はたらく狩人さま! 作:DOMDOM
UA数が10000超え……?
数人の方から感想を頂き、わーいやったーとか思ってひとりでほんわかしてたんですけど……
なんかすごいことになってますね(啓蒙不足)
狩人、痴話げんかに巻き込まれる ~前編~
「何なんですか! あなたには関係ないでしょう!?」
怒声が人通りの少ない夜の交差点に響き渡った。そこにはナイフを構えるロングヘアの女性と、自転車を盾にするように身を隠す男性、そして――。
「関係ないって……一応、彼はうちの後輩なんでね。それが傷害事件に巻き込まれそうになってる時点で、関係大アリなんですが」
ため息交じりに頭を掻くのは、日本の大手ファストフード店であるマグロナルドの制服を着た青年だった。その体格は170センチ後半の身長を、より高く見紛わせるほどには細い。さらに、顔立ちはこの日本の地では日常的に見ることは少ないであろう白肌。細身の体格に合わせた様なシャープな輪郭に加え、顔のパーツ各々は彫が深く、東洋人にはない独特な大人っぽさが醸し出されている。今どきの若者に言葉を合わせるなら「超イケてるおにーさん」だろうか。
「……とにかく、落ち着いて。どういう状況か説明してもらえます?」
かけた声には怒気や怯えの類は感じられない。それもそのはずだ。眉をひそめて瞼ははほぼ半目の位置に。そして、唇の中心点は若干右頬に引きつっている。その当人の顔には「メンドクサイ」と書いてあるも同然だった。
「私はその男を倒さなきゃならないのよ! あなたには分からないような恨みや怨念が死ぬほどあるんだから!」
「倒す……? いや、まあそれは――」
なんとなく見ればわかる。そう続けたかったが、何を言っても火に油の様なので青年は口を閉ざした。
らちが明かないので、彼はもう一人の事件の当事者である青年に目を配らせる。そこには困惑や焦燥といった感情を表情に浮かべるもう一人の青年の姿があった。男は本日2度目のため息をついた。どうやらお互いに他人が語れるような事情ではないのはその様子を見るに明らか。それ以上の言及はやめることにする。だが、この状況を放置するわけにもいかない。よって、激昂しているもう一人の当事者へと視線を戻した。
「なんにせよ、とりあえずその刃物はしまってください。落ち着いて話もできな……ってやっと来たか」
「え?」
腰に手を当てながら安堵する青年。耳を澄ませばその理由は自ずと彼らに近づいてくることが分かった。
「中途半端な形となってしまい申し訳ないが、自分はまだ仕事中ですのでこれで失礼させてもらいます」
「へ? あ、ちょっと!?」
二人に背を向け、来た道を戻る青年。唐突な解放に面食らう女性を他所に、もう一人の男性へと振り返り話しかけた。
「あ、そうそう。フライヤー機の件を引きずって明日の業務に支障をきたさないようにな。それとちゃんとそこの彼女さんと話を付けてくること。後、
その青年の発言に対して、女性と青年の2人は返答しなかった。いや、出来なかったと言ったほうが正しい。なぜなら、既に2人のすぐ近くまでサイレン音が響いていたのだ。そして、暫しの後に彼らは2つの国家権力の影に囲まれた状態となる。
その時には、青年の姿はそこにはない。ただ唯一彼らが、喧騒に紛れる前に聞き取れたのは――。
「ちゃんと元カノとの関係ぐらいスッキリさせておけよ、
――小馬鹿にしたような、それでいて愉悦に浸ったような声色だけだった。
◇ ◇ ◇
それは、初夏の入りらしい晴れた日のことであった。だが、ニュースの報道する天気予報ではすぐさま雨になるらしい。故に少々陰鬱な感情が心を曇らせる。面倒なことだ、と愚痴をこぼすも男は選んだ服に袖を通す。仕方のない事である。本日は月末の金曜日。大規模な天災でも起きない限り、自身の就職先に社会人は出勤せねばならない。
「財布、身分証明書類、家の鍵……うっし、全部持ったな」
毎日行っている確認ではあるが、そこに緩みはない。最終確認を終えた男は玄関へと向かう。
「う……ん、おはよう、ございます……狩人、様?」
狩人と呼ばれた男は振り向く。そこには重そうな瞼を擦りながら、赤が基調のチェック柄の寝巻を着崩した女性が立っていた。
「ああ、今日は早めに行って店長と打ち合わせ、それと機材のメンテがあるからな。人形、お前は朝弱いんだから無理せず寝てろ」
実は狩人、マグロナルドで働き始め1年が経過。現在の立場は、マグロナルドの正式な社員である。その手腕は見事の一言。新人や従業員の仕事のフォローをはじめとして、今では店長の行うシフト管理や帳簿も多少任されている。本人曰くそれらは対して問題ないとのこと。むしろ細心の注意を払っているのは別の所だという。
