アマンダがやっと眠り、微かな呼吸音と吐息に含まれるアルコールの臭い以外はいつも通りの静かな満月の夜が来た。
しかしアマンダの筋肉質な腕に包まれ、背後に柔らかい双房を感じている中で眠るのは難しい。
特に普通の6歳児ならまだしも、俺は前世では大学卒業を控えた22歳。
こちらの世界で重ねた6年を足せば中身は既に28歳だ。
前世の感覚でいえば仕事が安定し、子供ができていてもおかしく無い年齢なのだ。
普通の6歳児であれば母性を感じて落ち着く環境なのかもしれないが、「見た目は子ども、頭脳はおっさん」ではかなり辛い。
俺は少しでも気を逸らそうと考え事を巡らせた。
学生時代に培われた「難しい話を聞いてると眠くなる」という現象を意図的に起こせないかと目論んでのことだ。
聞くところによると、この世界で成人するのは15歳くらいが普通らしい。だがそれも種族によってまちまちらしく、獣人種族の間では12歳のこともある一方、長命種の中には80歳まで成人と認められない場合もあるとか。
となれば獣人である俺にとって6歳というのはちょうどその折り返し地点だ。
なるほど。
通りで普段は冷静沈着であまり感情を表に出さないアマンダが今日は感情的だったわけだ。
そう考えると俺も色々と考えるべきことが多いのではないだろうか?
あと6年でこの家を巣立ち、仕事に就いて家を見つけなければならない。
村を出たことが無い俺は外の世界について推測する以上の情報を知らない。
一生をこの村で終えることになるのだろうか?
転生前にあのイカれたロリ神が言っていた「次の勇者が見つかるまでの繋ぎ」「運命に逆らった罰」という言葉だけでは俺がこの世界で何をすれば良いのかわからない。
「はあ……。」
窓から覗く満月を見上げるとため息が溢れた。
なぜかアマンダの呼吸が荒く、体温もいつもより高い気がするが、酒のせいだろう。
ともかく、今のうちはアマンダやメアリーに頼ってどう転んでも最低限この世界で生きていくようにするしかない。
と言っても読み書きや算数、魔法、歴史と勉強はあらかた終わった。
これから将来の展望を考えた時にこの世界で生きていくとするなら、この世界の常識的には親の仕事を継ぐのが普通だ。
一方の前世の20世紀初頭のヨーロッパでは産業革命を経て職業選択においてそれ以前よりは少しずつ柔軟性が出てくる時代だ。
その点、この世界はまだまだ前世に追いついていない部分があるが、それはある程度の身分や地位が固まった人の話だ。
アマンダやローズさんのように冒険者や傭兵上がりの家系は子どもに同じ仕事をさせたがらない傾向にある。
やはり収入が不安定な上に、騙されて違法行為に加担させられることも少なく無く、そもそも仕事内容が危険なものが多いため、特別な技能を持つものがフリーランスの人材として働く以外は基本的に人脈を築いて金を稼いだらさっさと引退するのがセオリーらしい。
となると俺は何か冒険者や傭兵以外に安全で文化的な仕事を見つける必要があるのだが、そもそも獣人種族の中でも犬獣人は戦士向きで、その他は使用人や執事、衛兵などの忠誠心や使命感を求められる職業が向いているとされている。
使用人や執事になるにはどこかの裕福な家庭で修行を積み、一人前となって初めて正規の契約を結ぶことになるのだが、そもそもそういう仕事は信頼が第一なので、奴隷契約でそもそも裏切ることができない状態の獣人が就くことが多い。
一部の博愛主義を気取った貴族は奴隷契約無しに獣人を雇用するようだが、そんなレアケースをアテにするのは人生設計とは呼ばない。
結局、話は戦闘系の仕事に戻ってくる。
ツヴェルグ帝国は多種族国家建前上は職業差別は無いが、実態はこんなものだ。
やはりアマンダは嫌がるかもしれないが、今のうちは猟師兼傭兵としての道を考えておいた方が良さそうだ。