はたらく狩人さま!   作:DOMDOM

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 第5話、投稿です。

 執筆を円滑に進めるために、物語の着地点をおおよそ検討つけたせいで途中経過が浮かばないという本末転倒。

 なになに? マグロナルド外の日常回なら早く書ける??

 




 寝言は寝て言え、大体1ヶ月経ってんじゃねぇか!!

 更新楽しみにして頂いた方々は本当にごめんなさい。亀更新ではありますが、地道に進めていきたいと思います。

 構想は固まってるんですけど、組み立てがままならないのが更新の遅い理由です。後、リアル多忙(覚えること多すぎ問題)。

 ……新生活舐めてました(白目) 


狩人、隣人に物申す

 ゴリゴリとそこはかとなく心地の良い音が響いた。聞く者が成人ならば、それが咀嚼音であるとすぐさま認識できる。結果として誰かが何かを食している様子が聞いて取れるだろう。だが音の大きさに反して、その食卓の模様は酷く寂しい。

 

 

「……つかぬことをお聞きしますが、よろしいでしょうか?」

 

「なんだよ」

 

 

 食卓を囲むのはふたつの影。身体的特徴から、二人とも男性であることが伺える。ひとりは笹塚駅前店のマグロナルドにアルバイトとして務める青年、真奧貞夫である。

 

 

「給料日は……私の記憶が正しければ、ほぼ丸々1ヶ月先でしたね。先日も進言いたしましたが、僭越ながらもう一度言わせて頂きます」

 

「言わんでいい。今は飯食おうぜ、飯」

 

「いいえ言わせて頂きます!」

 

 

 バンッと机に拳を叩き付け、立ち上がる青年。改めて(あらわ)になるその体躯は真奥と同様にしなやか。中東系の出で立ちを思わせる真奥とは違い、血色は薄く色白さが目立つ。身長も幾分か真奥より高く、日本における成人男性の平均身長を大きく上回っている。

 

 

「我が家の食事はこんにゃくとキュウリと牛乳のみ……昼にはハンバーガー食べているとはいえ、必要な栄養素が足りなすぎます! こんな食事を続けて体調を崩すような事態に陥ったら、どうなさるおつもりですか!」

 

 

 剣幕に釣られて立ち上がった同居人の顔を見上げる真奥。その表情は言葉に発さずとも分かるほどに、面倒だという感情が滲み出ていた。

 

 

「まあ、そうカッカすんなって。昨日も言ったが、A級クルーに昇進したんだ。これで多少は生活に余裕が出るだろ」

 

「そう仰って、昇給した後の生活が安定したことがありましたか! 金銭に余裕ができた途端に財布のひもが緩みっぱなしになるではありませんか!」

 

「べ、別に外で余計な散財なんてしてないだろ? 以前デュラハン号一括で買ったのだって、先を見据えての出費だし……」

 

「……その割には結構な頻度でご帰宅が遅い日があるようですが、何処で何をしてらっしゃるのか詳しくお聞きしたいものですね?」

 

 

 その様子はまるで熟年夫婦。しかも割とギスギスしたタイプの家庭環境を思わせる会話である。

 

 

「と・に・か・く! 今後の財政は全てこちらの裁量に任せて頂きます。よいですね、真奥様(・ ・ ・)?」

 

「はぁ?! それは流石に横暴だろ芦屋ぁ(・ ・ ・)!」

 

 

 唐突な小遣いカットの暗喩に焦る真奥。それに対し、さも当然であるといわんばかりの表情で見据える青年。

 

 彼の名を、芦屋四郎。ヴィラ・ローザ笹塚201号室の住人にして真奥の同居人である。会話を聞く限り、なにかしらの主従関係があることは間違いない。だが、言動と言葉遣いの乖離が激しいため、一見してその関係性は不明。だが、似たような事例は存外身近にあるもので――。

 

 

 

 

 ピーンポーン

 

 

 質素な居間に乾いたインターホンが鳴り響く。その音に、一触即発だった両者は同時に固まった。そして、顔面からは一斉に血の気が引いていく。

 