「むぅ……れすが、働いている狩人様を尻目に私だけ寝てる訳にはいかないのれす!」
口元を結び、ピシッと姿勢を正す女性、もとい人形なわけであるが、全力で目を見開いているつもりのようだが、現実は無常である。実際は半分も開いていない。しかも呂律が回っていないので説得力は皆無だ。
「いやいいって。後で俺に醜態晒したことに気づいて不機嫌になられんのはダルいんだよ。そら、布団に戻った戻った」
「うぅ、えへへ……今日はお優しいのれすね?」
「は!? 何言って……ってああ、ほとんど寝ぼけてんのか。はいはいどっこいせ」
普段の人形が絶対に言わないような単語が口から飛び出した。身の毛がよだつような感覚が狩人の全身を駆け巡った。
すぐさま、狩人は人形に近づくと、細身の体からは想像できない程軽々と人形を持ち上げる。いわゆるお姫様抱っこ状態である。美男美女故に絵にはなるのだが、残念ながら狩人の頭はそんなお花畑状態ではない。むしろ、寝ぼけて記憶のないうちにさっさお暇しなければと、身の安全以外は考えていないのである。
「はあ、そんじゃま行ってきます」
とっとと下ろしたところで早々に部屋から退散する。ドアの閉まるタイミングと同時に、向こう越しに「いってらっしゃいませぇ……」という声が聞こえた。律儀なことだと内心呟き、頭を掻きつつ外階段を降りていく。そして、原付にまたがったところでふとあることを思い出した。
「あ、やっべ……レインコート忘れた」
が、夜には雨は止むことを思い出し、まあいいかとエンジンを入れる。狩人が目下畏れるのは、無駄な出費が人形にばれることである。上位者狩りの狩人にしては情けないことこの上がない。しかし、それもまた致し方ない事。
彼も今は、ただの「人間」なのだから。
◇ ◇ ◇
狩人はマグロナルドの正社員である。故にアルバイトやパートの従業員の仕事をフォローする事が大きな役割のひとつである。だが時に、違った形のフォローの仕方もしなければならない。
「佐々木さん、その、あんまり落ち込まないでくれ。誰にでも間違いはあるからさ」
「でも、ルース先輩ぃ~……今月で6回目なんですよぉ? ポテト床にばらまいたの……このままじゃ、床からお芋が生えちゃいます!?」
それは、従業員の心のケア。ありていに言ってしまえば、カウンセリングのそれである。もちろん、業務内容として盛り込まれているものではない。ただ、狩人自身が必要不可欠である感じているから実行しているのである。
休憩室で彼の向かい隣りに座り、机に突っ伏している少女はこのマグロナルドの新人アルバイター。佐々木千穂である。素直な心の持ち主で、仕事にも真摯に取り組むこの幡ヶ谷駅前店の"スター"候補のひとり。が、本人の話す通り少々そそっかしい所が玉に瑕なのが悩ましい点だ。
「向き不向きは誰にでもあるからさ。佐々木さん、今月と先月でさ、うちの客層で多いの『学校帰りの男子学生』とか『仕事帰りのリーマン』って知ってた?」
「へ? 確かに多い気はしますけど、それって普通のことじゃないですか?」
千穂はきょとんとした表情のまま返答するが、狩人は首を横に振る。
「いや、確かに普通だけど、前にも増して多くなってるんだよ。これって実は、佐々木さんがアルバイト始めてから、じわじわと増え続けたんだ」
「そう、なんですか……?」
「うん。多分、佐々木さんの真摯な接客が男たちのハートを掴んでるんだよ。学生だったら可愛い子いるなとか、リーマンは娘ぐらいの子が頑張ってるなとか思って再来店してくれてるんじゃないかな?だからさ、佐々木さんがここでバイトしてくれて、店的にはすごくプラスになってると思う」
データに基づいた内容を話しているのだ。そこに虚偽の一切は存在しない。確かに、千穂は他の従業員に比べればミスも多いかもしれない。だが、入って半年も経っていない新人に完璧を求める方が酷というものである。むしろ、オカシイのは1年半ばで正社員、しかも店長の仕事に口出しできる程度の立場まで上り詰めた狩人の方なのだ。
「てなわけで安心して! 2日にいっぺんはばら撒かれる芋の単価より、佐々木さんが出している利益の方が大きいから!」
「フォローになってないですよ!?」
そうツッコみを入れるも、気づけば千穂が浮かべる表情は明るい。それは心に余裕ができた証拠。狩人もそれを確認し「大丈夫そうだな」と笑った後に、小休止を終えることにする。
が、狩人は同時に気を引き締めた。時間にして午後6時。従来通りであれば、店が混み始める時間帯だ。そう、従来通りであればだ。
