はたらく狩人さま!   作:DOMDOM

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息抜きで書いてみました。しがないブラッドボーン好きの作品ですが、良ければどうぞ。




プロローグ
狩人、現代に降り立つ


「嫌だもう就活したくない」

 

 

 六畳一間の空間にTシャツ姿で寝転ぶ男が一人そう呟いた。いや、一人ではない。それを眺めながら台所で食器洗浄をしている影がもう一つ。

 

 

「なあ、人形よ。俺はどうすればいいんだ?かれこれ就活続けて5カ月半ば……なぜ俺は未だ就職できていない!?」

 

「それはひとえに狩人様のお考えに問題があるのかと」

 

 

 表情を一切変えずそう言い切った『人形』と呼ばれた女は、雪の様な白い手で洗い物を続けた。その言動を聞いて『狩人』と呼ばれた男は突然跳ね起きた。

 

 

「何が問題なんだ!? 日本語を完璧にマスターし、今の世界情勢さえも完璧に把握している俺が、どんな企業にも取られないんだぞ!? むしろ問題あるのは企業側の人事部だろ絶対!!」

 

 

 小さなちゃぶ台をバンバン叩きながら自分勝手な糾弾する『狩人』という男。それに対して食器洗浄している手をぴたりと止め、無機質な目を向けたままに口を開いた。

 

 

「では申し上げますがそもそも狩人様の思想は大きすぎるのです。貴方様の最終目標である宇宙の支配は確かに重要なことだと存じ上げています。ですが、ここは日本なのですよ? その思想を面接中に口にしたところで何を馬鹿なと思われるだけです。ひと月ほど前、電気屋のテレビで政見放送でとある無所属の方が仰っていることに対して狩人様は『そんな大それたことを言って人が集まるわけあるか』と仰っていましたが、ご自分の立場がその方と全く同じであることにお気づきですか? 政見放送にいる人ならまだしも狩人様は履歴書の内容は真っ白、さらには外国人であるという立場から既に不利極まりない状況であることもお忘れではありませんか? 私にはもう少しご自身を客観的に見ることと今は一人の人間であるということを改めてご自覚なさったほうがいいと思います」

 

「ぐほぉあッッ!!!?」

 

 

 この間僅か約10秒。人間とは思えないほどの恐るべき滑舌。ぐうの音も出ない程に打ちのめされた男は胸を抑えたまま机に突っ伏した。

 

 

「に、人形よ……最近、切に思うんだが……」

 

 

 わなわなと顔を上げ、決して血色の良くない顔でジト目を作る男。再度口を開き、言い放った言葉というのは――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――最近、接し方キツくない?」

 

「いいえ、別にそんなことは」

 

 

 「嘘だ!」と心中で叫びながらも男は溜息をついて再度机に突っ伏し、女は再度食器洗いを再開した。こんなことになってしまったのは、そう5カ月前の忘れもしないあの日――。

 

 

 

 あんな事さえ、考えなければ――。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

「暇だ……やることが無い……」

 

 

 そう呟いて墓標の前で寝っ転がる男が一人、そしてそれを眺める女が一人。ちょうど先ほどの状況とそっくりである。

 そう、ここは狩人の夢、そして彼は狩人だ。正確に言えば幼年期をある程度過ぎ、自身の容姿を自由に変えれる程度の力は蓄えている上位者狩人である。その姿は上位者以前の時と変わらず、五体満足の人間のままだ。本人曰く「二足歩行は進化の証」らしく、そちらの方が気に入っている模様。そして、ここまで言えば、隣にいる人影と言うのは既にお察しであろう。

 

 

「狩人様……異世界で狩人を狩ることがお楽しみではなかったのですか?」

 

「なんというか、それも飽きたんだよ……嫌いじゃないんだが、新しい発見がもうほとんど無くてなぁ」

 

 

 今や、彼のお付となってしまった人形が「そういうものでしょうか」と首を傾げた。

 相手を支配することが存在意義である上位者にとって、他世界の狩人を蹂躙することは数少ない愉悦のひとつ。だが、それ以上に今は知識を欲している。上位者になった彼は人間からは遠く及ばない思考力を持っており、数億年以上の月日でもを掛けない限り到達し得ない知識を容易に理解が可能。故に自分にはそれがないことに気付いた彼は地球上で起きている事柄では物足りなさを感じていたのだ。

 

 

