はたらく狩人さま! 作:DOMDOM
そして似通った作風のものである、この「はたらく魔王さま!」という作品を思い出したわけです。後はまた熱が戻り、創作意欲がこう沸々と――。
というわけで、何年ぶりになるか覚えていませんが、2話目投下です。真央たちとの絡みを書ける喜び3割、ただでさえ書けない地の文が凄まじいことになっていないかの不安7割で正直怯えています(真顔)。
ですので、生暖かい目で読んでいただければ幸いです。
自身が辛酸を飲んできたのは今日この日のためだったと、狩人は切に思う。話を聞く限り、彼のフリーター生活から社会人生活への第一歩は、波乱万丈と言わざるを得ないものであった。
「マグロバーガーのセットが2つでサイズは片方がMでもう1つがLね。飲み物はどっちもマジェ・グレープで。後単品でビッグマグロバーガー1つ。以上でーす」
「かしこまりました。マグロバーガーのLセットがおひとつでお飲み物がマジェ・グレープ、マグロバーガーのMセットがおひとつでお飲み物がマジェ・グレープ。単品でビッグマグロバーガーがおひとつですね。店内でお召し上がりでしょうか?」
「そっすね」
「かしこまりました!」
通知を受け取った翌日、狩人は幡ヶ谷にまで徒歩で足を延ばすことで一日を移動に消費し、マグロナルド近辺のネットカフェを宿代わりに利用した。ビジネスホテルでも良かったのだが、一泊の値段に差がないことを知ったことから、1日中パソコンを利用できる前者の方が有用だと判断したらしい。
「1260円になります」
「はいはい……ありゃ、万札しかないわ。悪いけどこれで」
「1万円からお預かりします。8740円のお返しになります」
そして翌朝、指定の時刻に狩人はマグロバーガー幡ヶ谷駅前店へと赴いた。通されたのは応接間。これから一体どんな話をされるのか、採用後の展開など経験したことのない狩人は期待と不安で胸を膨らませていた。
「こちらの番号札を持って左のカウンター前でお待ち下さい」
「はい……あ、クーポン券……まぁいいや」
「……ふむ」
再面接を行う可能性も視野に入れ、念には念を重ね、二日限りではあるが出来る限りの面接練習と、マグロナルドの情報を仕入れてきた。何も不安に思うことはないと再度自分に言い聞かせ、その時をただ待った。
「――お客様、良ければこちらをお持ちください」
「え? これマグロバーガーのクーポン……なんで?」
「いえ、こちらも出来ることなら再度会計したかったんですけど、現在かなり混雑していまして……今回は埋め合わせという形でこちら受け取っていただけたら幸いです」
そんな緊張のなかで、ふと自身が上位者であったことを思い出す。そう考えれば、人間の起こす一挙一動に怯える自身はひどく滑稽にみえることだろう。生計を立てるためと躍起になっている狩人を他の狩人がみたらどう思うのだろうか。
「マジっすか。あざまーす」
「いえいえ、どうぞお構いなく! あ、次のお客様どうぞ!」
このマグロナルド幡ヶ谷店『店長』である彼女が現れるまでそう時間はかからなかった。
「……捌ききったか」
「存外、早く馴染んだな。ゲール
「ええ、木崎さんの指導の賜物です。後、爺は止めてください」
そう、腕組みしながら人を爺呼ばわりするこの女性こそ、マグロナルド幡ヶ谷駅前店の店長の
簡単なこと。条件を持ちかけられたのだ。1ヶ月で使えるようになるのであれば、正社員として上にはたらきかけてやると。
意味の分からなさに当時の狩人は首を捻った。そもそも、元から正社員として採用されたのではなかったのか。だとして、何故そのような条件を持ちかけたのか。そして、このようなことを企てた黒幕は誰なのか。様々な思考を脳内に錯綜させるものの、僅か数秒の後、存外呆気なく真理に到達することとなる。