 二人は失念していた。ヴィラ・ローザ笹塚。見ての通り、現代のアパートやマンションに比べ、その風貌は一時代前のもの。故に、その全体の造りは有り体に言ってしまえば極端に「薄い」のである。そんなところで口論などすれば、後に起こることなど想像に易い。

 

 

「……芦屋、客だぞ」

 

「真奥様、私の計算が正しければ、私目よりも真奥様の方が幾ばくか玄関に近い。ですので、ここは効率的に考えて、真奥様が赴くべきかと」

 

「いやいやいや、普段ならお前がいつも出てんじゃん。お前が行けよ」

 

「財布の紐はまず心構えからと言いますから……わ、我々は節制を心掛けるべきなのです。よって、ここは効率性を重視で」

 

「通るかぁ! そんな屁理屈――」

 

 

ピーンポーン

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 猶予などない。そう告げるように2度目の呼鈴が響き渡る。

 

 

「……財政の件、どうかご検討ください」

 

「おう……頼んだ」

 

 

 先に折れたのは芦屋であった。彼が得たものは金回りの利権。はたしてその報酬は、今より担う重責に見合うものなのか。その答えは玄関にて明かされる。

 

 

「はい……どちら様でしょうか?」

 

 

 震えぬよう沈めた声で問いかけた。

 

 返答までの一瞬が永遠のものの様にさえ感じる。こめかみから頬にかけて伝う汗は初夏に見合わない冷えきったものだ。

 

 だが、芦屋にそれを感じる余裕はない。意識は全て眼前のドアへと向けられていた。正確にはその向こうである。証拠付けるように、瞳の焦点は合わず、近場のもの全てが芦屋には二重に映っていた。

 

 そして、その者は全てを切り裂くように言葉を紡ぐ――。

 

 

 

 

 

「郵便でーす。真奥貞男さん宛のものになります~」

 

 

 瞬間、真奥は机に突っ伏し、芦屋は力なく膝を折った。

 

 

「(真奥様……!)」

 

「(あぁ……俺たちは、助かったんだ)」

 

 

 アイコンタクトで会話をする男二人。素晴らしい連携に見えるが、その内容は非常にしょーもない。

 

 深夜にバカ騒ぎしたツケが来た。そう当たりをつけた二人の直感は外れたようだ。危機感が去ったことを実感し、ほっと安堵する。落ち着いた心と連動する様に、緊張で冷えきった体には体温が戻っていった。

 

 

「あの~……真奥さんのご自宅よろしいんですよね? ドアを開けて頂けませんか~?」

 

 

 その言葉で我に帰る真奥と芦屋。郵便物を送られる顧客側ではあるものの、長く待たせるのも配達業者に悪い。芦屋は開けるべく膝を立てた。

 

 

「……ん?」

 

 

 違和感。

 

 不快ではなく違和。何かが違う。それに気付いたのは真奥だった。だが、何処の流れに異物が紛れ込んでいるかすら判らない。判断に困る嫌な気配は芦屋が動くにつれて大きくなっていく。

 

 

 

 

『真奥貞男さん宛のものに――』

 

 

 

 

 

 

 

 思考の欠片が、形を為した。

 

 真奥のなかで、全てが繋がったのだ。非常に小さな違和感。予想が外れたことに対する安堵が、その存在を薄れさせていた。刹那、引いてった悪寒が再度押し寄せてくる。思考を止め、芦屋の方に目を向けると既にドアノブに手をかけていた。

 

 

「芦屋! 待っ――」

 

 

 その声が芦屋の耳に届いたとき、既に事は詰んでいた。ドアが開くに連れて(あらわ)になっていく、配達業者の姿は――。

 

 

「ドアチェーン無しとは……感心しないな」

 

 

 真奥のよく知る、見慣れた知人で――。

 

 

お届け物(クレーム)だ、真奥後輩。着払いじゃないから安心しろ」

 

 

 身も凍るような笑顔を引っさげ、そこに佇んでいた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

「「スミマセンでした……」」

 

 