「では『未来』というのはどうでしょうか」

 

「未来?」

 

 

 その提案は、人形がふと言ったものだった。刹那、狩人に電撃が走った。

 

 

「ふむ……確かに面白そうだな。今後、人がどんな進化を遂げ、どんな世界を築いていくのかは聊か興味がある」

 

 

 それはとある上位者が、上位者と人間の子に興味を持ったのことと同じ感覚。つまり、単なる好奇心がその答えに行きついた。元は人であった身から、人間に親近感がないわけでもない。新しい人間の世界に興味も湧く。

 

 

「お気に召したのなら何よりです……そうなさるのであれば――?」

 

「ああ、少しの間眠ることにする。そうだな……小手調べに100年程度の時が経ったら目覚めるとしよう」

 

 

 そう言うとさっさと睡眠を始める狩人。大樹の下で大の字となり、一瞬で眠りに付いた。それを見届けると人形は眠る狩人の横に座り、自らの膝を枕として貸した。ちなみにこの人形、体は人間そのものである。というのも狩人がそうなるように研究し、彼女に肉体を与えたのだ。本人は「人の温かさを知って体が人形なのは納得がいかない」とのこと。上位者と言えど人間の情がある故の『良心』というものだろうか。

 

 

「人の身になってから……私には一日が長く感じるのです……狩人様」

 

 

 そう呟くが、夢には狩人と人形の2人しかいない。よって、この言葉は誰にも伝わらない。ついでに言うと使者もいるのだが、彼女曰く、当初狩人を慕う同属として親近感が湧き、可愛いと思っていたのだが、人の身となってから見た目が形容しがたく受け付なくなってきているらしい。そのため、彼女本人が彼らに対して「今後はできるだけ近づかないでほしい」と忠告している。故に、この場には狩人と人形しかいないのだ。それが「生理的に無理」という感情ということに気付くのは、100年たった後の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

「……はあ」

 

 

 そうして100年後。狩人たちは現代の日本へとやってきた。そこには見たことも無い建造物が立ち並び、人が着る衣服も今とは異なり、話す言葉もまったく違っていた。期待に胸を躍らせ、新たな知識を得るがために世界を探索しようと思った矢先、事件は起こった。

 

 

「なぜ、体が人間に戻ったのか。力さえあれば就活なんてしないで済んだのに……」

 

 

 初め、彼は何かの間違いであると思っていた。だが事実、上位者としての力は失われ、体はただの人間へと戻っていた。しかし、全ての力を失ったわけではない。微力ながら人間には扱えない力が残っていることに気付いた。脳の方は上位者としての力を有しており、今の世界の事を理解することにそう長くは掛からなかった。

 

 

「泣き言を言っても仕方ありません。とにかく、今は生活を立てることを重視したほうがいいかと」

 

「んなこと分かってるよ……そもそも、なんでお前は人間のままなんだ」

 

「知りません。そんなことより早く就職してください。話はそれからです」

 

「やっぱ最近キツいよね人形さん!?」

 

 

 人間としての心を忘れかけていたところに人間性が戻り、主従関係の崩壊に半泣きの狩人。主人が寝ている間にいつの間にか自立し、主人を尻に敷く人形。こんな光景、誰が予想できただろうか。憐れ狩人、まったくもって憐れなり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ピンポーン

 

 

 

 そんな混沌とした六畳一間に呼び鈴が鳴り響いた。魂の抜けた様な顔で再起不能になっている役立たずの代わりに応えるべく人形が動く。ちなみに、手は身に着けているエプロンでさっと拭いた。

 

 

「はい、どちらさまでしょうか」

 

「あっはい、こちらゲールマン・ルースさん宅ですか? 郵便ですー」

 

「ええ、合っていますよ。配達、ご苦労様です」

 

「い、いえいえ~」

 

 

 そう言って笑顔で返す姿は、まるで天使の様。現に若い配達員は労いの言葉を掛けられて、鼻の下が伸びている。実際、人形の美貌が相当なのは周知の事実。あのマリアがモデルとして作られているのだ、当たり前である。そんな美貌を持った彼女に人間らしく微笑みかけられることを想像してほしい。大抵の男は一発で落ちる。

 

 

「……どうかしましたか?」

 

「……ハッ、す、すいません!それじゃ、失礼します~!」

 

 

