はたらく狩人さま! 作:DOMDOM
書こうとすればするほど、自分の無知が心に刺さります。ファストフード店の厨房の状況とか取材させてほしいですねホント……。
というか日刊ランキング4位って(白目)。この小説まだ3話しか書いてないんですけど。
そんでお気に入り900以上(感血涙)
ありがとうブラボと読者の皆様。本当に………本当に……
「ありがとう」…それしかいう言葉が見つからない…
お待たせしてしまい申し訳ありません。今回ちょっとだけ(1000文字程度)長めです。
大手ファストフード店・マグロナルド。日本におけるその総店舗数は2500軒を超える。都内だけでも約350軒あり、都民は見掛けないことの方が珍しい。自宅から徒歩数分の距離、通勤・通学路の途中、職場と同じビルの他階層、駅内……多岐にわたる店の在り方は、この狭い日本という土地が創り上げた一種の文化体といえる。
都内の人口数を考えればそれだけの店舗があることに違和感はないだろう。店数が多ければ、多くの客は足を遠くへ運ぶ必要もない。顧客にとって「不便」と思える点はないように見える。
だが、それは「客」側の話だ。渋谷区だけに絞ったとしても、その店舗数は10軒以上。それだけの店があれば、当然顧客は最寄りの場所へと足を運ぶ。「客」にとっての利便が、「店」の視点では何を意味するか。その解に行き当たるのは、逆説による当然の理だ。
"顧客"の分散、それはすなわち一店舗ごとの"売上"の分散である。
◇ ◇ ◇
「ハピネスセット2! ドリンク・ポテト共にM! 持ち帰りです!」
「了解!」
「まだビッグマッグできてないぞ! はやく仕上げろ!」
「は、はい!」
レジにてオーダーを受けつつ、頼まれたドリンクと仕上がったポテトをトレーに乗せる者。ひたすらにバーガーを仕上げる者。次々と完成する商品に追いつけず、配膳を繰り返す者。飛ばされる檄は客が不快にならないよう配慮のされた声量で、厨房内を駆け巡る。
だが、そこにマイナスの感情は一切ない。体はほのかに熱を帯び、それが程よい高揚を感じさせる。俗に充実感と呼ばれるソレは留まることを知らない。
理由は自ずと見えてくる。啓蒙無き俗人でも、店内を見渡せばそこに介在する異質なモノが――。
「お待たせいたしました。他のご注文の商品が仕上がりましたら、こちらの番号札が鳴りますので少々お待ちください!」
「あ、はーい」
「ママ―、ポテトは先に食べててもいーの?」
「いいわよ。でも全部は食べちゃダメね?」
「ハーイ!」
その光景は、至極自然だ。それを証拠づけるかのごとく、客は商品の乗ったトレーを受け取り、列から席へと外れていく。ポテトの調理は揚げて、調味料等を振りかけるだけ。先に商品として客の手に渡ることに違和感はない。客席ではポテトを手に取り、団欒に興じる母親と幼子の様子が伺える。ごく一般的な感性を持った者であれば微笑ましいと思うことだろう。
彼らだけではない。皆一様に談笑を交えつつ、ポテトをつまんでいる。地区売上の追い込みを考えれば、店としてはありがたい。ありがたいことではあるのだが――。
8割の人間がポテトのみを食している。これを異常と言わずして何と言うか。
「あの、あれどうやって……いや、どうなってるんですか?」
「知らないわよ。とにかく今は口じゃなく手と足動かして!」
「それはわかってます……わかってますけどぉ!」
どう考えても可笑しいですよね!?