それらの思惑は、須らく木崎の一存によるものである……と、木崎当人から打ち明けられたのだ。「理由は」と聞き返す間もなく、矢継ぎ早に狩人の欲しい情報を流す木崎に目を剥かされる。彼女曰く、狩人と履歴書と面接の情報を聞いた瞬間に、本社の方に問い合わせをしたという。「どうにも興味を惹かれる志望者がいるので、うちで預からせてほしい」と。なぜ、一支店の店長であるだけの彼女にそれを許されるだけの権限があるかは、謎であるが、とにかく1ヶ月でその人間が何かしらの成果を挙げられたのであれば、正社員として雇うこともやぶさかではないと、条件つきではあるものの交渉を成立させてきたらしい。そして、肝心要のそのワケというと――。
「研修中のプレートを引っさげて、ランチタイムの接客・調理・レジ打ちを捌ききる新人がどこにいる。指導といっても、私は業務の一通りの流れをチャート形式で2時間程度の説明をしただけだ。だというのに、MGR顔負けの業務をこなしているときた。やはり私の『勘』は間違っていなかったようだな」
直感、だったそうだ。
そんな、荒唐無稽な話には流石に狩人も耳を疑い、数分後には呆れていた。この世知辛い世の中で、自身のあてずっぽうで社員を雇うといった真似がどうしてできようか。
が、それが狩人にとって渡りに船であることに変わりはない。勘でだろうとなんだろうと、せっかくの就職のチャンス。今日日焦がれていた職場というオアシスに手を伸ばさない程愚かではない。面食らっていたのも束の間。その話に乗ると、狩人は決意したのだ。
「それは、自分なりのリサーチというか……形式的にはバイトと同じ身分とはいえ、雇ってもらった身の上。
「ふっ……『語るに落ちる』という言葉を知っているか在日イギリス人。君の言葉選びは真面目なもの、というにはいささか丁寧に過ぎる。時たま使う言葉が若者のそれではないことを自覚することね」
勝ち誇ったような笑みを浮かべる木崎に狩人は「……そっすか」の一言。先ほどのまでの堅苦しい話し方を忘れる程度には、観念したようだ。
「さて、冗談はこれぐらいにして、そろそろ休憩時間だ。君も昼食をとりなさい。余ってるポテトとバーガー、控室に置いてきたから」
「……本当に、何から何までありがとうございます」
「よせよせ、頭なんて客以外に早々下げるもんじゃない。3日目で既にこれだけの力量を見せる君だ。1ヶ月とは言わず、2週間でノルマなんて達成するかもしれないな」
檄を飛ばすように語りかけた後に「それじゃ」と手をひらひらさせながら木崎は調理しているクルーのフォローに向かう。その様子を眺めつつも、客が列を成す前にレジを先輩方に引き継がせ、控室へと向かう。彼女に言われた通り、昼食を取るべくして。
「……有望株と言ってもらえるのは有り難い事なのだが、これはなぁ」
過保護というに尽きるだろう、と内心続ける。
扉を開けるとそこには到底ひとりでは食しきれない量のバーガーが机の上に積み上げられている。これだけのことで、狩人も過保護と言い切っているわけではない。ここ3日間を思い返して、そう思っているのだ。
実のところ、狩人はマグロナルドに来てから自宅へ帰っていない。というのも、当然毎日八王子から歩くわけにもいかず、ホテルやネカフェ等の外泊生活をする気でいたのだ。が、木崎曰く――。
『――黙っていれば、控室に泊まってもいいぞ?』
それは流石にどうなのかと、狩人も思った。しかし、現状の軍資金だけではどうなるのかわからない。人形がどうにかすると言っていたが、それもいつになることか。悩んだ結果、狩人はこのマグロナルドに寝泊まりしている状況である。
「まったく、平和な世の中になったもんだ」