 我に返り、足早に去る配達員。なんだったのだろうと首を傾げ、人形はその背中を見送った。そして、郵便物を手に、再び部屋へと戻った。ちなみに、ゲールマンというのは戸籍上の狩人の氏名である。思いつく名前が他になかったらしい。

 

 

「狩人様、郵便です。見たところ、何かの通知の様ですが……」

 

「どうせ、また企業から不採用の通知だろ。もう何件貰ったかすら憶えてない」

 

「いいですから、早く現実を受け入れてください。そうして無気力に何もしていない方が時間の無駄です」

 

「配達員との差がひでぇ……」

 

 

 しぶしぶ目の前にある『現実』に目をやる狩人。それは確かに企業からの通知だったが、少々今までと異なる点があることに気付く。

 

 

「ん、幡ヶ谷?そんな遠いところまで足伸ばして面接受けに行った覚えはねーぞ?」

 

 

 不採用通知の数は憶えていなくとも、自分の受けた企業ぐらいは憶えている。流石に現在住んでいる八王子から徒歩で行ける距離ではない。電車や自転車を使えばいいと思うかもしれないが、当の狩人が職に就けず、日雇いのバイトの募集を探す日々。しかも、ハロワや面接の時間を考慮しなければならないため、不定期な感覚でバイトをしなければならない。故に一ヶ月の間に稼げる金額は12~3万円程度。さらに家賃が5万、光熱費が2万、食費が6万で残る手取りはほぼゼロ。毎日がギリギリなのだ、当然通勤の足を買うような余裕はない。

 

 

「なんだこれ、手紙?」

 

 

開封してみればそこに通知書らしきものは入っておらず、ただ一枚の紙が添えてあるだけであった。何が何やら分からないまま、その紙を広げてみる。

 

 

「えー、『拝啓、ゲールマン・ルース様――

―(以下時世の句)……先日、当社は貴殿を不採用に致しました』ってなんだこれ、企業を挙げての嫌がらせか!?」

 

 

 憤慨しながらも、読み進めていく狩人。読めば読むほど嫌な思い出がにじみ出るように蘇る。とうとう、苛立ちが頂点に達し、手紙を破り捨てようとした――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 その一文を目にした瞬間、狩人の動きが止まった。すべての時間が停止したようにも思えた。それほどまでに、その手紙には信じがたいことが書かれていたのだ。

 

 

「お、おい、人形……人形!!」

 

「いかがなされました狩人様? 夜なのですから、あまり大きな声を出すとご迷惑に――」

 

「これ、こいつを見てくれッ!!」

 

 

 普段なら無理やり発言を遮るようなことはしない狩人が慌てて、『それ』を差し出す。それは開封した手紙だった。今や、狩人が強く握りしめるせいで、くしゃくしゃになっているが。

 

 

「一体どうしたのです……その手紙がどうなされたんですか?」

 

「こ、ここを読んでくれ……信じ難い……」

 

「なんでしょうか……ふむ、『慎重且つ厳粛な選考の結果、当社は貴殿を――』……え?」

 

 

 そこで、人形の声が止まった。そして、手を口を押えて目を見開いた。

 

 

「『貴殿をマグロナルド幡ヶ谷駅前店で採用することに決定いたしました』……やったぞ、俺はついになったんだ……念願の正社員になったんだぁぁ――――ッッッ!!!!」

 

 

 戸惑う人形に代わって狩人が読み上げ、雄叫びを挙げた。その紙には確かに「採用」と書かれており、まさしくそれは採用通知書そのものであった。だが、分からないことがいくつかある。一つ目は、確かに面接は受けたが、それは『八王子店』であり、幡ヶ谷ではないということ。二つ目は、一度は不採用にした人間をなぜ採用にしたのか。この二点が非常に気になるところである。

 

 

「『詳しい内容は○月×日午前6:00、幡ヶ谷店内でご説明します。今後ともよろしくお願いします。』ってちょっと待て、これ明後日じゃねーか!? こっから徒歩で何時間掛かるか分かんねーし……とりあえず、今からでも出発してあっち着いたらホテルにでも……って、え? に、人形?」

 

 

 採用通知を見てから何も話さなくなった人形に視線を向けると、そこには顔を両手で覆い、肩を震わせている彼女の姿があった。

 

 

「お、おい!どうした!?なんか具合でも悪いのか!?」

 

「い、いえ、何でもありません。ただ、嬉しいのです……嬉しいはずなのに、涙が……止まらないのです」

 