新米クルー・佐々木千穂の悲鳴が店内の喧騒に呑まれていった。客の目から離れた場所に、その元凶は厨房にいたのだ。だが、そんなことはいざ知らず。少女の瞳に写っていた異常の大元は涼しい顔で言い放った。
一機のフライヤーが故障している最中
客のオーダーのタイミングに寸分狂わず
適量のポテトを揚げ続ける
「ポテト、揚がりました!」
変 態 が い た。
「寸分狂わず」とは何を意味するか。虚偽類いは一切介在しない。あえて飾らない言葉で語るとすれば――。
「あの、オーダーです! ポテト――」
「3内ペッパー1だっけ? 揚がってるから佐々木さんトレーに乗せてもらえる?」
「なんとぉ!?」
そ の ま ん ま で あ る。
その男、変態こと狩人。名をゲールマン。マグロナルド笹塚駅前店の正社員である。
彼の意味不明な所業はなおも続く。矢継ぎ早に飛び交うオーダーを正確に認識できたとしても、その芸当に説明はつかない。理由は複数あるが、そもそも前述したように、手元にあるフライヤーは1機のみ。通常であれば、大量の注文は2機で並列処理できるのが基本。故にあり得ないのだ。完成が遅れることがあっても、早まることはまずあり得ない。
一度に大量に揚げてストックしているのだろうか。否、店側の問題を客の食事に持ち込むなど彼にとっては愚の骨頂。仮に実行したとして、ポテトが注文される確証は?時間が空いたら冷めた商品をだすのか?ふやけた食感かつ主張の強い油分しか口内残らない芋を食したいと思う客がいるのか?そんな変態には主に血の医療が発達した古都の教会でも尋ねることをおすすめする。きっと貴公が望む以上の素敵な体験が待っているだろう。
「ノルマ越えを確認した、ゲール爺。余程のことがなければセーフラインを割ることはないはずだ」
その声を境に、狩人の手が止まる。現在揚げているポテトのみ仕上げると、振り替えって木崎にのみ聞こえる声量で何かを伝えた。木崎は眉をひそめるものの、その行動の意を問わずただ黙して頷く。そのままレジへと足を進めた。
「私が代わるよ」
「え、店ちょ……木崎さん?」
「ご指名。せいぜい気張りなさい」
サムズアップされた拳は彼女の後方を指し示していた。困惑していたクルーだったが、肩越しの光景を見るや否や戦慄する。事実を確認する意味合いで、そのまま木崎の顔へと視線を戻した。
だが、何も彼女は語らない。返ってきたのは、慈しむような微笑だけだった。それは我が子の背中を押す母の様。それでクルーは理解してしまった。故にクルーは覚悟を決める他なかった。
木崎に会釈をした後に足を踏み出す。乾燥した空気がやけに重く、全身にのしかかる。だが、今は勤務の最中。牛歩に身を委ねていられる暇などない。競歩が如く足早にその領域へと踏み込んだ。
「来たか……なんだ、木崎さんから聞いたのか?」
「いえ、何も……けど、何となく解りますよ」
「そうか、なら遠慮はいらないか」
最後の言葉に自然と背筋が伸びるクルー。その表情に陰りはないが、適度な緊張が伺えた。互いにすでに相手の心象が読めている。当然、これから何が行われるのかも理解できていた。
「今回は俺の不始末だったから、自分で状況の対処にあたった。けど、今後は違った形で不測の事態が起きるかもしれない」
より細やかなメンテナンスが出来ていれば、今回の件は未然に防げたかもしれない。ポテトを揚げる最中、思考の末端で留めていた想いを乗せて、狩人は言葉を紡ぐ。
「だからこそ、この技術を培ってもらいたい。さすがに一朝一夕での習得は無理だが――」
それが、必ず役に立つ日が来る。
不測の事態など建前だった。クルーに成長してもらいたい。彼は純粋にそう思ったのだ。
「……大丈夫です。俺に出来ることなら、やらせてください」
力強い意志が、瞳に宿る。クルーの決意に狩人も目を細めた。そこにあるのは人間性の歓喜か、上位者の侮蔑か。真意は狩人のみぞ知る。
「これからお前に、"人の行動を読む力"を養ってもらう。尋常ではない精神力を要されるだろう。努力次第である程度はモノになるが、その先は先天的なものが必要になる……まあ、間違いなくお前なら伸びるさ」