感謝と居たたまれなさで板挟みになりながらも、ため息を吐きながらもバーガーの包みを剥がしにかかる狩人。勿論、全部食べるつもりは毛頭ない。そのうちのいくつかは自前のナイロン袋にいれる。店長の厚意によるせっかくの賄いなのだから、貰わない方が失礼というものだ。
「また人形にどやされんだろうなぁ」
栄養バランスを考えろと冷ややかな目で言われるのが目に見えるようだ。苦笑するも、持ち帰るものをしまう手は止めない。バランスはともかく、人の善意を無下にはできないのだ。いや、彼女も100パーセント善意で動いているわけではないだろう。何か他の、例えば店の利益に繋がるといった打算的なものの上で成り立っているはずである。それを揶揄する気は狩人にない。むしろ、利害の一致の一切を切り払って動くことの方が気味が悪いというものだ。
「……やってやろうじゃあないか。どんな、試練であろうと。全ては宇宙を統べるために」
抱いた野望を改めて唱えれば、思考が冴える。
幼年期はいつまで続くのか、自身の体に変化を及ぶのはいつになることか。更なる叡智に至るためには、啓蒙を得るためにはと……「知」とつくすべてに手を伸ばしてきたがゆえの代償。それが狩人自身の現状を表す
安易な知的好奇心や利便に身を任せるような者は賢者ではなく愚者である。自身の能力をてらって、溺れることもまた愚かなこと。世の理に一切の無知であるがゆえに、その在り様は赤子と変わらない。言ってしまえば、
「自分が何者であるか見つめ直すいい機会になった。完全な答えを得るためにはまだ、時間がかかるかもしれん――」
「それでも、自分がどこまでやれるか試してやる……」
振り回されてきた血の意志に、完成した自己を叩き付ける。この体は自分のものであると証明する。狩人自身の自己の再形成。今はその準備期間だ。己が限界を知るために、自分の在り方を問い続ける。
「……なんてな! カーッ、何カッコつけちゃってんのかねぇ!?」
口で自分の台詞を一蹴するも、その眼は爛々と輝いていた。
初めての就職。一般的な現代人が走るレールにやっと乗ることができた。そこには確かな喜びと興奮があったことは間違いない。彼にとって、今は本当に楽しくて仕方のないものだった。
「2週間でノルマ達成だ? おうおうやったろうじゃねーか。その果てに叶える理想のために、こんなとこで躓いていられるかよ!」
帽子を深くかぶり直す。決意がみなぎったその心に一点の曇りはない。自分の限界を知るがために、狩人は意気揚々と立ち上がる。
「さぁて、飯食って午後のシフトだ! 見てろよ人形、必ず正社員になって幡ヶ谷駅前店を日本一……いや、宇宙一売り上げのある店にしてやるからな!」
「バカなこと言ってないで、早く昼食を取ってください。あなたがいつまでも休んでいたら此処の先輩方にご迷惑がかかるでしょう」
「ははは、違い、な……いぃぃいぃいいいぃぃぃ!?」
そこには本来いるはずのない名を呼ばれた当人がいた。見れば控室のドアが開いている。中東系の黄色肌の中に混じれば、間違いなく目立つ白肌の持ち主は、自身の主人を見るなりため息を吐いていた。
「アイエエエ! ニンギョウサン!? ナンデ!?」
「……やはりお忘れでしたか。今日は引っ越しが済んだ後に、お迎えに上がると出かける前に言ったはずですが?」
「あ、そっか……って、いやいやいや。それにしても来るの早すぎだよね?まだ、シフト残ってんだけど?」
「本日は狩人様の上司に当たる、木崎真弓様のご挨拶に伺ったのです。一宿一飯ならぬ二宿六飯の御恩は決して軽視してはならぬものであると、私は決意したしました。ですので、先ほど木崎様にお礼を申し上げた後に、狩人様の勤務状態を確認しに来たのですが――」
意図がつかめず、おたおたする狩人とは裏腹に、人形はそれに淡々と答える。そして一瞬の沈黙の後に目を据わらせた。
