り際の少女達の顔を思い出す。

 

 皆、疲れてはいただろうが

 それ以上に、こちらに対しての不信感のようなものが

 見え隠れしていたように感じる。

 

「でも、彼女達の成長を考えれば仕方がないよね」

 

 自分から悪者になると決めたはずなのにと

 早々に決意が揺らぎそうになる自分を笑ってしまう。

 

「・・・そう言えば、明日は違うメンバーだったよね」

 

 ふと料理を手伝う子達の表を思い出す。

 

 実は、今日居た子が全員ではないのだ。

 シフト表のようなものがあり

 グルグルと人を入れ替えるようになっている。

 

「確か明日は、上級生が多かったんだよなぁ」

 

 今日は1年と2年生が中心で3年生は、ほとんどいなかった。

 だが明日は、その分上級生だらけとなる。

 

「上級生達に厳しい評価を突きつけた時、どうなるだろう」

 

 予想以上に反発されたりしたらどうしよう?

 などと考えながら、お風呂から出て着替えると

 そのままベットに身を投げる。

 

「それにしても・・・疲れる」

 

 女装というものがこれだけ神経を使うのかと

 ため息を吐く。

 

 疲れていたこともあり、そのままゆっくりと眠る楓だった。

 

 

 

 

 

第5章 厳しい評価 ~完~

 

 

 

 




まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。

何だか作品内の時間進行が遅いなと思ったら
他の作品は平均10,000字超えに対し
この作品は5,000~7,000ぐらいなので
そりゃ進まないよねとか思いました。

とりあえずまったり更新していきますので
暇つぶしのお供になれば幸いです。

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