 六畳一間の空間に懺悔の声が響いた。その声に生気はなく、酷く重い声色であった。そこでは、二人の男がひとりの男に頭を下げている。

 

 

「食卓の状況を直視せず、金遣いを改めない真奥後輩に業を煮やした芦屋氏が小遣いをコントロールすることを主張。それに対して真奥後輩が異議を唱え、口論になった……と」

 

「仰る通りです」

 

「ま、待ってくれ! 誤解だ!」

 

 

 異論を唱えるのは201号室の家主、真奥である。

 

 

「俺は無駄な出費なんてしてないし、自分の買い物はもらった小遣いでやりくりしてる!」

 

「ほう、ではこの貧乏を通り越して見ることも痛ましい食卓はどう説明する?」

 

「ぐっ……」

 

 

 証拠を目の前に並べられた、というより自分で並べ切っている状態で何を言っても説得力などなかった。

 

 実際に真奥自身、家事の殆どを芦屋に任せているため、預金残高の推移、及びその明細はよく知らない。下手なことを言っても、自分の立場を追い込むだけである。故に、押し黙るしかなかった。

 

 

「まあ、他人の金遣いにどうこう言うつもりはない。けどそれが原因で人様の迷惑になるのであれば別だ」

 

 

 そもそも、狩人が201号室の扉を叩いた理由はクレーム兼注意喚起。真奥家の食卓に難癖をつけにきた訳ではない。

 

 

「……事の次第によっては大家が来るかもしれん」

 

「「今後は細心の注意を払わさせて頂きます」」

 

 

 渋る姿は何処へやら、ふたりの額は既に畳の上にあった。身を伏す姿は土下座を通り越して五体投地。疑心を欠片も抱かせない見事な謝罪である。

 

 万が一、近隣の迷惑を気にした大家が駆けつけるような事態が発生するのは狩人とて避けたいのだ。それは狩人のみに当てはまる訳ではなく、真奥たちも同様である。何故、そこまで大家の到来に畏怖を抱くのか。その訳が明るみに出るのはもう少し先の話。

 

 

「分かったならいい。ところで真奥後輩、ひとつ聞きたいことがある」

 

「あっはい。なんすか?」

 

「お前戸を開ける寸前で俺だって気付いたよな。声色も変えていたはずだが……何処で分かった?」

 

「あぁ、ははは……別に大したことじゃないっすよ」

 

 

 再度向き直った真奥は頭を掻きながら苦笑する。

 

 

「ゲールさん、俺たちの事の『真奥さん(・ ・ ・ ・)』って呼びましたよね。そこに違和感を覚えたんで

す。ここに週3のペースで来ている新聞やテレビ局の勧誘ですら呼ぶときは『真奥様(・ ・ ・)』なのに……配達員が客相手に『さん付け』で確認するのはおかしいなって」

 

 

 ――"敬称"。

 

 始まりは、齟齬とも呼べない僅かな誤差だった。テレビや新聞を取る余裕が金銭面で無いことが幸い(?)して、気づくことが出来たらしい。それは言った本人である狩人も気付いていなかった。現に、説明を聞いてなるほどと頷いている。だが、この捻くれ者はそれだけでは引かなかった。

 

 

「たまたま言い間違った、とは思わなかったのか? 一応、声は若者を装っていたつもりだったが」

 

「確かに途中までは若い配達員だと思ってましたし、そこまで大きな確信はありませんでした。けど――」

 

 

 言葉を切り、一呼吸の後に答えは放たれた。

 

 

「仮に新米だとしても『戸を開けてくれませんか』なんて催促する配達員はいないと思いますよ」

 

「……なるほどなぁ」

 

 

 今度は狩人が頭を掻く番だった。慣れない駆け引きなど持ちかけ、殆どを看破された。最終的には狩人を部屋に上げてしまったのだから元も子もない。だが、改めて過程を紐解けば、違和感の穴は大量にあった。軍配は狩人に上がったが、その差は非常に僅かなもの。化かし合いには負けていたのだ。

 

 

「まあ、偉そうに語ってますけど、殆どゲールさんに教えてもらったことを実践しただけなんですけどね! 『あの訓練』受けてなかったら普通に開けていたと思います」

 