「既に1時間以上のご休憩のご様子……色々とお考えをめぐらすことは結構ですが、それは自身の職務を全うしてからすべきではありませんか?先輩方が
「ヒッ!? ハイ!! スミマセンデシタァァァ!!!!」
「残りのシフトの3時間……客席から見学させていただきますので、今後先輩方や他のお客様を困らせる様なことがありましたら――」
フフフと無機質に笑う彼女を直視できずに白目を剥きながらも高速で首を垂れる狩人。木崎がこの姿を見たらどう思うことだろう。
後に、狩人は語る。初めて獣を見たときの方が幾分かマシであった、と。
◇ ◇ ◇
「こちらです、狩人様」
「話には聞いていたが……これはまた――」
そこは、凄まじいの一言だった。
部屋の間取りは以前のものと然したる違いはない。だが、その外観は現代を思い浮かべるにはあまりにも無理がある。時代が昭和へ逆光したとすら思えるその風体は一種の荘厳ささえ感じさせる。
「部屋の機能性などは以前とそう変わりません。冬は少々冷え込みそうですが、着こめば問題ないでしょう。そして何よりも、私や狩人様のような身元が不確かな人物を率先して引き受けてくれている、奇特な大家様がいらっしゃるそうです。以前の大家様の様に暗示をかけて生活する必要性もありません」
基本、荒事をたてたくないスタンスで生活をしようという趣旨のもと、現代での活動を始めた2人の前に現れた犠牲者の内のひとりが前大家である。2人は戸籍について伺われたとき、咄嗟に発狂ラインすれすれの啓蒙を与え、軽度の錯乱状態に陥れてなんとか凌いできた。異端の者なりにこの時代の規則に基づいて生活しようと試みた結果だ。多少の無茶は許容して然るべきだが、このまま生活していたら間違いなく前大家は廃人になっていただろう。
「……嫌な、事件だったね」
「もっとうまい具合に誤魔化せる言い訳を考えておきましょう……では、ご案内します」
金属製の階段を上り、部屋が並ぶ廊下へと足を運ぶ。一見朽ち木かと見紛うほどのドアとは対照的に、渡された鍵は存外素直に回った。そして、ドアノブに手をかけ、そのままゆっくりと押すと――。
招かれた部屋は、想像通りの部屋だった。
六畳一間。窓が2つ。キッチンとトイレが備え付けの1Kルーム。それ以上でもそれ以下でもない。
「なんだ、変わり栄えしないな。ある意味有り難いが」
「敷金礼金ゼロ円・保証人要らず・家賃4万5千円。狩人様と私にとってこれ以上の良物件はありません」
「……ふん、"ヴィラ・ローザ笹塚"か」
人形は狩人に目を向ける。そこにはニヒルな笑みを口元に浮かべる青年の顔があった。そこにある思惑はなんなのか。このときの人形には推察する術もなく、首を傾げるだけだ。
「何、今は乗ってやるさ……さて、一通り荷物整理したら銭湯行くか。汗流してとっとと布団に入りたいわ」
「そうですね。ですがその前に――」
靴を揃え、玄関に立つ。そして、狩人へと向き直り、人形は頭を下げる。
「――おかえりなさい、狩人様。それでは、何なりとお申し付けください」
ああ、こうも彼女が人間らしく笑うようになったのはいつからだったか。そんな不思議な感覚を胸に覚えながら、狩人は目を伏せる。
歓喜か悲観か、今の感情を言い表す言葉を彼は持っていない。それが上位者になったが故に失ったものか、または人間へと身を堕としたが故に失ったものなのか。今の狩人には解り兼ねた。だが、改めて人形の表情を鑑みてみれば、すぐに観念することとなった。
「やっぱり、人間って意味分かんねーな」
口でそうは言うものの、狩人もまたすこぶる人間らしく笑うのだった。
わーいできたー(無邪気)
全然進まないけど、一応プロローグは終わりです。
多分、本章にはいったら時系列が結構飛ぶのではなかろうかと思います。
筆が遅い人間なので、次回がいつになるかは分かりませんが、気長にやっていきます。