そう言うと狩人は、占領していたフライヤー機前から数歩退ける。その動きが"始まり"であると予感したクルーはわずかに口元を緩めた。心の揺らぎを自身で認識したと同時に、打ち消すように歯を食い縛る。
「さて、始めるか。お前が"
現代に降り立った
「気張れ、真奥後輩。全ては正社員になるために」
狩人のクルー後輩であり、彼の住む"ヴィラ・ローザ笹塚"の隣人である。
◇ ◇ ◇
人間が生物である以上、定期的に行わなければ死に至る最低限の行動が3つ存在する。言わずもがなだが、それは「食事・睡眠・排泄」である。体が所要する機能として、一般的には三大欲求として括られる場合が多いが、発端は正確には解っていないがため「諸説あり」とされている。
「んぐんぐ……ぷっはぁー、体に染みわたる!」
またそれら3つの内、特に食事は人間が自身の体を構成させるうえで最も重要なものである。三大欲求説でもこの食事が欠けていることは見られないと言ってもいい。
中でも水分の補給は、体の調子を整える重要なファクターだ。飲料水などでとった水分は、腸から吸収され、血液などの「体液」になって全身をたえず循環していく。生命活動の維持には水分が必ず要される。
「ハァーー……ゲールさん、相変わらず無茶苦茶やってんな。注文に聞き耳たてながら、列なす客の会話で注文を予測しろとか人間の所業じゃねぇ」
どこぞの変態と同じ芸当をやらされた真奥は500ml相当の水分を数秒で流し込んだ。なお、水分補給は精神を落ち着かせるためにも有効と言われている。通常であれば心労の回復などコップ一杯で事足りる。一体どれほどの心的ストレスをため込んだというのか。詳細は当事者にしかわからないだろうが、壮絶なものであったことに違いはない。
「真奧さん、お疲れ様です!」
「おう、ちーちゃんか。お疲れ様ー……こんな体勢で申し訳ないけど、後10分は起き上がる気になれないんだわ」
「あ、あはは……大変そうですね~」
机にのべーっと張り付く真奧の姿に苦笑いする千穂。憧れの先輩でなければ、その状態を「ちょっとかわいい」とかは思わなかっただろう。恋は盲目とはよく言ったものである。
「私はもう上がりますけど……その様子だと、真奧さんはまだ帰らないんですね?」
「まあ、そうだね。それに一応、木崎さんに少し話があるって言われたからさ。今は待機中」
「ほえ~、一体何でしょうね?」
「わからん。地区売り上げはゲールさんが押さえてくれたし……」
なんも思いつかないんだよなぁ、と首を捻る。
この数分後、木崎よりA級クルーに昇進した言伝を受け、嬉しさのあまり自身の愛馬(ママチャリ)であるデュラハン号に跨り、颯爽と家路に――笹塚の闇に消えていった。
嬉々とした感情を隠せない後姿を、追う影がいたことも知らずに。
◇ ◇ ◇
「あん?」
ふと、懐かしさを感じた。ただその懐古は決して穏やかなわけではない。誰かに向けられた小さな敵意。それだけならば、狩人も気に留めなかった。
「……すみません、木崎さん。俺ちょっと出てきます」
「ん、どうした?」
「真奥が忘れ物してたんで、ちょっと届けに」
「ふーん……了解。早く届けておいで」
木崎に頭を下げ、裏口から外へ出た。服装は制服のままであるが、致し方がない。自身の家路と同じ方向へと走り出す。走る最中、競輪選手ばりの速度で自転車を漕ぎ倒す真奥の姿を思い出し、相当遠くに行っているのではないかと頭を抱える。それならそれで、何事もなく帰宅していることを願うだけだが、悪い予感というものは的中してしまうもので――。
「――て、――リア! 話せば分かる!」
「問答無用よ! 覚悟なさい!」
あぁ、と肩を落とし呻いた。
腰の引けた男。刃物を構える女。一触即発の雰囲気が漂う夜の交差点。
「はいストップ! 二人とも落ち着け!」
「「は!?」」
赤の他人であったなら遠巻きに見ているだけだったかもしれない。ホシは存ぜぬが、今回のガイシャ候補は職場の顔見知り。ましてや同アパートを住居とする隣人を放っておくわけにもいかない。
「え、ちょ、ゲールさん……どうしたんですか?」
「いやそれこっちのセリフゥ!! なんでいきなり火サス現場見せられてんの俺!?」
テレレレッテレレレッテーレー...