「さて、新ポテト地区売り上げ一位を目指すように木崎さんからも言われているからな。月末の金曜、つまり給料日で財布の紐が緩くなっている今がチャンス。佐々木さんも、なるたけお客さんにオススメしてね」
そう、尋常ではなく混むのだ。毎月のことでこの時期はしこたま忙しくなるのだが、それは嬉しい悲鳴でもある。
この幡ヶ谷駅前店、クルーの仕事に対する意識はすこぶる高い。あの店長を見ていればそれは一目瞭然。通常であれば、上からのノルマ達成を請う通達はスタッフのモチベーションを下げやすい。だが、木崎の場合は違う。口では常日頃のサービス向上を口ずさむようにクルーに言い聞かせている。それでいて、彼らの士気は落ちないのだ。容姿、言葉遣い、気配りなどあらゆる要素がクルーを奮い立たせる。人はそれを「カリスマ」と呼ぶ。
故に、マグロナルド幡ヶ谷駅前店スタッフ一同は常に売り上げに貢献しようと、至極真面目に働くのだ。無論狩人もその一人である。ただ、狩人の場合は採用してくれた恩を返す意味合いの方が強い面、一概には括れないが。
「はい! 真奧さんもやってましたし、私も模倣して頑張ります!」
「そーだよねー。佐々木さんは
「うぇっ!? ち、違い……違くはないですけど! めっちゃ褒められたいですけど!! あくまでも、お店のためを想っても頑張ってますよ~ッ!」
「……そこは絶対譲らないんだね」
慌てながらも、自分の確固たる意志を崩さずに弁明をする千穂に生暖かいような目で見守る狩人。この調子であれば、業務に支障はきたさないだろうと想った刹那であった。
そのほのぼのとした光景は一瞬にして消し去られることとなる。
◇ ◇ ◇
「フライヤーが故障!?」
その声は決して大きくはなかったが、周りのクルーへ伝わるには確かな声量だった。
「ああ、急に動かなくなったらしい。メンテナンスでは問題なかったんだよな?」
そう問われて、狩人は唇を噛みしめるしかなかった。狩人自身、朝のメンテナンスでは細心の注意を払っていたはず。だが、完全に分解して器具を調査したわけではないのだ。確かに長い間使ってきたフライヤーだったのだから、何かしらの不具合で動かなくなっても不思議ではない。しかし、なぜ今なのか。売り上げがかかった時期故に、全員がひどく動揺していた。
「動作テストに問題は無かったはず……いや、違うな。木崎さん、業者の方に連絡は?」
「今しがた済ませたばかりだ。30分程で着くらしい」
「30分……修理を含めて2時間程度ってところか」
少し考えるように、顎を手で撫でる狩人。その様子は木崎も含め、その場にいたクルー全員が固唾を飲んで見守っていた。レジや商品を運搬しているクルーもこちらの様子を伺うように目を配らせている。狩人は、数秒の後に口を開いた。
「――皆さんは通常通りに業務を行ってください。木崎さんは業者がすぐにでも修理に取り掛かれるよう、準備をお願いします」
「「「「わかりました!」」」」
指示した瞬間に、クルーのほとんどが業務へと戻る。そこに一切の余念はなく、全員が狩人の指示を聞き入れたのだ。理由を問う者はいなかった。そんなことは不要であると全員が知っているから。なぜなら――。
「君はどうするんだ? ゲール爺」
「決まってるじゃないですか、木崎さん」
それは、窮地に陥った人間の表情ではなかった。口角は吊り上がり、瞳は爛々と輝いている。まるで、新しい玩具を見つけた幼子のそれだ。
仕方のない奴だと言わんばかりに首を振り、木崎はスマホを耳に添えつつその場を後にした。そして、残された狩人は列を成す客を見つめ、宣言する。
「――ポテトは、俺が繋ぎます」
狩人は駆ける。
ちょっと短いですが、本編の第1話です。微妙なところで終わりましたが、ご了承ください。キリがよかったのです、はい。
時系列はアニメ第一話まで飛ばし、やっと狩人が主要キャラと絡みました。
人形の朝が弱い設定は、勝手に付け足しました。これからもオリジナル設定を組み込むことになるとは思いますが「なんだそれ」と思った折には「人間になったんだしそういうこともあるか」程度に考えて頂ければ幸いです。
実は私、マグロナルドのようなファストフード店でバイトしたこと無いので、ネットから拾い上げた実情などをもとに書いています。極力矛盾がないよう書いているつもりですので、少々おかしい点などはスルーして頂ければと思います……。
最後になりますが、たくさんの評価・お気に入り登録、ありがとうございます!
引き続き、うちの狩人と人形をよろしくお願いいたします!
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誤字修正しました。報告感謝いたします。