「そ、そうか。いや、その、なんか……すまん」

 

 

 唐突に女性に泣かれて慰めるほどの器用さなんて、彼は持っていない。それが上位者だったせいなのか、はたまた元からだったのか……それは分からない。ただ一つ言えることは、一人の人間としてはヘタレであるということだけである。

 

 

「とにかくです。ご就職おめでとうございます、狩人様。こうしてはいられませんね。さ、これをお持ちください」

 

「……お、お前、これは!?」

 

 

 それは、封筒だった。ただの封筒ではない。現金5万相当の入っている封筒である。それを人形は自らのポケットから出し、狩人に手渡したのだ。

 

 

「3カ月ほど前から何かのためにと思い少しずつ貯めてきました『へそくり』です。旅費には十分な額なはずでしょう……どうぞ、お受け取り下さい」

 

「へそくりかよ!?」

 

「当たり前です。狩人様が計画的にお金を使うとは思えませんから」

 

「ぐぬぬ……」

 

 

 それは否定できない。狩人時代も後先考えず水銀弾や輸血液を使ってきた彼の性格上、計画的にモノを使うというのは少々無理な話だ。ついでに言えば、家事の他にも金銭面の管理も全て人形に任せっきりである。

 

 

「とにかくです。掴んだチャンスを無下にする訳にはいきません。何としてでもそこの責任者と話を付けてきて下さい」

 

「最初からそのつもりだが……でも、交通手段は徒歩だけだぞ?正社員として毎日通勤するには遠すぎる様な……」

 

「そこは私がなんとかいたします。狩人様は自身のご就職を第一に考えてください」

 

「いや、でm「よ・ろ・し・い・で・す・ね?」アッハイ」

 

 

 反論の余地はないようで、狩人は人形の気迫押し黙った。だが、彼女の言う通りである。約半年間かけてようやく掴んだチャンス。見逃すわけにはいかないのだ。

 

 

「そうと決まれば、さっそく準備して明日の朝には出発しましょう。ほら、早く支度してください」

 

「お、おう……支度つってもいつも通りだろ――」

 

 

 いつもの調子に戻った人形に急かされ、明日の準備を始める狩人。いつもの様に淡々と言葉を投げかける人形であったが、少しだけ頬が紅潮していたことを狩人自身も気付いている。だが、それを言うとまた説教されそうなのでここはあえて黙っておくことにしたらしい。

 その後、張りきった人形によってその夜は面接の基礎を叩き込まれ、最終的に熟睡ができなかったことには、ご愁傷様としか言いようがないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よし、じゃあ行ってくるわ」

 

 

 スーツを着込み、いつものように鞄を持つ。アメ横で1000円で売っていた腕時計を身に着け、履き慣れた革靴を履いた。何一つ身に着けているものは今までの面接と変わらない。だが心だけは、今まで以上に張りきっていた。

 

 

「忘れ物はありませんか?」

 

 

 後ろから声がする。それはいつも出掛ける前に必ず言われる言葉であった。振り向けば、人形が立っていた。ロゴの入ったTシャツにサイズぴったりのジーパン、手を前の方で組みきっちり足を揃えて立つ様はいつも通りの光景だった。だが、表情はいつもとは違う、口元が少し微笑んでいるように見えた。

 

 

「大丈夫だ。印鑑に財布、一応もらった手紙も入ってる」

 

「そうですか」

 

「おう、じゃあ行ってくるわ。留守は任せたぜ」

 

「はい……いってらしゃい、狩人様」

 

 

 いつもの挨拶を言葉にし、狩人を見送った。そして――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あなたの目覚めが、有意なものでありますように」

 

 

 

 

 屈託のない、人間らしい笑顔で、そう言葉を添えたのだった。

 

 

 

 

 

 これは現代社会に生きる元狩人と、人の心を得た元人形が、現代社会に生きる魔王と勇者に出会う物語。彼らがどんな出会い迎え、どんな選択をし、どんな運命を辿るのか――。

 

 

 

――それはまだ、誰も知らない。

 

 




ほっとんど「はたらく魔王さま!」要素ありませんが、これでおしまいです。

――追記
読切のつもりで書いた駄作でしたが、数少ない「はたらく魔王さま!」原作SSの中ではそれなりの評価を頂けたようですので、続けてみることにしました。

※2/22
誤字修正しました。ご報告感謝します!

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