某BGMが流れる一歩手前である。押し問答の後、崖に飛び込む図が容易に想像できる。妙な想像に行きついた脳をリセットすべく狩人はぶんぶんと物理的に脳を揺らした。
いざこざが起きるとは思っていたが、凶器まで持ち出されているとは予測だにしていなかった。混沌とした現代社会であれば、朝一のニュースで流れているようななんら不思議ではない事柄。第三者の立場とはいえ、いざその場に立たされてみると存外焦る。狩人自身、殺し合いを生業としていた自分がいかに平和ボケしているかを身を持って自覚させられていた。
「……何ですかあなた。勝手に首を突っ込まないでもらえます?」
意識が回復した事件の当事者が、仲介人に噛みついた。声量こそ小さく、荒げてもいないが、その中には確かな怒気がある。握られた果物ナイフはなお、真奧の方へと向けられている。
「誰って……まあ、立場上コイツと同じ職場の上司です。物騒なんでソレしまってくれません?」
戦意がないことを示すように、自然と両掌を見せるように腕を女性へと向けていた。
狩人は脳内をフル回転させる。今の状況を暫定的に割り出すためだ。まずは、彼が最も情報量を有している、真奧について思案し始めることとする。
この数ヶ月、勤務中に真奧の人間性を見極めてきたが、決して女癖が悪いようには見えない。あやしい要素としては、少し甲斐性が強い割には案外人付き合いに関しては淡白な点。それは千穂に対する面倒見の良さと、職場仲間というスタンスを崩さない彼の立ち振る舞いから見て取れる。そこから導き出される結論は――。
なるほど、修羅場か。
元カノが別れに納得いってない説。それが狩人の導き出した答えだ。プラスアルファで、割とストーカー気質なのだと仮定すれば、昼から夜まで監視し続けるという行動にも合点がいく。ここからは狩人の勝手な推測となる。
「(恐らく、急な別れだったのだろう。聞けば、笹塚に来る以前、真奧は海外で過ごしていたらしい。わざわざ日本に来たということは、恐らく出稼ぎに来たのだ。何処ぞの国かは知らないが、よほど生活が苦しかったことが伺える。そして、こちらに移住してくる以前には目の前の彼女と付き合っていた。だが、真奧自身、日本への移住を強要させるのは気が引けたのだろう。恐らく、彼女が傷つかない形でと考えた結果、話もまともにしないまま別れてきてしまった。唐突に別れを切り出され海外に高飛びされた、彼女は理由も分からなかったはずだ。それでいて、相当に好いていたのだろう。結果、遊びだったのかもしれないという事実に憤慨した。故に憎悪をもって、真奧を背中を追ってきたのだろう。それがきっと、真奧なりの優しさだったということに気付けずに……)」
うんうんと唸る狩人。何かに納得したような素振りを見せる狩人に二人は疑問符を頭上に浮かべた。数刻の後、狩人はそっと手をポケットに突っ込むと、少し目を見開いた。その眼には何かしらの決意が宿っていた。雰囲気が変わったことを女性も感じ取り、眉間にしわを寄せる。そんな少女を見据え、介入者は堂々とした態度で口を開いた――。
「申し訳ない。着信来たんで出ても?」
「………………は?」
素っ頓狂な声が、交差点に小さく響いた。
唐突に、会話を中断され再度呆気に取られる女性。返事は聞かんとばかりに、数十メートル離れた後にポケットからスマホを取り出す。電話が来たというのだから、何かしら通知が来ているだろうその画面に映されたのは漆黒。何もかかってきていない。そんなことにはお構いなしに手慣れた操作でロック画面を起動。そして、そのまま暗証番号を入れることなく、画面中央下部にある項目にそっと触れた。狩人が行った選択とは――。
「あ、もしもし
試合放棄。国家権力に全てをぶん投げたのだった。
主人公が、真奧と、やっっっと絡みました! 今回はそれだけが満足です!!
どうでもいい事かもしれませんが、狩人のスマホがXperiaで、人形がiPhoneです。それぞれの私が抱いたイメージカラー(黒と白)よりそうさせて頂きました。
執筆速度ですが、マグロナルドの様子を描かなければ、早く仕上げられますので、5話はもう少し早めに上がるはずです。後、リアル事情が忙しくなければ何とかできるかと。ですので、更新は気長に待っていただければありがたいです……。
最後に、沢山のご愛読・評価・お気に入り登録・誤字報告・etc...本当にありがとうございます。これからの狩人や人形の活躍(?)をお楽しみに!