 

 未熟さを噛み締め、己を省みるだけの狩人。反省しつつも、相手を思い遣ることを忘れない真奥。少なからず立場としては先人である狩人は、自身と彼の間に明確な差があると感じていた。

 

 だが、それは優劣としてではなく、あくまで性質の違いだけだ。人の身ではない、狩人が身に付けた仮初めの人間性。腐っても上位者に身を投じた人間擬き(バケモノ)。人間と同列として扱い、比較する事事態が愚かしい。人間内で足の速さを競い合っているところに、犬を引き合いに出すようなものだ。何の証明にもなりはしない。

 

 

「あの僅かな時間にそれほどまでのお考えを巡らすとは……流石です真奥様」

 

「おう、そう思うなら財政の件を――」

 

「ダメです。それとこれとでは話が別ですので」

 

「畜生めぇ!!!」

 

 

 芦屋の意思は固い。どうやら、真奥の小遣いはどう足掻いても減る運命にあるらしい。そんなやり取りが行われる程には、堅苦しかった場の雰囲気が柔和になった。

 

 

「さて、ひとつめの用事は終わった。次の要件だ」

 

 

 場を見計らって狩人が口を開いた。その言葉にじゃれあうふたりも動きを止める。

 

 

「え、まだ何かあるんですか?」

 

「ああ、むしろこっちが本題だ」

 

 

 心当たりがまるで無いのか、ふたり揃って顔を見合わせている。そんな様子に口角を吊り上げ、不適に笑う狩人。すると、徐にゆっくりと立ち上がり、玄関まで歩を進める。

 

 

「今日は機材トラブルやお前の痴情の縺れ……慌ただしくもあったが、同時にめでたい日でもあった」

 

 

 扉へと近づく間に言葉を綴る。綴る言葉に想いは込められているのか。元が低いトーンのために推し量るのは難しい。だが、見る者が見れば直ぐ様分かる。あれは何かを企んでいる。そして、事の流暢な運びに愉悦している。

 

 ――故に予感する。何かが起こるのだと。

 

 

「よろしいのですか?」

 

「あぁ、入れ」

 

 

 この場の者ではない声が響いた。聞こえる先はドア越しの廊下。だが、その声はこの場にいる全員が聞き慣れたものだ。

 

 

 

 ギィィ……。

 

 扉の悲鳴をBGMにして、その姿は顕になる。だが、現れた人物に対する問答が始まる前に、狩人は口火を切る。

 

 

「A級への昇級おめでとう、真奥後輩……いや真奥。時間帯責任者になった君の更なる活躍に期待している。これはささやかな餞別だ」

 

 

 状況飲み込みが追い付かず、唖然とする201号室組に対し祝福の言葉とともに笑いかける狩人。そして、第3者によって、この祝福の時は更に紡がれる。

 

 

「おめでとうございます。兄共々(・ ・ ・)、此度は真奥様の昇級を祝福させていただきます。そして、これまでの間、我々ルース家と親密なご関係を続けて頂いたこと深く感謝します。僭越ながら、真奥様の仕事へのご尽力、そして芦屋様の家事運営を心より応援させていただきます」

 

 

 下げられる頭とともに束ねた髪が揺れる。数秒の後、始まりと同様にゆっくりと彼女は顔を上げた。見るだけでも上品な質感を感じさせる銀髪は美しいの一言。その髪に見合う美貌は勿論、振る舞いも優雅さを欠かない。そんな人物を真奥たちはひとりしか知らない。

 

 

「最後になりますが、今後ともゲールマン、マリア共々末永くよろしくお願い致します」

 

 

 そう言葉を締めくくり、203号室の人形(マリア)は微笑むのだった。

 

 

 

 




なにこの最終回感漂う締め。終わりませんよ?まだまだ続きますよ?


遅くなりましたが、お気に入り1000件突破しました。沢山の閲覧・感想・評価ありがとうございます!

不定期ながらも更新していきますので、どうか気長にお待ちください。

※4/22
誤字修正しました。報告感謝します!

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